大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう

文字の大きさ
136 / 187
第三章

ハイム村の攻防戦2

しおりを挟む
 そこへ後方のアジルが一気に前に躍り出て、そのまま斬りかかる。その攻撃を受けて影の輪郭は濃くなると、影だった男の姿がハッキリしてくる。やがてドルフとアジルの前に黒装束に身を包んだ男が姿を現した。

「なんだよ!結局、真っ黒けじゃねぇか!?」

 アジルがよくわからない悪態をつきながらも、素早く連撃を叩きこんでいく。男はそれをかわしながら、飛び上がったところに今度はドルフの衝撃波が飛ぶ。

 レフェルト兄弟の連携攻撃は、ルンデルの大将軍バートラムも苦戦したほどである。ドルフの衝撃波に対応が遅れた男は、そのまま家の壁に叩きつけられた。

 衝撃で家の壁が破壊されるのがギュンターと戦っている男の目にも入ると、男は笑いながら叫んだ。

「クハハ!!ギレ!おまえ何遊んでんだ!?助けてくれったって俺は行かねぇぞ?」

 ギュンターが男に叩き込む剣圧を上げると、それを上回る圧力で男は押し返してくる。完全に遊んでるなコイツ。ギュンターはそう思いながらも相手に付き合ってる自分も同じかもしれないと自問自答する。

 そして、もうひとつ気にいらないのは、奴の攻撃は今のところ突きだけなのだ。ハルバートの形状を活かす最大の攻撃方法は突きではなく、その形状と重量を活かして振り抜くのが正解だ。

 そのとき、ギュンターの思考を見透かしたように男が話しかけた。

「こんだけ俺とやり合える奴は久しぶりだ。おまえも楽しいだろ?名残惜しいとこだが、そろそろ本気でやらせてもらうぜ?」

「望むところだ」

「クハハハ!一発で終わるなよ?」

 そう言うと、男のオーラ量は今までの比ではないほどに膨れ上がった。ギュンターのオーラとぶつかり合いバチバチと弾け合う。男の構えが変わった。

「破岩斬!!!!」 

 刹那、ハルバートが斜めに打ち下ろされる。

 来る!ギュンターもオーラを全解放する。

「霞崩《かすみくず》し、蒼天!!!!」

 刀身がバチバチと音を立てる。柄の結晶石が強烈な青い光を放ちながら、振り抜く剣の軌跡を描いていく。互いの全オーラを乗せた最速、最大の技がぶつかり合った刹那、凄まじい衝撃が互いの武器に伝わる。


 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!


 衝撃は互いの武器だけではない。轟音が響き渡ると、それに伴う衝撃波によって周囲の家の壁がメキメキと軋み亀裂が入った。しかし、異変はそれだけでは終わらなかった。

「くっ!」

 ギュンターが小さくうめく。最大圧の技をお互いに掛けた結果、強度を上げたはずのギュンターの刀身にヒビが入り始めていた。ギュンターのオーラで強化したはずの剣より、相手の男の技の衝撃が上回ったということになる。



 ギュンターと巨体の男が、広場で戦っているその向こう。影の男が壁に叩きつけられ、その衝撃で壁を突き破り穴の空いた家は静まり返っていた。

 その家のドアがゆっくりと開いていく。家の様子をしばらく見ていたドルフとアジルだったが、一瞬で警戒モードに入った。

「来るぞっ!」

 ドルフがアジルに声を掛けつつ、ふたりは開いていくドアに神経を集中させる。ゆっくり、ゆっくりと軋む音を立てながらドアは開いていく。

 太陽の光は家の向こう側から差し込んでおり、開かれたドアから見える家の中は暗がりでよく見えない。やがて、ドアが完全に開いたが、そこから人が出てくる気配はなかった。

「兄貴、誰もいねーぞ」

 アジルがそう言って家に近づく。ドルフはそう言われアジルを振り返った瞬間、ドルフはゾクッとした。アジルの影の中で何かがボコボコと動き出していたのだ。

「アジル!後ろだ!」

「えっ?」

 アジルが振り向くと同時に、影はアジルの背中にナイフを突き立てる。

 「ぐああっ!」

 アジルは痛みで叫ぶも、ドルフの声かけで身体を捻った分、わずかに狙いがそれた。そのおかげで致命傷を避けることが出来たのだ。

 男がとどめを刺そうとするところへ、瞬時に動いたドルフの衝撃波が飛ぶ。その一撃を捌き切れずに影の男は吹き飛ばされた。ドルフはそのまま弟のところまで走り寄る。

「大丈夫か?動けるか?」

「ああ。兄貴、すまねぇ」

「気にすんな」

 ドルフとアジルが態勢を立て直した時には、影の男はすでに闇の中に溶け込んでいた。


 一方のギュンターは、刀身にヒビが入ったことで次第に押され始めていた。男は、猛烈な攻めに出る。もはや突きを主体とする攻撃ではなく、横に振り抜き、打ち下ろすハルバートの特性と威力を最大限に引き出した戦い方である。

 ギュンターは防戦一方になりつつあった。そこから数十合打ち合ったところで、遂にギュンターの剣は衝撃に耐えきれなくなった。入り始めたヒビは少しずつ広がって行き、ハルバートによる強烈な一撃を受けて途中から真っ二つに折れ飛ぶ。

