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第1章『始まりの村と魔法の薬』編
第30話 喪失/Death
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背中にエレリアを背負うと、ミサは霧の外側へ脱出するため歩を進め出した。
彼女が動き出すと共に、白い影たちの視線が一斉にミサに注がれた。
「おまえらの相手は俺だっ!!」
対して、彼女たちを守るようにソウヤは敵の気を引き、愛剣の『エクスカリバー』の刃先を敵に向けた。
戦況としては、圧倒的に相手の方が自分たちより上だ。だが先程のエレリアのように敵全員を一撃で駆逐することができずとも、せめてこの状況だけでも、この剣があればなんとかなるはずだ。
『何事もなく無事にコックル村に帰れますように……』と心の中で神に祈ると、ソウヤは遂に戦闘を開始した。
「はぁ、はぁ……」
彼が敵と戦っている間、ミサも自分とほぼ同じ体格のエレリアをおんぶしたまま、小さな汗を額に浮かべ足を引きずるようにして包まれた霧の外へ進んで行っていた。
本音を言ってしまえば、エレリアを背中で支えて立っているだけで、ミサにとっては精一杯の所業だった。
だが、それでもミサは己を激しく奮い起こし、自身の足を一歩ずつ前へ踏み出した。
「ミサ、頑張って!」
「うん、ありがと、リアちゃん……」
この状況において、エレリアという少女の存在は、ミサの何よりもの行動の糧になっていた。
『初めての親友』という、ミサの悲願の願いを叶えてくれただけにとどまらず、彼女の存在はミサ自身の生活において無くてはならない存在になっていた。もはや、エレリアは『友達』ではなく、大切な『家族』の一員なのだ。
元はと言えば、このポーション作成の依頼を快諾できたのも、迷っている自分の背中をエレリアが押してくれたからだ。彼女がいなければ、ポーション作成はおろか、自分の人生すらも違ったものになっていただろう。それも、悪い意味でだ。
エレリアとの出会いが、ミサ自身の人生の分岐点だったのだ。
次々に、エレリアへの強い思いが湧き出してくる。
ミサは一人で少し気恥ずかしくなりながらも、着実に霧を抜けるため前進し続けた。
すると、その時だった。
「あっ、しまった!!」
なんと、薄暗い邪悪な霧の奥から白い影がゆらゆらと現れたのだ。それは本当に一瞬の出来事だった。
予想外の事態により、ミサは急いで足の動きを止める。
「や、やばい……」
最悪なことに、丸腰の状態で敵と目の前で鉢合わせになってしまった。ミサは両手を塞がれており、エレリアは魔力を使い果たしてしまい動けない。
敵は見たところ一体だけのようだが、ミサたちを視界に入れると、どこからともなく十字架の短剣を取り出し、おぼつかない足取りでじりじりと距離を詰めてきた。
「ソウくん! 助けて!」
切迫した様子ですかさずミサは叫んだが、彼からは何の反応もない。とうやら彼女の助けを呼ぶ声は遠くで戦うソウヤの耳には届いていないようだった。
まさに万事休す。
追い込まれたミサは後退しつつも鋭く敵を睨みつけ今やれる精一杯の抵抗を試みたが、そもそも明確な意思を宿していない白い影にそのような威嚇攻撃は効かなかった。
その間も、ミサは急いで敵を撃退するための作戦を必死に頭で考えようとするが、極度の焦燥感が脳内を混乱のノイズでかき乱し、何の打開策も思いつくことができなかった。それどころか、ゆっくりと忍び寄る死の恐怖と絶望感に打ちひしがれて、今にも気を失ってしまいそう気分だった。
「ミサ! しっかりして!」
すると、背後でエレリアが叫んだ。その声にミサはすんでのところで意識を覚醒させる。
「ちょっとこれ借りるよ!」
そう言うと、エレリアはミサにおんぶされたまま、彼女の腰に提げてあったピンク色のポーションを手に取った。
それは、何かあった時のためにと腰にぶら下げておいた小さな治療用のポーションだった。それも、この村に着くや否やいきなり発生したエレリアの謎の体調不良もたちまち回復させた、ミサが作ったポーションの中でもかなり上級の回復薬だ。
だが当然、敵に投げつければ、敵がポーションの効力を受けてしまう。
「ダメ!! それは回復用の……!」
「喰らえっ!!」
ミサが慌てて制止するが、すべて言い終える前にエレリアは既に手からポーションを離してしまっていた。
空中を回転し、エレリアによって勢いよく投げつけられたポーションは白い影に向かって放物線を描くようにして飛んでいき、そのまま地面に衝突した。
瓶は粉々に粉砕され、ガラスの破片と共に飛び散った薬液が敵の身体に付着する。
「あぁ……」
回復用のポーションを敵に投げつけたわけだから、理論上はプラスの効果を敵は受けたことになる。
しかしミサの懸念とは裏腹に、実際の反応は予想だにしないものだった。
キャアアアアアアアアア!!!
