私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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10章

76話「ひと時の休息と2人だけの時間」

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 身体と魂の清めをする為にティクス国に戻ってきていたランスロットとアレス。ロックの護衛にはカセルが率いた部隊が主に担当してくれており、冒険者達の協力もあって防衛の戦力はある程度出来ていた。
 カセルは妻でアレスの同期でもあるいリディルと式を上げた後に子供を身籠ったリディルが、アレス達の力になって欲しいとお願いしていたのでカセルは影ながらランスロットとアレスオサポートをしてくれた騎士である。軍師騎士としても頭脳があるのでランスロットは主に防衛や地方派遣について色々と相談している騎士でもある。
「団長、神殿での清めの準備は明後日には完了するとの事です」
「ありがとう。アレスから清めをするから俺は数日遅れるな」
「ご一緒にはされないのですか?」
「そこまで人手がないだろう? 神殿側の巫女達だって避難をしていて呼び戻したと聞いているが」
「それが、エドゥル国の李麗様に教育を受けたマリージュ達が支援を申し出て下さったらしく……我が国のマリージュ達も巫女達も戻ってきているのです」
 ランスロットはそこまで話を聞いて李麗はそこまで考えていたのだろうかと考えてしまう。李麗は先を見る力があるとルーディルは言っていた事も思い出す。
 カセルが色々とハルウッド達の分以上のサポートをしてくれているのでアレスを連れて屋敷に戻る事も出来た。ロックからの通達で、城に上がらずに清めが終わるまでは屋敷に待機するように。その言葉を貰ってランスロットは少しの間だけでもいいので疲れを癒す事にした。
「ランスロット、少し寝てしまった方がいいわ。目の下のクマが酷い」
「あぁ、そうだな……。なにかあったら起こしてくれるか?」
「うん、分かった」
 ランスロットはアレスのブルーの髪の毛にそっと口付けしてから身体を離すと、自室に入ってドアを閉める。だが目の下のクマよりも厄介な事があった。
 ベッドに横になって瞳を伏せるが意識が眠りに落ちる瞬間、その意識が闇に染められていく。ジワリジワリと魂を蝕んでいくが、それに抗っているのに闇はランスロットの意識を段々と蝕んでいく。
 お陰でランスロットの意識は眠るのを拒み、同時に身体には疲労が蓄積していく。休みたいのに休めない状態になっているランスロットにとって、今眠るのは地獄に近い苦痛を感じていたのである。
 今もうつらうつらしているが魂の闇がランスロットの意識を侵食し始める。見る夢にはどれもランスロットの意識を追い詰めるだけの威力がある。
「っ……はぁ、はぁ……」
 ジックリと汗が身体中に溢れ出て服に吸われても止まらない。伏せていた瞳を開けようとしても身体は疲れからか悪夢を見たとしても、闇に侵食されていたとしても、身体の生存本能として眠る事を優先しようとする。
 どうにか起きなくては、と意識を覚醒させようとしていると、フワリと花の香りがランスロットの意識を包み込む。魂の闇が消えていき、そして、身体を包み込む花の香りがランスロットの意識を優しく包み込んで癒していく。
「貴方に会えた事、とても幸せ。貴方の為に愛を捧げる事が何よりも幸福。貴方の為だけに生きる事が私の全て」
「……んぅ……」
 微かに聞こえてくる言葉に意識を浮上させようとしていたが、それが叶わないまま泥の様に眠りへと落ちていくランスロットを誘う声を出していたのはアレスであった。ランスロットの魂が闇に侵食されていたのに気付いたアレスが光の力を使ってランスロットの魂を癒していたのである。
 少しでもランスロットの魂を癒せればとアレスは静かにランスロットの頭を抱きかかえて、髪の毛を撫でながらランスロットの魂を癒し続けている。アレスの温もりがランスロットを包み込み、そして同時にランスロットの光の力が回復していく。
「んんっ……」
「ランスロット……おはよう」
「あ、れす……?」
「だいぶ疲れていたんだね。眠りが深かったみたい」
「……今何時だ?」
「今は……夜の9時だよ」
「寝過ぎたな完璧に……」
 アレスの声にランスロットは静かに身体を起こす。そして、いつの間にか夢を見ないで眠れていた事に何があったのかと考えてしまう。
 アレスがいる、それが自分の精神的な部分で眠りに何かの作用を与えていたのかと考えていると、アレスがそっとランスロットの身体に寄り添う。それが寂しさ故の行動である事を知っているランスロットはそっとアレスを抱き寄せる。
「ありがとうランスロット……あったかい」
「いや……すまないな、寂しかったんだろう?」
「寂しかったのは寂しかった。でも、何よりランスロットの腕の中に帰って来れた事が嬉しいの」
「アレス……もう2度と自分を犠牲にするな。俺の為に俺だけの傍にいてくれ……」
「ランスロットっ」
 アレスの双眸から涙が流れ落ちる。それは悲しみからの涙ではない、小さな喜びを意味する涙である。
