32 / 103
第二章
7 暫定措置
しおりを挟む
巣に潜りはじめて四日目、四十五階層目に到達した。
そこで危険度Bの魔物とかち合ってしまった。
仲間たちには僕の本名がトウタであることを伝えた。
よって僕は今、何の憂いもなく弓矢を使っている。
アトワに襲いかかろうとした危険度Bの魔物、巨大な眼を難なく射貫く。
地に落ちた巨大な眼は素材にならない。ヒイロが口から聖なる光を発して消滅させてくれた。
「助かった、ヨイチ、ヒイロ」
アトワは葛藤と長考の末、ヒイロをパーティの仲間のペットと扱うことにやっと納得した。
「まだいるぞ、気を抜くな」
チェスタの叱咤で僕とアトワは他の魔物に弓矢と魔法を向けた。
四十五階層目は、僕が五階層の巣でも見た魔物だらけの大部屋になっていた。
危険度Bがうじゃうじゃ棲息しているから、ランクCのアトワとキュアンにとってはオーバーワークだ。
退くために邪魔な魔物だけ討伐し、四十四階層へと戻った。
「最初に話した通り、ここからはヨイチと、他のランクAの仕事だが……大丈夫か?」
「やるしかないからね。頑張るよ」
「そういえばアルダを見なかったわね。どこかで追い抜いたのかしら」
キュアンが首をかしげる。
「疲労とアイテム不足で上に戻ったらしいぞ」
アトワが冒険者カードで最新情報をチェックしながら教えてくれた。
本当に勝手だな、あの人は。
「じゃあ人数足りないじゃない。どうするのよ」
「他のランクAが来るのを待つとなると、また無駄な待ち時間が増えるな」
チェスタがため息をつく。と、チェスタの冒険者カードが何かを伝えるように震えた。
「なんだ? あっ!」
「どうした?」
アトワが冒険者カードを覗き込むと、チェスタと顔を合わせ、二人でハイタッチした。
「ヨイチ、俺もついていくことになった」
チェスタが笑顔で僕に冒険者カードを見せてくれた。
『ランクB冒険者チェスタを、暫定ランクAとする』
他には、チェスタは巣での活躍次第で正式にランクAへの昇格もありうることや、勝手な行動をして戦列を乱したアルダのランク降格という文章が並んでいた。
「やったじゃない、チェスタ! すごいすごい!」
キュアンも大喜びでチェスタにハイタッチする。
「おめでとう」
僕も片手を挙げると、景気よくパシンと叩かれた。
ヒイロはチェスタの足元をぐるぐる周る。
「ヒイロが『よかったな』って、どうして上から目線なんだよ」
僕がヒイロの通訳とツッコミをすると、チェスタは照れくさそうに、アトワとキュアンは声を上げて笑った。
ランクAたちの到着を待つ間、まずアトワとキュアンから食料や回復薬を、二人が上へ帰還するために必要な分以外を受け取った。
それからアトワとキュアンに仮眠をとってもらい、交代で僕とチェスタが仮眠する。
目覚めると、ランクAたちが目の前にいた。
「起き抜けに忙しなくて申し訳ない、マイルトといいます。よろしくお願いします」
火炎魔法の使い手だというマイルトは、首や耳、手足のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリーをつけた細身の男だ。
アクセサリーからは石にしては強めの魔力を感じるから、魔法の掛かった防具なのだろう。
魔物を燃やすのが好きだという前情報がなければ、物腰の低い穏やかそうな人に見えた。
もう一人の男性は縦にも横にも大きい。筋肉ではなく脂肪の方で。
金属製の鎧を着込んでいるから、力はあるのだろうけど。
ふくよかな男性は僕とマイルトが手を離すと、雑に割り込んできた。
「シアーダだ。んで、あとひとりどうするんだ?」
シアーダは僕とおざなりに握手をして、あたりを見回す。視界にはチェスタ達がいるのだけど、見えていないかのように振るっている。
