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第二章
26. おっさん、とどめをさす
しおりを挟むエマージス神聖国の東部にある街ザシールを出発してから4日、俺達は隣国ノイタルジーヌ王国に入国した。
途中エマージス神聖国側3箇所の街に立ち寄り、合わせて80kgほど胡椒を売りさばいた。トータルでエマージス神聖国内で売却した胡椒は、400kgちょっと。おかげで、現地通貨は一生生活に困らないぐらいには確保出来た。
多少のトラブルといえば、エマージス神聖国側の国境に一番近い街を出る際、ダークエルフのカグヤと獣人のシラユキを連れていたため少し疑われた事(奴隷が隣国へ逃亡することがよくあるらしい)か。奴隷登録証を見せても時間がかかりそうだったので、試しに袖の下として胡椒を少量渡したら、すんなり通してくれた。この国は本当に腐っている。
逆にノイタルジーヌ王国側の街に入る際はすんなり通してもらえた。
カグヤさんの話ではノイタルジーヌ王国は亜人に対する差別が少なく、国境を越えてくる難民にも寛容だとか。もともと戦禍によって故郷を失った人達が集まって出来た国である為、国是として《万人は平等である》を掲げている。もちろん差別がまったく無い訳ではないだろうが、それはどこでも一緒だ。
当然、人族至上主義を掲げる隣国エマージス神聖国とは仲がよろしくない。
特にエマージス神聖国側はノイタルジーヌ王国を目の敵にしている。しかし、ノイタルジーヌ王国側はエマージス神聖国を可哀想なものを見る目でいる為、大きな争いはしばらく起きていないらしい。民度の違いが窺い知れる。
(永住するにはいいかもしれないな・・)
ここはノイタルジーヌ王国国境の街メーニア。
この街で、まずやることがある。
胡椒を売りさばくのだ。今のままでも十分値崩れしてバカ共は大損するだろうが、とどめをさしておきたい。
俺たちは商業ギルドへ向かう。商業ギルドは石造りの大きな建物だった。
受付で胡椒を大量に売却したいと伝えると、奥からキャリアウーマン風の美魔女が出てきた。
俺より少し下くらいの年齢だろうか。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。何というか、峰 不○子っぽい。つまりエロい。何故かシラユキさんが俺の左手にガジガジ噛み付いている。いたい。右手は何故かカグヤさんにギリギリ締め上げられている。いたひ。
「私はノイタルジーヌ王国商業ギルド、副ギルド長のジュリアと申します。胡椒をお売りになりたいとか?」
「はい、そうです。私はオサムと申します。量が多いのでどこか広いスペースの場所はありますか?」
「では倉庫に案内しましょう。こちらへどうぞ」
後について倉庫に移動する。
「ちなみに胡椒はどちらに?」
「実はマジックバッグを持っていまして・・」
そう言って俺は、マジックバッグという体のバックパックから取り出す振りをしてインベントリから大量の胡椒を取り出す。
「な、なんですかこれは!!!!!」
ジュリアさんが目をひん剥いて驚いている。
そりゃそうだ。何せ1t の粒胡椒だからな。
「マジックバッグからこんな大量の物が・・いやそれより、これ全てが胡椒なのですか!?」
「確認いただいて構いませんよ?」
念入りに確認するジュリアさん。
「ま、間違いありません。全て胡椒です・・」
確認してもまだ信じられないといった様子だ。
「こんな大量の胡椒を一体どこで・・?」
「その質問にはお答えしかねます」
「失礼致しました。商人にとって仕入先は大切な財産です。今の質問はお忘れください」
これが二流の商人なら、どうにかして仕入先を聞き出そうとするだろう。流石は副ギルド長を務めるだけはある。
「分かりました。それでは商談に入りましょう」
