17 / 25
17 賢者、過去を見る
転移魔法で到着したのは、鄙びた村だ。
海沿いにあるこの村は、僕の記憶よりもきちんと建っている家が少なくて、人影もまばらにしか見えない。
「エレル様、ここは?」
「僕が城へ行く前に住んでいたところだ」
「ここがエレルさまの故郷っすか」
故郷。果たして本当にそう呼べるのかどうか。
「家は……あの辺りだったな」
何せ五歳のときの記憶だ。記憶魔法はまだ使っていなかったため、場所を思い出すのも一苦労した。
しかし、そこに家は建っていなかった。
朽ちて潮風になぶられるままの建物の残骸がある。
「あの、まさか」
「家があったはずの場所だ。おかしいな」
両親……両親と思っていた人たちは、僕と引き換えに大金を手にしていたはず。
大金と言っても、このうら寂れた村で他の漁師が捕る魚を買いたいだけ買える分しかなかった。
他所で家を買って住むほどの額ではない。更に言えば、両親はそこまで知恵の回る人たちではない。
「誰かに聞くしか無いか」
「でも、誰もいないっすよ」
僅かにいたはずの村人は、余所者の僕たちを警戒したのか、皆家の中に入ってしまった。
「禁書から、人の考えを読む魔法を手に入れてある。それを使う。こういう時にしか使わないから、安心してくれ」
「わかっておりますよ」
何人かの村人の思考を読んで分かったことは三つ。
僕が魔力持ちなことは村中に知れ渡っていたこと。
僕の両親は村に帰ってこなかったこと。
それと、僕が、両親の実子ではなかったこと。
「そんな……ではエレル様は一体……」
「ある日の漁で、網に引っかかっていたそうだ」
「網に!?」
「普通ならそんな状態の赤子が生きてるわけないよな」
不気味な赤子を、誰も引き取りたがらない。
しかし、僕は海に捨ててもまた次の漁で網にひっかかった。
どこでどう捨てても、次の漁の網にひっかかる。
村で話し合い、赤子を引き受けた者には漁の取り分を増やすことにした。
それでも誰も引き受けたがらない。
取り分をギリギリまで吊り上げ、ようやく手を挙げたのが、取り分目当ての僕の両親だった。
村人たちは全員、僕に何か不思議な力があることに気づいていた。
僕は僕の力を人に見せるべきではないと、本能に近いところで感づいていた。
僕の力が魔力ではないかと察知した両親はある時、僕に食事を与えないことにした。
極限状態になれば、決定的な証拠を出すと考えたのだ。
「そこで僕はまんまと魔法を使ったわけだ」
村から離れた場所に簡易的な小屋を作り、そこで休憩がてら、村人たちから仕入れた情報をチュアとキュウに伝えた。
一通り話したところで、チュアが淹れてくれた温かいお茶を飲む。いつの間にか強張っていた身体がほぐれた気がした。
「自分があの両親の子じゃないことは、予想していた。本当に知りたかったのはそこじゃない」
僕はもう一口お茶を飲んだ。
「本当の両親を探すおつもりですか?」
「半分そのとおりで、半分違う」
僕の答えに、チュアとキュウは顔を見合わせる。
僕は一呼吸置いてから、ここへ来た本当の目的を告げた。
「僕の本当の親は、少なくとも片方は、おそらく人間じゃない。一体何なのかを調べに来た」
「人間じゃないって……」
「でないと色々と説明がつかないんだ。魔力の量、自己封印、身体の変化……」
僕は一旦言葉を切った。
チュアは僕をまっすぐ見つめている。キュウも、僕を見上げている。
「調べるのは、思ったより時間がかかりそうだ。僕はしばらく、この小屋を拠点にする。チュアとキュウは……」
「ここにいます」
「いるっす!」
「いいのか? 無理しなくても」
「ここにいます!」
「いるっす!!」
「わかった。じゃあもう少し家を広くして、護りも強化しておくよ」
二人と一匹が横になれる程度の部屋しか作らなかった仮宿の小屋には小さな台所と寝室を増設し、ベッドふたつとキュウの寝床を置いた。
食材は無限鞄のひとつを倉庫代わりにして、チュアに使ってもらうことにした。
「でも、調べるってどうやるっすか?」
