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20 記憶の齟齬
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ベルを宥めてどうにか下がらせ、僕から錫杖の人に事情を話した。
「こちらの宰相から、僕に『魔王を討伐せよ』という命を受けたので、北の塔の魔王を倒して証拠の角を持参しました。城門から兵士にここへ連れてこられて、放って置かれたのです」
「宰相は私だが、そんな命……」
錫杖の人改め……えっ、この人、宰相だったの? とにかく宰相はなにか言いかけ、一瞬黙ると、瞳から光が消えた。
「ああ、そうだったな。手違いがあったようだ。兵は厳罰に処すので許せ」
「いや、兵士は別にそんなことしなくても」
「こちらへ」
僕の言葉を遮って、宰相は扉を大きく開け放ち、部屋の奥へすたすたと歩いていってしまった。
僕たちは顔を見合わせてから、宰相の後を追った。
「では、魔王の角をここに」
部屋には大きな丸テーブルと座り心地のいい椅子が六脚あり、宰相に手振りで「座れ」と言われたので、各々適当に腰を掛けた。
座った途端、角を出せと言われたところだ。
「これです」
僕はマジックバッグから魔王の角を二本とも取り出し、テーブルの真ん中に置いた。
「……なるほど、本物のようだ。よくやってくれた。もう良いぞ、下がれ」
「お待ちを。魔王討伐と角の採取の報奨をきちんと頂きたい」
ギルド長が立ち上がり、今にも魔王の角を取ろうとした宰相の手から、角を守るように手元へ手繰り寄せた。
「報奨……報奨か、そうだったな」
先程から宰相の瞳に光が無いのが気になる。
何かに操られているというか、自我がないというか。
不気味で仕方がない。
<精神:大成功 目の前の正気を失った人物に正気を取り戻させる>
なんとかならないかと考えていたら、ダイスロールが発動した。
「宰相、僕に魔王を倒せと命じたのは貴方本人ですか? それとも、違う人ですか?」
ダイスはクリティカルだったのに、僕の口から出たのは当たり障りのない言葉だけだった。
もっと上手く話せたらと悔いていたら、宰相は動きを止めて、僕の言葉を小さく反芻した。
「魔王を倒せと命じたのは……命じたのは私だ。だが私にそれを命じたのは……ぐっ!」
宰相の瞳に光が戻る。ところが、今度は宰相は頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
「どうなさいました?」
ベルが全く心配していない口調で立ち上がり、宰相に近寄って肩を揺する。宰相は動かない。
「治癒」
治癒魔法の淡い光が宰相に降り注ぐと、宰相は顔を上げた。
「……ん? 私は、一体?」
「話を覚えていますか?」
「話? 話……おお? これは魔王の角か? 何故こんなものがここに」
「覚えてませんね」
ベルがこれみよがしに落胆のため息をついた。
僕たちは宰相に、もう一度同じ話をした。
「むぅ、何故そちらの……デガ殿だったか、君に命じたのか……」
「僕たちを召喚したから、じゃないのですか」
「召喚? まさか私たちは、禁術を使ったのか!?」
「そんな、一番最初のところから……」
僕が絶句すると、宰相は申し訳無さそうに目を伏せた。
「すまぬ。ここ最近の記憶が曖昧だ。城で調査をするので、しばらく時間を貰えるだろうか。魔王の報奨は先に渡しておく」
「そういうことなら、わかりました。ベル、いい?」
「デガさんが良いと仰るなら、私に否やはありません」
報奨は何故か一億マグも頂けた。
宰相の権限で今すぐ出せる最高額だそうだ。
「魔王討伐の任を果たした者に対して、この程度しか出せず恥じている。デガ殿の仲間たちの蘇生費用等は、全てこちらで持つのが当然だ。しかし、何にせよ王や他の重役たちから話を聞かねば、これ以上動けぬのだ」
目の前の宰相が、召喚直後に錫杖で思いっきり殴りつけてきた人と同一人物とは思えない。
