最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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東の大陸へ編

26話「アルガスト大陸の異変」

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 ガルーダ王家の騒動が落ち着く頃にはハルトは以前よりも筋力が整った状態で復活を果たした。アルスはそんなハルトを眺めながら聖槍アーノルドを磨いている手を止めて溜め息を吐き出す。
 ハルトが復活したのであればまた旅に出ればいいのだが、ランドルの計らいでハルトとの正式な結婚式を挙げる事が決まった。最初は遠慮していたハルトもルル達やルート、ガルディアとシェンルから押しに押されてついに承諾をしてしまう。
 だが、実際正妻役の女形をしているのはハルトではなくアルスの方である為に、この場合の正妻お披露目式である結婚式はハルトの為に行うのではなくアルスなのだと知っているのは何人いるのやら状態で。アルスの溜め息が聞こえたハルトがアルスの隣まで来るとそっと髪に触れて撫でると苦笑を浮かべる。

「いっその事、逃げちゃう?」
「そんなの真面目なハルトがする訳ねぇじゃん」
「アルスが望むなら逃げてもいいよ?」
「それで後々俺が戻れないから困るのを考えると本決め出来ないだろ」
「まぁ、そうだね」
「なら仕方ないけれど受けるしかねぇじゃんか。問題はお袋達が俺が正妻役だと知ったらどんな恰好させるか気が気じゃねぇ……」
「そう言えばアルス昔はお人形さん扱いされていたんだっけ?」
「ルル姉様とルカ姉様の遊びで女装させられていたからな。だから髪も長いんだよ」
「そっかぁ……アレスのドレス姿見たいな」
「ハルト?」
「可愛い奥さんに惚れ直すかもよ?」
「ずっと惚れてろ」
「それじゃ新鮮味ないじゃないか」
「なくていいんだよ!」
「マンネリ化して飽きられたら困るよ」
「……搾り取るぞ」
「はははっ」

 アルスの本気を見たハルトはクスクス笑いながらアルスを優しく抱き締める。その腕が本当にアルスを大事に考えている優しい腕である事を知っているアルスも強くは出れない。
 2人が結婚式の衣装やらをルル達と相談している時、ガルディアとランドルは墓参りに来ていた。ガルディアの妹、つまりアルスとルル達の母である女性の墓へアルスの結婚を報告に来ていたのだ。
 墓石の前に花束を置いて祈りを捧げる2人の間にシェンルがちょこんと座って花を一輪ずつ置いていく。ガルディアは祈りを捧げ終わるとシェンルを抱き上げて空を見上げると空は怪しい雲が流れているのが伺えた。
 ランドルはそんなガルディアを安心させるようにシェンルを抱いたガルディアを優しく抱き寄せて背中を撫でる。シェンルはこの両親に出逢わせてくれたアルスを兄として尊敬しているが、この両親が不安に思っているのもまたアルスの事であるのを知って複雑な気持ちを抱いているのは誰も知らない。

「それじゃアルガスト大陸全体に異変が起こり始めているって事ですか?」
「ハンターさんの情報でそう異変が報告されつつあるとお伺いしているわ。ハルト君も後でギルドに顔を出しに行って情報を確認してみるといいと思う」
「ルル姉様の情報網でも聞いていたのね。私の方は竜騎士の方々からお伺いしているわ。各地のドラゴン達が活性化し始めてて不穏な動きを見せているって」
「ドラゴンが活性化するのはこの時期当たり前だろ。産卵期なんだから。それよりなんで俺の結婚式の衣装がこんなヒラヒラのドレスなんだよ!」
「あらあら、ハルト君の方が夫役ならアルスには当然ドレスが必要じゃない。ねぇルカ?」
「そうですねルル姉様。アルスは髪も長いし女顔負けの美人だから着こなせます」
「アルス、いいじゃない。ルルさん達のサポートあれば間違いないよ」
「嬉しくねー!!」

 ハルトは純白のコート、ベスト、シャツ、ズボンで統一された服を着込みサイズ調整をルーシェが担当し、アルスのドレスは淡いグリーンのウェディングドレスで確定されていたらしい事が分かってアルスは断固拒否していたが、最終的にアルスの弱点であるハルトのお願いでまかり通した。2人は衣装のサイズを調整してから部屋に戻ってきたがハルトには少し気掛かりな事があった。
 ルル達が話していたアルガスト大陸全体の異変について、ギルドに情報を確認しに行く必要性を感じていたのである。アルスはグッタリしているので1人で出掛けようとハンターのコートを羽織った時だった。