「村人の皆様の記憶どおりならば、手がかりが少なすぎます。それに、育てのご両親は一体どうなさったのか」
「育ての親なら、とうに殺されているだろうな」
「! そんな……」
とある村人の記憶に残っていた。
育ての親は、村に帰ってこなかった。
あの城のことだ。はじめから報酬など渡すつもりはなかったのだろう。
大金を手に浮かれていた育ての親を、どこかで殺して、報酬を奪い返したのだ。
僕の推論を展開すると、チュアは唇をかみしめた。
「チュア、そんなことをしたら唇に傷がつく」
チュアの唇は、料理の味見をするために重要な部分だ。
右手の親指でそっと触れて、傷の有無を確認する。なんともなかった。
「!!」
が、チュアは顔を真赤にして僕から距離を取った。
「すまん、気になってな。傷はなかったぞ」
「は、はいっ、あのっ、ですねっ」
「?」
「エレルさま……」
キュウが呆れた顔で僕を見上げている。何なんだ。
「明日から村の周辺を調べてくる。実は五歳のときに親に連れ出されるまで、村の外へ出たことがない。だから、調べに行く時は転移魔法が使えないんだ。徒歩になるから……」
「ついていきたいです」
「おいらも!」
「それなら今日は早く寝よう」
「エレル様、お疲れのところ申し訳ないのですが、衝立を作って頂けませんか?」
「衝立? ……ああ、そうか。すまん、気が回らなかった」
チュアは夜着に着替えたいのだ。いつもの家では自室と寝室があったから良かったが、今は寝室も共用だ。
「部屋を二つに分けるか」
「いえ、そこまでしていただかなくても」
「僕が気になる。……よし、これでいい」
「ありがとうございます」
チュアは何故か少し不服そうな顔をして、新しく作った扉の向こうへ行った。
まず海へ出た。
水上歩行魔法を使って海の上を進み、海流の流れをざっくりと探る。
チュアは僕が片腕に抱え、キュウは僕の首にしがみついている。
二人がどうしても、どこまでも僕についてくるといって聞かないので、この状態になった。
「海の上は冷えるのですね」
「だから陸に残れと言ったのに」
「平気です。エレル様こそ、寒くありませんか」
「僕は暑いのも寒いのも慣れている。住んでいた家……は潰れていたからわからないだろうが、あの家は壁が一部なかったからな」
「壁がない!?」
「僕が物心ついた頃には、そういう状態だった。直す金が無かったんだろう」
「そうでしたか……」
「壁のない家によく住んでたっすね……」
「だから、不気味な赤子でも引き取ったんだろう。取り分が増えても、壁はそのままだったがな」
僕を育てるために物入りだったという言い訳は通用しない。僕の食事はしょっちゅう抜かれていたのに、あの二人は毎晩酒盛りをしていた。
「海流を調べてどうするんすか?」
「僕がどこから流れてきたか、予想がつけられるだろう」
「なるほどっす。それで、わかったんっすか?」
「まあ大体は。陸へ向かうぞ」
転移魔法で陸まで戻り、今度は陸上を徒歩で進む。
予測地点には広大な森があった。
懐かしい気分になったのは、気のせいだろうか。
「エレル様?」
チュアに声を掛けられて、僕は森の入口に立ち尽くしていたことに気がつく。
「ああ。なんだろうな、家のある森とは植生も何もかも違うというのに……」
踏み出した足はそのまま、僕を森の奥へ運んだ。
人為的な道どころか、獣道も見当たらない。
特に魔法を使っていないのに、茂みや木々まで、僕が進む道を開けてくれているようだった。
チュアとキュウも僕の様子に何かを察したのか、黙ってついてきた。
やがてたどり着いたのは、ぽっかりと拓けた場所だった。
今の家がある場所の、三倍ほど広い。
その真ん中に、十字に組んだ木の棒が刺さっている。
木の棒に近づいて、根本に触れた。
完全に無意識でやったことだ。
「来てくれたのですね、あなた」
上から声がして、見上げてみれば、半透明で全身真っ黒な人型の何かが浮いていた。
髪も肌の色も闇のように真っ黒なのに、瞳だけが金色に輝いている。
背には魔王と同じような翼が生えている。
「違う、あなたは、あの人じゃないわ」
