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第三章
ゴドアの商人
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「殿下は商人のジェルモという男をご存知でしょうか?」
そう言われてアルスの脳裏にすぐに浮かんだのは、エルン戦の後の戦勝パーティーで話をした商人だった。
「ああ、知ってるよ。その彼がここに?」
「そうです。ぜひお会いになって欲しいのです」
「わかったよ」
アルスは再び溜め息をつきながら返事をした。
「ありがとうございます。しばらくお待ちください。彼《か》の者をここに連れて参りますので」
そう言うと、リヒャルトは広い会場を人の群れを縫うようにして消えて行った。アルスが3大ギルドの脅威を知ることが出来たのはジェルモが教えてくれた「大陸覇権主義」という言葉からだった。
あれから色々なことを知った。今後、アルスにとって最大の脅威となるのはこの連中なのかもしれない。いずれにせよ、ジェルモにもう一度会っておかねばならないとは感じていた。
しばらくすると、リヒャルトがひとりの商人を連れて戻って来る。中東のディシュダーシャを彷彿とさせるゴドアの伝統衣装に身を包み色黒で眼鏡をかけた商人、ジェルモだった。
「お久しぶりですアルトゥース殿下」そう言うとジェルモは深々と頭を下げた。
「また会えて光栄だよ」
「私もです。ここでアルトゥース殿下にお会いできたことは真に幸運なことです。殿下、少し込み入ったお話もあります。ここではなんですから場所を移動致しませんか?誰が聞き耳を立てているともわかりませんから」
ジェルモは耳に手を当てておどけたようにしていたが、その目は真剣だった。
「わかった。それなら僕の泊まっている邸宅ならどうかな?」
「ご配慮いただき恐縮です。殿下の泊まっている邸宅なら警備も厳重そうですね」
アルスは滞在している邸宅の場所をジェルモに教えると、4人はその場でお互いの近況や軽い情報交換をして、しばらく雑談を愉しんだ。
この日は時間も遅かったのと、安全面から次の日にジェルモに来てもらう流れになった。アルスとマリアが邸宅に帰る頃には、他のメンバーも既に帰って来ていた。
「アルスさま!こいつの酒癖最悪ですよ」
エルンストがアルスが帰って来るなり愚痴を言った。見るとフランツがぐぉーぐぉーといびきをかいてソファで寝ていた。
「どうしたの?」とアルスが聞くとエルンストの愚痴が止まらなかった。
「こいつと一緒にガートウィン工房に行ったんですが、自分の武器だけガートウィンさんに作られていなかったということがわかって、落胆してたんですよ。その後みんなで彼を慰めるために酒屋に行ったんです。そしたらこいつ浴びるように酒を飲みまくって、酔っぱらったら周りの客と喧嘩まで始めちゃいまして」
「え!?それは大変だったね。それでどうしたの?」アルスが苦笑いして尋ねた。
「私とガルダで羽交い絞めにして無理矢理連れて帰りましたよ」
ソファで寝っ転がってるフランツに視線を向ける。相当酒を煽ったらしい。顔全体が赤いので腫れて赤いのか酔っ払って赤いのかが判別がつかなかったが、フランツの目の周りが少し膨らんで腫れているのがわかる。
酔っ払ってヤケ酒を飲むほどショックを受けるとは思わなかった。
「相当ショックだったってことかな。んー、それなら僕からガートウィンさんにフランツの分も作ってくれるように頼んでみるかな」
「いえ、実はフランツの分も作るつもりだったようですが、時間の都合で後回しにされてたみたいです」
「そうだったの?ならそんなに落ち込むことはないのに」
「たぶん、物凄く期待していた分、落胆が激しかったんでしょう。私たちのは全員分出来ていましたし。ああ、それと、アルスさまのは特別みたいで、まだ最後の調整に時間がかかるとのことでした。むしろガートウィンさんはその件でアルスさまと話したがっていましたね」
「ふむ。それならほぼ武器については全員分出来ているってことだよね?」
「そうですね。私とガルダは先に受け取ってきてしまいましたよ」
「おお!見せてもらっていいかな?」
「もちろんです!」
エルンストが持ってきた槍はクロススピアで柄が黒色に塗られており、穂先はアダマンティウム特有の鈍いオークルの光を放っていた。
穂先の手前には結晶石がはめ込まれているが、これも刻印が彫ってあり芸術品としても価値がありそうな出来栄えだ。
「すごいな。ここまで仕上げてくるとは・・・・・・」
アルスは思わず言葉を失った。
「そうですね。私はもう感動しっぱなしなんです。しかも重さも相当軽くなっています。以前私が使っていた槍と比べたら格段に軽いのです」
「それで強度と切れ味は比較にならないくらいだからね。それをここまで仕上げてくるあたり、さすがに銀の聖杯の称号を持つ職人といったところか」
