最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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東の大陸へ編

27話「結婚式と旅立ち」

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 アルスとハルトの式当日、ハルトの着付けを担当していたルカは見事に着こなしているハルトの晴れ姿を間近で見た事で満足げに頬を緩める。ハルトはハルトでアルスの一族が代々付けているという髪飾りを着用させてもらい、晴れてアルスの家族の一員として認められる事に心が弾んでいた。
 次いでアルスの方ではガルディアとルルによるアルスのメイクが始まっており、髪の毛も綺麗にセッティングされて見事に男とは思えない美女として飾り立てられていた。ルルとガルディアはそんな大事な家族を見て深い笑みを浮かべてアルスに手を出してハルトの元に送り届ける。

「ハルトさん、アルスを連れてきましたよ」
「あ、はい。ある……す……」
「……」
「ほら、そんな不細工な顔をしないのアルス。晴れの日なんだから幸せそうな表情を浮かべなさい。ハルト君が困っているじゃない」
「あ、いえ……その……綺麗過ぎてアルスじゃないみたいで……」
「絶対そう言うと思ったんだよ! 大体、女役だからってドレス姿になる理由がいまいち理解出来ねぇ! ルル姉様達で満足してくれよ!」
「馬鹿言うんじゃないの。私やルカは相手がいないのよ? それでお母さんが満足出来る訳ないじゃない。長男で女役しているアルスが適任だったんだから諦めなさい。いいわよ、その姿」

 未だに不機嫌極まりないアルスを置いてハルトと2人にするべくガルディアとルルとルカは部屋から出て行く。アルスは折角のドレスを汚さない様には気を付けているが歩き方が雑でアルスらしい姿にハルトもやっと自然と微笑む事が出来た。
 結婚式は身内と一部の人間のみで行われる為に参列者が揃うまでハルトといる事になるアルスは、椅子に座って溜め息を吐き出す。ハルトはハルトでそのメイクされたアルスに内心でドキドキしており実に白い手袋が汗で透けそうで困り果てる。
 そんなハルトに気付いたアルスがニヤリと笑って鬱憤の晴らし方を思い付いて椅子から立ち上がるとハルトに近付き、唇に弧を描いてハルトの目の前で微笑む。ハルトの喉がゴクリと鳴るのを確認したアルスは小さな声で意地悪な発言をする。

「ここで俺が逃げ出したらどうする?」
「どうするって……君、そんな事考えていたの?」
「こんなドレス姿でいるくらいならギリギリで逃げ出してハルトを困らせたら満足しそうじゃん?」
「……僕がそんなヘマすると思う?」
「あ? んんっ!?」
「ん……少し悪戯が過ぎるよアルス」

 近付いているアルスの腰に右手を回して抱き寄せたついでに唇を奪ったハルトはそのまま舌を捻じ込ませてアルスの腰が砕ける様な濃厚な口付けを送る。それで見事に腰砕けになったアルスはハルトに支えてもらわないと立てない状態になってしまう。
 流石にやり過ぎたか? と後悔するだろうハルトを見上げれば舌なめずりしながら見下ろしているハルトの瞳には獰猛なオスの色が宿っているのが伺えて、喉がヒュッと鳴ってしまうアルスにハルトは優しいけれどしっかりした口調で囁く。それはアルスには知りたくなかった今夜の自分の未来図。

「アルスが望むお仕置きは夜にしっかりしてあげるから精々頑張って僕を満足させてね」
「それ、は……」
「その為に僕を煽ったんだろ? それじゃしっかりお応えするのが夫としての初めての妻孝行じゃないかな。大丈夫、朝までには解放してあげるから」
「っ」
「今夜は寝かさない」

 墓穴を掘った事を理解したアルスは2人を呼びに来たルートの声でハルトがアルスをエスコートする様に支えてもらいながら式会場に移動する。会場にはベリオやコルもだが、ラルフルまで参列しており地味に豪華なメンバーにアルスは腹を括る覚悟を決めた。
 ハルトの左腕に右腕を絡ませて凛々しくしながら式を進めて行く。誓いの言葉を交わし、指輪の代わりのネックレスを交換し合って最後に誓いの口付けをする時、ハルトがアルスの右頬に手を添えて撫でる様にしながら顔を近付けて来ると同時に瞳を伏せる。
 誓いの口付けを終えた2人を大量のフラワーシャワーが包み込んだ。式も打ち上げ組と帰宅組に別れてお開きになった事でアルス達は新婚となった為に本邸から少し離れている離れを利用させてもらう事になっていた。

