あざとすぎるよ、皆月さん

小坂あと

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学生編

中間テスト前

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「そろそろ、1学期の中間テストなんですよ」 

 レジで皆月さんと横並びになって、暇な時間が出来たから話題がてら伝えてみた。

「そっか~…がんばってね」

 当たり障りない感じの返事をされる。

「…今回はテストの数日前からテスト期間、1…2週間くらい長めにお休み貰います。すみません」
「謝ることじゃないよ~。定期テストは今の自分の実力を図れる機会でもあるから、大切だもん」

 そんな風に、思ったこともなかった。
 ただ定期的にテストをやらされる義務感しかなかった私に比べて、皆月さんはちゃんと考えながらテストにも挑んでるらしい。
 滲み出る大人っぽさというか、大人の余裕は、こういうところで差がつくのかな?

「皆月さんって…大人ですよね」
「こう見えても二十歳超えてるんだよ?大人だよ」
「…どう見ても二十歳超えてます」
「え。……み、見た目おばさんかな?」

 信じたくないと言ったように自分の頬をペタペタ触りはじめた姿にいつもの大人の雰囲気はなくて、吹き出すように苦笑する。
 この人、見た目も中身も大人びてるのに、たまにこういう天然というか…抜けたところがあってかわいいんだよね。これがいわゆるギャップ萌えってやつか。こういうの好きな男の人は多そう。

「…ふふ。笑った顔、かわいいね」

 ニコニコで皆月さんを見ていたら、大きな瞳が母性を持ったように柔らかく細まる。思わず、あまりに整った笑顔すぎて見惚れた。
 綺麗な指先が横髪を挟むように触って、耳の方へとかけられた。

「笑うと、子供みたい」
「……まだ高校生ですよ?子供です」
「普段はしっかり者で大人びてるのに…顔はけっこう幼いよね?よく見たら」
「そ、そうですか?」

 顎に指を置いた皆月さんが身体を前屈みにさせて、じっと観察される。
 顔の下にある、垂れた胸についつい目が行った。前屈みになると、その…シャツの布も下へ落ちるから、豊満な谷間が丸見えになっていた。
 無防備…なんだよなぁ。
 前からちょいちょい思ってたけど、この人…隙がありすぎる。それでいてバイト先の誰とも深く仲良くなってる気配がないのは不思議だ。客だけじゃなくバイトの男性も、密かに彼女のことを狙ってる人は多いっていうのに。

「……皆月さん」

 未だ私のことを見つめていた可愛らしく綺麗に整った顔に、顔を近付ける。

「胸元…見えてますよ」

 コソコソと、耳打ちで注意混じりに伝えたら、顔を赤くして胸ぐらを掴むように、無事に谷間は隠された。

「気を付けてくださいね。男性相手だと変な気を持つ人も多いですから」
「う、うん…ごめんなさい。ありがと」

 お互いアイコンタクトを交わして、頷く。
 どんな仕事もそつなくこなして頼りになる先輩だけど……なんかほっとけないんだよね。こういうところが。

「そうだ、勉強の進捗はどう?」
「まあまあです」
「何か分からないこととかあったら…夜なら電話できるから、いつでもかけてね」
「助かります」

 持ちつ持たれつ。
 皆月さんと私の関係はそんな感じで、お互いバイト中に困った時は助け合いながら関わっている。…最近は私の方がお世話になりっぱなしな気もするけど。何かお返ししていかないと。
 そう思いつつ、その日の夜も勉強中に分からないところが出てきて進めなくなって、縋るように皆月さんに電話をかけた。

「口頭で伝わりましたかね…すみません、うまく説明できなくて」
『全然。分かりやすかったよ、問題ないよ~』
「ありがとうございます」
『うんうん。えっとね、そういう設問の時は…』

 バイトで指導してもらってる時から思ってたけど…この人の教え方って、ものすごい丁寧で分かりやすい。
 難しいようなことも噛み砕いて説明してくれるから、すんなり脳にインプットされていく。理解力が上がると、勉強も以前よりは楽しく思えた。
 それに…

『ん、できた?すごい…えらいね』

 声が、かわいい。
 今も子供を褒める、甘やかすみたいな声を出されて、少し照れながら自分の口元に手を置いた。
 ぶりっ子という程でもないけど、女性らしい鼻にかかった透き通る声に、温和で落ち着いた雰囲気ののんびりした話し方は、正直聞いてるだけで癒やされる。可愛い人って声もかわいいんだな…なんてことも思った。
 ずっと聞いてたいな。

「あの…皆月さん」
『ん?なぁに』
「明日とかも…また電話していいですか?」

 つい、欲を出してしまった。

『いいよ~。それならわたしも、明日からは一緒に勉強しようかな』
「え、いいんですか」
『うん、夜は最近やることもないし…どうせ勉強するなら、誰かとやった方が良いもんね』
「邪魔になりません?」
『集中して黙っちゃう時もあると思うけど…それでも平気なら』
「それは私も全然…むしろありがたいです」

 感謝感謝…と手を擦り合わせて、それなら明日からはイヤホンしようと心に決めた。スピーカーでこの声を聞くなんてもったいない。

『じゃあ、また明日ね』
「はい、また明日」

 こうして皆月さんと、作業通話をする日課が始まった。






















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