目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第一章

25 おかえりなさいませ

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 亜院は僕がイデリク村の宿屋で眠りこけている間に、スタグハッシュ城の関係者を名乗る若い男が担いで連れ去ったらしい。
 十中八九、土之井だろう。あの時気配があったから。
 多分、僕の姿も見られた。
 これが不東や椿木だったら、更にややこしい事態になっていただろうけど、土之井なら大丈夫かな。



 食っちゃ寝の五日間の後もさらに追加で丸二日、部屋から出してもらえなかった。
 ギルドからも「ゆっくり休め」と連絡がきていたので、仕方なくおとなしく過ごした。

 三日目、イネアルさんが家にやってきた。
 薬屋のイネアルさんは医術にも精通していて、僕を診ると言ってくれたのだ。

 診る、といっても要は[鑑定]だ。
 僕とイネアルさんの[鑑定]は微妙に違うらしく、イネアルさんのものは他人の状態異常が細かく視えるらしい。
 僕にも視えないかなと思ってイネアルさん相手にこっそりやってみたけど、駄目だった。何が違うのだろう。そもそもイネアルさんに異常がないだけかな。

「数かな。僕は何千人と人を視てきたからね。あと私はここ数年、病気一つしていないよ」
 鑑定したこととその理由は筒抜けだった。
「私も最初は人の秘密を覗き見るなんて趣味が悪いと思ったよ。だけど、薬学を学んで医術に触れ、私の手の届く範囲だけでも治せるなら、と開き直ったのさ」

 数かぁ。僕は医学や薬学を修められるほどの頭はないし、治癒魔法で治せないならお手上げだ。
 この前のレイスキングの鎌とか自分のスキルとか、身の回りのことが少し分かれば、それでいいかな。

「うん。ヨイチは健康そのものだね。普段の君からしたら、ちょっと運動不足かな。君たち、過保護はよくないよ」
「はーい」
 三人の返事が重なった。

「ありがとうございました」
 イネアルさんが帰った後、僕は改めて三人と話をした。

 僕がほぼ寝っぱなしだったから、詳細な事情説明ができていないのだ。



 僕が亜院を壊したことと、壊し方を包み隠さず話した。
 引かれるかと思っていたのに、三人の感想は一致した。

「その程度でよかったの?」

「いやよく考えて? 多分今頃、土之井あたりが魔力分けて日常生活送れる程度にはなってると思うけど、誰かに魔力もらわないと自分の面倒すら見れないし、これまでのレベルアップは全部なかったことになったんだよ?」
「でもヨイチは殺されかけたでしょ? 亜院は魔力がなくても死ぬことはないだろうし」
「ツキコのカタキなら、やっちゃっててもローズは引かない」
「私も同感。しかも亜院君のそれ、ヨイチ君なら治せるのでしょう?」
「!」

 ヒスイはこの中で一番魔力量が少ない。この世界に馴染むための努力は人一倍しているけれど、魔法からは一番遠い。
 そのヒスイに、真っ先に感づかれるとは。

「そうなの?」
 ツキコが僕とヒスイを交互に見る。

「……うん。ツキコがアイツを許せる日が来たら、もとに戻そうかなって。勿論、ツキコの気持ちを最優先するよ。止めが必要なら、すぐ行く」
「止めは、いい。それと、許すかどうかはヨイチに任せるよ。どうもアイツ、ウチに手を出すつもりはなかったみたいで」
「本当に?」

 亜院はツキコのストーカーだったらしい。本人も、おそらく周りも気づかないほどひっそりと、ただ見ているだけでいいという稀有なタイプの。

「本当のことを言っていたとしても、ツキコをどこへ運ぼうとしてたの?」
 ローズの質問に、ツキコは首をかしげ、僕が答える。
「方向的にスタグハッシュだったんじゃないかな。亜院は別の場所に隠れ家を持つように見えないし」
 召喚されたての頃の亜院は、豪快すぎてうるさいけれど、隠し事の出来ない人のいいやつだった。
 村で暴れるくらい凶暴な奴に成り下がってはいたが、城外に隠れ家とかを構える程器用じゃない。

「見てるだけで良いと思えるくらいに憧れていた人が、自分の目の前にいて、冷静になれるかな。真っ盛りの男子が」
 ローズが淡々と、どこかで聞いたような台詞を付け加える。
 ……犯人は僕か。ローズの口から聞きたくなかったなぁ。

「今更寒気がしてきた。アイツが目の前で何か言ってるときもずっと気持ち悪かったのに、それ以上」
 ツキコが本当に寒いかのようにカタカタ震えだした。
「ごめん。ローズの想像力がツキコを怯えさせた」
「ううん。気づかせてくれてありがとう。でもやっぱり、いつ許すかはヨイチが決めて。ウチは未遂で済んだけど、ヨイチは完璧に裏切られてるんだからね。もっと怒ってもいいんだよ」
「目一杯怒ったよ」
 怒りの感情が湧かなければ、あんなことはしなかったはずだ。

