目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第三章

3 転移魔法

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「力技、っつーか魔力技だな」
 チェスタが呆れながら言い放った台詞に、パーティメンバーが全員頷いた。

 リートグルクから帰ってきた翌日、チェスタの家に集まった。
 僕がこれから三ヶ月、リートグルクから呼ばれたらすぐに出向かなければいけないので、パーティのクエストに参加できないことを伝えた。
 三ヶ月ずっと待機状態になるので、クエストの報酬以外にも待機報酬が出ることになっている。
 リートグルクへ行くのに転移魔法を駆使することを説明したら、チェスタに言われたのが最初の台詞だ。

 転移魔法は、僕の想像以上に難易度が高い。前提として魔力量が一定量無いと発動しないのだ。
 魔力量は、レベルが上がることである程度上昇する。
 そういえば、僕はレベルに関してもスタグハッシュで嘘を教えられていた。
 熟練の冒険者でもせいぜい50というのが嘘だ。
 マイルトは70、チェスタは55と、冒険者ランクA以上ともなると50超えはよくいる。
 以前僕が倒したレイスキングのレベルが70だったこともあるし、人でも100まで行く人は時折いるそうだ。
 僕が現在255だというのは、とりあえず措いておく。
 魔力量の話に戻る。初期値がどんなに低い人でも、レベル50あたりで転移魔法に必要な魔力量を得ることができる。
 更にその後、転移に関するイメージが掴めないと習得できない。

 僕が一発で成功したのは、[魔眼]の効果だった。
 改めて[魔眼]を鑑定すると、以前鑑定したときは見えなかった項目のうちひとつが見えるようになっていた。


[魔眼]
 一度見た魔法を覚える


 だから、マイルトが蔦を生やす魔法を使った直後に少しだけ真似できたし、転移魔法をあっさり使うことができた。
 初見からの出来に差があったのは、僕が蔦を生やす魔法よりも転移魔法に適正があったからということらしい。
 魔法が真似できるのなら、属性も覚えられるのでは? と思い立ち、アトワが前に使った水属性の魔法を思い出して真似したら、属性に水が増えた。
 椿木の闇魔法も真似できてしまったので、現在僕の属性は火、水、風、土、光、闇、聖の七つだ。
「ヨイチは天才だな。さすがは聖獣の主ということか」
 真似したら属性ごと覚えられたことをアトワに話したら、キラキラした目で見られた。魔眼や魔人のことはなんとなく話せていないので、そういうことにしておいた。



「ヨイチと一緒できないのは残念だけど、ギルドとリートグルクの依頼じゃ仕方ないわね」
 キュアンはがっかりしつつも納得してくれた。
「ヨイチさんの穴を埋められるとは思いませんが、俺たちが頑張りますよ!」
 リヤンとミオスが声を揃えて同時に胸を叩く。さすが双子。
「あー、それなんだが、俺もしばらくクエスト請けられない」
 チェスタが頭をかきながら発言した。
「臨月なんだ」
「もうそんな時期だったか」
 チェスタの奥さん――まだ結婚してないから正式じゃないけどややこしいので奥さん、妊娠してたんだった。
「あいつの実家に任せっぱなしだったが、流石に俺も手伝わないとな」
「子供の顔がみたいって素直に言えよ」
 アトワが突っ込むと、チェスタは鼻から下を手で覆った。にやけているらしい。
「俺の代わりにしばらくパーティに参加してくれそうな奴には声をかけてある。もし困ったら、そいつらに聞いてみてくれ」
 チェスタが挙げた名前の中には、グリオとベティの名前もあった。他には、魔物の巣での時に知り合った人だとか、主にクエストで縁のあった人たちだ。
 チェスタのコミュ力すごいなぁ。



 最初の呼び出しは、待機二日目に早速だった。
 冒険者カードに配信された通達を読み、転移魔法でリートグルクへ。ギルドへは寄らず、通達情報を頼りに魔物が発生した場所へ向かう。
 体長一メートルほどはある毒蜘蛛タランチュラがわさわさいた。
「ヒッ」
 蜘蛛ってあまり得意じゃない。森の中にみっしり詰まっている様に僕が思わず怯むと、ヒイロが前に出て聖属性のブレスを吐き、大半を蹴散らしてくれた。
「ありがとう、ヒイロ」
 今更魔物相手に怯むなんて、恥ずかしい。気を取り直して弓を構え、矢を放ち、残りを瞬殺した。
 死骸は矢をフォークみたいに使って一匹ずつマジックボックスへ放り込んだ。
 ヒイロは蜘蛛の死骸を躊躇なく直に咥えて運んでくれた。
「ヨイチにも苦手なものがあるんだね」
「そりゃあるよ」
 虫が嫌いなわけではないが、蜘蛛だけは見た目がダメだ。足の数かなぁ。でも大百足オオムカデは割りと平気だった。多すぎて逆に麻痺した可能性もある。

 蜘蛛の魔物を一掃したことを連絡すると、リートグルクの冒険者ギルドに「マジで? だってまだ昼前だよ?」と疑われた。
 冒険者カードの記録と証拠品の蜘蛛を見せるために、転移魔法でギルドハウスへ向かった。


