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第二章
8 手柄
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「さっきのは?」
ヒイロにだけ問いかけると、ヒイロはその場に伏せてふわあと欠伸をした。
「聖属性の魔力。体力回復の効果がある」
「なにそれ、やり方教えてよ」
「ヨイチならもうできると思うけど、ヨイチの魔力はとっておいたほうがいい。あとあのデブには使いたくない」
チェスタには、ヒイロが体力を回復させたことと、隠しておいてほしいことを書いたメモをこっそり見せた。
メモをちらりと見たチェスタは、一瞬だけニッと口角を上げた。
「パン美味かったよ、ご馳走さん」
それからヒイロを呼び「疲れてないか?」と声をかけながら、頭をぽんぽんと撫でていた。
「シアーダのこと、嫌か」
チェスタと僕の間に陣取ったヒイロに、こっそり話しかけた。
「キライ。嫌な臭いする」
僕もシアーダとは仲良くなれない気がしている。早く巣の攻略を終わらせたい。
「僕の魔力をとっておいたほうがいい、っていうのは?」
「マイルトって人はもう戦うつもりなさそう。このままだとヨイチひとりで戦うことになるから、チェスタを回復させた」
「僕を気遣ってくれたのか、ありがとう」
「当然だよ。ぼくはヨイチの使い魔だからね」
得意気に言うあたり、使い魔呼ばわりされたことを拗ねているわけではないようだ。
ヒイロをわしわし撫でてやると、ヒイロはうっとりと目を閉じた。
きっかり一時間休憩すると、マイルトが問答無用とばかりに立ち上がった。
「シアーダ。もしこれ以上進みたくないのであれば、ここに残るか地上に戻ってもらっても構いませんよ」
マイルトは穏やかに、しかし今すぐ決断しろと静かな迫力を見せた。
シアーダは息を呑み、数秒の間があいた。
「行くよ。行きゃいいんだろう」
残れば襲ってくる魔物は自力でなんとかしないといけないし、ここからひとりで地上を目指すには遠い。
一番の近道は、このまま降りて核を壊すことだと、一応理解しているらしい。
「進みましょう」
マイルトは僕とチェスタ、そしてヒイロには笑顔を向けた。
四十八階層目への階段は、マップの殆どを埋めてからようやく見つけることができた。
「チェスタ、大丈夫?」
「問題ない。むしろ調子がいい」
マイルトはシアーダと共に後ろを歩いている。よって僕とチェスタ、そしてヒイロが先頭にいる。
「ヨイチこそ大丈夫か? 体力のあるやつだとは思っていたが、疲れているのを見た覚えがない」
「いや、僕だって疲れるよ? あのアルダって人の相手したときとか」
「ありゃ仕方ない」
軽口を叩きながらも、周囲の警戒は怠らず、魔物が出れば連携で倒す。
「情けないですね、シアーダ。暫定Aと先日Aになったばかりの新人に、前を任せるなんて」
「うるせぇ。おまえに言われたかねぇよ、放火魔」
先程から後ろの会話は不穏の一言に尽きる。
マイルトは僕とチェスタが健闘しているのを褒めてくれて、シアーダには辛辣な言葉を投げ続けている。シアーダは負けず劣らず言い返してはいるけれど、マイルトは正論しか言っていない。
魔物討伐の合間にゆるい談笑で後ろの空気を払拭しようという試みは、すぐに折れた。
気まずい沈黙を破ってくれたのは、チェスタだ。
「俺、このあとAになれなくても、地上戻ったら正式にAを目指す」
チェスタそれは僕のいた世界では不吉なフラグが立つ言動なんだよ。
「折らなくちゃ……」
「何だ?」
「いや、なんでもない。それで、どうしてAを目指すの?」
今現在のチェスタの働きは、シアーダなんかよりずっと良い。
シアーダは確かに強いのだけど、圧倒的にスタミナが足りない。
「冒険者で一番効率よく稼げて、一番死亡率が低いのはランクCだ。アトワもキュアンもCだろう。あの二人の強さは俺とそんなに変わらない。魔法が使える分、あっちのほうが上だ」
それは僕も感じていたことだ。どうしてこの強さでランクCにいるのかな、って。
「だからわざと、少し下のランクのクエストをこなして、Cである時間をできるだけ伸ばすんだ。何なら俺は、Aになる前に引退しようと考えてた」
