あざとすぎるよ、皆月さん

小坂あと

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学生編

皆月さんの趣味

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 せっかくの休日。

 何か心境の変化があったのか、皆月さんは最近よくやってたみたいにベタベタしてくる事はなく、今は勉強机に向かって何やら小難しそうな心理学の本を読んでいる。
 部屋の中をよく見渡せば大きめの本棚には綺麗に様々な種類の本が分かりやすく区分けされて並べられていて、その丁寧さから皆月さんの几帳面さが分かった。
 そして本棚の中には、漫画とかそういう類のものはなさそうな事から、性に関して疎いのも俗世的な書物を好んで読まないからなんだな…と察した。

「今はそれ…何を読んでるんですか?」
「うーんとね…発達心理学についての本だよ。その中でも児童心理学と思春期心理学を切り取ったものなの」
「……なんで心理学?」
「紅葉がいつ反抗期に入ってもおかしくないからねぇ…こういう知識も必要かなって」
「そういうのって大体…子育て本みたいなやつ読んで学びません?」
「もちろん、そういうのも読むよ~。これはうん…客観的で論理的な子育て本みたいな感覚かな。紅葉の感情を頭でも心でも分かってあげたいから」

 本当に紅葉ちゃんのこと大好きなんだな……紅葉ちゃんのためなら努力も欠かさない皆月さんの母親な姿に、じんわり胸が温まる。

「まぁでも…あくまでも参考程度だよ。子育ては一筋縄じゃいかないもん」
「とても大学生の発言とは思えないです」
「あー、またおばさんとか言うんでしょ~」
「いやいや。褒め言葉ですよ」

 素直に感心して言っただけなのに、疑いの眼差しを向けられる。

「…漫画とかは読まないんですか?」

 話を逸らすために本棚を見たら、皆月さんの視線もつられてそっちへ向かう。

「ほとんど読んだことないかも」
「どうして?」
「漫画とか小説って…基本的に一回読み終わったら内容覚えちゃうから、なんかもったいなく思っちゃうんだよね」
「じゃあ…普段は心理学の本とかばかりですか?」
「あとは資格の参考書…問題集とか。図鑑も好き。知識が頭に定着するまで何回も読める本が多いかなぁ。そっちの方が長く楽しめるからお得」
 
 趣味が読書という人の中でも、色んな楽しみ方がある事を皆月さんから知る。
 そういう考えで本を読んだことなんてなかったから驚いた。私はどちらかというと小説とか、物語の本を繰り返し何回も読むのが好きなタイプだから…同じ読書が趣味と言っても系統が違う。
 …最近はもっぱら写真集ばっか見てる。

「資格とか持ってるんですか?」
「暇つぶしがてら取ったのがいくつかあるよ。高校、大学で取ったのもある。…でも取るのにもお金かかるし試験会場に行かないとだったりで……大変だったから、そんなに多くはないかな。それでも周りの子よりはたくさん持ってる方だと思うけど」
「へぇ…すごい。公務員以外も仕事に困らなそうですね」
「あ~、それはそうかも。読書と勉強は楽しむついでに選択肢が広がるから、良い趣味だなって思う。だから大好き」
「他に趣味ないんですか?」

 改めて多才だな…と尊敬して、さらに興味が湧いてそれ以外にも何かないか質問を重ねる。

「裸で寝ること…?かな」

 裸族なのは知ってたけど…あれ趣味判定なんだ。

「ど、どうやって寝るんですか?裸で。めっちゃ気になる、見たい」
「………脱げって、こと?」
「すみません冗談です」
「まぁ…少し脱ぐくらいでいいなら見せられるけど……別に普通に寝るだけだよ?」

 あ、いいんだ。

 ………え。

 いいんだ!?

「さすがに全裸は無理だからね」

 念押しして言いながら椅子から立ち上がって、着ていた半袖を脱ぎ始める皆月さんを二度見、三度見くらいする。
 薄手のキャミソールに下は無防備にも下着姿になった皆月さんは、ベッド脇に軽いノリで腰掛けた。

「え……え?ほ、ほんとにやるの…?」
「うん。今まで誰にも言えなかったから、こうやって包み隠さないでいられるの嬉しいな。楽しいんだよ?服脱いで寝るの」
「い、いやぁ…やめといた方がいいんじゃ……」
「あ!せっかくなら渚ちゃんもやってみようよ。意外とハマるかもしれないよ?」

 ……この人って、バカなのかな。
 服を脱いでベッドに入ることの意味を知らない皆月さんをまじまじ見たあとで、ため息をつく。こういうとこ天然というかアホなのはいつものことか…意識するだけ無駄だ。
 皆月さんはきっと、本当に服を脱いでゴロゴロする事を「人にはちょっと言いにくい趣味」くらいに思ってるんだろうな…
 人によってはやらしく思われちゃう事を分かってないんだ。人に言えないのも、お行儀が悪いとか、家でも服着てるのが常識だから程度の認識で、ちょっとえっちな趣味だなんて思ってなさそう。

「……私は服着ててもいいですか」
「だめだよ~、裸で布団に入るのが気持ちいいんだから。ほら、脱いで脱いで?」
「…ていうか皆月さんはその格好で恥ずかしくないんですか。谷間見えてますけど」

 羞恥心を刺激すれば諦めてくれるだろうと思って、大胆に丸見えな胸元を指差して言ったら、

「ち…乳首見えてなければ、せーふ」

 分かるようで分からない基準が返ってきて、さらに脳みそは戸惑った。



















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