「しかしこれだけの量となると・・だいぶ値が下がってしまいますがよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんそれは織り込み済みです。ちなみにこの辺りでの相場はどれくらいなのでしょうか」
「そうですね・・この胡椒を見る前でしたら、200gあたり金貨4枚といった所なのですが・・」
概ね予想通りの金額だ。
「これだけの量だと三分の一・・いや四分の一の金貨1枚といった所でしょうか・・」
これも予想通り。
「ではそのさらに五分の一の大銀貨2枚でどうでしょうか?」
「大銀貨2・・ええぇっ!?」
ジュリアさんが再び驚く。
それはそうだろう。値段を吊り上げるならまだしも、売り手が自分から売却額を下げるなんて普通は考えられない。
「・・訳をお聞きしても?」
すぐに驚きから立ち直ったジュリアさんが、尋ねてくる。
「理由は色々ありますが・・私の仕入れ先では胡椒はそれほど高価ではありません。それに私はマジックバックを持っているので運送の手間も少ない。この値段でも十分儲けが出るのですよ」
「それだけですか?」
「・・いいえ。売却にあたり条件をつけさせていただきたい。この国だけでなくエマージス神聖国以外の周辺各国にも売却すること。またその際に値段を吊り上げないこと」
「何故、エマージス神聖国に売却してはいけないのですか?」
「正確には売却してはいけないのではなく、おそらく売却出来ないだろうからです」
「・・どういうことです?」
「胡椒がだぶついているからです。ここに来る前、エマージス神聖国で400kgほど胡椒を売却しました。200gあたり金貨2枚で」
「な!?」
「ちょっと嫌なことがあったものでね」
俺の言葉にチラリとカグヤとシラユキを見るジュリアさん。何となく察したのだろう。
「ふふ・・そういうことですか」
ニヤリと悪い笑みを浮かべるジュリアさん。
「私もあの国はあまり好きになれなくて・・特にザシールの街のバカ領主は大っ嫌いなんですよ。人のことをジロジロとイヤラシイ目で見てくるし。自分がまわりから嫌われてることに気づかないんですかね?」
どうやらジュリアさんも色々あったようだ。俺もあいつは大っ嫌いだ。
「あ、ちなみにバカ領主には200kg白金貨20枚分売りつけました」
「あっはっはっは!・・すみません、あまりにも可笑しくて・・」
「喜んでいただけてなによりです」
「あなたも悪い人ですね・・」
「何をおっしゃる。私は相場より安い値段で売って差し上げただけですよ?・・お互い合意の上でね」
「確かにあなたに非はありません。たとえこの後、大きく値崩れを起こしたとしてもね」
「そうでしょうとも」
俺は大きく頷いた。
「胡椒は喜んで買い取らせていただきます。それと、後のことは私ことジュリアにお任せいただけませんか?けっして悪いようにはいたしません」
ギラリとジュリアさんの目が光る。
「本来であれば値崩れを起こす前に少しでも高く売り抜けるのが商人なのでしょうが、それではつまらない。商人たちには安価で売ることを徹底させます。そうですね・・200gあたり大銀貨4枚といったところでしょうか。大銀貨2枚で仕入れて4枚で売れば十分利益が出ます。と同時に、胡椒がだぶついている情報を流します。そうすれば値を吊り上げるのも難しいでしょうから」
「素晴らしい。それでは後のことはジュリアさんにお任せします」
「ありがとうございます」
胡椒の代金を受け取って、俺達は商業ギルドを後にした。
後日談になるが、この後ジュリアさんは電光石火の勢いで胡椒を各地で安価に売り捌ききったそうだ。
程なく値崩れが起き、欲に目が眩んだバカな人達は大損した模様。
ちなみにザシールの街のバカ領主は逮捕されたとか。
何でも胡椒を購入する為に、公金に手をつけていたらしい。胡椒を売却して戻すつもりだったが値崩れを起こした為、戻すことが出来ずに発覚。逮捕されたのち鉱山送りになったそうだ。ご愁傷様である。
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