「お前は誰だ?」
「私はフォテリウム。フォテリウム・ファント。人と交わりし妖魔……」
「妖魔!?」
僕は思わずキュウを振り返った。キュウは首をぶんぶんと横に振る。
「知らない人っす!」
僕はキュウに頷いて見せて、黒い人――フォテリウムに向き直った。
「人と交わって、子はどうした」
「子は……ああ、我が子は!」
フォテリウムは喉をかきむしり、頭を振り乱した。
そして僕に、狂気の宿った瞳を向けた。
「お前が海に棄てたじゃないか!」
フォテリウムの半透明の手が僕に襲いかかってきた。
「エレル様っ!」
「大丈夫だ」
こいつは幻影だ。実体に触れることは出来ない。
予想通り、フォテリウムの手は僕の身体をすり抜けた。
その瞬間、僕の頭に何かが流れ込んできた。
漁村でよく見る、潮焼けした赤茶髪の男が、フォテリウムに何か話しかけている。
フォテリウムは好意的に男を受け入れ、何度かの暗転の後、腕に赤子を抱いていた。
黒髪の男児は、前に髪を切った後で見た鏡の中の僕に、どこか似ている。
それから、男に赤子を取り上げられ、追いかけた先で……赤子は海へ投げられた。
フォテリウムは男を殺し、この森へやってきて、男を埋め、木で十字を作り……。
「エレル様、エレル様っ!」
「あいつもういないっすよ! 何があったんっすか!?」
僕の顔を、チュアとキュウが上から覗き込んでいる。
僕は地面に寝転がっていた。
「記憶を見せられていた。僕が魔法で見たんじゃなく、フォテリウムに見せられた」
「記憶を見せるなんて……あの方、フォテリウムさんは何者なのでしょう」
「本人が言っていただろう、妖魔だと」
「でも、それでは……」
「ああ、間違いない」
僕は体を起こして立ち上がった。
僕自身の全てのことに、納得した。
髪と瞳の色、そして魔力量の多さは母親から引き継いだのだ。
顔つきは、人間の男に似たのだろう。妖魔すら誑かすほど、見目の良い顔をしていたらしい。
「僕は妖魔と人の間に産まれた、半妖魔だ」
海沿いにあるこの村は、僕の記憶よりもきちんと建っている家が少なくて、人影もまばらにしか見えない。
「エレル様、ここは?」
「僕が城へ行く前に住んでいたところだ」
「ここがエレルさまの故郷っすか」
故郷。果たして本当にそう呼べるのかどうか。
「家は……あの辺りだったな」
何せ五歳のときの記憶だ。記憶魔法はまだ使っていなかったため、場所を思い出すのも一苦労した。
しかし、そこに家は建っていなかった。
朽ちて潮風になぶられるままの建物の残骸がある。
「あの、まさか」
「家があったはずの場所だ。おかしいな」
両親……両親と思っていた人たちは、僕と引き換えに大金を手にしていたはず。
大金と言っても、このうら寂れた村で他の漁師が捕る魚を買いたいだけ買える分しかなかった。
他所で家を買って住むほどの額ではない。更に言えば、両親はそこまで知恵の回る人たちではない。
「誰かに聞くしか無いか」
「でも、誰もいないっすよ」
僅かにいたはずの村人は、余所者の僕たちを警戒したのか、皆家の中に入ってしまった。
「禁書から、人の考えを読む魔法を手に入れてある。それを使う。こういう時にしか使わないから、安心してくれ」
「わかっておりますよ」
何人かの村人の思考を読んで分かったことは三つ。
僕が魔力持ちなことは村中に知れ渡っていたこと。
僕の両親は村に帰ってこなかったこと。
それと、僕が、両親の実子ではなかったこと。
「そんな……ではエレル様は一体……」
「ある日の漁で、網に引っかかっていたそうだ」
「網に!?」
「普通ならそんな状態の赤子が生きてるわけないよな」
不気味な赤子を、誰も引き取りたがらない。
しかし、僕は海に捨ててもまた次の漁で網にひっかかった。
どこでどう捨てても、次の漁の網にひっかかる。
村で話し合い、赤子を引き受けた者には漁の取り分を増やすことにした。
それでも誰も引き受けたがらない。
取り分をギリギリまで吊り上げ、ようやく手を挙げたのが、取り分目当ての僕の両親だった。