「先程俺が、暫定ランクAとして同行することになった。チェスタという。宜しく頼む」
チェスタはきっちり挨拶してマイルトとは友好的に握手をした。
「せいぜい足を引っ張るなよ、暫定A」
シアーダはチェスタの手を触ろうともせず、チェスタは肩をすくめた。
「努力するよ」
僕が視線を送ると、気づいたチェスタは「心配するな」と眼で語った。
アトワとキュアンの帰還を見送ってから、ランクAパーティは四十五階層目に突入した。
先に少し減らしたとはいえ、やはり魔物の数はかなり多い。
新しく来たランクAの二人、特にシアーダの方は信用ならないから、僕は再び剣を握っている。
「巣は火炎魔法を乱射出来ないのが寂しいですね」
マイルトが穏やかな口調からは想像もつかない程激烈な火炎魔法を放つ。
一発だけで十体程が消し炭になった。
「チッ! 炭にしやがって!」
シアーダが前に躍り出て、手当たりしだいに魔物を斬り倒す。素材を気にする割に剣閃は雑で、革や毛皮は売れそうにない程ボロボロになっていく。
「ヨイチ、ヒイロは控えさせておけ」
チェスタに小声で耳打ちされて頷き、ヒイロに待機命令を出す。ヒイロは大人しく従ってくれた。
「あの二人よりヨイチのほうが実力は上だな。だが、悪いが支援を優先してくれるか」
「わかった」
マイルトは攻撃魔法一辺倒で、回復も支援も行えないと聞いている。シアーダはそもそも魔法が使えない。
僕も支援魔法はアトワに少し教えてもらった程度だけど、無いよりマシだろう。
三人に身体強化魔法、物理防御結界、魔法防御結界を施してから、僕自身も魔物を倒して回った。
三十分ほどで最後の一体にチェスタが止めを刺した。
「はー、やっと終わったか」
シアーダが気怠げに立ち上がる。
魔物を討伐しはじめて一時間でマイルトは魔力が尽き、シアーダも続くように「俺は役目を果たしたからな!」とすぐに壁際に座り込んでしまった。
その時点で魔物の数は半分も減っていなかった。
僕はチェスタに支援魔法と治癒魔法を掛け続けながら、魔物の大半を請け負った。
チェスタはヘトヘトになりながらも、最後まで戦った。
「申し訳ない。こんなに多くの魔物と戦うのははじめてで、ペース配分が……私はまだまだ未熟でした」
マイルトは僕とチェスタに平謝りし、チェスタには体力を回復するという貴重なポーションを譲っていた。
怪我を癒やすのは魔法ですぐできる上、治癒ポーションも安価で出回っている。体力というのが厄介で、魔法で回復できない上にポーションは高価だ。誰でも一晩ぐっすり眠れば回復するものだからと、ポーションの開発自体が後回しになっているのが原因らしい。
巣を出たらローズ経由でイネアルさんに頼んでみようかな。必要な素材は僕が探すから、って。
本当はすぐにでも四十六階層目へ進みたかったのだけど、シアーダが駄々をこねたので、一旦休憩することになった。
チェスタが無言で「本当にアイツがランクAなのか」と訴えている。僕もそう思う。
休憩中のお茶はマイルトが淹れてくれた。少量の魔力回復効果のあるハーブティーだそうで、独特の味と酸味と苦味があって……正直あまり美味しくない。しかし魔力はちゃんと回復した。
「うわ……」
一口飲んだ僕が思わず言ってしまうと、マイルトは困ったように笑った。
「私は慣れましたが、はじめての人は戸惑いますよね。他の葉や甘味を混ぜると魔力回復効果が減じてしまうのですよ」
「それは難儀な」
「確かにすごい味だな。ご馳走様」
魔力回復の必要がないはずのチェスタが、ぐいと一息に飲み干し、顔をしかめつつもちゃんとお礼を言う。チェスタは食べ物を粗末にするのを嫌うのだ。僕もなんとか飲みきった。
会話を聞いていたシアーダはあからさまに嫌そうな顔をして、一口も飲まなかった。
