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第14話 彼女が出来て初めての朝④

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「なーにが、万事解決だよ、クソお兄ちゃん。最悪だよ! 終わりだよ!! よりにもよって二人と一緒に付き合うとか……ホント最低!!!」

「……そのお兄ちゃんに少しでいいから気をつかって欲しいんだけどね……」

 顔面を飛び蹴りされ、その場に倒れていた。
 案外、中学生の蹴りにしては痛くて、数秒は動けなかった。
 運動してないってのもあるけど、俺の妹強すぎね!? おかしいよね!? ねえ!!

「ていうか、どうしてそんな最悪なことになったのよ。意味が分からないんだけど……」

「最悪って言っても俺からすれば最高なんだけどな……」

 体を起こしながら、そう言う。
 この状況は俺が選んだものだし、最高だ。

「うわ……ゲスだ。やっぱりゲスだよ。警察に行った方がいいよ」

「なんでそれで警察行かないといけないんだよ!?」

「だってお兄ちゃんだし……」

「なにそれ悪口!? 俺自身が悪口なの!? みんな使ってるけどそれ流行ってるの!?」

 ツッコミを入れる。
 
「はあ……それで、一番の原因はなによ?」

「原因?」

「なんで二人と付き合ったのかってことよ。付き合うとしても二人じゃなくて一人にするのが普通じゃない。なにがどうしてこうなったのかって言ってるのよ」

 そう言ってくる。

「……それ言わなきゃダメなのか……?」

「当たり前でしょ。同じ血が流れている者としてゴミ人間……じゃなかったお兄ちゃんの悪行はきちんと暴かないと」

「絶対俺のこと馬鹿にしてるよね! そうだよね!!」

 全くもう。本当にこの妹は。
 確かに、俺よりもすこーしばかり優秀で中学の3年間テストはずっと学年一位でスポーツもちょっとばっかし出来て、水泳の全国大会出てたりしてるけど……
 ってあれ、それ聞いてたら俺って酷いな……帰宅部だし、成績中の下くらいだし……妹を馬鹿にしようとしたら自分を卑下していた……
 なんだろうこの感じ。胸が苦しい。

「……それで、どうなのよ。早く言いなさいよ」

「……それは」

 二人がいる場で言いたくない。
 というか言えない。
 こんなことを言えない……

「颯ちゃん……」

「先輩……」

 隣をみると、さっきまで伏せていた二人が俺の方を注目していた。
 うわ……ホントにキツイな。
 言いたくない!
 
 しかし、二人は期待のまなざしを向けて来る。
 ……仕方ないな。言うしかないようだ。男を見せよう。
 
「……この前、みんなで買い物に行ったんだよ」

「え? デートに行ったの? 急にそんな自慢をされても……」

「いや、デートじゃないから。ただの買い物だから!」

「じゃあ何よ。何なのよ。いい加減にしなさいよ、さっきからふざけたりして」

「いい加減にして欲しいのはそっちなんだけど……」

「はいはい、そういうのいいから。もうあきたから。早く説明してよ。クソお兄ちゃん」

 そう言ってくる。
 ……とりあえずは無視して話を進めよう。
 これじゃあ、いつまで経っても終わらないしな。

「……話を戻すけど、一緒に買い物に行って、遊んで、その後に思ったんだ」

「思った?」

「ああ、こいつらともっと一緒に居たいなって」

「「!?」」

 3人全員が驚いた顔をする。 
 俺は説明をする。

「……最初はただ、楽しいなっていうか、面白いっていうか。そんな感覚だったんだ。でも大樹……友達と話してみてわかった。俺は楽しいんじゃなくて、二人とも一緒に居たいんだって。どちらか一人じゃダメなんだって」

「……」

 桜はなにも言わないで黙っている。
 正直、恥ずかしかった。でもきちんと俺の気持ちを言えた。
 あの時――パフェを食べに行った時の高ぶるような感情はただ単に一緒に居たかっただけなのだ。
 それを俺は拒否して、恥ずかしがっていただけだった。

「な、なんか言えよ」

「……ふん。知らないわよ、馬鹿。そんなことを熱弁されても私が困っちゃうじゃない」

「いや、そんなこと言われても……」

「まあ、いいわ。認めるってわけじゃないけど、とりあえずお兄ちゃんの気持ちは伝わった。……別に認めたわけじゃないからね!」

 ツンデレっぽいことを言い出す。
 そして、そのままリビングから出て行き、自分の部屋に帰って行った。

「……これで、私たちも大丈夫ってことよね。もう、悪口も言われずに済むってことよね」

「そう、みたいですね……」

 二人も元気が戻ったようだ。
 良かったよかった。

「……全く、先輩ったら恥ずかしいこと言っちゃって」

「本当にその通りよ、颯ちゃん。なによ、あの熱の入れようは。あんなこと私たちに一度も言ってなかったのに」

「ごめん。……恥ずかしいからさ言えなかった」

「でも、カッコよかったですよ。大好きです!」

「まあ、カッコイイといっても過言ではなかったわね」

「そ、そうかよ……」

 二人から褒められる。
 はあ……なんて俺は幸せ者なんだ。
 そう思ったの束の間。

「……ってさっきから思ったんだけど、今って何時だ?」

「時間ですか? えっと……」

 凛音ちゃんが携帯で時間を確認する。

「あ、あれ、おかしいな。私の壊れてるのかな……」

 どうやら様子がおかしい。
 ……なにやら嫌な予感がする。

「い、今の時刻……8時10分なんですけど……」

 おいおい、マジか。 
 てことはもう予鈴の時間……

「またかよおおおおおおおおおおおおおお!!」

 学校に遅刻した。 
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