「そんな……」
「もう考えてねぇよ。守るもんもできちまったし、もっと稼がないと家族を養えないからな」
ここで空気を読まずに襲いかかってきた魔物は、僕が風魔法で壁に叩きつけて討伐し、マジックボックスへ放り込んだ。
「すまん、助かった。……こんな調子じゃ暫定は外れないな」
「いまのは仕方ないよ。それで、家族のためだけじゃないよね?」
「ああ。あんなのが今のAじゃ、モルイの町が心配だからな。言っておくが、他のAは大体マイルトみたいな感じだぞ。一癖あるが、人格はちゃんとしてる。シアーダとアルダがアレなだけだ。初見で酷いの引いちまったな」
「あはは……」
僕たちとマイルト達の間には、少し距離ができていた。シアーダの足が遅すぎるのだ。つまり会話は聞こえていない。
二時間ほどして、四十九階層目への階段を見つけた。降りると小さな部屋が一つあるきりで魔物もおらず、すぐに下り階段があった。
「この構造は、もしかしたら」
マイルトの声に、チェスタは頷き、シアーダは顔をしかめた。
「何かあるんですか?」
ひとり事情が把握できない僕に、マイルトが丁寧に説明してくれた。
「上層階の魔物の再発生が早いのも、この構造の特徴です。この先にある核はおそらく、危険度A以上の魔物が取り込んでいます」
「取り込む?」
「魔物と核が一体化しているのです。つまり、魔物を倒すことが核の破壊に繋がります。核を取り込んだ魔物は、通常の危険度よりさらに強力です。万全で挑みましょう」
「結局休むんならもっとゆっくりで良かったじゃねぇか」
シアーダがわざわざ大きな声で文句を言う。
「核を取り込んだ魔物は時間が経つほど強力になります。休憩の時間が惜しかったですね」
マイルトは冷たい声でシアーダに言い放った。
シアーダが愚痴愚痴言っている間にも、武器を点検し、各種回復ポーションを飲み、軽食を摂った。
「準備はいいですか? では、行きましょう」
マイルトの号令で、まず僕とチェスタが階段を降りた。
五十階層目にはまず細長い通路があり、五十メートルほど向こうに扉が見える。
以前の反省を踏まえて、扉の近くで[心眼]を発動させる。扉の先に、大きな魔物の気配があった。攻撃するような気配はない。
僕とチェスタ、少し下がっているマイルトと、一応シアーダにも支援魔法をかけてから、扉を開け放った。
通路に逃げ道はないから、僕が前へ出て防御態勢を取る。
が、何も起きない。
広い空間の真ん中に、球体関節のついた腕が数十本生えた木人形が佇んでいる。
とっさに思い浮かんだのは千手観音だ。
「カーリー!? 危険度Sです、一旦退きましょう!」
振り返ると、マイルトが若干青ざめている。
退却命令は、一足遅かった。
「ぐあっ!」
「チェスタっ!」
カーリーの腕の一本が伸びて、チェスタを薙ぎ払った。チェスタは壁にぶつかって落ち、そのまま動かなくなった。
ヒイロが駆け寄り、チェスタの顔をぺろぺろ舐める。舐めた場所に純白の魔力がまとわりついている。聖属性の回復魔法を使っているようだ。ということは、まだ生きている。
カーリーを真っ向から睨みつける。
無意識に、奥歯を噛み締めていた。
「退かない」
「ヨイチ!?」
目の前に青い燐光が散る。僕に向かって伸びてきた腕を、剣で斬り払った。
「マイルト、下がってて。僕がやる」
「……わかりました、無理はしないように」
マイルトの声がこころなしか震えている。シアーダも何か喚いているが、知ったことか。
次々に伸びてくる腕を斬り落としながら、少しずつカーリーの方へ近づく。
カーリーはその場から動けないらしい。腕の物理攻撃が効かないと見るや、手の先から土の塊を飛ばしてきた。
風魔法で誰も居ない方向へ逸らす。
今度は頭上に大きな岩の塊を出現させた。
「砕けろ」
言葉に魔力を乗せる。岩の塊は粉々に砕け散り、破片はすべて真下のカーリーに降り注いだ。カーリーは見た目通り人形であるらしく、僕が攻撃を弾いたり防いだりしても表情が動かない。今も、石の礫が当たり身体に傷がついても全く動じていない。
「いまのは……」
マイルトのちいさな声に、やりすぎを悟った。シアーダもいるのに、僕の力をここまで見せるつもりはなかった。