「あー疲れたね」
「ハルトはまだマシだぞ。俺は足がパンパン過ぎて感覚ねぇよ」
「ははっ、マッサージしてあげるからベッドに横になって。少し浮腫んでもいるだろうから血流良くするツボも押すよ?」
「頼む。あー腰もいてぇ、コルセットなんて小さい頃にしか着用してなかったから久々は堪える」
「コルセットしてあの細さって……アルス、本当に鍛えている?」
「どういう意味だよ」
「もう少し筋肉付けたら? 軽過ぎたら攻撃に威力加えれないでしょ」
「それでも昔よりかは筋肉付いたんだぞ? 昔、竜騎士になり立ての頃は軽過ぎてルーピンに乗ってても落とされていたからな」
「それが今では乗りこなせるまでにはなったというのは凄いんだけれど……筋肉が付きにくいのかな」
「そうかもな。ルートは俺より筋肉質だから食べているもんは影響しねぇと思う」
「うーん、少し身体探ってもいい?」
「お好きにどーぞ」

 ベッドに横になったアルスは普段着のシャツとズボンに変わってて、うつ伏せになってもらったハルトはマッサージをしながら身体のメンテナンスと並行して身体の筋肉を調べていく。所々は硬いが竜騎士に必要だと思われる部位は驚くぐらい柔らかかった。
 竜騎士として必要な足の筋肉は柔軟性が高いのだろう、程良く反発があって硬くないので肉離れとかもしずらいと思われる。逆に槍を構える腕の筋肉は硬くてマッサージをしても簡単には解す事は不可能だった。
 アルスの身体を調べていると微かにアルスの身体が震えているのに気付いたハルトは、チラッとアルスの顔を覗き込む。頬は上気し真っ赤に染まり、耳まで赤い……。

「感じちゃった?」
「言うなバカ!」
「いいじゃない。この後は初夜だよ? 感じてくれる方が僕は嬉しいけれど?」
「だからって探っているだけでこんな状態になるなんて俺の身体変じゃね……?」
「だって性感帯の部分に近い部位のツボも押しているから感じるのは仕方ないよ。生理反応だから照れないでアルス」
「っあ、そんな……あっん」
「いい声で啼いて……」

 重なり合う身体の重みを受けてベッドがギシッと音を立てるのは月が真上に上る頃だった。翌朝、ハルトはアルスが起きるより先に目覚めて隣で上半身裸で寝ている最愛の妻を眺めて微笑む。
 昨夜のアルスの乱れっぷりを思い出すと息子が元気になりそうだったので朝のシャワーを浴びる事にしてベッドを降りてバスルームに向かった。脱衣場で微かに痛む背中を鏡で見て納得する、アルスが付けたであろう爪痕がしっかりと背中に残されていたからだ。
 なんだかんだで気分さえ乗ればアルスだってセックスを好むのだから悪い気はしなかった筈だ。それに昨日の半分はアルスへのお仕置きも含めているのでこの程度の爪痕で済んだのは良かったのかも知れない。

「んー……痛みも少ないし回復魔法を掛けるまでは必要ないかな」

 裸になってシャワーを浴びてサッパリしたハルトがまた下着や服に身を包むと寝室に戻るとアルスが悶絶しながら置き上がっていた。腰がだいぶ痛むらしいのでそっと近寄り回復魔法を唱えて掛けてあげるハルトにアルスは憎らしそうな瞳を向けている。
 魔法が効いて動けるまで回復したアルスは文句を言う事はしなかったが身体中に残るキスマークやハルトとお揃いの夫婦の証のネックレスを見て真っ赤になりながらバスルームに逃げ込んだのを見送る。本当はハルトもアルスの身体をまだ抱き締めていたかったが、旅立ちの準備も整っている今、あまり長居はガルーダにするべきでは無い事を考えてアルスの準備が整い次第旅立つ事にしている。
 アルスはものの20分でシャワーを終えて来るとインナーを着込みアーマー類を着込んでいく。準備が整った2人はいつもの旅服装になると中庭のルーピンの元に出て行く。

「それではもう行ってしまうのですね」
「また帰ってきます。ただ今はアルガスト大陸の異変について調査が必要なので暫くは戻れませんけれど」
「それでもここはハルトさんの家でもあります。また気軽に帰って来て下さいね」
「ありがとうございますお義母さん。お義父さん、皆さん、行ってきます」
「行ってくる」
「気を付けてな。2人の旅にダラズ神の加護があらん事を」

 ルーピンに乗った2人はガルーダを出てまずヘリオス国へ向かう為に東へと飛んだ。ルーピンでも最低でも2か月という時間が必要という事もあって長距離の移動になる。
 2人は大空の中を飛びながら今後の事について色々と話し合っていた。調査にはアルスも助手として付き合う上でメインは異変についての情報収集。
 今後の本来の旅に必要であろう情報を集めながらも異変に対処出来る様にアンテナを張り巡らせておく必要があるのはお互いに話し合って決めている。だから、こんな長距離の移動はお互いの呼吸を合わせるのには最適な時間だとハルトは静かに考えていた――――。
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