村人たちは全員、僕に何か不思議な力があることに気づいていた。
僕は僕の力を人に見せるべきではないと、本能に近いところで感づいていた。
僕の力が魔力ではないかと察知した両親はある時、僕に食事を与えないことにした。
極限状態になれば、決定的な証拠を出すと考えたのだ。
「そこで僕はまんまと魔法を使ったわけだ」
村から離れた場所に簡易的な小屋を作り、そこで休憩がてら、村人たちから仕入れた情報をチュアとキュウに伝えた。
一通り話したところで、チュアが淹れてくれた温かいお茶を飲む。いつの間にか強張っていた身体がほぐれた気がした。
「自分があの両親の子じゃないことは、予想していた。本当に知りたかったのはそこじゃない」
僕はもう一口お茶を飲んだ。
「本当の両親を探すおつもりですか?」
「半分そのとおりで、半分違う」
僕の答えに、チュアとキュウは顔を見合わせる。
僕は一呼吸置いてから、ここへ来た本当の目的を告げた。
「僕の本当の親は、少なくとも片方は、おそらく人間じゃない。一体何なのかを調べに来た」
「人間じゃないって……」
「でないと色々と説明がつかないんだ。魔力の量、自己封印、身体の変化……」
僕は一旦言葉を切った。
チュアは僕をまっすぐ見つめている。キュウも、僕を見上げている。
「調べるのは、思ったより時間がかかりそうだ。僕はしばらく、この小屋を拠点にする。チュアとキュウは……」
「ここにいます」
「いるっす!」
「いいのか? 無理しなくても」
「ここにいます!」
「いるっす!!」
「わかった。じゃあもう少し家を広くして、護りも強化しておくよ」
二人と一匹が横になれる程度の部屋しか作らなかった仮宿の小屋には小さな台所と寝室を増設し、ベッドふたつとキュウの寝床を置いた。
食材は無限鞄のひとつを倉庫代わりにして、チュアに使ってもらうことにした。
「でも、調べるってどうやるっすか?」
「村人の皆様の記憶どおりならば、手がかりが少なすぎます。それに、育てのご両親は一体どうなさったのか」
「育ての親なら、とうに殺されているだろうな」
「! そんな……」
とある村人の記憶に残っていた。
育ての親は、村に帰ってこなかった。
あの城のことだ。はじめから報酬など渡すつもりはなかったのだろう。
大金を手に浮かれていた育ての親を、どこかで殺して、報酬を奪い返したのだ。
僕の推論を展開すると、チュアは唇をかみしめた。
「チュア、そんなことをしたら唇に傷がつく」
チュアの唇は、料理の味見をするために重要な部分だ。
右手の親指でそっと触れて、傷の有無を確認する。なんともなかった。
「!!」
が、チュアは顔を真赤にして僕から距離を取った。
「すまん、気になってな。傷はなかったぞ」
「は、はいっ、あのっ、ですねっ」
「?」
「エレルさま……」
キュウが呆れた顔で僕を見上げている。何なんだ。
「明日から村の周辺を調べてくる。実は五歳のときに親に連れ出されるまで、村の外へ出たことがない。だから、調べに行く時は転移魔法が使えないんだ。徒歩になるから……」
「ついていきたいです」
「おいらも!」
「それなら今日は早く寝よう」
「エレル様、お疲れのところ申し訳ないのですが、衝立を作って頂けませんか?」
「衝立? ……ああ、そうか。すまん、気が回らなかった」
チュアは夜着に着替えたいのだ。いつもの家では自室と寝室があったから良かったが、今は寝室も共用だ。
「部屋を二つに分けるか」
「いえ、そこまでしていただかなくても」
「僕が気になる。……よし、これでいい」
「ありがとうございます」
チュアは何故か少し不服そうな顔をして、新しく作った扉の向こうへ行った。
まず海へ出た。
水上歩行魔法を使って海の上を進み、海流の流れをざっくりと探る。
チュアは僕が片腕に抱え、キュウは僕の首にしがみついている。
二人がどうしても、どこまでも僕についてくるといって聞かないので、この状態になった。
「海の上は冷えるのですね」
「だから陸に残れと言ったのに」
「平気です。エレル様こそ、寒くありませんか」
