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白き怪物
しおりを挟む由奈が王国に着き滞在手続きを済ませると、国王からまずは伝承を聞かされた。
エルフの伝承の中には、世界各地に存在するとされる最高位モンスターや古代魔法についての内容が数多く語られてるのだとベルティナ国王は話し、由奈を王国の地下へと連れて行き、木々が生い茂り光に満ちた空間を案内した。
ここに生息する植物は、エルフの先祖が生活していた頃の環境がそのまま保存されているらしく、エルフの歴史そのものなのだと言う。
そんな空間の中央には一部だけ植物が生えていないところに柱状の結晶が立っており、文字や絵などが刻まれているように見える。
国王は、結晶の前に立ち「生命の光、悲壮の影」と言い、虹色に輝く龍と白い龍を指し、この世界の龍という存在について語ってくれた。
龍は、その圧倒的な強さと驚異の寿命をもつことから生命の象徴とされるだけでなく、美しさや気品もあることから崇拝の対象にされてきた。しかし、その白い龍は他の龍と大きく異なり、結果として不幸や不吉の象徴として嫌われる存在になってしまった。
それからはあまり目撃されなくなったものの、月夜には自分の醜い姿に悲しむ姿から、後々のエルフ達は悲壮の影と呼んだらしい。
由奈の特訓が始まったのは、その翌日からだった。
・・・
キャンプの近くにある川で汗を流していると、ネモが岸から話しかけてきた。
「今さっき帰ったパーティーが見慣れない痕跡を見つけたそうだ」
「おお それでリーダーはどうするんだって?」
「統機構に報告したところ、可能ならば調査対象に加えてくれとのことらしい」
「そうか そうなると帰還する日は遅れそうだな」
ネモもそれに共感したのか、大きくため息を吐き珍しく愚痴を言ってきた。ネモが大分疲れた顔をしているのも、小パーティーのリーダーを任されているからだろうし、ましてや責任感の強いあいつなら尚更だろう。
愚痴を言ってすっきりしたのか、さっきよりは良い表情をしていると伝えると、さっきの俺よりお前の方が酷い顔してると言われてしまった。
それから夕食をとり、全体に明日の予定が知らされた後で自分のテントへ戻ろうとした時、同じパーティーの男(唱矢)が俺を呼んでいるのに気付き、行ってみると相談を聞いてほしいと言われた。
何の相談をされるのか少し緊張していると、何とも男子的な悩みで、以前から好意をよせている子が欲しがっていたアイテムをここら辺で見たという話をパーティーのメンバーに聞き、採りに行くのに着いてきてほしいと言うことだった。
何もモンスターの巣にあるアイテムを採りに行く訳ではないし、一人で行けよと言ったが、告白する前に死んでしまう様な事は絶対に避けたいと懇願され、仕方なく着いていくことにした。
唱矢は、暗視スキルで夜間もアイテムを見付け易いですよと張り切って話しかけてくるのを適当にあしらっていると、早くもアイテムを見つけたそうだ。
「えっと アイテム名が…リムール草! 合ってます!」
お目当てのアイテムも無事見つかったらしく、しっかりとポーチに入ったことを確認し、帰りましょうと言われた。
帰るまでが遠足ですよなんて、懐かしいネタで唱矢をからかっていると、唱矢が急に足を止めた。まさか、こいつ冗談通じないやつだったのかと思い謝ろうとすると。
「霞川さん あれって何に見えますか?」
「いや、俺は暗視スキル使ってないから真っ暗だよ」
暗視スキルを使った唱矢の説明を聞く限り、そこには大きな岩に湯葉を張り付けたような物があるらしいが、俺にはただの岩にしか見えない。夕食はしっかり食べたかと聞くと、食べましたよと笑いながらの答えが帰って来た。
厚い雲の隙間からは時より光がさし、地面に散らばるそれに輝きを与える。
その時、二人の心臓は異常な頻度で全身へと血液を送り出していた。
「…こんな大量のキメイア 一体どこから」
以前、ダンジョンで見た数の一割程度しかいないが、戦闘で勝てるかと言ったら話は別になってくるうえ、弱点が腹部なのでこうも密集されると戦いようがない。
「唱矢! こんなの勝てる訳がない キャンプへ戻るぞ!」
「 …… 」
「おいっ! 唱矢!!」
「 …霞川さん 岩なんかじゃないですよ…生きてますよ」
ひしめき合うキメイアの中心で広げた翼を羽ばたかせ、深紅の眼がずっとこちらを凝視している。翼は月光に照され、血管とそのなかを流れる血液が浮かび上がり、背中から生える8本ほどの棘のような部位が月を撫で回すように躍動する。
その異様な姿のモンスターに、恐怖しきった唱矢が言葉を溢す。
「…き …きもぢ わる… ******」
唱矢が嘔吐したその瞬間、棘の様な部位が咆哮と共に放たれた。
「あぁぁぁぁぁ!」
夜空にうち上がった腕が血を撒き散らしながら宙を舞う。
激痛と大出血の相乗効果なのか意識が遠のく中で、モンスターが動揺したように後退りながら夜空の彼方に消えていくのを見送ると意識を失ってしまった。
目を覚ましたのは、キャンプの医療用キャンプの中で、ネモと唱矢が心配そうに俺を見ている。何ともないよう見せようと、起きようとしたところバランスを崩し倒れてしまい、笑ってごまかしながら床を探っていると、唱矢が俺の前で何度も頭を下げ誤り出した。
「そっか …腕 無いんだったわ」
あの時、腕を出したのは目の前に居たのが一瞬由奈に見えたからかで、それなら今腕が無いことにも満足はできる。大切な人が危ないときに、びびって何も出来ないで後悔するよりはましだと思えたからだ。
でも、これじゃ今度は守れないから何か代わりは探さないとな。
・・・
夜中にネモが布に包まれた何かを持ってテントへ来ると、今日行われた追加の調査の話を聞かせてくれた後で、その布に包まれた物を渡してきたが、これを渡すことが正しいのかは分からないから気を悪くしないで欲しいと言われた。
中には、大小様々な骨が入っているが、その正体をネモに尋ねたところ俺の左腕の骨らしい。まさかと思い、肉の部分を食べたのか尋ねるとネモは苦笑いしながら否定し、それだけ話せるなら大丈夫だと言い久しぶりに素の笑顔をみせたので俺も何だか日常に戻ってきた感じがした。
しかし、どうして骨だけなのかは気になったままで、改めて聞いたところ、モンスターの攻撃によって切り離された腕が、死んだという判定で時間加速が適応されたのではないかとネモは考えているらしい。
まぁ、あんな一撃を食らえば、あのモンスターの強さなんて嫌でも感じる訳だが、綺麗に骨だけになっていたことからすると10等級は確実だろうと思う。
結局のところ、今回の調査での一番の成果はあのモンスターの発見だと言われた。
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