最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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原始の竜編

6話「圧倒的な力の差」

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 破壊竜バハムート、その巨体はアルガスト大陸の上空を埋め尽くすかのような大きさを誇り、翼が動けば暴風が生み出されて海は荒れ大地は亀裂が走る程の威力を持ち合わせている。
 ハルトとルーピンが見守る中、バハムートは己の額付近に右手に持った聖槍アーノルドを経由して意思を伝え、代わりの”眼”を補っている竜騎士であるアルスに問うた。

『この戦いで汝は何を知る?』
「(この戦いで「原始の竜」の「卵」は自分を守れる人間達を見極めようとするだろう。俺はその1人になろうとかは考えてねぇ。ただ……俺の大事な人間のテリトリーを荒らす奴を野放しにするのが気に入らねぇ。破壊竜バハムート、お前はそんな小さな人間を愚かだと思うか?)」
『その人間が私が見えぬ世界を見せている。それは誰でもない私達、竜と共にあった人間達が生み出し竜騎士という者達の努力だとは理解している。だが、愚かだというのであれば「原始の竜」が汝ら人間を見極めようとしているのにも理由があるのではないかと思うが、素直に孵化すればよいものだと私は思うがな』
「(ははっ、俺達竜騎士は竜と共に生きてきた者達として、竜の事を守り通したいと願っている者達の集まり、そんな感じで見てもらえればいい方だ。「原始の竜」が何を考えているかは不明だけれども、俺の事を認めても俺は関わるつもりは今はない。今の俺がこうしてお前の”眼”となっている事実だけで身体は逃げ出してもおかしくない震えに満ちている。最強と呼ばれる竜騎士の俺がこの様だ。笑えるだろう?)」
『汝はまだ若い。本当に私達竜を従えている者達でも恐れを抱くのは仕方ない事なのだ。それだけ私達は強大な力を持ち、そして使役する事で破壊を生み出すだけの存在でもある。それを恐れないのは神々と魔族だけだ。人間、それはこの世界でも小さな存在かも知れぬが、その存在が歴史を紡いできた事、私は知らない訳じゃないぞ』

 バハムートはアルスを守る様に魔力で生み出した結界で身体を包み込む、アルスは瞳を伏せたまま小さく微笑みを浮かべてバハムートの”眼”になる為に神経と全ての意識を集中させる。
 人馬一体と言うならば竜騎士は人竜一体と言っていいだろう、それだけの一体化は普通の竜騎士でも相当の力と経験がないと出来ない事である、それをアルスは少しだけ不安定要素はあるものの実行している。
 守護者としての力を持っているからだけではない、アルスという1人の竜騎士としての素質と実力がそれを可能にしているのであるから流石だと誰もが思う事だろう。
 そのアルスとバハムートの一体化が最大まで高まった瞬間、雲に覆われていたバハムートは全貌を明らかにする……銀の鱗を輝かせ、漆黒の翼を持ち、鋭い眼を持って口からはボゥっと黒煙の煙が吹き上がっている姿が見られた。

「あれが……破壊竜バハムート……凄い、強い力を感じる……」

 ハルトのいるエリアはバハムートのいるエリアから相当離れている、それこそルーピンがいるからそこまで離れている事が出来ているのだがナルミラの広場から軽く数百キロは離れているのではないだろうか。
 そんなに離れているのにも関わらずハルトの元にもバハムートの威圧的な力を感じる事が出来ている、それだけの力と存在感をバハムートは持ち合わせている事になる。
 ルーピンがハルトを自分の身体で守る様に前に出て小さな結界を発生させてくれた、それをハルトは優しいルーピンに首元を撫でる事で感謝を伝える。
 バハムートはゆっくりとヴァンキンに向かって右手を振り抜く、それだけで周辺の地形はボロボロに破壊されて地形が原型を留める事は不可能であった。
 ヴァンキンは振り抜かれた腕から生まれた衝撃波で微かに身体を大地にめり込ませる、ズシンと大地が悲鳴を上げてヴァンキンを受け止めている様にも見えた。

「(ヴァンキンを倒せバハムート。お前の本当の力を見せ付けてくれ)」
『それが望みであるならば従おうではないか。私は汝たち竜騎士には最大の敬意を払おう。過去の戦いで共に血を流し苦しみながら戦った同胞達を無下にはしない』

 巨大な咆哮を上げるバハムートは口に豪炎の球体を生み出し、それを口一杯に溜めて更に身体の内部に蓄積していた炎を交えてブレスを強化し始める、ヴァンキンもこの攻撃を凌げば勝てると思っているのだろう、攻撃を受け止める為の態勢へと身体を変化させていた。
 アルスの視界を借りて見ているバハムートはヴァンキンにしっかりと狙いを定めて、ブレスを1本の槍に見える程の細さでブレスとしてヴァンキンに放つ。
 ブレスが細長いせいでヴァンキンも受け止めるのに少しばかり手間取ってはいたものの、受け止める事に成功する……が、そこから破壊竜バハムートは本領発揮する。
 ブレスを放っているのにも関わらず新しい球体を召喚、その球体は漆黒に包まれて瞳を凝らせばその球体には無数の羽根の生えた生物が集まっているのが分かる程に、漆黒の球体の存在は大きくなっていく。
 炎のブレスが終わると同時に漆黒のブレスが間を置かないで放たれる、しかし、闇属性に見えるその漆黒のブレスを受け止めたヴァンキンは今まで聞いた事のない悲鳴を上げた。

