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第三章
29 試運転
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デュイネに近づいて挨拶すると、普通に挨拶を返された。
「久しぶりだな。変わりはないか」
つい今しがた、大きく変化したところです、なんて言えないよなぁ。
「はい。すみません、こちらから挨拶に行くべきところを」
「帰ってきたばかりなのだろう? それに、挨拶に来てくれるのは嬉しいが、アルハほどの冒険者が気にすることではない」
「え?」
「?」
微妙に噛み合わなかった。もしやと思い、今までの旅でのギルドの歓待のことを話してみる。
「ああ、そんなものもあったな。しかし、アルハはこの町にいて気を遣うべきことなど、なにもない。本音を言えば、そのようなしきたりは面倒なだけで、何の意味もないからな」
デュイネの返答は、僕への気遣いがありがたい上に合理的だった。本当に助かる。
「ありがとうございます。って、ではデュイネは何故ここに?」
「マリノの熱が引かないと聞いてな。様子を見に来た」
「アルハさんが治してくれたとお伝えしようとしてたところです」
メルノがデュイネの言葉を引き継いで解説してくれた。
「僕は何も……マリノを手助けしただけです」
全否定しようとして、思いとどまった。
ヴェイグやマリノ本人からお礼を言われたことを、蔑ろにするほうが失礼だ。
それにしても、確かに僕は、ギルドにメルノとマリノに気をかけてくれるよう、お願いした。
変なのに絡まれないようにとか、変なのに絡まれないようにとか(2回目)、ナンパしてくるやつを寄せ付けないようにとか。
そういう意味だったのに、マリノの熱のことまで面倒を見てくれている。
さらに、統括が直々にお出ましになるなんて。
「今日は時間が空いていてな」
僕が重ねてお礼を言うと、デュイネは何でもなさそうな顔でそう言った。
メルノに留守を頼み、ギルドへ戻るデュイネについていった。
身体を動かしてみれば、今までになく体調がいい。このまま何かクエストを受けて試運転したくなった。
休むつもりだったのを取りやめてしまったのに、ヴェイグは反対しなかった。
“アルハがどれだけのものになったか、見たいからな”
ただし無理はするなと念は押された。
「伝説になったそうですね、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
受付のレイセさんが僕を見るなりテンション高く迎えてくれた。
僕の冒険者ランクは、ギルドネットワークで広まっている。
僕の希望で、なるべく最少人数にしか伝えないようしてもらったんだけど……。
「えっ、伝説!?」
「黒の竜討伐者だ」
「長身痩躯で黒髪黒目……あっ!!」
最後の人は、僕の噂しか知らなかったようなのに、レイセさんが大きな声出すからバレた。
そうじゃなくても、やっぱり人の口に戸は立てられないので、冒険者の多くは伝説の噂を耳にしてるようだ。
顔が引きつりそうな僕を見て、デュイネが助け舟を出してくれた。
「アルハ殿、こちらへ。お話がありますので」
ちなみに話なんて無い。思わせぶりな台詞で他の冒険者が「あ、伝説はお忙しいんだ」と考えたらしく、僕に集まりかけていた人たちがすっと引いた。
デュイネは僕をギルドの奥の小部屋へ案内すると、ニッと口角を上げ、「では、またな」と去っていった。かっこいい。
すぐに、レイセさんがクエストリストを持ってきてくれた。
「先程は失礼しました。興奮してしまって……。アルハは目立つのを好まない、と統括に注意されました」
デュイネさん本当にありがとう。
「いえ、もう大丈夫ですから」
そう言いつつ、受け取ったリストに目を通す。
クエストリストは本来、事務手続きに使うものだ。
頼めば誰でも閲覧可能なのに閲覧してる冒険者を殆ど見ないのは、存在を知る人が少ないのと、クエストボードで事足りてることと、ボードでクエストを探したほうが、同じランクの冒険者同士の交流につながるからだとか。
レイセさんの解説を聞きつつ、高難易度のクエストを探す。相変わらず、C以上は見当たらない。
「あれからも、C以上は出てませんか」
「はい。一時期、魔物が難易度以上に手強かったことがありましたが、今は元通りです」
呪術の影響は順調に少なくなっているようだ。よかった。
結局、難易度Dの、フレイムベアのクエストを請けることにした。
“相手にならんではないか”
「でも他にないし。討伐経験のある相手のほうが、比較しやすいでしょ」
“一理あるな”
ヴェイグも納得してくれたところで、早速森に向かう。
[気配察知]、移動、接近、そして一旦潜伏。
フレイムベアはこの辺りで一番多い群れで、7体。
名前の通り、体の表面を炎が薄く覆っていて、近づくだけで熱い。これで炎は他に燃え移らないのだから、不思議だ。一説によれば火そのものではなく、火に似た性質を持つ体毛だとか。
「体毛説、合ってるかもね。毛穴から炎が立ち上ってるように見える」
“毛穴が見えるのか?”