「では、私の魔力も回復しましたし、参りましょうか」
まだ休みたそうなシアーダの無言の抵抗に、マイルトはニコリと笑みを浮かべ問答無用で立ち上がるよう促した。
「核はどこだよ。ったく、こんな深いなんて聞いてねぇぞ」
四十六階層目の通路を、シアーダは延々と悪態をつきながら最後尾をのそのそ歩いている。
先頭を歩くのは僕とマイルト。真ん中がチェスタとヒイロ。
チェスタは体力回復ポーションを飲んだものの万全ではないということで、しばらくは戦闘を回避することになった。
ヒイロは戦力に数えていない。僕の使い魔で、僕に強化魔法を常時付与していることになっている。
シアーダは「俺は奥の手だからな」「俺が不意打ちを防いでいるんだぞ」と謎の言い訳をして何もしていない。
よって魔物は[気配察知]スキルのあるマイルトが探知し、体力魔力共に余裕のある僕が相手をしている。
邪魔されるよりはマシかな。
「ギルドから連絡だ。少し止まって」
マイルトが立ち止まり、冒険者カードを見つめる。念の為に僕の方も見るけれど、特に連絡事項は無い。チェスタも同じようだ。シアーダは歩いているだけなのに大量の汗をかいていて、冒険者カードを手にしようともしない。
「……他のランクAの到着が遅れます。上層の魔物の再活性化が予想より早いようですね」
「うげぇ」
シアーダが心底面倒くさそうに呻く。
「つーことは、とっとと核壊せ、だろ?」
「はい。マップを積極的に埋めるのは諦めて、階段を見つけたらすぐに降りましょう」
僕たちが駆け足になったことで、シアーダも渋々早足になった。
四十六階層目から四十八階層目までは、すぐに階段を見つけることができた。
四十八階層目も駆け足で進む中、シアーダが再び駄々をこねた。
「も、もう無理だ! 俺は休むぞ!」
本当に駄々っ子のように、その場で大の字に寝転がってしまった。
僕とマイルトは顔を見合わせ、マイルトがため息とともに首を横に振った。
「……仕方ありませんね。一時間だけ休みましょう」
チェスタがホッとした表情になる。何も言わなかったけど、かなり限界が近かったのだろう。
「チェスタ、こっち」
ヒイロがチェスタをこっそり呼べと言うので、僕がヒイロの側に立ってチェスタを手招きした。
不思議そうな顔をするチェスタの足に、ヒイロの前足がぺそりと乗る。
一瞬だけ、ヒイロから純白の魔力がチェスタに流れていったように見えた。
「お? ……これは……」
「この前の残りだよ。皆さんもどうぞ」
僕はチェスタに、マジックボックスから出したパンを出して押し付け、シアーダとマイルトに見えない位置で口に指を一本立てた。
「あ、ああ、ありがとう」
察してくれたチェスタは、パンに対してお礼を言った。
「パンか。気が利くじゃねぇか」
「ありがとうございます。……うん、美味しいパンですね」
シアーダは尊大に、マイルトはニコニコとパンを受け取って食べた。
そこで危険度Bの魔物とかち合ってしまった。
仲間たちには僕の本名がトウタであることを伝えた。
よって僕は今、何の憂いもなく弓矢を使っている。
アトワに襲いかかろうとした危険度Bの魔物、巨大な眼を難なく射貫く。
地に落ちた巨大な眼は素材にならない。ヒイロが口から聖なる光を発して消滅させてくれた。
「助かった、ヨイチ、ヒイロ」
アトワは葛藤と長考の末、ヒイロをパーティの仲間のペットと扱うことにやっと納得した。
「まだいるぞ、気を抜くな」
チェスタの叱咤で僕とアトワは他の魔物に弓矢と魔法を向けた。
四十五階層目は、僕が五階層の巣でも見た魔物だらけの大部屋になっていた。
危険度Bがうじゃうじゃ棲息しているから、ランクCのアトワとキュアンにとってはオーバーワークだ。
