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転んで青い空に気づくこともある
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しおりを挟む「あ……わたくしっ……」
部屋の扉を閉めた瞬間、レティシアはドレスが汚れるのも構わずに床にへたり込んでさめざめと泣き出した。
きっと道すがら自分がしたことを振り返っていたのだろう。冷静になった彼女は、サーシャを傷つけたこと、それを謝ることもできなかったこと、なにもかも上手くできない自分の惨めさに涙を流すしかなかった。
彼女の肩を抱きながら、リリアーナもかなりの責任を感じていた。
もう少しちゃんと調べていれば。レティシアが安心できるように配慮していれば。レティシアが頼れるのはリリアーナだけだったのに、その自分がしっかりしていなかったから。
レティシアが泣きじゃくる声だけが部屋中に響いている。リリアーナは彼女になんと声をかけたらいいか分からなかった。本当は一歩踏み出したその勇気を称えたかったけれど、今の彼女にはきっと届かない。励ましも、慰めも、どんな言葉も。
だけど私は謝らなければならない、とリリアーナは思った。いや、謝りたかった。届かないとしても。それが今リリアーナにできる精一杯だから。
意を決したリリアーナが口を開こうとしたその時だった。
ドンドンドン!というノックの音。続いてハキハキとした少女の声が聞こえてくる。
「入るわよ」
止める間もなく扉は開かれてしまう。リリアーナは慌ててレティシアの頭にケープをかけて彼女の泣き顔を隠した。
そして許可もなく入室してきた不躾な女は何者なのか、と訝しげに扉の方を見やる。
そこに立っていたのは────サーシャだった。
「これ……あなたのでしょう、レティシア」
彼女が手にしていたのはレティシアの手帳だった。立ち上がった時なにか色々落ちたとは思っていたが、手帳まで落としてきていたなんて。
「あ、ありがとう存じます!」
リリアーナは飛び上がって手帳を受け取った。レティシアは驚いて涙が引っ込んだようで、ケープを被ったまま震えている。
「ねえレティシア……あれ、わざとじゃないんでしょう?」
レティシアがビクリと体を震わせる。サーシャは気まずそうに目を逸らしながら続けた。
「ごめんなさい。見るつもりはなかったんだけど、見えてしまったの。手帳に書いてあったこと」
サーシャは跪いて、レティシアのケープをそっと外した。お茶会の時の冷たい表情とはかけ離れた、泣き崩れた顔が現れる。サーシャは少し驚いたようだったが、すぐに小さく笑って言った。
「私のドレス、褒めてくれてありがとう」
レティシアは、また泣き出しそうになるのを堪えた。言わなくちゃ。今言えなかったら、きっと私は変われない。変わらなくちゃ。大丈夫、たくさん練習したんだもの。
そして必死に言葉を絞り出す。その声はか細かったけれど、確かにサーシャの耳に届いた。
「……ごめん、なさい」
サーシャは彼女の母にそっくりの太陽のような笑顔でニコッと笑った。レティシアは彼女の笑顔を眩しいと思ったが、決してわずらわしいとは思わなかった。その暖かい笑顔を、そのまま受け止める。
「いいのよ。すぐに洗ってもらったからシミにもならなかったし。私こそドレスを貸してもらってごめんなさいね」
サーシャは立ち上がると2人の前でクルリと一回転して見せた。今日の空のように晴れやかな、スカイブルーのドレスがフワリと翻る。
「どう? これも似合ってるでしょう」
ニッコリ笑ったサーシャに、レティシアは練習中のぎこちない笑顔で、こくり、と頷いたのだった。
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