「ハルト、どっか行く気?」
「ん? あぁ、ギルドに行ってこようと思う」
「ルル姉様達が言っていた異変についてか?」
「うん。僕もハンターとしては知っておくべき事だと思うから。アルスは休んでてもいいよ」
「いや、俺も行く。少し気になる事もあるし」
「アルスの直感は大体当たるから怖いんだよね」
「それが幸か不幸か大体が戦闘系の直感だしな」
「今回は穏やかでありたいよ」
「無理じゃね?」
「ハッキリ言わないの」

 2人してガルーダの中心地にあるギルド本部に赴くとギルド内は異様な熱気に包まれているのに遭遇する事になった。ハルトが近くのハンター達が会話している内容を聞いて熱気の正体に検討を付ける。
 対してアルスは普段とは異なり私服姿で訪れているので竜騎士とは思われてない為にハルトと離れない様に距離を取っていたが熱気の正体にハルトが何かを考えているのに気付き静かに見守る。ハルトがカウンターに向かい何かを貰ってくるとアルスを引き連れて本部から出た。
 ハルトの右手には数枚の地図が握り締められているのを確認したアルスが首を傾げている。ハルトは熱気の正体をアルスに分かりやすく説明し始める。

「数年に一度開催されるハンターのランクアップに関する情報が出てきたんだって。今回のアルガスト大陸の異変に関連付けてそれがハンターランクアップのターゲットになっている」
「ハンターにランクあんのか?」
「一応はね。上位のランクになれば国単位での仕事をもらう事も出来る。僕はそれなりのランクにはいるんだけれど、今回のは異変の調査に関わる事になるから調査するならって思ってターゲットエリアの地図を貰ってきた」
「どこだ? んー……ヘリオス国周辺とオベールゾ国周辺に異変が集中してんのか」
「ヘリオスはハンターの間でも有名なハンターの国王が治める国だっては知っているけれど、オベールゾ国については知らないんだよね」
「確か、交易の国だ。港国でもあるせいか貿易が盛んで交易の中心地とも言われている国だな」
「それじゃこのガルーダから向かうなら最短でもどれくらい掛かる?」
「ルーピンで移動するとして、風向きさえ良ければ2か月でヘリオスには到着する。オベールゾの方がヘリオスより南だから2か月半は掛かるな」
「すぐに出向く訳にはいかないし、準備しっかり整えて向かうしかないか」
「これ調査したって証明必要なのか?」
「この2国にギルドがあればそこで証明代わりの報告書を提出して審査で通れば大丈夫。それが行われない場合はターゲットの部位を証明代わりに提出すれば問題ない」

 ハンターとして生活しているハルトにとってランクアップは仕事を受ける必要がある事を考えれば、今回のランクアップの調査には参加した方がいいのはアルスも理解した。だが結婚式を控えている今出て行く訳にはいかないのも踏まえてハルトは準備に時間を掛けるつもりで考えているようだ。
 地図を手にしたままでハルトはアイテムショップや武器屋によって準備を始める事にしたアルスには何が必要なのかは不明で荷物持ちに準じる事で役目を全うする事にする。武器屋でアルスはハルトが珍しく弓矢以外の武器を手にしているのを見てキョトンとしていた。

「ハルト……武器、変えるのか?」
「んー、弓矢で倒せる相手ならいいんだけれど片手剣でも装備しておこうかなって思ってね」
「でも、ナイフとは勝手が違うんだぞ? 使いこなせるのか?」
「これでも一通りの武器は使いこなせる様に訓練はしている。だから問題はないんだけれど、アルスのサポートだけじゃ調査は出来ないと思う」
「そんなもんか。俺も槍以外の武器使える様にした方がいいのかねぇ」
「適性がある武器なら覚えは早いとは思う。でも不得意なのを普通に使いこなせる様になるにはそれなりの時間が必要ではあるね。アルスの場合考えると槍と似ている……この武器なんてどうだろう?」
「これは?」
「モーニングスターって呼ばれている簡単に言えば杖に属する武器。先端の鉄球を振り回して攻撃するんだけれど腕力で威力が変わるから槍の突き攻撃にモーションは似ていると思う」
「へぇー」

 2人は武器屋で色々な武器を吟味してハルトは片手剣を購入し、アルスは買うのは止めた。買い物を終えて屋敷に戻りながらアルスはハルトが今後の旅の中でどんな成長を見せるのかを楽しみにしていた。
 ハルトもまた結婚式を挙げた後の事を考えての買い出しになったのを考えて、ガルーダに留まるのはまだまだ先の事になりそうだと考えていた。まだアルスと自分の最終的な旅の目標を果たすまでは何処かの国に留まるって事は出来ないと考えていいだろうと思っているからだ。
 屋敷に戻った2人は結婚式の日取りが決まった事をルカから知らされてそれに合わせて旅立つ準備に取り掛かる。アルガスト大陸全土に広がりを見せている異変、それがどの様な異変なのかを調べる事になる旅の始まりを待ち侘びて2人は今日の活動を静かに終えるのであった――――。
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