ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第三章

28 吸収

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 マリノは僕を見るなり、ててて、と駆け寄ってきた。
 足元で立ち止まると、ぺこりと頭を下げる。
「アルハにい、ありがとう」
「僕は何もしてないよ。でも、どういたしまして」
 屈んで目線を合わせ、顔を上げてもらう。
 マリノは首を横に振った。
「なにもしてなくない。アルハ兄がいなかったら、ベー兄あぶなかった」
「そんなことないよ」
「あるの!」
「わかったよ。大きな声出すとメルノやヴェイグが起きちゃうから、静かに」
 否定する僕と、否定を否定するマリノ。マリノがどんどん声を大きくするから、僕が折れた。

「どうしてこんな時間まで起きてたの?」
 立ち上がり、当初の目的だった水をコップに汲んでからテーブルにつく。マリノも水を飲むかと聞いたら、いらないとのこと。
「ウーちゃんが、ごめんなさい、って」
「ウーちゃん? ウーハンのこと?」
「うん」
「ウーハンに謝られるようなこと、されたっけ」
 水を飲みながら、首をかしげる。心当たりがない。
「アルハ兄をそえものあつかいした、って言ってたよ」
「ああ、添え物か。そんなの、気にしてないって伝えてもらっていいかな」
「わかった」
 コップの水を飲み干しても、マリノはまだ話足りなさそうな顔だ。

 実は僕とマリノって、あまりこうして話したことがない。
 僕自身が小さい子と接した経験に乏しくて、どうしたらいいか分からないっていうのが正直なところだ。
 ヴェイグは弟妹がいたからか、子供の相手が上手い。
 だから、ヴェイグが小さい子と話す時の仕草を極力真似るようにしている。
 目線の高さを合わせるとか、極端な子供扱いしないとか。所詮、付け焼き刃だけど。

 僕がもやもやと考え込んでいると、マリノが僕を見つめて妙なことを言い出した。

「アルハ兄って、やさしいね」

 たまに言われるんだけど、僕は違う。
「優しいっていうのは、ヴェイグみたいな人のことだよ」
 通りすがりの子供を助けたり、僕がいじけてても文句ひとつ言わずに付き合ってくれたり。
 見返りを求めずに誰かに手を差し伸べられる人が、優しい人だと思う。
「でも、アルハ兄はいつも助けてくれるよ」
「僕のは自己満足だよ。目の前で誰かが傷ついたりするのが嫌なだけなんだ」
 この世界では相手が魔物に限れば、僕が力ずくでなんとかできるってのも大きい。
 仮にチートやスキルがなかったら、同じようにやれるか怪しい。
 傷つきそうなのがマリノやメルノ、ヴェイグだったら、どうしよう。冒険者をやるのが確定路線なら、武器の扱いくらいは覚えるだろうから……一応、立ち向かうかな。
 徹頭徹尾、自分のことしか考えてないから、自分とその周囲さえ無事なら、それでいい。
 こんな考え方の人間が、優しい人なわけがない。

「ほんとうにやさしいひとは、自分のことやさしいって言わないんだって」
 マリノが、にいっと笑いながら、僕にそんなことを言った。
 どこで覚えてきたんだろう。メルノかな。
 反論したいけど、マリノに敵う気がしない。
 立ち上がり、マリノの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「もう遅いから寝よう」
 マリノもそれで、笑顔のまま自室の扉の前へ向かった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」


“アルハ”
 部屋に入るなり、ヴェイグに声をかけられた。そういえば感覚遮断してなかった。
「うるさかった?」
“いや、問題ない。
「ごめん」
“別にうるさくは……”
「そっちじゃない」
“気にするな”
「ありがとう」
 やっぱりヴェイグは優しい。


 翌朝。
 マリノはもう大丈夫とはいえ、念の為に一日休養をとることにした。
 皆で一緒に家事を片付ければ、昼前には余裕で終わる。
 昼食を済ませた後、僕とヴェイグは異界に入った。

 昨日僕が眠ってしまった時に、また白い世界と、竜と人が戦っている光景を視たことを、ヴェイグに話した。
“黒竜と人が、か。そんな話は聞いたことがないな”
「なんとなく、ラクには聞きづらいんだよね」
 竜関連なら竜に尋ねるのが手っ取り早い。だけど、竜が惨殺されていた話を竜にするなんて、趣味が悪い。
“話すかどうかは一先ず置こう。それで、その黒竜の魂がアルハにあると。例の、混ぜられた魂のことだろうな”
「僕もそう思う」
“受け入れるのか?”
 既に力の一部は受け入れてある。それ以上に、つまり全部を。
「そのつもり。でも」
 これまでに2度、受け入れかけた。そのたびに、ヴェイグのことを忘れたり、不穏な言動をしたりと、いい思い出がない。
 また迷惑を掛けるかもしれない。
 ヴェイグは何を今更って言ってくれるだろうけど、僕が気にする。

“ならば俺は、それを受け入れたアルハを受け入れよう”

「え?」
 予想外のことを言われて僕が固まると、ヴェイグが続けた。
“アルハがどうなろうと、アルハはアルハだ。俺を忘れても、性質が変わっても、これまでと同じだ”
「忘れた時は、ヴェイグは交代すらできなかったじゃないか」
“元々そういう覚悟で身体を間借りしている。閉じ込められる場所がアルハの身体ならば、悪い話ではない”
 大真面目に、めちゃくちゃ怖いことを言ってくれる。
「嫌だよ、そんなの」
“悪くはないが、俺もできれば避けたい。そんな事態にならぬよう努めてくれ。まあ、無用の先案じだろうがな”
「頑張る」
 口に出しておく。

 目を閉じて、自分の内側に集中する。
 黒い竜の姿を強くイメージして、湧き上がる力をそのまま自由にさせる。
 心臓が一際大きくドクンと跳ねた。
「う、わ」
 一瞬、押さえきれないかと思った。違う。僕はこれを、取り込めばいいだけだ。
 身体中にどんどん巡らせて、なじませる。
 スポンジを一つだけ海の中に沈めても、海が干上がることはない。
 でも、僕はこの力を、いくらでも吸収できる。

“凄まじいな”
 力のことか、僕のことか。ヴェイグの声は楽しそうだ。安心する。
「もう少しで終わるよ」
 流石に無尽蔵ではなかった。
 最後のひとしずくをするっと呑み込むと、力の奔流は止まった。

 目を開けて、あたりを見回す。暴走しても被害が少ないよう、場所を異界にしておいた。
 特に必要なかったかもしれない、というのは結果論かな。
「ヴェイグ、気分は?」
“変わりない。アルハはどうだ”
「僕も。……よかった」
 思わず脱力してその場にしゃがみ込んだ。
“どうした!?”
「大丈夫。ほっとして、気が抜けただけ」
 身体に渦巻いていた力は、全て自分の思い通りになった。
 それで思考が短絡的になったり、ヴェイグを忘れたりしなかった。
 ちゃんと、できたんだ。
“今日はもう休め。ここを出たら替わる”
「うん」
 異界から出てヴェイグと交代しようとした時、誰かの気配を察知した。
 メルノが家の外に出ていて、その誰かと話をしている。
「デュイネが来てる」
 デュイネはトイサーチ冒険者ギルドの統括だ。
「しまった、挨拶してない」
“俺も失念していた”
 ランクが英雄ヒーロー以上の冒険者は、ギルドで歓待を受けるやつ、すっかり忘れてた。
 慌てて外へ向かった。
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