「デガさん、これが本来されるべき対応なのですよ」
「全くもって、自分のしたことが嘆かわしい」
ベルが思いっきり毒を吐いても、宰相は頭を下げるばかりだ。
「わかっていただけただけで十分です」
尚も何か言いたげなベルを落ち着かせて、宰相にそう告げた。
「俺の出番は殆どなかったな」
城を出て帰りの馬車に乗り込むと、ギルド長が僕を見て頭を掻いた。
「いえ、お願いがあります」
「何だ?」
「宰相達は何かに操られていたか、洗脳されていたか……とにかく、普通の状態じゃありませんでした。今後の城の話し合いで、また宰相の記憶がおかしくなるかもしれません」
「なるほど。では、ギルドの人員を何名か、城へ送り込んでおこう」
「ありがとうございます。それから……これ、どうしましょう」
僕はマジックバッグをぽん、と叩く。
魔王の角は、結局僕が持ち帰ってきていた。宰相が「今はこちらで受け取らない方がいい」と言ったのだ。
「差し支えなければデガが持っていてくれ。魔王の角に関する文献を調べておく。ミヒャエル嬢は教会の方で調べてもらえないか」
「承知しました」
過去にも魔王の角を折り取ったことはあったらしいが、その角がどうなったかという話は誰も詳しく知らなかった。古い文献になら何か情報が残っている可能性があるとのこと。
持ち歩くだけで体力が減るだとか体調不良になることはないので、僕のマジックバッグに入れっぱなしにしておくことにした。
城から自宅のある町へ戻り、冒険者ギルドでギルド長と別れた後、僕とベルは教会へ向かった。
聖石購入も三度目となると、教会のシスターは僕たちを見るなり満面の笑みで迎え入れてくれる。
「こんにちは、ベル様、デガ様。どういったご用件でしょうか」
「聖石ひとつください」
「はい、少々お待ちください」
シスターはぱたぱたと、失礼にならない程度の小走りで教会の奥へ引っ込んだ。
いつもなら一分としないうちに戻ってくるのに、今回はシスターがなかなか奥から出てこなかった。
十分ほど待ってようやくシスターが出てきたが、顔が曇っている。
「申し訳ありません。聖石は今、在庫を切らしております」
「どういうことですか」
今日のベルはよく怒る。
「ここのところ、危険度SS以上の魔物を討伐される方が少ないのと、蘇生を望む方が増えておりまして……」
「……まあ、わたくし達もこの二ヶ月あまりで三回目ですものね」
ベルは冷静に状況を判断して、怒りを引っ込めた。
「次の入荷予定はありませんか?」
「魔核があと二つあれば、聖石一つは作れます。それがいつになるかは、はっきりとは……」
「もし仮に、わたくしたちが魔核を持ち込んだ場合は」
「魔核二つの買取額が一千万マグですので、聖石を九千万マグで……」
結構ぼったくってるようだが、魔核を聖石に錬成するにはかなり手間暇がかかるらしいので、妥当なところだ。
「わかりました。今日のところは諦めましょう」
教会から出ると、日が沈みかけていて辺りは薄暗い。
「ベル、魔核のことだけど」
「はい。明日から危険度SS以上の魔物討伐をしましょう」
魔王を討伐できる僕なら、危険度SS以上の魔物の討伐は難しくないだろう。
ただ、冒険者ランクがSのままだから、冒険者ギルドから正式に仕事を請けることはできない。
「ギルド長に頼めばランクアップできそうですけどね」
「そこも含めて明日ギルド長に相談しよう」
話がまとまる頃には、家についていた。
「おかえり。無事だったか、よかった」
カイトが出迎えてくれた。チャバさんは酒場で仕事中だろう。
「魔王はどうした?」
「倒したよ」
「倒したか! 凄いな、デガ!」
カイトのハイタッチ要求に応じて、頭上で手のひらをパンと打ち合った。
「?」
ベルが僕たちの行動を不思議そうに見ていたので、ベルに向かって手を上げて、頷いてみせた。
「こ、こうですか?」
ぺん、と控えめのハイタッチ。
「そうそう。ハイタッチって言うんだよ。何か成功した時とか、嬉しい時にやるんだ」
「面白い習慣ですね」