『フィグガァァァァ!!!』
「何!? ヴァンキンが……苦しんでいる?」

 ハルトから見てもヴァンキンが苦しみながら漆黒のブレスに飲まれていく様子が見て取れた、一体何が起こっているのか? それを知らない人間達は唖然とバハムートのブレス攻撃を見守る。
 ブレスは次第にヴァンキンを包み込み、大きなドーム状の球体となってヴァンキンを完璧に覆い隠した、それと同時に球体はみるみるうちに縮小していき……最後は小さな玉になって消滅した。
 ヴァンキンの姿ごと消えた球体の存在を確認した人間達は少し何も発する事が出来ないままで、状況を理解した竜騎士達が雄叫びを上げると他のハンター達も同じ様に歓声を上げ始める。
 ハルトはルーピンが背に乗る様に促しているのに気付き、背に乗るとルーピンが空に舞い上がりアルスがいるだろうバハムートの頭上まで上がっていく、バハムートの視力は徐々にこの世界に適応し始めているのか、ルーピンが飛んでいるのを捉えていたのをハルトは気付いていた。

『ギューン!』
「アルスー!!」
「……ハルトとルーピンか……ヴァンキンは?」
「消えた。バハムートの攻撃で間違いなく消えた。大丈夫?」
「そっか……。ふぅ、バハムートの意志が言っている、行けって」
「バハムート、本当にありがとう。アナタのお陰でヴァンキンを倒せた。これで「原始の竜」の「卵」は守られた」
『グォォォォ!』
『キュオォォン!』
「なんて?」
「人間も可愛い所があるのだな、気に入った、だってさ。ルーピンもう少し下に下がれ。乗れねぇ」

 ルーピンが言われた通りに下に下がるとハルトがアルスに手を差し出す、その手をアルスは迷いなく手に取りルーピンに乗るとバハムートの前に移動して聖槍アーノルドを翳して巨体であるバハムートの身体を光が包み込み始める。
 ハルトはその光景を何度か見てきた、それは聖槍アーノルドを使って竜達を癒してきた光だと言うのを知っている。
 バハムートの身体を包んでいく光が落ち着く頃にバハムートは翼を緩やかに動かしてまた上空へと消えていく、元の世界へと帰り始めたのだろうとハルトは見送る。
 アルスが完全に消えていくバハムートを見届けてナルミラの広場に向かってルーピンを飛ばし始めると、背後にいるハルトの右手を自分の腰に触れさせて小さく呟いた。

「お帰り」
「……ただいま」
「お互いに危ない掛け橋だったな」
「そう? アルスの事を信じているからこの勝負に負けても後悔しなかった」
「それじゃ俺は1人にされる可能性もあった訳だな?」
「それ、は……」
「約束だろ? 最後の目的が果たされるまではずっと2人でいるって」
「ごめん」
「まぁいい。落ち着いたら身体に叩き込む」
「それは勘弁してほしいなぁ……ダメ?」
「ダメに決まってんだろ。ハルトの存在意義は俺にあんだから」
「俺様だよねアルスって昔から」
「今更だろ。そんな俺に心奪われてんのはお前じゃん」
「そうですけれどー」

 他愛無い会話をしながらナルミラの広場に降り立った2人を大勢の人間達が出迎える、ハルトの手を借りないで降りたアルスは竜騎士達の歓迎を受けて「原始の竜」の「卵」の様子を確認すると「卵」には薄くではあるが亀裂が入り始めているのが伺えた。
 ハルトはルーピンと共に少し離れた位置でそんなアルス達を見守る、しかし、ハルトの身体も限界に近いのである事をルーピンは気付いていた。
 ハルトの服を口に咥えて引っ張ると自分の身体に寄り掛からせて休む様に促してくるので、ハルトは素直にそれに応じて身体を休める。
 ヴァンキンは倒した、それはナルミラを始めとするアルガスト大陸全土の情報に流れ、竜騎士アルスの有名さにまた勢いを付ける事となった。
 しかっし、アルスもハルトもこの先に待ち受けている「原始の竜」の「卵」の孵化に関わる事になるのを考えてない訳じゃない。
 そして、迫りつつある孵化でアルガスト大陸はまた動きを見せる、それは遥かに確定された歴史を繰り返すだけなのか。
 物語の鐘を鳴らすのは一体――――。
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