孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07

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第35話 決着

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 体がとてもだるい。目をあけるとそこは地面だった。
 どれくらい眠っていたのかわからない。
 気持ち悪いし、頭も痛い。

 ……そうか、私は負けたんだ。

 そこで私は理解する。
 戦って……いや、正確にいえば相手にもされず負けた。
 少し体を起こし、ファクトを探す。

 ……守れなかった。なにも出来ず、歯が立たず、やられてしまった。
 悔しい思いと自分を許せない思いで心がいっぱいになる。

 もう少し強ければ……
 もう少し動けていれば……
 もう少し助けを呼んでいれば……

 そんな妄想をしてももう遅い。
 ラグナロクは負け、私も負けた。
 ファクトは無事なのかと言われれば、その可能性は限りなく低いと思う。

 それでも助かっている可能性を信じて前を向く。

「……え? なによ、これ」

 起き上がったすぐ目の前には腕が数本落ちていた。
 血がダラダラと流れている。
 ファクトはこういう系は苦手だが、私は普通に見ながらでもご飯を食べれると思う。
 だが、いまそんなことはどうでもいい。問題なのはどうして腕がこう何本も何本も落ちているのかだ。

「誰かが助けにきたのかしら……」

 そう考えるが、そうだとしてもおかしい。
 だってあのギルドで一番強い、ラグナロクが負けた相手にここまで戦える人なんていないと思うからだ。

「いったい誰がやったのよ……」
 
 興味がわく。
 本当に存在するなら、今度稽古でもつけてもらいたい。
 このゴブリンに勝てるくらい強くなりたい。ファクトを守れるくらいには……なりたい。

 そう思い、上をむく。
 そこで私は見つけた。

「…………ファクト?」

 そこにいたのは空を飛んでいたファクトだった。
 見間違えるはずがない。
 私の目はいい方だ。
 だから間違えてはいないはず……じゃあ、どうして……

「……ファクトが空を……飛んで……いるのよ」

 意味がわからない。
 これは現実なのか。夢なのか。

「……あれ、急に……眠たく……」

 体がずどんと重くなる。無理していたのだ。

「ファクト……」

 そんなことを考える間もなく、私の意識は遠くなっていった。

---------------------

「ふぅ……頑張れば行ける!」

 空を飛びながらそう思う。
 目の前には腹に風穴の空いたデカいゴブリンがいた。

 空いた腹は元に戻ることはない。
 なぜなら、再生を腹の中に石を入れることで妨害しているからだ。
 知ったのは偶然だが、これは大きい。
 こいつを倒せる唯一の方法だ。

「まずは行動を封じないとな」

 動かれると厄介極まりない。
 エレクトロを使えば一時的には止まるだろう。
 しかし、一時的じゃダメだ。もっと時間が必要だ。
 それに一番の理由は、匂いだ。めちゃ焦げ臭い。さっき嗅いだからわかる。
 だから却下だ。

「そうなると……足だな」

 空から降りる。
 そして。

「よっこらせっと。おお、案外考えた通り行けるもんだな。スキルに感謝だぜ!」

 近くにあった木を根っこから引っこ抜く。 
 それではデカすぎるので半分くらいの大きさで分け、片手片手でそれを持つ。
 重いから無理かな……とか思っていたが、そこまで重くはない。ちょっと動きずらいくらいだ。
 これもスキルの力だろう。ありがたい。

「行くぜ。もうこの辺で終わらせよう」

 ゴブリンと向かい合う。
 いまだ腹の傷に苦しんでいるようだった。
 それでも遠慮なくいかせてもらおう。
 
 ドン!
 
 足にぐっと力を入れて、地面をける。
 勢いが止まらない間にゴブリンの目の前にいた。

「はああああああ!」

 勢いを止めずに、そのままゴブリンの足を蹴り飛ばす。
 足がちぎれて、中の肉が剥き出しになる。
 俺はその瞬間を見計らって、片手の木材を中に詰め込み、押す。
 
「ぐううああああああああああ」

 苦しそうにするが、再生はしない。 
 やっぱり腹と一緒の原理らしい。
  
 片足を失ったことで、ゴブリンは勢いよく後ろに倒れる。
 ドゴーン、とデカい音がしたせいで近くにいた鳥たちはいっせいに逃げ出した。

「……なんか段々とやっているうちにムカついてきた。なんでこんな奴にミクとかラグナロクさんとか町の人たちとかが巻き込まれて、やられなくちゃいけねえんだ。絶対に逃がさねぇ。これくらいじゃ、まだ足りねぇぞクソ野郎」

 もう一本の足も同じようにする。
 取って、中に木を入れた。
 いままでこんなことをするなんて思いもよらなかった。

「ううううぅうううぅ……」

 残っている腕でどうにか立ち上がろうともがいている。
 でも立ち上がれない。そりゃそうだ。腕だけで立てるわけがない。

 残酷だ。こいつは俺にやられたのを恨んで、そしてこうなった。
 あの中にはこいつの家族がいたのかもしれない。
 それを俺たちはなにも考えず殺した。
 俺が相手側だったと思うと胸がいたい。

 しかし、俺が悪かと問われれば違うと思う。
 元々ゴブリンが洞窟に住み着いてそれをギルドに依頼されたのを受けたに過ぎない。
 だから悪ではない、思う。

 しかもこいつは他の人に迷惑をかけた。
 俺だけじゃない。色んな人に対して暴れまくった。
 迷惑をかけたのだ。だからムカついている。
 この考えは少々理不尽な気もする。……だけど、俺が悪いわけじゃない。

 もうゴブリンは動けない。
 しかも足を取ったことで微妙に体の大きさが小さくなった。

 もう……終わらせよう。
 いま、ここで。
 こんなことはもう無くしてしまった方がいい。
 苦しまないように殺そう。

 そう思い、空を飛んで、空中で体を反らす。遠心力を利用する。
 その場で力をためる。
 ためる。ためる。ためる。ためる。ためる。
 絶対に殺せるようにためる!

「ファイアーボール」

 小さくためながら言う。
 ファイアーボールを洞窟の中のように打たずに球のまま出した。

「これで終わらせる」

 そしてファイアーボールを薄くのばして拳にがっぽりと入るようにした。
 
「……じゃあな」

 空から降り、ゴブリンに近づいていく。
 勢いもつけ、力は増加していく。

「はあああああああああああああああああ!」

 そしてそのままその拳をゴブリンにおろした。
 衝撃波が出るほど強く、物凄い音とともにゴブリンの息の根が止まる。
 体が完全に分離し、ファイアーボールの炎でどんどんと燃えていき、消え去った。

「終わった。終わったんだ……」

 はぁ……とため息をつく。

「……ミクのところにいかなきゃいけないのに……足が動かねぇ」

 安堵と疲れで体が思うように動かない。
 体は震えている。

「まあ……いっか。その辺は救助隊とかがきて、なんとかしてくれるだろ」

 体を倒す。
 もう一歩も動けそうになかった。

 意識が遠のいていく。
 戦場の中、初めて悔しさがなく眠りについた。
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