楽しかったらしい。ベルはとても可愛らしく微笑んで、もう一度ハイタッチをせがんだ。
「こちらの宰相から、僕に『魔王を討伐せよ』という命を受けたので、北の塔の魔王を倒して証拠の角を持参しました。城門から兵士にここへ連れてこられて、放って置かれたのです」
「宰相は私だが、そんな命……」
錫杖の人改め……えっ、この人、宰相だったの? とにかく宰相はなにか言いかけ、一瞬黙ると、瞳から光が消えた。
「ああ、そうだったな。手違いがあったようだ。兵は厳罰に処すので許せ」
「いや、兵士は別にそんなことしなくても」
「こちらへ」
僕の言葉を遮って、宰相は扉を大きく開け放ち、部屋の奥へすたすたと歩いていってしまった。
僕たちは顔を見合わせてから、宰相の後を追った。
「では、魔王の角をここに」
部屋には大きな丸テーブルと座り心地のいい椅子が六脚あり、宰相に手振りで「座れ」と言われたので、各々適当に腰を掛けた。
座った途端、角を出せと言われたところだ。
「これです」
僕はマジックバッグから魔王の角を二本とも取り出し、テーブルの真ん中に置いた。
「……なるほど、本物のようだ。よくやってくれた。もう良いぞ、下がれ」
「お待ちを。魔王討伐と角の採取の報奨をきちんと頂きたい」
ギルド長が立ち上がり、今にも魔王の角を取ろうとした宰相の手から、角を守るように手元へ手繰り寄せた。
「報奨……報奨か、そうだったな」
先程から宰相の瞳に光が無いのが気になる。
何かに操られているというか、自我がないというか。
不気味で仕方がない。
<精神:大成功 目の前の正気を失った人物に正気を取り戻させる>
なんとかならないかと考えていたら、ダイスロールが発動した。
「宰相、僕に魔王を倒せと命じたのは貴方本人ですか? それとも、違う人ですか?」
ダイスはクリティカルだったのに、僕の口から出たのは当たり障りのない言葉だけだった。
もっと上手く話せたらと悔いていたら、宰相は動きを止めて、僕の言葉を小さく反芻した。
「魔王を倒せと命じたのは……命じたのは私だ。だが私にそれを命じたのは……ぐっ!」
宰相の瞳に光が戻る。ところが、今度は宰相は頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
「どうなさいました?」
ベルが全く心配していない口調で立ち上がり、宰相に近寄って肩を揺する。宰相は動かない。
「治癒」
治癒魔法の淡い光が宰相に降り注ぐと、宰相は顔を上げた。
「……ん? 私は、一体?」
「話を覚えていますか?」
「話? 話……おお? これは魔王の角か? 何故こんなものがここに」
「覚えてませんね」
ベルがこれみよがしに落胆のため息をついた。
僕たちは宰相に、もう一度同じ話をした。
「むぅ、何故そちらの……デガ殿だったか、君に命じたのか……」
「僕たちを召喚したから、じゃないのですか」
「召喚? まさか私たちは、禁術を使ったのか!?」
「そんな、一番最初のところから……」
僕が絶句すると、宰相は申し訳無さそうに目を伏せた。
「すまぬ。ここ最近の記憶が曖昧だ。城で調査をするので、しばらく時間を貰えるだろうか。魔王の報奨は先に渡しておく」
「そういうことなら、わかりました。ベル、いい?」
「デガさんが良いと仰るなら、私に否やはありません」
報奨は何故か一億マグも頂けた。
宰相の権限で今すぐ出せる最高額だそうだ。
「魔王討伐の任を果たした者に対して、この程度しか出せず恥じている。デガ殿の仲間たちの蘇生費用等は、全てこちらで持つのが当然だ。しかし、何にせよ王や他の重役たちから話を聞かねば、これ以上動けぬのだ」
目の前の宰相が、召喚直後に錫杖で思いっきり殴りつけてきた人と同一人物とは思えない。
「デガさん、これが本来されるべき対応なのですよ」
「全くもって、自分のしたことが嘆かわしい」
ベルが思いっきり毒を吐いても、宰相は頭を下げるばかりだ。
「わかっていただけただけで十分です」
尚も何か言いたげなベルを落ち着かせて、宰相にそう告げた。
