TRPGの世界に召喚されて全滅した仲間を生き返らせて元の世界へ帰るために、チート能力「ダイス目操作」を駆使してこの世界を蹂躙します。

桐山じゃろ

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02 無理矢理の旅立ち

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 仰々しい錫杖持ちの男が言うには、僕たちは「この世界の魔王を倒すために」で、何故か僕たちに拒否権はなく、反抗も許されなかった。
「おかしいだろ、そんな話!」
 真っ向から非難したカイトは錫杖でぶん殴られた。歯が何本も折れて飛び散るほどの力で。
「何すんだよ! カイト、しっかりしろ!」
 チャバさんが駆け寄って、カイトを助け起こす。カイトは気絶していた。
「我らの魔力すべてを賭しての呼び掛けに応えたのがお主らじゃ。我らの言うことを聞くのが当然であろう」
 呼び掛けに応えた覚えは全く無い。
 そう訴えても、彼らは一向にこちらの言い分に耳を貸さず、どこからともなく現れた重装備の兵士たちに一人ずつ拘束され別々の部屋に放り込まれた。

 小一時間ほどして再び最初の部屋へ集められた僕たちは、それぞれ召喚直後とは違う服を着ていた。
 僕は連れて行かれた部屋にいたメイドさんのような人たちに、寄ってたかって着せ替えられたのだが、皆同じ目に遭ったようだ。
 全員、Tシャツやスウェット、ジャージ、パジャマといった、ゆったりした服を着ていたのに、D&Tの世界で冒険者がしているような格好になっていた。
 カイトとピヨラは金属製の重たそうな胸鎧の戦士風。ジョーは金糸の刺繍が入った白いローブの聖職者風でチャバさんは黒地に赤い文様の入ったローブの魔法使い風。この流れなら僕の革の胸当てに丈夫そうなズボンと腰巻きにロングブーツという姿は、シーフかローグだろう。
「そういえば、ゴッドは?」
 カイトが全員をぐるりと見渡して、ゴッドと口にした。
 カイトの頬の傷は癒えていて、歯が折れている様子もない。D&Tの世界だから、治癒魔法を掛けられたのだろう。
 ところでゴッドって……ああ、GODさんのことか。僕は彼のことを「GOD」と呼ぶのはなんだか違う気がして、ずっと心のなかでジーオーディーさんと呼んでいた。
 そういえば、誰もボイスチャット中に彼のことを名前ハンドルで呼んだことなかったな。
 GODさんのシナリオで遊ぶと決まってからはGK(ゲーム)キーパーと呼んでいた。
「居ないね。ねえ、もう一人いなかった?」
 ピヨラが手近な兵士に声を掛けたが、兵士はガン無視を決め込んだ。
 本当に失礼な奴らだ。


 最初に、この国と魔王に関する説明を受けた。
 この国の名前はドルズブラというらしい。
 ドルズブラ国領地内の東西南北の端に塔が一本ずつあり、その天辺に魔王が一体ずつ棲んでいるという。
「召喚される者はこの程度、理解しているはずだが。何も知らぬ? おかしいな」
 おかしいと言いたいのはこちらの方だ。
 しかし歯向かったり反論したりすると、ごつい錫杖でぶん殴られて物理的に黙らされる。僕とジョーも一回ずつやられて、全員黙って大人しく話を聞くしかなかった。怪我は別の人が魔法であっという間に治してくれたが。
 ……僕たちよりも、そっちの魔法が使える人や、その重たい錫杖ぶん回す貴方のほうが魔王討伐に向いているのでは、と全員が考えていたはずだ。

「諸君らは魔王を倒せば元の世界に帰れる。この国のためにも、自身のためにも、頑張ってくれたまえ」

 僕たちが本当に何も知らないと解ると、錫杖の人は呆れた顔になって「後は任せた」と言い残してどこかへ行ってしまい、怪我を治してくれた人が残って僕たちの質問に答えてくれた。
 この人は僕たちの感情を逆なでするような事は言わず、むしろ同情的に接してくれたので、こちらも相応の態度で質問した。
 質問の量は多岐に渡ったが、聞けば聞くほど、全員が確信した。

 ここは、D&Tの世界だ。
 おそらく、GODが考えたオリジナルシナリオに、どういうわけか巻き込まれたのだろう。

「貴方がたは召喚の儀によって、この世界の者にはない特別な力を宿しているはずです。それを使えるようになれば、魔王など一捻りでしょう」
 などと言うが、特別な力どころか、魔力めいたものすら感じられない。
 D&Tの世界ならば、たとえ魔法の使えない戦士系であっても、魔力自体は持っているはずだ。