 抱き締めているだけでは正直物足りない。だが、今は魂と身体の清めの為にも我慢しなくてはならない。
 それがランスロットの理性を鍛えているのは間違いないのだから仕方ない。アレスはランスロットの右手を優しく握り締めてそっと自分の頬に添えて触れ合う。
「ランスロットの光は私の希望なの……それだけじゃない、私の心の光でもあるんだよ」
「俺はそんなにアレスの力になっているのか。それだけでも嬉しい」
「ランスロット……私、ちゃんと聖女としてランスロットの力になれる? 私がランスロットの力になれてないなら……私の存在って意味が……」
「そんな風に言うな。アレスの存在は俺の中では大事な存在でもあるんだ。お前が……お前だけは俺の中から消えてくれるな」
 アレスの身体を強く抱き締めてランスロットの言葉に涙が溢れて止まらないアレスは、ランスロットの胸の中に顔を埋めて静かに泣き始める。その小さな身体を抱き締めたままでランスロットの心には深い慈愛の感情が生まれていく。
 抱き締めたままで泣かせてたランスロットの右手がアレスの背中を優しく撫でる。それだけの行為であったとしてもアレスの涙を止めるのには最適だったらしい。
「ごめんね……もう大丈夫」
「アレス、これだけは約束しよう。お互いの心に素直であろう」
「うんっ、もう私は自分を偽ったりしない」
「それでいい。俺もそうするから」
「約束だよ? ランスロットはいつだって私を優先して隠しちゃうから」
「すまないな。だが、それはアレスを守る為でもあって……」
「それが嫌なの。だったら私もランスロットを守る為に自分を犠牲にするよ?」
「……」
「だから、ランスロット……私の事を守る為に自分を殺さないで。お願い」
 アレスの言葉にランスロットは何も言えない。だが、それでもアレスはランスロットの事を理解しているからこそ、あまり強気で言っている訳ではなかった。
 ランスロットだからこそ、大事な場面ではアレスとの約束を破らないといけない判断をしなくてはならない事もある。だからこそ、それはそれで仕方ない事でもあるとアレスはちゃんと理解しているのである。
 だが、アレスの悲しみを生み出す事はしたくない、それがランスロットの心の本心でもあった。ランスロットがそっとアレスの左手を握り締めて持ち上げて指先に口付ける。
「どんな事があったとしても、俺はアレスの未来を守る為になら自分を殺す事も厭わない。それが結果としてアレスの悲しみの元になってしまう事になっても……俺はアレスの笑顔が見られる世界で生きていたい。そんな未来を生み出す為の努力は惜しまない」
「ランスロット……」
「だがな、アレスにもお願いしたい事があるんだ」
「私にお願い? 聞けるかは分からないけれど……教えて?」
「アレスの……未来を俺にくれないか?」
「それって……」
「きっと魂の清めと身体の清めを終わったら最終決戦の準備で暫くアレスと一緒に過ごせないだろう。傍にいてもそんなに2人だけの時間を持つ事も叶わないだろうと思う。だから……アレスを愛させてほしい」
 これがランスロットの限界でもあった。ランスロットの中でアレスをこれ以上求める事が出来るタイミングはないと判断しているから、愛させてほしい、そう告げる。
 アレスもランスロットの言葉で今の状況からお互いの事を愛し合うタイミングがこのタイミングでしかもう残されてない事を悟り、そして、小さく頷いてランスロットの首に腕を回して抱き着くと耳元で小さく囁く。
「今夜……きっと赤ちゃんの出来る様な気がする」
「そうか……なら確実に出来るまで愛していいか?」
「うん、愛して? そして、最期の決戦の時は待っている。待っているから……だから、ランスロットの愛情をこの身体に沢山注いで……私が私でいられる為にも」
「アレス……どんな未来があったとしても、必ずアレスと生きる為に戻ってくる。共に生きて行こう……未来を歩くんだ」
「私の未来を一緒に生きて……私1人だけの未来じゃない。ランスロットの存在もあって、そして、そこにお婆様もいて、初めて私の未来は光に包まれて祝福される未来なの。1人じゃダメなの……」
 涙声のアレスを強く抱き締める。もうこの存在を感じないで決戦を生き抜けるとは思わない。
 愛する存在がいるからこそ、どんな困難も、苦労も、悲しみも、全てが乗り越えていける。ランスロットの心の中に刻まれていく……アレスの見せる表情も、悲しみや苦しみの染まった声も、魂の放つ光の力も。
 全ては愛し合う為に生まれて、愛し合う為に導かれて、そして、こうして愛し合う存在同士になって共に歩く。禁断の愛だとしても、関係だったとしても、それは決して誰の為でもない。
「アレス……愛している。この先も、永遠の愛をアレスだけの為に捧げる」
「私も愛している……誰でもないランスロットの事だけを愛し続けていく。死んでも、生まれ変わって必ずランスロットの傍にいる。私とランスロットの魂は永遠に繋がり続けていくんだから」
 見つめ合う2人の顔が近付く。そして、重なる唇と唇に願いを込めてお互いの愛を伝えていく。
 未来を生きていく為にも2人はお互いの存在をお互いに刻み込んでいくのであった――――。
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