なんと、目の前でポーションの液体を浴びた白い影が青い炎に包まれ突如として激しく燃えだしたのだ。突然の出来事に、まったく理解が追いつかないミサ。
「えっ、なんで!? 何が起きてるの……?」
今エレリアが投げつけたポーションの材料に可燃性の素材は一つも使用されていないはずだ。それどころか、病人すらも安心して服用できるようにするため、材料には体内に摂取しても無害のものばかりが使われている。
それなのにも関わらず、ポーションの液に触れた敵は今激しい炎に焼かれ苦しんでいるではないか。何かミサの知らない化学反応が起きているのだろうか。今の段階で詳しい真相は分からない。
「今のうちに行こう、ミサ!!」
呆気に取られているミサに、エレリアが背後から促しの声をかけた。
「はっ、そ、そうだね!」
ポーション師の端くれとしては、今目の前で起こっている現象についてもっと深く観察し続けていたいのが本心だ。
だが、今はこの場から早く逃げなければならないということを改めて自分に強く言い聞かせると、ミサは高ぶる好奇心を抑えながら、聖なる業火に焼かれ苦しんでいる白い影の横を通り抜け、さらに霧の向こうへ足を進めて行った。
「見て、リアちゃん! そろそろ霧を抜けそうだよ!」
動けなくなったエレリアを背負い、その少女の重量を小さな身体で支えながらゆっくり歩き続け、ついにミサは謎の濃霧の外側へ辿り着こうとしていた。
背後を見ても、あの白い影は追いかけて来てはいないようだった。まさか、回復用のポーションがあのように武器として使えるなんて夢にも思わなかったが、とにかく助かってよかった。今、自分たちは生きているのだ。
霧もだいぶ薄くなり、村の景色が次第に見え始めてきた。つまり、包まれていた霧からついに抜け出したのだ。
「ありがと、ミサ。そろそろ自分で歩けそう」
すると、エレリアはミサの返答も待たずにミサの体から軽やかに離れ、漆黒に染まった地面に足をついた。見たところ顔色もだいぶ良くなっている。
「もう、具合は大丈夫なの?」
「うん、まぁね。まだちょっと身体はダルいけど、歩くぐらいならできそうかも」
「そっか、なら良かったよ……」
エレリアが体調の無事を伝えると、ミサは深く安堵すると同時に、溜まっていた疲労をため息として吐き出し、全身を引き伸ばすように大きく背伸びをした。
ここまで重労働に似た過酷な体験をしたのは久々だ。なんと言ったって、自分とほぼ同じ体重の少女をここまで背負ってきたのだ。よくぞ諦めずここまで辿り着けたのだと、ミサは自分自身を褒めてやりたくなる。
「それにしてもソウヤ、遅いなぁ」
すると、エレリアが背後を見渡してぼそりと呟いた。
依然として、自分たちの後ろには邪悪な濃霧が渦巻いており、その中にまだソウヤも残っているはずだ。彼は自らが囮になり、ミサたちに逃れるチャンスを与えてくれた。そして、ミサは彼の言葉を信じて、ここまで逃げることができた。
「ソウくん!! 私たちは無事だよ! 早く来て!!」
ミサは霧の中へ向かって、自分たちの安否を伝える趣旨の言葉を叫ぶ。だが、なぜか先ほどからソウヤの声が一つも返ってこない。それどころか、霧の中からは誰の声も聞こえてこないのだ。
不気味なほど静寂に包まれている。
普通であれば、何かしらの音が聞こえてきてもいいはずだ。しかし、霧の中からは風の音すらも聞こえてこない。あまりにも異様だ。
「どうしよう……。もしかしたら、ソウくんは……」
彼の安否を案じミサが浮かない表情を見せた、その時だった。
突如として、霧の中から耳をつんざくほどの爆発音が響き渡った。
「何!?」
突然の事態に、ミサとエレリアは慌てて耳を両手で塞ぎ、そのまま反射的に臨戦態勢をとった。未だに変わらず湧き上がっている霧の中から、もしかしたらあの白い影が襲ってくるかもしれない。
ミサたちはひっそりと息を殺し、来たるべき時に備え意識を集中させた。
「……来るならこい!!」
辺りは一気に静寂に包まれ、ただ自身の荒い鼻息と鼓動の音だけが聞こえてくる。
「……」
しかし、いくら待てど敵の姿は現れなかった。念を入れてしばらく霧の奥へ注意を向けるが、それでも奴らの追い討ちを仕掛けてくる様子はなかった。