「俺の出番は殆どなかったな」
城を出て帰りの馬車に乗り込むと、ギルド長が僕を見て頭を掻いた。
「いえ、お願いがあります」
「何だ?」
「宰相達は何かに操られていたか、洗脳されていたか……とにかく、普通の状態じゃありませんでした。今後の城の話し合いで、また宰相の記憶がおかしくなるかもしれません」
「なるほど。では、ギルドの人員を何名か、城へ送り込んでおこう」
「ありがとうございます。それから……これ、どうしましょう」
僕はマジックバッグをぽん、と叩く。
魔王の角は、結局僕が持ち帰ってきていた。宰相が「今はこちらで受け取らない方がいい」と言ったのだ。
「差し支えなければデガが持っていてくれ。魔王の角に関する文献を調べておく。ミヒャエル嬢は教会の方で調べてもらえないか」
「承知しました」
過去にも魔王の角を折り取ったことはあったらしいが、その角がどうなったかという話は誰も詳しく知らなかった。古い文献になら何か情報が残っている可能性があるとのこと。
持ち歩くだけで体力が減るだとか体調不良になることはないので、僕のマジックバッグに入れっぱなしにしておくことにした。
城から自宅のある町へ戻り、冒険者ギルドでギルド長と別れた後、僕とベルは教会へ向かった。
聖石購入も三度目となると、教会のシスターは僕たちを見るなり満面の笑みで迎え入れてくれる。
「こんにちは、ベル様、デガ様。どういったご用件でしょうか」
「聖石ひとつください」
「はい、少々お待ちください」
シスターはぱたぱたと、失礼にならない程度の小走りで教会の奥へ引っ込んだ。
いつもなら一分としないうちに戻ってくるのに、今回はシスターがなかなか奥から出てこなかった。
十分ほど待ってようやくシスターが出てきたが、顔が曇っている。
「申し訳ありません。聖石は今、在庫を切らしております」
「どういうことですか」
今日のベルはよく怒る。
「ここのところ、危険度SS以上の魔物を討伐される方が少ないのと、蘇生を望む方が増えておりまして……」
「……まあ、わたくし達もこの二ヶ月あまりで三回目ですものね」
ベルは冷静に状況を判断して、怒りを引っ込めた。
「次の入荷予定はありませんか?」
「魔核があと二つあれば、聖石一つは作れます。それがいつになるかは、はっきりとは……」
「もし仮に、わたくしたちが魔核を持ち込んだ場合は」
「魔核二つの買取額が一千万マグですので、聖石を九千万マグで……」
結構ぼったくってるようだが、魔核を聖石に錬成するにはかなり手間暇がかかるらしいので、妥当なところだ。
「わかりました。今日のところは諦めましょう」
教会から出ると、日が沈みかけていて辺りは薄暗い。
「ベル、魔核のことだけど」
「はい。明日から危険度SS以上の魔物討伐をしましょう」
魔王を討伐できる僕なら、危険度SS以上の魔物の討伐は難しくないだろう。
ただ、冒険者ランクがSのままだから、冒険者ギルドから正式に仕事を請けることはできない。
「ギルド長に頼めばランクアップできそうですけどね」
「そこも含めて明日ギルド長に相談しよう」
話がまとまる頃には、家についていた。
「おかえり。無事だったか、よかった」
カイトが出迎えてくれた。チャバさんは酒場で仕事中だろう。
「魔王はどうした?」
「倒したよ」
「倒したか! 凄いな、デガ!」
カイトのハイタッチ要求に応じて、頭上で手のひらをパンと打ち合った。
「?」
ベルが僕たちの行動を不思議そうに見ていたので、ベルに向かって手を上げて、頷いてみせた。
「こ、こうですか?」
ぺん、と控えめのハイタッチ。
「そうそう。ハイタッチって言うんだよ。何か成功した時とか、嬉しい時にやるんだ」
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楽しかったらしい。ベルはとても可愛らしく微笑んで、もう一度ハイタッチをせがんだ。
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