「うん。……うん?」
スキルを得てから目も耳も格段に良くなった。でも離れてる魔物の毛穴が判別できるほどじゃなかった。
更に、見ようとしないと見えない。普通の人間と変わらない視界でいることもできる。
「めっちゃ便利」
“便利の一言で済ますか”
ヴェイグが面白がっている。
「どうやって倒そうかな」
何なら、ギルドハウスにいながら、フレイムベアの頭上にスキルで刀を創って落とすことも出来た。
距離や精度は上がってるとはいえ、普段とあまり変わらないやり方だ。
“素手はどうだ?”
「相手フレイムベアだよ!?」
燃え移らないけど、熱いは熱い。刀で斬りつける場合でも、気をつけないと手が焦げて火傷する。
“だからこそだ。熱さを感じる前に拳を引けばいい”
「そんな、沈む前に足を上げれば水の上を歩けるみたいな……それにしよう」
頭の中でシミュレートして、あれ、どっちもいけるのでは? という結論が出てしまった。
立ち上がって、フレイムベアに姿を晒す。
フレイムベアが一斉に僕に襲いかかってきた。逃げ出さないことに安堵しつつ、攻撃を全て躱し、反撃に転じる。
手近な1匹の後頭部を殴りつけた。引いた拳に纏わりつく炎の残滓に、熱は残っていなかった。
殴ったフレイムベアの頭は、焦げたような断面を残して消し飛んだ。え、焦げた?
“炎耐性のあるフレイムベアを焦がしたか”
次の1匹は顎下から拳を突き上げた。消し飛ぶ、ってのは比喩じゃなく、欠片が視認できないほど粉々になった。
2匹目はスキルを全部切って、単に殴っただけだというのに、これだ。
「我ながらグロいなぁ……」
残りは今まで通り首を落とすため、スキルで刀を創った。
「久しぶりだな。変わりはないか」
つい今しがた、大きく変化したところです、なんて言えないよなぁ。
「はい。すみません、こちらから挨拶に行くべきところを」
「帰ってきたばかりなのだろう? それに、挨拶に来てくれるのは嬉しいが、アルハほどの冒険者が気にすることではない」
「え?」
「?」
微妙に噛み合わなかった。もしやと思い、今までの旅でのギルドの歓待のことを話してみる。
「ああ、そんなものもあったな。しかし、アルハはこの町にいて気を遣うべきことなど、なにもない。本音を言えば、そのようなしきたりは面倒なだけで、何の意味もないからな」
デュイネの返答は、僕への気遣いがありがたい上に合理的だった。本当に助かる。
「ありがとうございます。って、ではデュイネは何故ここに?」
「マリノの熱が引かないと聞いてな。様子を見に来た」
「アルハさんが治してくれたとお伝えしようとしてたところです」
メルノがデュイネの言葉を引き継いで解説してくれた。
「僕は何も……マリノを手助けしただけです」
全否定しようとして、思いとどまった。
ヴェイグやマリノ本人からお礼を言われたことを、蔑ろにするほうが失礼だ。
それにしても、確かに僕は、ギルドにメルノとマリノに気をかけてくれるよう、お願いした。
変なのに絡まれないようにとか、変なのに絡まれないようにとか(2回目)、ナンパしてくるやつを寄せ付けないようにとか。
そういう意味だったのに、マリノの熱のことまで面倒を見てくれている。
さらに、統括が直々にお出ましになるなんて。
「今日は時間が空いていてな」
僕が重ねてお礼を言うと、デュイネは何でもなさそうな顔でそう言った。
メルノに留守を頼み、ギルドへ戻るデュイネについていった。
身体を動かしてみれば、今までになく体調がいい。このまま何かクエストを受けて試運転したくなった。
休むつもりだったのを取りやめてしまったのに、ヴェイグは反対しなかった。
“アルハがどれだけのものになったか、見たいからな”
ただし無理はするなと念は押された。
「伝説になったそうですね、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
受付のレイセさんが僕を見るなりテンション高く迎えてくれた。
僕の冒険者ランクは、ギルドネットワークで広まっている。