「手ほどきをして差し上げたいのは山々ですが、しかし、もう時間がありません。貴方がたには儀式と洗礼が終わり次第、魔王討伐の旅に出立していただきます」

 感じの良い治療魔法使いも、これだけは譲れないとばかりに強く念押ししてきた。



 その後、なんとかの儀式だとか洗礼だとか、出立式だとかに無理やり参加させられて時間を取られ、僕たちは城に二泊した。
 儀式や洗礼を終えても、僕たちの誰一人として「特別な力」とやらは発現しなかったが。
 部屋は一人一部屋、かなり豪華な部屋を与えられてはいたが、何故か他の人とは会わせてもらえず、誰とも会話もできないのが辛かった。
 三日目の朝起きて、配膳された不味い朝食を済ませると、部屋にメイドさんと兵士が二人ずつやってきた。
 メイドさんたちに例のファンタジー装備に着替えさせられると、兵士たちに両腕を拘束された上で、部屋から無理やり連れ出された。
 他の皆も同じ状態になっていた。
 そのまま問答無用で馬車に詰め込まれ、ガタゴト揺られること暫し。
 降りろと言われて従うと、目の前には高い塀と巨大な門があった。
「わ、あんな大きな城だったのね。街並みもきれい……」
 ピヨラが感嘆の声を上げる。僕を含めた他の皆も周囲を見回そうとしたが、兵士たちによって遮られてしまったため、あまり見えなかった。
 兵士たちはそのまま、僕たちを門の外まで追いやった。
「では、魔王討伐の知らせを待っている。幸運を祈る」
 兵士の中で一番偉そうな人が偉そうに言い放つと、巨大な門は驚くほどの迅速さでぴっちり閉まった。



 塀の外は見渡す限り、森だった。
 森の地面をよくよく見ると、かろうじて道らしきものがある。
 上を見上げても塀か、森の樹々しか目に入らない。
 塔とやらは、どこにあるのだろうか。
「とりあえず、この道を進んで……別の町か国へ……話の分かりそうな人を探すか」
「賛成」
 ひんやりとした森の空気に、日本とは全く違う雰囲気。
 非現実感たっぷりなのに、目の前にあるのは高い外壁に閉まった門とリアリティ溢れる現実の森という状況で、思考が麻痺していたのだろう。
 僕たちはTRPGのセッション中のように行動を決めた。

 その時、僕の脳裏にダイスをロールするツールの画像が浮かび上がった。
 脳裏で1d100(百面ダイスを一回振る)のロールボタンをクリックしてみると、「1」と出た。
 D&Tダンジョンズアンドタワーズの大抵の判定なら、クリティカルで百%大成功だ。
 一体何の判定だったのだろう。
 他の人達の様子を伺うと、それぞれ妙な顔つきをしていたから、同じ現象が起きていたのかもしれない。顔色から、ダイスの結果は芳しくなかったようだが。


 TRPGのセッションなら、このあたりでGKがシーンを切って、僕たちは町に到着するだとかイベントに遭遇しただとか宣言され、次のシーンに移る。
 しかしここは、リアルな森の前だ。
 僕たちは実際に、自分の足で前へ進むしかなかった。



*****



 そして……僕は一人になった。



 木の根に足を取られてすっ転び、うずくまって動けなくなっていた僕は、走馬灯のようにこれまでのことを思い返していた。
 城を出てから何時間経ったのか、時間を知る術を持たない僕には定かじゃない。

 最後尾は、バックアタックを警戒するために、ピヨラがいたと思う。
 それから、チャバさん、ジョー、カイトの順かな……。

 シーフらしいからと先頭を歩いていた僕だけが生き残ってしまった。

「くそっ、なんで、なんでなんだよ……」
 ようやく整った呼吸で、僕は何度目かの「なんで」を吐き出した。
 しっとりした土の地面を拳で殴っても、前が見えなくなるほど泣き叫んでも、もう誰もいない。
「……皆を、あのままにしておけないな……」
 チャットルームでは顔出しはしなかったから、この世界に召喚されて初めて顔を知った人たちだ。
 だけど、声は皆区別がつくほどよく知っている。
 ゲームの中とはいえ、一緒に数々の冒険をしてきた、仲間だ。
 魔物は人間を見ると殺すだけで、食べたりはしないから、死体は残っているだろう。
 せめて埋葬するか、魔物に見つからないよう隠しておきたい。

 そう考えた時だった。

 また脳裏に、ダイスツールの画面が浮かび上がった。
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