「どうやら、今のところは大丈夫みたい……」
もうこれ以上の敵からの追撃はないと判断したエレリアは肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろす。
その時、ミサの脳裏にある懸念がよぎった。
おかしい。あまりにもおかしい。もしかしたら、ソウヤは奴らにやられてしまったのではないか。
何せ、これだけ待っても、いくら彼の名を叫んでも、一向に彼からの返答が返ってこないのだ。
次第に、絶望が胸の内を深く侵食していき、視界が暗闇に染まっていく。
「やっぱり、あの時止めとけばよかったんだ……!」
そして、気づくとミサは一気に激しい後悔の念に襲われていた。頭を抱えて、地面にふさぎ込む。
「あぁ、私ったら! 何てことしたんだ! ソウくんがあんな奴らに勝てるわけなかったんだよ!!」
「ミサ……」
後ろからエレリアの呟きが聞こえてくるが、彼女の気遣いにかまっている暇などミサにはなかった。
久々に味わう死という喪失感。さっきまで一緒にいたのに、もう二度と会うことはできないというのか。
そう思うと、ふいに大量の涙が溢れ出てきた。危険だと分かっていながら、こんな呪われた廃村に足を踏み入れるべきではなかったのだ。
「ちょっと……!」
またしてもエレリアが自分を呼び止めてくれているようだ。しかし、それでもミサの涙は止まらなかった。彼の死と向き合えば向き合うほど目の奥が熱くなって、もはや自分自身も消えてしまいたくなる。
「ちょっと、ミサ……!」
「あぁ、ソウくんのバカ! 私たちを置いて行っちゃうなんてぇ!!」
ミサは彼を激しく責めるように、夜空に向かってその悲しみを精一杯に嘆いた。
「バカで悪かったな」
すると、後ろから何者かの呟きが聞こえた。
「へっ……?」
明らかに、エレリアの声ではない。男の声だ。
「も、もしかして、その声は……」
彼女が動き出すと共に、白い影たちの視線が一斉にミサに注がれた。
「おまえらの相手は俺だっ!!」
対して、彼女たちを守るようにソウヤは敵の気を引き、愛剣の『エクスカリバー』の刃先を敵に向けた。
戦況としては、圧倒的に相手の方が自分たちより上だ。だが先程のエレリアのように敵全員を一撃で駆逐することができずとも、せめてこの状況だけでも、この剣があればなんとかなるはずだ。
『何事もなく無事にコックル村に帰れますように……』と心の中で神に祈ると、ソウヤは遂に戦闘を開始した。
「はぁ、はぁ……」
彼が敵と戦っている間、ミサも自分とほぼ同じ体格のエレリアをおんぶしたまま、小さな汗を額に浮かべ足を引きずるようにして包まれた霧の外へ進んで行っていた。
本音を言ってしまえば、エレリアを背中で支えて立っているだけで、ミサにとっては精一杯の所業だった。
だが、それでもミサは己を激しく奮い起こし、自身の足を一歩ずつ前へ踏み出した。
「ミサ、頑張って!」
「うん、ありがと、リアちゃん……」
この状況において、エレリアという少女の存在は、ミサの何よりもの行動の糧になっていた。
『初めての親友』という、ミサの悲願の願いを叶えてくれただけにとどまらず、彼女の存在はミサ自身の生活において無くてはならない存在になっていた。もはや、エレリアは『友達』ではなく、大切な『家族』の一員なのだ。
元はと言えば、このポーション作成の依頼を快諾できたのも、迷っている自分の背中をエレリアが押してくれたからだ。彼女がいなければ、ポーション作成はおろか、自分の人生すらも違ったものになっていただろう。それも、悪い意味でだ。
エレリアとの出会いが、ミサ自身の人生の分岐点だったのだ。
次々に、エレリアへの強い思いが湧き出してくる。
ミサは一人で少し気恥ずかしくなりながらも、着実に霧を抜けるため前進し続けた。
すると、その時だった。
「あっ、しまった!!」
なんと、薄暗い邪悪な霧の奥から白い影がゆらゆらと現れたのだ。それは本当に一瞬の出来事だった。
予想外の事態により、ミサは急いで足の動きを止める。
「や、やばい……」
最悪なことに、丸腰の状態で敵と目の前で鉢合わせになってしまった。ミサは両手を塞がれており、エレリアは魔力を使い果たしてしまい動けない。