そう考えると、フランツが落胆して酒に走ったのもわからなくはない。第一、これだけ目の前で見せつけられたら武人としては堪らないものがあるしな。アルスはエルンストの様子を見ていて密かにそう思った。
そう言われてアルスの脳裏にすぐに浮かんだのは、エルン戦の後の戦勝パーティーで話をした商人だった。
「ああ、知ってるよ。その彼がここに?」
「そうです。ぜひお会いになって欲しいのです」
「わかったよ」
アルスは再び溜め息をつきながら返事をした。
「ありがとうございます。しばらくお待ちください。彼《か》の者をここに連れて参りますので」
そう言うと、リヒャルトは広い会場を人の群れを縫うようにして消えて行った。アルスが3大ギルドの脅威を知ることが出来たのはジェルモが教えてくれた「大陸覇権主義」という言葉からだった。
あれから色々なことを知った。今後、アルスにとって最大の脅威となるのはこの連中なのかもしれない。いずれにせよ、ジェルモにもう一度会っておかねばならないとは感じていた。
しばらくすると、リヒャルトがひとりの商人を連れて戻って来る。中東のディシュダーシャを彷彿とさせるゴドアの伝統衣装に身を包み色黒で眼鏡をかけた商人、ジェルモだった。
「お久しぶりですアルトゥース殿下」そう言うとジェルモは深々と頭を下げた。
「また会えて光栄だよ」
「私もです。ここでアルトゥース殿下にお会いできたことは真に幸運なことです。殿下、少し込み入ったお話もあります。ここではなんですから場所を移動致しませんか?誰が聞き耳を立てているともわかりませんから」
ジェルモは耳に手を当てておどけたようにしていたが、その目は真剣だった。
「わかった。それなら僕の泊まっている邸宅ならどうかな?」
「ご配慮いただき恐縮です。殿下の泊まっている邸宅なら警備も厳重そうですね」
アルスは滞在している邸宅の場所をジェルモに教えると、4人はその場でお互いの近況や軽い情報交換をして、しばらく雑談を愉しんだ。
この日は時間も遅かったのと、安全面から次の日にジェルモに来てもらう流れになった。アルスとマリアが邸宅に帰る頃には、他のメンバーも既に帰って来ていた。
「アルスさま!こいつの酒癖最悪ですよ」
エルンストがアルスが帰って来るなり愚痴を言った。見るとフランツがぐぉーぐぉーといびきをかいてソファで寝ていた。
「どうしたの?」とアルスが聞くとエルンストの愚痴が止まらなかった。
「こいつと一緒にガートウィン工房に行ったんですが、自分の武器だけガートウィンさんに作られていなかったということがわかって、落胆してたんですよ。その後みんなで彼を慰めるために酒屋に行ったんです。そしたらこいつ浴びるように酒を飲みまくって、酔っぱらったら周りの客と喧嘩まで始めちゃいまして」
「え!?それは大変だったね。それでどうしたの?」アルスが苦笑いして尋ねた。
「私とガルダで羽交い絞めにして無理矢理連れて帰りましたよ」
ソファで寝っ転がってるフランツに視線を向ける。相当酒を煽ったらしい。顔全体が赤いので腫れて赤いのか酔っ払って赤いのかが判別がつかなかったが、フランツの目の周りが少し膨らんで腫れているのがわかる。
酔っ払ってヤケ酒を飲むほどショックを受けるとは思わなかった。
「相当ショックだったってことかな。んー、それなら僕からガートウィンさんにフランツの分も作ってくれるように頼んでみるかな」
「いえ、実はフランツの分も作るつもりだったようですが、時間の都合で後回しにされてたみたいです」
「そうだったの?ならそんなに落ち込むことはないのに」
「たぶん、物凄く期待していた分、落胆が激しかったんでしょう。私たちのは全員分出来ていましたし。ああ、それと、アルスさまのは特別みたいで、まだ最後の調整に時間がかかるとのことでした。むしろガートウィンさんはその件でアルスさまと話したがっていましたね」
「ふむ。それならほぼ武器については全員分出来ているってことだよね?」
「そうですね。私とガルダは先に受け取ってきてしまいましたよ」
「おお!見せてもらっていいかな?」
「もちろんです!」
エルンストが持ってきた槍はクロススピアで柄が黒色に塗られており、穂先はアダマンティウム特有の鈍いオークルの光を放っていた。
穂先の手前には結晶石がはめ込まれているが、これも刻印が彫ってあり芸術品としても価値がありそうな出来栄えだ。
「すごいな。ここまで仕上げてくるとは・・・・・・」
アルスは思わず言葉を失った。
「そうですね。私はもう感動しっぱなしなんです。しかも重さも相当軽くなっています。以前私が使っていた槍と比べたら格段に軽いのです」
「それで強度と切れ味は比較にならないくらいだからね。それをここまで仕上げてくるあたり、さすがに銀の聖杯の称号を持つ職人といったところか」
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