 怒らないと、魔力が視えるようにならないのかな。
 不便だ。

「怒ってただけじゃないよね」
「えっ?」
 ツキコを見ると、ツキコはニコリと笑みを浮かべた。

「ヨイチ、お礼がしたい。何か欲しい物ない?」
「いや、それより怒ってただけじゃないってどういう……」
「何か欲しい物、ない?」
 ツキコの有無を言わせぬ圧に屈した。
「特にないかな。ってかお礼なんていいよ。ツキコは被害者で、僕が助けたのは当然のことだし。それにツキコにはいつもお世話になってる」
「ないならウチが勝手にやるね。家の増築なんてどうかな?」
「増築!?」
 ツキコのDIY技術は、大工のお父さん譲りらしい。小さな家ならひとりで建てられると言っていた。
「でも、もう充分広いよ?」
 この家は日本で言うところの6LDK。住人は四人だから、単純計算で二部屋余る。今の所、一部屋はローズとツキコの荷物置き場、キッチンの隣の小部屋はヒスイが作った保存食用倉庫だ。
「ウチ、豪邸に住むのが夢だったんだ。だからとりあえず部屋数増やしたい。今ある部屋とキッチンの拡張もしたい。皆の邪魔にならないようにやるからさ、いい? ……って、これじゃお礼にならないか」
 豪邸かぁ。想像したこともなかった。
 広い家に、皆で賑やかに暮らす。いいかもしれない。
「楽しそうだから、是非やってよ」
「ありがと!」

 その日は「おうち豪邸化計画」とやらで遅くまで盛り上がった。



 久しぶりにギルドへ行くと、統括に「話がある」と統括室へ案内された。

「サントナの件だが……すまん、奴に逃げられた」
 城へ「冒険者に対する詐欺と搾取について」通達すると、サントナは一旦は大人しく尋問を受けた。
 その後、目を離した隙に逃亡。サントナの部屋からは、私物の殆どが消えていたそうだ。
 金目のものの中でも更に、現金や宝石など、軽くて嵩張らないものほど見つからなかったことから、以前から逃亡を計画していたことが容易に推測された。

「ヨイチの元仲間には別の神官がついたそうだが、彼らへの補填はできなかった。サントナは城からも横領していたようでな。あの国は以前から財政が傾いていた。今更、彼らの報酬の肩代わりなどできぬのだよ」
「そうですか」
 気の毒だなぁとは思うけど、それ以上の感情は湧かない。
「ヨイチの分も取れなかった。城が言うには、『死んだ人間に支払う義務はない』と。……本当に腐った連中だ」
 統括が憤りつつ、僕に頭を下げてくる。慌てて頭を上げてもらった。
「僕の分ははじめから諦めてましたから。それで、サントナはどうするつもりですか?」
「無論捕らえて、罪を償ってもらう。ギルドの威信にかけて必ず捕まえる。……だが現状、行き先に全く手がかりがなくてな。城の連中も『無関係だ』と口をつぐむし、城の権威を盾にされてはこれ以上何もできん。本当に不甲斐ない」
 城って、ろくでもない連中だなぁ。



 統括との話を終えて、クエストを請けた。
 討伐対象は危険度Dの、ハードトレントという樹木の魔物だ。
 その身体は建材として優秀だとツキコがポロっと言っていた。
 頼まれたわけじゃないけど、そりゃ狩るよね。

 ハードトレントは森の中で、他の樹木に擬態している。
 人を襲って養分にしてしまうため、発見されると辺り一帯はクエストを請けた冒険者以外、立入禁止になってしまう。

 今日、このクエストを請けたのは僕一人らしい。

 つまり、弓矢を使い放題だ。


 [心眼]でハードトレントの気配と弱点を見極め、矢で射抜く。
 さくさくと倒し、どんどんマジックボックスに放り込んだ。

 時折、ハードトレントが養分にしている動物を横取りしにやってきた他の魔物もついでに倒す。
 日が傾く頃には、ハードトレントの気配がなくなっていた。



「いつまで経ってもヨイチに恩を返しきれない……」
 マジックボックスからハードトレントを取り出し、家の裏に積み上げると、ツキコが両手で顔を覆った。
 ツキコの肩を、ヒスイとローズが訳知り顔にぽん、ぽんと叩く。
「勝手にとってきただけだし。僕だって皆には恩がたくさんある。いや、もう恩返しとかそういうの、いいじゃん」
 親しき仲にも礼儀ありと言うし、何かしてもらったらお礼をするのは当然だ。
「僕だって、都合のいいときだけ仲間扱いするような連中にはこんなことしないよ。皆はそうするの?」
「しない」
 三人が口をそろえる。本当に息ピッタリになってきたなぁ。
「僕もそう信じてる。さっきも言ったけど、僕はいつも好きなことを勝手にやってるだけだよ」
 力強く言い切ると、三人は俯いて、同時に顔を上げた。

「把握」
「そっか、それでいいんだね」
「わかったわ」
「ま、待って?」

 どうしてだろう、三人が僕の話を曲解しているような気がしてならない。いや、絶対そうだ。

「ツキコ、ディオンさんて普通の服も仕立ててもらえるの?」
「どうだろう、布はあまり扱わないんじゃないかな。でも伝手があるかも」
「ローズ、デザイン考えてもいい?」
「ねえ、何の話をしているの?」

 三人から「豪邸には必要」「おそろい」「挨拶も練習しなくちゃ」等の不穏な会話が漏れ聞こえる。

 今の生活に馴染みすぎて忘れかけていたけど、三人が最初にこの家で暮らすと押しかけてきた時、ヒスイが確かに言っていた。



「住み込みのメイドがいたら、便利だと思わない?」



 目付きが悪いと森で仲間に見捨てられたせいで、メイドハーレムが出来上がってしまった。
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