 そのまま男の次の一撃が繰り出されたが、ギュンターは受けきることが出来なかった。折れた武器では、もはやあの重量のハルバートを受けきることは出来ず、身体ごと吹き飛ばされてしまった。

 ギュンターの身体は、そのまま家の壁を突き抜け反対側の壁まで突き破り地面に叩きつけられる。

「クハハ!ちったぁ楽しめるかと思ったが、ここまでか?」

 男はとどめを刺すために、そのまま家の裏に回り込んだ。

「ほぉー、あの一撃を受けてまだ立つのか。しぶといじゃないか!」

 ギュンターは、ふらふらとよろめきながらであったが立ち上がっていた。息は荒く衣服は破れ、額と左肩からは血が流れている状態であったが、目は死んでいない。

 半分に折れた剣を上段から下向きに構える。男はその状態を見て少しがっかりした。

「終わりだな」

 ハルバートを振りかぶると、一気に打ち下ろそうとした刹那、横から十文字に切り裂く斬撃が男を襲った。咄嗟にハルバートを横に薙いで相殺する。

「ちっ、誰だ!?」

 斬撃が飛んで来た方向を見ると、二刀を構えた兵士が突っ込んで来た。そこからの二刀による連撃は苛烈を極める。

 オーラによる間断の無い斬撃の嵐を食らいながら、男は一歩また一歩と後退せざるを得なかった。その隙に兵士は、ギュンターの居る場所まで来るとニヤッと笑って声を掛ける。

「随分、派手にやられたじゃないか?」

 その兵士にギュンターは驚きながらも答えた。

「抜かせ!やっとウォーミングアップが終わったところだ。ところで、なんでおまえがこんなところにいるんだ、ヴェルナー?」

「その質問に答えるのは後だ。その武器じゃもう戦えないだろう。これを使え、アルスさまからだ」

 そう言って、一振りの剣をギュンターに渡した。

「これは・・・・・・」

「抜けばわかる」

 ギュンターは剣を鞘から抜くと刀身が日の光をキラキラと反射させた。オークルの色が薄く刀身を彩り、鏡のように研ぎ澄まされた刃がギュンターの顔を映し出した。柄には結晶石が刻印石として埋め込まれ、まるで芸術品を見ているかのようである。

「見事だ・・・・・・それと、驚くほど軽く感じるな。これなら」

「礼はアルスさまに言っておけ。さあ、とっとと片づけるぞ」

 ヴェルナーとギュンターは再度、男と対峙した。そこから激しい打ち合いが数十合続く。ヴェルナーとギュンターを相手に男は一歩も退かず、退却の角笛が鳴っても無視して戦い続けていた。

 双方の打ち合いにさらに熱が籠っていくところで、男の後ろから抑揚のない、それでいてよく通る声が響く。

「エルヴィン、退くよ」

「クルトか、今面白ぇところなんだよ!」

 エルヴィンと呼ばれた大男が言い返すと、クルトという少年は静かに答えた。

「聞こえなかったの?退くよ」

 クルトにそう言われたエルヴィンは、舌打ちをして矛を収めた。ハルバートを肩に抱えて、踵を返そうとする男にヴェルナーが問いを投げる。

「待て!おまえらは十傑のメンバーだな?」

「クハハ!おまえらが勝ったら教える約束だったが、邪魔が入った。またどっかで会うかもな」

 その問いにピクリと反応したエルヴィンであったが、振り向きもせずにそれだけ言うと去っていった。ヴェルナーは、エルヴィンと呼ばれた男の反応を見て確信した。
 
 あの男ほどの武技を持つのはこの国では十傑と呼ばれる連中しかいない。それに、エルヴィンの戦闘を止めた男。あの男はさらに不気味だった。戦闘終了の角笛を無視しても戦いを愉しむことを止めなかった男がクルトという男の声には従った。それは、先ほどの男よりもさらに強い力を持っているということなのだろうか。

「ギュンターの兄貴、一体あいつらなんだったんでしょうね?」

 いつのまにかドルフ、アジル兄弟がギュンターのところに戻って来ていた。ギュンターがそれに気付いて視線をヴェルナーに投げると、兄弟もそれに気付く。

「あれ!?ヴェルナーの兄貴じゃないっすか!なんでここに?」

「ここに襲撃があるということを報せに来たんだがな、一足遅かったようだ」

 ヴェルナーは苦笑しながら答えた。

「いや、それよりおまえらの戦ってた相手はどうなった?」

 ギュンターが割って尋ねるとアジルが答える。

「いや~、俺がドジッちまってちょっとやばかったんすけど。いつのまにか居なくなってましたね」

「たぶん、さっきの連中と一緒に引き上げたんだろう」

「ヴェルナー、いったい王都で何があった?」

 ヴェルナーの発言の後にギュンターが、先ほどから疑問に思っていたことを尋ねた。彼は、ここに襲撃が来ることを報せに来たと言ったのだ。つまり、それは王都で何かがあってこのエルン州が襲撃されることを事前に察知していたことになる。そして、ヴェルナーが先ほどの賊に向かって十傑か?と尋ねていたことも疑問であった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...