敵は見たところ一体だけのようだが、ミサたちを視界に入れると、どこからともなく十字架の短剣を取り出し、おぼつかない足取りでじりじりと距離を詰めてきた。
「ソウくん! 助けて!」
切迫した様子ですかさずミサは叫んだが、彼からは何の反応もない。とうやら彼女の助けを呼ぶ声は遠くで戦うソウヤの耳には届いていないようだった。
まさに万事休す。
追い込まれたミサは後退しつつも鋭く敵を睨みつけ今やれる精一杯の抵抗を試みたが、そもそも明確な意思を宿していない白い影にそのような威嚇攻撃は効かなかった。
その間も、ミサは急いで敵を撃退するための作戦を必死に頭で考えようとするが、極度の焦燥感が脳内を混乱のノイズでかき乱し、何の打開策も思いつくことができなかった。それどころか、ゆっくりと忍び寄る死の恐怖と絶望感に打ちひしがれて、今にも気を失ってしまいそう気分だった。
「ミサ! しっかりして!」
すると、背後でエレリアが叫んだ。その声にミサはすんでのところで意識を覚醒させる。
「ちょっとこれ借りるよ!」
そう言うと、エレリアはミサにおんぶされたまま、彼女の腰に提げてあったピンク色のポーションを手に取った。
それは、何かあった時のためにと腰にぶら下げておいた小さな治療用のポーションだった。それも、この村に着くや否やいきなり発生したエレリアの謎の体調不良もたちまち回復させた、ミサが作ったポーションの中でもかなり上級の回復薬だ。
だが当然、敵に投げつければ、敵がポーションの効力を受けてしまう。
「ダメ!! それは回復用の……!」
「喰らえっ!!」
ミサが慌てて制止するが、すべて言い終える前にエレリアは既に手からポーションを離してしまっていた。
空中を回転し、エレリアによって勢いよく投げつけられたポーションは白い影に向かって放物線を描くようにして飛んでいき、そのまま地面に衝突した。
瓶は粉々に粉砕され、ガラスの破片と共に飛び散った薬液が敵の身体に付着する。
「あぁ……」
回復用のポーションを敵に投げつけたわけだから、理論上はプラスの効果を敵は受けたことになる。
しかしミサの懸念とは裏腹に、実際の反応は予想だにしないものだった。
キャアアアアアアアアア!!!
なんと、目の前でポーションの液体を浴びた白い影が青い炎に包まれ突如として激しく燃えだしたのだ。突然の出来事に、まったく理解が追いつかないミサ。
「えっ、なんで!? 何が起きてるの……?」
今エレリアが投げつけたポーションの材料に可燃性の素材は一つも使用されていないはずだ。それどころか、病人すらも安心して服用できるようにするため、材料には体内に摂取しても無害のものばかりが使われている。
それなのにも関わらず、ポーションの液に触れた敵は今激しい炎に焼かれ苦しんでいるではないか。何かミサの知らない化学反応が起きているのだろうか。今の段階で詳しい真相は分からない。
「今のうちに行こう、ミサ!!」
呆気に取られているミサに、エレリアが背後から促しの声をかけた。
「はっ、そ、そうだね!」
ポーション師の端くれとしては、今目の前で起こっている現象についてもっと深く観察し続けていたいのが本心だ。
だが、今はこの場から早く逃げなければならないということを改めて自分に強く言い聞かせると、ミサは高ぶる好奇心を抑えながら、聖なる業火に焼かれ苦しんでいる白い影の横を通り抜け、さらに霧の向こうへ足を進めて行った。
「見て、リアちゃん! そろそろ霧を抜けそうだよ!」
動けなくなったエレリアを背負い、その少女の重量を小さな身体で支えながらゆっくり歩き続け、ついにミサは謎の濃霧の外側へ辿り着こうとしていた。
背後を見ても、あの白い影は追いかけて来てはいないようだった。まさか、回復用のポーションがあのように武器として使えるなんて夢にも思わなかったが、とにかく助かってよかった。今、自分たちは生きているのだ。
霧もだいぶ薄くなり、村の景色が次第に見え始めてきた。つまり、包まれていた霧からついに抜け出したのだ。
「ありがと、ミサ。そろそろ自分で歩けそう」
すると、エレリアはミサの返答も待たずにミサの体から軽やかに離れ、漆黒に染まった地面に足をついた。見たところ顔色もだいぶ良くなっている。
