おっさんが異世界で無双したりしなかったり

一条 治

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第一章

閑話. シラユキさんの一日②

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 午後からは自由時間。

 最近のシラユキさんは「でぃーぶいでぃー」を鑑賞するのがブームだ。
 中でも、緑の帽子をかぶった背の高い男の人が、毛むくじゃらの生き物と楽しそうに遊んでいるやつが大のお気に入りだ。あまりにもヘビーローテで見ているものだから、おっさんが毛むくじゃらの生き物のぬいぐるみをくれた。これはシラユキさんの宝物になった。
 ダークエルフ女は「まんが」を読んでいる。時々うっとりとした表情で「尊い・・」とか呟いている。ちょっとキモい。


 今日の晩ごはんは「はんばーぐ」だ。
「はんばーぐ」とは何ぞや?今回が初めてである。期待が高まる。

「それじゃシラユキさん、これをかきまぜてください」

「!?」

 いつもは食器を並べるのが仕事だった為、料理自体に参加するのは初めてだ。我が実力、見せてくれよう。
 おっさんから受け取った手袋をはめて、材料を手でかき混ぜる。
 こう、こうか・・?ぐっちゃぐっちゃとかき混ぜるシラユキさん。
 ほう・・これはなかなか・・。楽しくなってきたシラユキさん、尻尾ふりふり腰をクイックイッしながらかき混ぜる。

「それくらいでいいよ。ありがと」

 ムフーと満足げなシラユキさん。

「それじゃ焼くから、ちょっと離れてね」

 おっさんの背後にまわり、脚にしがみつく。顔だけ出して様子をうかがう。『ジュウゥゥー』という心地よい音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが広がる。
「じゅるり」よだれをたらすシラユキさん。だが、これは仕方がない。こんな好い匂いを出されたらどうしようもない。そう、どうしようもないのだ。

 次々に焼いていくおっさん。
 焼いた「はんばーぐ」がお皿に積み上がっていく。
 まだかな?もう食べたいな。でもおっさん、食べていいって言ってないな・・。食べたい。こんなにいっぱいあるんだから、一つくらい食べてもいいかな?いやでもおっさんたべていいいってないたべたい。
 気を紛らわすため、おっさんの脚にかぶりつく。はぐはぐ。もちろん手加減はしています。シラユキさんはレディなので。

「ちょ、くすぐったい。なんだ?我慢出来なくなっちゃったのか?しょうがないなぁー」

 そう言うとおっさんは、「はんばーぐ」を一つお皿にのせて軽く塩コショウをふる。

「ひとくちだけだぞー」

 熱くないようフーフーしてから食べさせてくれるおっさん。

 これは!!!!!

 噛んだとたんジュワッと溢れる肉汁!そしてシャクシャクと歯触りの良いタマネギ!ほどよい塩コショウ!
 一部の隙もない。まさに至高、そして究極!!これはもう神!!!
 今まで神など信じてはいなかった・・でも今は違う。神はここにいたのだ!自分の中に揺るぎ無い信仰が芽生えたのを感じる。と同時に何故今までこれを知らなかったのか、自分の無駄なこれまでの人生を悔やむ。
 これが「はんばーぐ」か。

「もうすぐ出来るから、お皿並べてくれる?」

「あい!」

 シラユキさんはお皿を並べながら想いを馳せる。この後、あの「はんばーぐ」を心ゆくまで堪能出来る。今日は人生最良の日となるだろう。


 夕食後シラユキさんは、ソファーで放心していた。
 夕食で出てきた「はんばーぐ」は甘酸っぱいソースがかけられ、ごはんによく合った。塩コショウだけでもあれだけ美味しかった「はんばーぐ」がさらに高みへと登りつめ、付け合せのポテトサラダとコーンスープ・・それだけでは飽き足らずデザートの「ぷりん」まで・・・。ここは天国か?いや、やめよう。これ以上言葉で語るのは野暮ってもんだ。
 おなかだけでなく心まで満たされている。このまま幸せに包まれて眠りたい。ウトウトするシラユキさん。

「シラユキー、寝る前にシャワー浴びるよー」

 おっさんが呼んでいる。やむをえずシャワーを浴びる。
 きゃんぴんぐかーは湯船が無いので残念だが、悪いことばかりではない。狭いためダークエルフ女が入ってこれず、おっさんとふたりっきりになれる。
 おっさんに全身を洗ってもらう。特に耳と尻尾は念入りに。
 お返しにおっさんの背中を洗ってあげる。

「シラユキは背中洗うの上手だなー」

 そうであろう。シラユキさんは背中を洗わせたらこの世に並ぶ者無しなのだ。ついでに前も洗ってあげようとするのだが、おっさんは嫌がる。

「あ!前は大丈夫です。自分で洗えますので・・」

 何故か敬語。まあいい。

 シャワーから上がり「どらいやー」で乾かしてもらう。こうすることで毛がフワッフワになる。おっさんは便利な物をたくさん持っているなあ。
 歯も磨く。自分で磨いた後、おっさんが仕上げに磨いてくれる。何故か「仕上げはおかーあさーん」と歌いながら磨いてくれる。おっさんはお母さんではないが。

 歯を磨き終わる頃には、起きているのが限界に近づいている。
 おっさんにだっこされてベッドへ。そのまま添い寝してもらう。
 おっさんは毛布の上から優しくポンポンしてくれる。至福である。


 こうしてシラユキさんの一日は終わる。
 今日も幸せな一日だった。明日もきっと楽しいことがたくさんあるだろう。
 おっさんと一緒にずっとこんな日が続けばいいと心から願う。
 おやすみなさい。

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