僕の希望で、なるべく最少人数にしか伝えないようしてもらったんだけど……。
「えっ、伝説!?」
「黒の竜討伐者だ」
「長身痩躯で黒髪黒目……あっ!!」
最後の人は、僕の噂しか知らなかったようなのに、レイセさんが大きな声出すからバレた。
そうじゃなくても、やっぱり人の口に戸は立てられないので、冒険者の多くは伝説の噂を耳にしてるようだ。
顔が引きつりそうな僕を見て、デュイネが助け舟を出してくれた。
「アルハ殿、こちらへ。お話がありますので」
ちなみに話なんて無い。思わせぶりな台詞で他の冒険者が「あ、伝説はお忙しいんだ」と考えたらしく、僕に集まりかけていた人たちがすっと引いた。
デュイネは僕をギルドの奥の小部屋へ案内すると、ニッと口角を上げ、「では、またな」と去っていった。かっこいい。
すぐに、レイセさんがクエストリストを持ってきてくれた。
「先程は失礼しました。興奮してしまって……。アルハは目立つのを好まない、と統括に注意されました」
デュイネさん本当にありがとう。
「いえ、もう大丈夫ですから」
そう言いつつ、受け取ったリストに目を通す。
クエストリストは本来、事務手続きに使うものだ。
頼めば誰でも閲覧可能なのに閲覧してる冒険者を殆ど見ないのは、存在を知る人が少ないのと、クエストボードで事足りてることと、ボードでクエストを探したほうが、同じランクの冒険者同士の交流につながるからだとか。
レイセさんの解説を聞きつつ、高難易度のクエストを探す。相変わらず、C以上は見当たらない。
「あれからも、C以上は出てませんか」
「はい。一時期、魔物が難易度以上に手強かったことがありましたが、今は元通りです」
呪術の影響は順調に少なくなっているようだ。よかった。
結局、難易度Dの、フレイムベアのクエストを請けることにした。
“相手にならんではないか”
「でも他にないし。討伐経験のある相手のほうが、比較しやすいでしょ」
“一理あるな”
ヴェイグも納得してくれたところで、早速森に向かう。
[気配察知]、移動、接近、そして一旦潜伏。
フレイムベアはこの辺りで一番多い群れで、7体。
名前の通り、体の表面を炎が薄く覆っていて、近づくだけで熱い。これで炎は他に燃え移らないのだから、不思議だ。一説によれば火そのものではなく、火に似た性質を持つ体毛だとか。
「体毛説、合ってるかもね。毛穴から炎が立ち上ってるように見える」
“毛穴が見えるのか?”
「うん。……うん?」
スキルを得てから目も耳も格段に良くなった。でも離れてる魔物の毛穴が判別できるほどじゃなかった。
更に、見ようとしないと見えない。普通の人間と変わらない視界でいることもできる。
「めっちゃ便利」
“便利の一言で済ますか”
ヴェイグが面白がっている。
「どうやって倒そうかな」
何なら、ギルドハウスにいながら、フレイムベアの頭上にスキルで刀を創って落とすことも出来た。
距離や精度は上がってるとはいえ、普段とあまり変わらないやり方だ。
“素手はどうだ?”
「相手フレイムベアだよ!?」
燃え移らないけど、熱いは熱い。刀で斬りつける場合でも、気をつけないと手が焦げて火傷する。
“だからこそだ。熱さを感じる前に拳を引けばいい”
「そんな、沈む前に足を上げれば水の上を歩けるみたいな……それにしよう」
頭の中でシミュレートして、あれ、どっちもいけるのでは? という結論が出てしまった。
立ち上がって、フレイムベアに姿を晒す。
フレイムベアが一斉に僕に襲いかかってきた。逃げ出さないことに安堵しつつ、攻撃を全て躱し、反撃に転じる。
手近な1匹の後頭部を殴りつけた。引いた拳に纏わりつく炎の残滓に、熱は残っていなかった。
殴ったフレイムベアの頭は、焦げたような断面を残して消し飛んだ。え、焦げた?
“炎耐性のあるフレイムベアを焦がしたか”
次の1匹は顎下から拳を突き上げた。消し飛ぶ、ってのは比喩じゃなく、欠片が視認できないほど粉々になった。
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