「僕は暑いのも寒いのも慣れている。住んでいた家……は潰れていたからわからないだろうが、あの家は壁が一部なかったからな」
「壁がない!?」
「僕が物心ついた頃には、そういう状態だった。直す金が無かったんだろう」
「そうでしたか……」
「壁のない家によく住んでたっすね……」
「だから、不気味な赤子でも引き取ったんだろう。取り分が増えても、壁はそのままだったがな」
僕を育てるために物入りだったという言い訳は通用しない。僕の食事はしょっちゅう抜かれていたのに、あの二人は毎晩酒盛りをしていた。
「海流を調べてどうするんすか?」
「僕がどこから流れてきたか、予想がつけられるだろう」
「なるほどっす。それで、わかったんっすか?」
「まあ大体は。陸へ向かうぞ」
転移魔法で陸まで戻り、今度は陸上を徒歩で進む。
予測地点には広大な森があった。
懐かしい気分になったのは、気のせいだろうか。
「エレル様?」
チュアに声を掛けられて、僕は森の入口に立ち尽くしていたことに気がつく。
「ああ。なんだろうな、家のある森とは植生も何もかも違うというのに……」
踏み出した足はそのまま、僕を森の奥へ運んだ。
人為的な道どころか、獣道も見当たらない。
特に魔法を使っていないのに、茂みや木々まで、僕が進む道を開けてくれているようだった。
チュアとキュウも僕の様子に何かを察したのか、黙ってついてきた。
やがてたどり着いたのは、ぽっかりと拓けた場所だった。
今の家がある場所の、三倍ほど広い。
その真ん中に、十字に組んだ木の棒が刺さっている。
木の棒に近づいて、根本に触れた。
完全に無意識でやったことだ。
「来てくれたのですね、あなた」
上から声がして、見上げてみれば、半透明で全身真っ黒な人型の何かが浮いていた。
髪も肌の色も闇のように真っ黒なのに、瞳だけが金色に輝いている。
背には魔王と同じような翼が生えている。
「違う、あなたは、あの人じゃないわ」
「お前は誰だ?」
「私はフォテリウム。フォテリウム・ファント。人と交わりし妖魔……」
「妖魔!?」
僕は思わずキュウを振り返った。キュウは首をぶんぶんと横に振る。
「知らない人っす!」
僕はキュウに頷いて見せて、黒い人――フォテリウムに向き直った。
「人と交わって、子はどうした」
「子は……ああ、我が子は!」
フォテリウムは喉をかきむしり、頭を振り乱した。
そして僕に、狂気の宿った瞳を向けた。
「お前が海に棄てたじゃないか!」
フォテリウムの半透明の手が僕に襲いかかってきた。
「エレル様っ!」
「大丈夫だ」
こいつは幻影だ。実体に触れることは出来ない。
予想通り、フォテリウムの手は僕の身体をすり抜けた。
その瞬間、僕の頭に何かが流れ込んできた。
漁村でよく見る、潮焼けした赤茶髪の男が、フォテリウムに何か話しかけている。
フォテリウムは好意的に男を受け入れ、何度かの暗転の後、腕に赤子を抱いていた。
黒髪の男児は、前に髪を切った後で見た鏡の中の僕に、どこか似ている。
それから、男に赤子を取り上げられ、追いかけた先で……赤子は海へ投げられた。
フォテリウムは男を殺し、この森へやってきて、男を埋め、木で十字を作り……。
「エレル様、エレル様っ!」
「あいつもういないっすよ! 何があったんっすか!?」
僕の顔を、チュアとキュウが上から覗き込んでいる。
僕は地面に寝転がっていた。
「記憶を見せられていた。僕が魔法で見たんじゃなく、フォテリウムに見せられた」
「記憶を見せるなんて……あの方、フォテリウムさんは何者なのでしょう」
「本人が言っていただろう、妖魔だと」
「でも、それでは……」
「ああ、間違いない」
僕は体を起こして立ち上がった。
僕自身の全てのことに、納得した。
髪と瞳の色、そして魔力量の多さは母親から引き継いだのだ。
顔つきは、人間の男に似たのだろう。妖魔すら誑かすほど、見目の良い顔をしていたらしい。
「僕は妖魔と人の間に産まれた、半妖魔だ」
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!