退くために邪魔な魔物だけ討伐し、四十四階層へと戻った。
「最初に話した通り、ここからはヨイチと、他のランクAの仕事だが……大丈夫か?」
「やるしかないからね。頑張るよ」
「そういえばアルダを見なかったわね。どこかで追い抜いたのかしら」
キュアンが首をかしげる。
「疲労とアイテム不足で上に戻ったらしいぞ」
アトワが冒険者カードで最新情報をチェックしながら教えてくれた。
本当に勝手だな、あの人は。
「じゃあ人数足りないじゃない。どうするのよ」
「他のランクAが来るのを待つとなると、また無駄な待ち時間が増えるな」
チェスタがため息をつく。と、チェスタの冒険者カードが何かを伝えるように震えた。
「なんだ? あっ!」
「どうした?」
アトワが冒険者カードを覗き込むと、チェスタと顔を合わせ、二人でハイタッチした。
「ヨイチ、俺もついていくことになった」
チェスタが笑顔で僕に冒険者カードを見せてくれた。
『ランクB冒険者チェスタを、暫定ランクAとする』
他には、チェスタは巣での活躍次第で正式にランクAへの昇格もありうることや、勝手な行動をして戦列を乱したアルダのランク降格という文章が並んでいた。
「やったじゃない、チェスタ! すごいすごい!」
キュアンも大喜びでチェスタにハイタッチする。
「おめでとう」
僕も片手を挙げると、景気よくパシンと叩かれた。
ヒイロはチェスタの足元をぐるぐる周る。
「ヒイロが『よかったな』って、どうして上から目線なんだよ」
僕がヒイロの通訳とツッコミをすると、チェスタは照れくさそうに、アトワとキュアンは声を上げて笑った。
ランクAたちの到着を待つ間、まずアトワとキュアンから食料や回復薬を、二人が上へ帰還するために必要な分以外を受け取った。
それからアトワとキュアンに仮眠をとってもらい、交代で僕とチェスタが仮眠する。
目覚めると、ランクAたちが目の前にいた。
「起き抜けに忙しなくて申し訳ない、マイルトといいます。よろしくお願いします」
火炎魔法の使い手だというマイルトは、首や耳、手足のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリーをつけた細身の男だ。
アクセサリーからは石にしては強めの魔力を感じるから、魔法の掛かった防具なのだろう。
魔物を燃やすのが好きだという前情報がなければ、物腰の低い穏やかそうな人に見えた。
もう一人の男性は縦にも横にも大きい。筋肉ではなく脂肪の方で。
金属製の鎧を着込んでいるから、力はあるのだろうけど。
ふくよかな男性は僕とマイルトが手を離すと、雑に割り込んできた。
「シアーダだ。んで、あとひとりどうするんだ?」
シアーダは僕とおざなりに握手をして、あたりを見回す。視界にはチェスタ達がいるのだけど、見えていないかのように振るっている。
「先程俺が、暫定ランクAとして同行することになった。チェスタという。宜しく頼む」
チェスタはきっちり挨拶してマイルトとは友好的に握手をした。
「せいぜい足を引っ張るなよ、暫定A」
シアーダはチェスタの手を触ろうともせず、チェスタは肩をすくめた。
「努力するよ」
僕が視線を送ると、気づいたチェスタは「心配するな」と眼で語った。
アトワとキュアンの帰還を見送ってから、ランクAパーティは四十五階層目に突入した。
先に少し減らしたとはいえ、やはり魔物の数はかなり多い。
新しく来たランクAの二人、特にシアーダの方は信用ならないから、僕は再び剣を握っている。
「巣は火炎魔法を乱射出来ないのが寂しいですね」
マイルトが穏やかな口調からは想像もつかない程激烈な火炎魔法を放つ。
一発だけで十体程が消し炭になった。
「チッ! 炭にしやがって!」