「もう、具合は大丈夫なの?」
「うん、まぁね。まだちょっと身体はダルいけど、歩くぐらいならできそうかも」
「そっか、なら良かったよ……」
エレリアが体調の無事を伝えると、ミサは深く安堵すると同時に、溜まっていた疲労をため息として吐き出し、全身を引き伸ばすように大きく背伸びをした。
ここまで重労働に似た過酷な体験をしたのは久々だ。なんと言ったって、自分とほぼ同じ体重の少女をここまで背負ってきたのだ。よくぞ諦めずここまで辿り着けたのだと、ミサは自分自身を褒めてやりたくなる。
「それにしてもソウヤ、遅いなぁ」
すると、エレリアが背後を見渡してぼそりと呟いた。
依然として、自分たちの後ろには邪悪な濃霧が渦巻いており、その中にまだソウヤも残っているはずだ。彼は自らが囮になり、ミサたちに逃れるチャンスを与えてくれた。そして、ミサは彼の言葉を信じて、ここまで逃げることができた。
「ソウくん!! 私たちは無事だよ! 早く来て!!」
ミサは霧の中へ向かって、自分たちの安否を伝える趣旨の言葉を叫ぶ。だが、なぜか先ほどからソウヤの声が一つも返ってこない。それどころか、霧の中からは誰の声も聞こえてこないのだ。
不気味なほど静寂に包まれている。
普通であれば、何かしらの音が聞こえてきてもいいはずだ。しかし、霧の中からは風の音すらも聞こえてこない。あまりにも異様だ。
「どうしよう……。もしかしたら、ソウくんは……」
彼の安否を案じミサが浮かない表情を見せた、その時だった。
突如として、霧の中から耳をつんざくほどの爆発音が響き渡った。
「何!?」
突然の事態に、ミサとエレリアは慌てて耳を両手で塞ぎ、そのまま反射的に臨戦態勢をとった。未だに変わらず湧き上がっている霧の中から、もしかしたらあの白い影が襲ってくるかもしれない。
ミサたちはひっそりと息を殺し、来たるべき時に備え意識を集中させた。
「……来るならこい!!」
辺りは一気に静寂に包まれ、ただ自身の荒い鼻息と鼓動の音だけが聞こえてくる。
「……」
しかし、いくら待てど敵の姿は現れなかった。念を入れてしばらく霧の奥へ注意を向けるが、それでも奴らの追い討ちを仕掛けてくる様子はなかった。
「どうやら、今のところは大丈夫みたい……」
もうこれ以上の敵からの追撃はないと判断したエレリアは肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろす。
その時、ミサの脳裏にある懸念がよぎった。
おかしい。あまりにもおかしい。もしかしたら、ソウヤは奴らにやられてしまったのではないか。
何せ、これだけ待っても、いくら彼の名を叫んでも、一向に彼からの返答が返ってこないのだ。
次第に、絶望が胸の内を深く侵食していき、視界が暗闇に染まっていく。
「やっぱり、あの時止めとけばよかったんだ……!」
そして、気づくとミサは一気に激しい後悔の念に襲われていた。頭を抱えて、地面にふさぎ込む。
「あぁ、私ったら! 何てことしたんだ! ソウくんがあんな奴らに勝てるわけなかったんだよ!!」
「ミサ……」
後ろからエレリアの呟きが聞こえてくるが、彼女の気遣いにかまっている暇などミサにはなかった。
久々に味わう死という喪失感。さっきまで一緒にいたのに、もう二度と会うことはできないというのか。
そう思うと、ふいに大量の涙が溢れ出てきた。危険だと分かっていながら、こんな呪われた廃村に足を踏み入れるべきではなかったのだ。
「ちょっと……!」
またしてもエレリアが自分を呼び止めてくれているようだ。しかし、それでもミサの涙は止まらなかった。彼の死と向き合えば向き合うほど目の奥が熱くなって、もはや自分自身も消えてしまいたくなる。
「ちょっと、ミサ……!」
「あぁ、ソウくんのバカ! 私たちを置いて行っちゃうなんてぇ!!」
ミサは彼を激しく責めるように、夜空に向かってその悲しみを精一杯に嘆いた。
「バカで悪かったな」
すると、後ろから何者かの呟きが聞こえた。
「へっ……?」
明らかに、エレリアの声ではない。男の声だ。
「も、もしかして、その声は……」
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