あざとすぎるよ、皆月さん

小坂あと

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学生編

渚ちゃんとシフト被らない…

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 最近のわたしは、欲求不満だ。

「ん~…おふとんきもちい」

 夜、家族が寝静まった頃に服を脱いで、毛布を丸めて抱き締めた。
 肌に当たる生地の感触がクセになって、ついつい押し付けるように腰や足を動かす。全身で、全裸で毛布を楽しむこの時間が、疲れを癒やす唯一のひとときだ。
 だけど…最近は少し物足りない。

「…ん~……さびしい…」

 いくら毛布を抱きしめても、ずっと胸の中がもやもやしていて、それがなかなか晴れてくれない。

「…渚、ちゃん」

 もうかれこれ一週間は会ってない、お気に入りで大好きなお友達…バイト先の後輩でもあるその子の名前を呼ぶ。
 期末テスト中だから会おうだなんて言えないし、わたしのわがままひとつで成績を下げちゃっても嫌だから我慢してるけど…ほんとは今すぐにでも会いたい。
 会って、よしよししたい。
 テストの結果はどうであれ、頑張ったねって言ってあげたい。

 それで、子供みたいな顔を見せてほしい。

 照れたり、恥ずかしがったり…するのかな。紅葉みたいに唇を尖らせて、生意気な顔、してくれるかな。
 甘やかしたい欲求が満たされなくて、母性本能が爆殺して、無事に今…猛烈に可愛がりたい欲求不満でいっぱいになっていた。

「はぁ………渚ちゃん…」

 甘やかすことを期待してたらなんだか、足の間が切なくなってくる。こんなの初めて。
 うつ伏せになって毛布を体で押しつぶしながら、もどかしいような、くすぐったいような足をせわしなくモジモジ動かして、居心地のいい場所を探していく。

「んっ……」

 それをしているうちに、下腹部のさらに下辺りに毛布が擦れて、急に脳にピリついたような刺激が走ってきた。

「……え。なに今の」

 驚いて、体の動きを止める。

「な、んか…変な感じした」

 今までどんなに全裸で毛布を抱きしめてても、こんな事なかったのに。
 正体不明の刺激に戸惑いながら、とりあえず股の間を怪我してないか心配になって覗き込む。…別になんともない。

「……いつもより湿ってる…?」

 乾くような場所ではないから当たり前なんだけど、それにしても、なんか……おりもの?それにしては透明だけど。
 生理まだ先なんだけどな…と不審に思いつつ、念のためいつ来てもいいように仕方なく服を着て、トイレで下着におりもの用のナプキンを貼り付けておいた。
 ついでにトイレを済ませて、自分の部屋のベッドへ身を預けた。

「…会いたいな」

 スマホの画面を眺めながら、自然と声が出る。
 電話したい…けど、今は我慢。
 さびしすぎて、涙出てきた。
 スンスン鼻をすすりながら眠って、朝と日中は忙しくて渚ちゃんの事を考える暇もないまま、あっという間にテスト期間は終わりを告げる。
 テスト期間が終わったということは、

「おはようございま~す!」

 渚ちゃんに会える!
 と思って、意気揚々とバイト先へ出向いたのに、その日は残念ながらお休みだった。

「店長~…渚ちゃんのシフト教えてください」
「いいけど…それこの間、友江さんも言ってたな」
「渚ちゃんも?」

 苦笑しながら印刷された紙を渡されて、それに軽く目を通す。
 渚ちゃんもわたしのこと気にかけてくれてるんだ…なんて嬉しく思う気持ちは、シフトを確認してすぐに落ち込んだ。

「全然かぶってない…」
「君たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「んふふ。実は少し前、進路のことで相談されて…そこから仲良くなったんです。頼ってくれたの嬉しくて、ついつい」
「あぁ進路か~…大学行っても残ってくれんのかなぁー……皆月さんも、来年には辞めちゃうだろ?そうだ、就活はどう?」
「まあまあ順調です」
「えぇー、順調なの?もう正社員になってほしいくらいなのに…困るよ」
「ここ安定しないんで。帰る時間とか」
「……その安定しないとこで働く正社員の俺に言うなよ。それに仕事が安定しなくても、皆月さんならすぐ結婚できて永久就職可能だろ?」
「結婚も何も…付き合ってる相手すらいないですもん、無理ですって」
「…相手いないなら、俺なんかどう?けっこう給料良いよ、尽くすし」
「ごめんなさい!ほんと結婚には興味なくて」

 店長のいつもの軽口には手を合わせて申し訳なく断って、紙を持ってロッカー室へと向かった。

「めんどくさいなぁ…もう」

 みんなして、口説くみたいなことばっか。なんでそんなに恋愛したがるんだろ?
 正直、断るのも疲れる。
 わたしなんか周りに比べて垢抜けてないし、他の女子大生が持つ色気も…たいした魅力だってこれっぽっちもないのに。他にかわいい子なんてたくさんいるのに……渚ちゃんとか。
 渚ちゃんはわたしと違って真面目だし、恋愛とかになっても相手に真摯に向き合ってあげるんだろうな。
 わたしみたいに面倒だからって当たり障りなく、とりあえず無難な言葉を選んで生きるみたいなことはしないはず。
 …芯があって、すごいな。
 年下の彼女を素直に尊敬しながら、考えてたらものすごく会いたくなってきた。
 テスト期間も終わったし…バイトで会えなくても、今なら会いに行ってもいいかな。だめかな…迷惑になる?
 いや、きっとあの子は、迷惑だなんて言わない。
 優しくて、物静かな顔を思い浮かべる。

「渚ちゃん…」

 会いたい。

 堪えきれなくなった思いは、バイト中もずっと続いて。

「……会いに、行っちゃおうかな」

 バイト終わり、わたしはつい渚ちゃんの家へ向かって、歩みを進めた。




















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