シアーダが前に躍り出て、手当たりしだいに魔物を斬り倒す。素材を気にする割に剣閃は雑で、革や毛皮は売れそうにない程ボロボロになっていく。
「ヨイチ、ヒイロは控えさせておけ」
チェスタに小声で耳打ちされて頷き、ヒイロに待機命令を出す。ヒイロは大人しく従ってくれた。
「あの二人よりヨイチのほうが実力は上だな。だが、悪いが支援を優先してくれるか」
「わかった」
マイルトは攻撃魔法一辺倒で、回復も支援も行えないと聞いている。シアーダはそもそも魔法が使えない。
僕も支援魔法はアトワに少し教えてもらった程度だけど、無いよりマシだろう。
三人に身体強化魔法、物理防御結界、魔法防御結界を施してから、僕自身も魔物を倒して回った。
三十分ほどで最後の一体にチェスタが止めを刺した。
「はー、やっと終わったか」
シアーダが気怠げに立ち上がる。
魔物を討伐しはじめて一時間でマイルトは魔力が尽き、シアーダも続くように「俺は役目を果たしたからな!」とすぐに壁際に座り込んでしまった。
その時点で魔物の数は半分も減っていなかった。
僕はチェスタに支援魔法と治癒魔法を掛け続けながら、魔物の大半を請け負った。
チェスタはヘトヘトになりながらも、最後まで戦った。
「申し訳ない。こんなに多くの魔物と戦うのははじめてで、ペース配分が……私はまだまだ未熟でした」
マイルトは僕とチェスタに平謝りし、チェスタには体力を回復するという貴重なポーションを譲っていた。
怪我を癒やすのは魔法ですぐできる上、治癒ポーションも安価で出回っている。体力というのが厄介で、魔法で回復できない上にポーションは高価だ。誰でも一晩ぐっすり眠れば回復するものだからと、ポーションの開発自体が後回しになっているのが原因らしい。
巣を出たらローズ経由でイネアルさんに頼んでみようかな。必要な素材は僕が探すから、って。
本当はすぐにでも四十六階層目へ進みたかったのだけど、シアーダが駄々をこねたので、一旦休憩することになった。
チェスタが無言で「本当にアイツがランクAなのか」と訴えている。僕もそう思う。
休憩中のお茶はマイルトが淹れてくれた。少量の魔力回復効果のあるハーブティーだそうで、独特の味と酸味と苦味があって……正直あまり美味しくない。しかし魔力はちゃんと回復した。
「うわ……」
一口飲んだ僕が思わず言ってしまうと、マイルトは困ったように笑った。
「私は慣れましたが、はじめての人は戸惑いますよね。他の葉や甘味を混ぜると魔力回復効果が減じてしまうのですよ」
「それは難儀な」
「確かにすごい味だな。ご馳走様」
魔力回復の必要がないはずのチェスタが、ぐいと一息に飲み干し、顔をしかめつつもちゃんとお礼を言う。チェスタは食べ物を粗末にするのを嫌うのだ。僕もなんとか飲みきった。
会話を聞いていたシアーダはあからさまに嫌そうな顔をして、一口も飲まなかった。
「では、私の魔力も回復しましたし、参りましょうか」
まだ休みたそうなシアーダの無言の抵抗に、マイルトはニコリと笑みを浮かべ問答無用で立ち上がるよう促した。
「核はどこだよ。ったく、こんな深いなんて聞いてねぇぞ」
四十六階層目の通路を、シアーダは延々と悪態をつきながら最後尾をのそのそ歩いている。
先頭を歩くのは僕とマイルト。真ん中がチェスタとヒイロ。
チェスタは体力回復ポーションを飲んだものの万全ではないということで、しばらくは戦闘を回避することになった。
ヒイロは戦力に数えていない。僕の使い魔で、僕に強化魔法を常時付与していることになっている。
シアーダは「俺は奥の手だからな」「俺が不意打ちを防いでいるんだぞ」と謎の言い訳をして何もしていない。
よって魔物は[気配察知]スキルのあるマイルトが探知し、体力魔力共に余裕のある僕が相手をしている。
邪魔されるよりはマシかな。