「……疑ってすみませんでした」
「すみませんでしたっ!」
 リートグルク冒険者ギルドの受付さんの一人は粛々と、もう一人は勢いよく頭を下げた。ふたりとも、僕と同じくらいの歳に見える。
 懐かしいなぁ、この感覚。モルイの冒険者ギルドでも初めて会う受付さんとは大抵このやりとりしたっけ。
「気にしてませんよ」
 僕がなるべく穏やかに言うと、二人は顔を上げてクエスト終了の手続きを行ってくれた。
 それが終わる頃、別の受付さんが僕のところへやってきた。この受付さんは今目の前で手続きをしている二人よりもベテランで、はじめて王様と会った日に城で会い、僕のことを大体知っている人だ。
「ヨイチ様、本日この後もう一クエストいけますか?」
「はい」
「はい!?」
 僕とヒイロは怪我ひとつ負ってないし、全く疲れていない。
 本当に高危険度の魔物多いんだなぁ、なんて暢気なことを考えつつ返事をしたら、同い年くらいの受付さんたちが弾かれたようにこっちを見た。
「先輩! ヨイチ様は今しがた、ランクAのタランチュラを六十五体討伐してきたばかりですよ!?」
「六十五体もいたんですね」
「どうして把握してないんですか!?」
「多かったから……」
「ですよね! それだけ大変な討伐を」
「……数えるの面倒くさくて」
「数えるのが!?」
 受付さんがいちいち大きな声で反応するから、周りの視線が集まってきた。
 ベテランさんを促して、次のクエストの話をしてもらった。
「今度は東の山の麓の……」
 冒険者カードを確認しつつ、ベテラン受付さんの説明も聞いておく。
「わかりました、行ってきます」
「ヨイチ様!? 先輩っ!!」
「あなた達、仕事しなさい」
 ベテラン受付さんが他の受付さんを抑えてる間に、僕とヒイロは再びクエストへ赴いた。

 で、小一時間程で帰ってこれた。
「……はい。危険度Aベナムモスの群れ八十八匹討伐完了、確認しました」
「お疲れさまでした。少々お待ち下さい」
 ベテラン受付さんに何か言われたのか、同い年くらいの受付さん達は怖いほど静かに手続きを行ってくれた。
「ヨイチ様はこれが普通、ヨイチ様はこれで普通」
「ヨイチ様にかかれば危険度Aは雑魚……Sでもたぶん雑魚……」
 手続きが静かになった理由、思ってたのと違うっぽい。僕の名前で自己暗示かけないでほしい。

「若手の教育が行き届かず、申し訳ありません」
 手続きを全て済ませると、ベテラン受付さんがやってきた。
「こちらこそ戸惑わせてしまって申し訳ないというか」
 お時間あるならお茶をどうですかと誘われ、ギルドハウスの一室に案内された。
 僕とベテラン受付さん、そしてヒイロのみだ。ヒイロは僕と同じ茶菓子を出されて一口で平らげると、床で丸くなった。眠ったふりをしつつ、耳はピンと立っている。
「貴方のような冒険者は数十年に一人二人は現れるのです。しばらくぶりだということはさておいて、ちゃんと教えたはずなのですがね」
「僕のような冒険者?」
「とても人とは思えぬほど強い方のことです」
 ベテラン受付さんは言葉を選ばず、すぱっと言い表した。
 この人は色々と解っているのだなと確信できた。
「僕がしばらくぶりということは、前にも僕のような人がいたのですか? 会ったことは?」
 矢継ぎ早に質問すると、ベテラン受付さんは浅く頷いた。
「私がまだ新人受付の頃に、いらっしゃいました。当時既に六十歳を超えていて、なお他のランクS冒険者とは一線を画した強さでしたね。会って間もなく引退されて、六年ほど前に亡くなったという噂を聞いております」
「そうですか……」
 僕と似たような強さの人がいるなら会ってみたかった。もしかしたら、人間以外の種族だったかもしれないし。
「その人について記録か何か、残っていませんか」
「ございますよ」
「見せてもらうことは」
「できます。ですが、ここにあるのはごく一部です。残りは城にございます」

 冒険者ギルドで見せてもらった資料には、討伐した魔物の種類や数、討伐地、攻略した魔物の巣の詳細、最終推定レベルは150等、冒険者としての功績や記録のみが記されていた。
 僕が資料を読んでいる間にベテラン受付さんが城へ連絡をとってくれて「近日中にご用意します」という返事をもらえた。

「ありがとうございました」
 資料の表紙には全て、赤いインクで『閲覧制限S・持ち出し禁止』と書かれていた。
 ベテラン受付さんの権限なのか、僕の冒険者ランクで見せてもらえたのか、どちらだろう。
 そんな資料を、時間を作って見せてもらったことへのお礼だ。
「恐れ入ります。また明日からもよろしくお願いします」

 言葉通りに、次の日もその次の日も呼び出され、一週間ほど日に1、2回クエストをこなす日が続いた。
 城へ上がり、例の人の資料を見たのは、リートグルクでクエストを請けるようになって九日目だった。

 資料が簡単に人の目に入らないようにしていた理由は、畏怖か、罪の隠蔽か。



 その人の名前は「トモエ・ヨツハラ」。
 スタグハッシュで異世界から召喚されるも、あまりの強さから「魔王」と認定されて放逐。冒険者として世界各地の魔物を討伐し続け、最終的な公式記録は「行方不明」となっていた。
「魔王って……」
 城の書庫の奥、禁帯出本を読む小部屋には僕しかいなかった。ヒイロでさえ入室を禁じられた。
「スタグハッシュが倒そうと躍起になっている存在と同じ呼び方だな」
 開いた扉には、王様が立っていた。
 王様、扉を開け放って登場するの好きなのかな。

「ヨイチ殿、お主に話したいことがある」
 案内されたのは、人払いをされた王様の私室だった。
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