チェスタがやられてから、魔力の制御ができない。
何か聞かれたら、土魔法の詠唱ってことにしておこう。
「な、なんだよ、大したことないじゃねぇか。よし、あとは俺に任せろ!」
シアーダが後ろから駆けてきて、僕を追い抜いた。
カーリーが残った腕をシアーダに伸ばしてくる。仕方ないから、風魔法の刃で全て切り飛ばしてやった。
「うおおおお!」
シアーダが上段に構えた剣を振り下ろす。一応ランクAらしく、攻撃力はそこそこ乗っている。
剣閃はカーリーの腹にある、光る石にぶつかった。
最初から「あれが核だな」とはっきりわかる石だ。もうちょっと隠すとかしないのだろうか。
しかし振り下ろされた剣はカツンと高い音をたてて弾かれ、シアーダは仰け反って尻餅をついた。
「くそっ!」
立ち上がろうとするシアーダに、カーリーの腕が振り下ろされる。
間に割って入り、剣で止め、残っていた腕を全て斬り落とした。
「よ、よし、いまのうちにっ!」
何を勘違いしたのか、シアーダは再び剣を手にカーリーの腹へ向かっていこうとした。
挫けないのは良い心がけだけど、いい加減鬱陶しい。
「動くな」
マイルトには聞こえないほどの小さな声に、魔力を乗せる。
シアーダは剣を振り上げたまま、ぴたりと静止した。
「っ!?」
成功したらしい。呻き声を上げているけど、もう無視だ。
「ヨイチ、チェスタはもう大丈夫」
ヒイロを見ると、得意げな顔をして尻尾をぶんぶん振っている。
その横では気がついたらしいチェスタが呆然と座り込んでいた。
それなら、さっさと終わらせてしまおう。
「お、まえ、手柄を独り占めする気だな!? 妙な術を解けっ!」
わー。面倒くさいなぁ、もう。
「じゃあさっさと核を破壊してくださいよ」
魔力の拘束からシアーダを解放した。シアーダはふらつきながらも、立ったまま踏みとどまった。
「おまえの剣を貸せ! 魔法でも掛かっているんだろう? 俺の剣は普通の剣だからな!」
僕の剣も普通の剣なんだけどなぁ。
でもシアーダに核を壊させなかったら更に面倒くさいことになりそうなので、魔力を流してから剣を渡した。
シアーダは魔力で強化された剣を受け取ると、僕を押しのけるように前へ出て、今度こそ核を破壊した。
ヒイロにだけ問いかけると、ヒイロはその場に伏せてふわあと欠伸をした。
「聖属性の魔力。体力回復の効果がある」
「なにそれ、やり方教えてよ」
「ヨイチならもうできると思うけど、ヨイチの魔力はとっておいたほうがいい。あとあのデブには使いたくない」
チェスタには、ヒイロが体力を回復させたことと、隠しておいてほしいことを書いたメモをこっそり見せた。
メモをちらりと見たチェスタは、一瞬だけニッと口角を上げた。
「パン美味かったよ、ご馳走さん」
それからヒイロを呼び「疲れてないか?」と声をかけながら、頭をぽんぽんと撫でていた。
「シアーダのこと、嫌か」
チェスタと僕の間に陣取ったヒイロに、こっそり話しかけた。
「キライ。嫌な臭いする」
僕もシアーダとは仲良くなれない気がしている。早く巣の攻略を終わらせたい。
「僕の魔力をとっておいたほうがいい、っていうのは?」
「マイルトって人はもう戦うつもりなさそう。このままだとヨイチひとりで戦うことになるから、チェスタを回復させた」
「僕を気遣ってくれたのか、ありがとう」
「当然だよ。ぼくはヨイチの使い魔だからね」
得意気に言うあたり、使い魔呼ばわりされたことを拗ねているわけではないようだ。
ヒイロをわしわし撫でてやると、ヒイロはうっとりと目を閉じた。
きっかり一時間休憩すると、マイルトが問答無用とばかりに立ち上がった。
「シアーダ。もしこれ以上進みたくないのであれば、ここに残るか地上に戻ってもらっても構いませんよ」
マイルトは穏やかに、しかし今すぐ決断しろと静かな迫力を見せた。
シアーダは息を呑み、数秒の間があいた。
「行くよ。行きゃいいんだろう」
残れば襲ってくる魔物は自力でなんとかしないといけないし、ここからひとりで地上を目指すには遠い。
一番の近道は、このまま降りて核を壊すことだと、一応理解しているらしい。
「進みましょう」
マイルトは僕とチェスタ、そしてヒイロには笑顔を向けた。
四十八階層目への階段は、マップの殆どを埋めてからようやく見つけることができた。
「チェスタ、大丈夫?」
「問題ない。むしろ調子がいい」
マイルトはシアーダと共に後ろを歩いている。よって僕とチェスタ、そしてヒイロが先頭にいる。
「ヨイチこそ大丈夫か? 体力のあるやつだとは思っていたが、疲れているのを見た覚えがない」
「いや、僕だって疲れるよ? あのアルダって人の相手したときとか」
「ありゃ仕方ない」
軽口を叩きながらも、周囲の警戒は怠らず、魔物が出れば連携で倒す。
「情けないですね、シアーダ。暫定Aと先日Aになったばかりの新人に、前を任せるなんて」
「うるせぇ。おまえに言われたかねぇよ、放火魔」
先程から後ろの会話は不穏の一言に尽きる。
マイルトは僕とチェスタが健闘しているのを褒めてくれて、シアーダには辛辣な言葉を投げ続けている。シアーダは負けず劣らず言い返してはいるけれど、マイルトは正論しか言っていない。
魔物討伐の合間にゆるい談笑で後ろの空気を払拭しようという試みは、すぐに折れた。
気まずい沈黙を破ってくれたのは、チェスタだ。
「俺、このあとAになれなくても、地上戻ったら正式にAを目指す」
チェスタそれは僕のいた世界では不吉なフラグが立つ言動なんだよ。
「折らなくちゃ……」
「何だ?」
「いや、なんでもない。それで、どうしてAを目指すの?」
今現在のチェスタの働きは、シアーダなんかよりずっと良い。
シアーダは確かに強いのだけど、圧倒的にスタミナが足りない。
「冒険者で一番効率よく稼げて、一番死亡率が低いのはランクCだ。アトワもキュアンもCだろう。あの二人の強さは俺とそんなに変わらない。魔法が使える分、あっちのほうが上だ」
それは僕も感じていたことだ。どうしてこの強さでランクCにいるのかな、って。
「だからわざと、少し下のランクのクエストをこなして、Cである時間をできるだけ伸ばすんだ。何なら俺は、Aになる前に引退しようと考えてた」
「そんな……」
「もう考えてねぇよ。守るもんもできちまったし、もっと稼がないと家族を養えないからな」
ここで空気を読まずに襲いかかってきた魔物は、僕が風魔法で壁に叩きつけて討伐し、マジックボックスへ放り込んだ。
「すまん、助かった。……こんな調子じゃ暫定は外れないな」
「いまのは仕方ないよ。それで、家族のためだけじゃないよね?」
「ああ。あんなのが今のAじゃ、モルイの町が心配だからな。言っておくが、他のAは大体マイルトみたいな感じだぞ。一癖あるが、人格はちゃんとしてる。シアーダとアルダがアレなだけだ。初見で酷いの引いちまったな」
「あはは……」
僕たちとマイルト達の間には、少し距離ができていた。シアーダの足が遅すぎるのだ。つまり会話は聞こえていない。
二時間ほどして、四十九階層目への階段を見つけた。降りると小さな部屋が一つあるきりで魔物もおらず、すぐに下り階段があった。
「この構造は、もしかしたら」
マイルトの声に、チェスタは頷き、シアーダは顔をしかめた。
「何かあるんですか?」
ひとり事情が把握できない僕に、マイルトが丁寧に説明してくれた。
「上層階の魔物の再発生が早いのも、この構造の特徴です。この先にある核はおそらく、危険度A以上の魔物が取り込んでいます」
「取り込む?」
「魔物と核が一体化しているのです。つまり、魔物を倒すことが核の破壊に繋がります。核を取り込んだ魔物は、通常の危険度よりさらに強力です。万全で挑みましょう」
「結局休むんならもっとゆっくりで良かったじゃねぇか」
シアーダがわざわざ大きな声で文句を言う。
「核を取り込んだ魔物は時間が経つほど強力になります。休憩の時間が惜しかったですね」
マイルトは冷たい声でシアーダに言い放った。
シアーダが愚痴愚痴言っている間にも、武器を点検し、各種回復ポーションを飲み、軽食を摂った。
「準備はいいですか? では、行きましょう」
マイルトの号令で、まず僕とチェスタが階段を降りた。
五十階層目にはまず細長い通路があり、五十メートルほど向こうに扉が見える。
以前の反省を踏まえて、扉の近くで[心眼]を発動させる。扉の先に、大きな魔物の気配があった。攻撃するような気配はない。
僕とチェスタ、少し下がっているマイルトと、一応シアーダにも支援魔法をかけてから、扉を開け放った。
通路に逃げ道はないから、僕が前へ出て防御態勢を取る。
が、何も起きない。
広い空間の真ん中に、球体関節のついた腕が数十本生えた木人形が佇んでいる。
とっさに思い浮かんだのは千手観音だ。
「カーリー!? 危険度Sです、一旦退きましょう!」
振り返ると、マイルトが若干青ざめている。
退却命令は、一足遅かった。
「ぐあっ!」
「チェスタっ!」
カーリーの腕の一本が伸びて、チェスタを薙ぎ払った。チェスタは壁にぶつかって落ち、そのまま動かなくなった。
ヒイロが駆け寄り、チェスタの顔をぺろぺろ舐める。舐めた場所に純白の魔力がまとわりついている。聖属性の回復魔法を使っているようだ。ということは、まだ生きている。
カーリーを真っ向から睨みつける。
無意識に、奥歯を噛み締めていた。
「退かない」
「ヨイチ!?」
目の前に青い燐光が散る。僕に向かって伸びてきた腕を、剣で斬り払った。
「マイルト、下がってて。僕がやる」
「……わかりました、無理はしないように」
マイルトの声がこころなしか震えている。シアーダも何か喚いているが、知ったことか。
次々に伸びてくる腕を斬り落としながら、少しずつカーリーの方へ近づく。
カーリーはその場から動けないらしい。腕の物理攻撃が効かないと見るや、手の先から土の塊を飛ばしてきた。
風魔法で誰も居ない方向へ逸らす。
今度は頭上に大きな岩の塊を出現させた。
「砕けろ」
言葉に魔力を乗せる。岩の塊は粉々に砕け散り、破片はすべて真下のカーリーに降り注いだ。カーリーは見た目通り人形であるらしく、僕が攻撃を弾いたり防いだりしても表情が動かない。今も、石の礫が当たり身体に傷がついても全く動じていない。
「いまのは……」
マイルトのちいさな声に、やりすぎを悟った。シアーダもいるのに、僕の力をここまで見せるつもりはなかった。
チェスタがやられてから、魔力の制御ができない。
何か聞かれたら、土魔法の詠唱ってことにしておこう。
「な、なんだよ、大したことないじゃねぇか。よし、あとは俺に任せろ!」
シアーダが後ろから駆けてきて、僕を追い抜いた。
カーリーが残った腕をシアーダに伸ばしてくる。仕方ないから、風魔法の刃で全て切り飛ばしてやった。
「うおおおお!」
シアーダが上段に構えた剣を振り下ろす。一応ランクAらしく、攻撃力はそこそこ乗っている。
剣閃はカーリーの腹にある、光る石にぶつかった。
最初から「あれが核だな」とはっきりわかる石だ。もうちょっと隠すとかしないのだろうか。
しかし振り下ろされた剣はカツンと高い音をたてて弾かれ、シアーダは仰け反って尻餅をついた。
「くそっ!」
立ち上がろうとするシアーダに、カーリーの腕が振り下ろされる。
間に割って入り、剣で止め、残っていた腕を全て斬り落とした。
「よ、よし、いまのうちにっ!」
何を勘違いしたのか、シアーダは再び剣を手にカーリーの腹へ向かっていこうとした。
挫けないのは良い心がけだけど、いい加減鬱陶しい。
「動くな」
マイルトには聞こえないほどの小さな声に、魔力を乗せる。
シアーダは剣を振り上げたまま、ぴたりと静止した。
「っ!?」
成功したらしい。呻き声を上げているけど、もう無視だ。
「ヨイチ、チェスタはもう大丈夫」
ヒイロを見ると、得意げな顔をして尻尾をぶんぶん振っている。
その横では気がついたらしいチェスタが呆然と座り込んでいた。
それなら、さっさと終わらせてしまおう。
「お、まえ、手柄を独り占めする気だな!? 妙な術を解けっ!」
わー。面倒くさいなぁ、もう。
「じゃあさっさと核を破壊してくださいよ」
魔力の拘束からシアーダを解放した。シアーダはふらつきながらも、立ったまま踏みとどまった。
「おまえの剣を貸せ! 魔法でも掛かっているんだろう? 俺の剣は普通の剣だからな!」
僕の剣も普通の剣なんだけどなぁ。
でもシアーダに核を壊させなかったら更に面倒くさいことになりそうなので、魔力を流してから剣を渡した。
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