「ギルドから連絡だ。少し止まって」
マイルトが立ち止まり、冒険者カードを見つめる。念の為に僕の方も見るけれど、特に連絡事項は無い。チェスタも同じようだ。シアーダは歩いているだけなのに大量の汗をかいていて、冒険者カードを手にしようともしない。
「……他のランクAの到着が遅れます。上層の魔物の再活性化が予想より早いようですね」
「うげぇ」
シアーダが心底面倒くさそうに呻く。
「つーことは、とっとと核壊せ、だろ?」
「はい。マップを積極的に埋めるのは諦めて、階段を見つけたらすぐに降りましょう」
僕たちが駆け足になったことで、シアーダも渋々早足になった。
四十六階層目から四十八階層目までは、すぐに階段を見つけることができた。
四十八階層目も駆け足で進む中、シアーダが再び駄々をこねた。
「も、もう無理だ! 俺は休むぞ!」
本当に駄々っ子のように、その場で大の字に寝転がってしまった。
僕とマイルトは顔を見合わせ、マイルトがため息とともに首を横に振った。
「……仕方ありませんね。一時間だけ休みましょう」
チェスタがホッとした表情になる。何も言わなかったけど、かなり限界が近かったのだろう。
「チェスタ、こっち」
ヒイロがチェスタをこっそり呼べと言うので、僕がヒイロの側に立ってチェスタを手招きした。
不思議そうな顔をするチェスタの足に、ヒイロの前足がぺそりと乗る。
一瞬だけ、ヒイロから純白の魔力がチェスタに流れていったように見えた。
「お? ……これは……」
「この前の残りだよ。皆さんもどうぞ」
僕はチェスタに、マジックボックスから出したパンを出して押し付け、シアーダとマイルトに見えない位置で口に指を一本立てた。
「あ、ああ、ありがとう」
察してくれたチェスタは、パンに対してお礼を言った。
「パンか。気が利くじゃねぇか」
「ありがとうございます。……うん、美味しいパンですね」
シアーダは尊大に、マイルトはニコニコとパンを受け取って食べた。
32
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す
さとう
ファンタジー
大陸最大の王国である『ファーレン王国』
そこに住む少年ライトは、幼馴染のリリカとセエレと共に、元騎士であるライトの父に剣の稽古を付けてもらっていた。
ライトとリリカはお互いを意識し婚約の約束をする。セエレはライトの愛妾になると宣言。
愛妾を持つには騎士にならなくてはいけないため、ライトは死に物狂いで騎士に生るべく奮闘する。
そして16歳になり、誰もが持つ《ギフト》と呼ばれる特殊能力を授かるため、3人は王国の大聖堂へ向かい、リリカは《鬼太刀》、セエレは《雷切》という『五大祝福剣』の1つを授かる。
一方、ライトが授かったのは『???』という意味不明な力。
首を捻るライトをよそに、1人の男と2人の少女が現れる。
「君たちが、オレの運命の女の子たちか」
現れたのは異世界より来た『勇者レイジ』と『勇者リン』
彼らは魔王を倒すために『五大祝福剣』のギフトを持つ少女たちを集めていた。
全てはこの世界に復活した『魔刃王』を倒すため。
5つの刃と勇者の力で『魔刃王』を倒すために、リリカたちは勇者と共に旅のに出る。
それから1年後。リリカたちは帰って来た、勇者レイジの妻として。
2人のために騎士になったライトはあっさり捨てられる。
それどころか、勇者レイジの力と権力によって身も心もボロボロにされて追放される。
ライトはあてもなく彷徨い、涙を流し、決意する。
悲しみを越えた先にあったモノは、怒りだった。
「あいつら全員……ぶっ潰す!!」
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる