a pair of fate

みか

文字の大きさ
62 / 226
【第一部】

2

しおりを挟む



会長さんは眉を下げて困ったように笑う。


「すまないね。ゴツい男共がスーツで怖いだろう?でも僕は下品なヤクザが嫌いでね」

「やっ、あの、もっとオラオラしてるかと思っ、…たので、スーツで安心?しました…っ」


バクバク鳴る心臓がうるさい。喋ってるだけで口から心臓が飛び出そうだし、膝の上で握った拳にじんわり汗が滲んだ気がする。

こんなに緊張したのは初めてだ。
会長さんの口調は暖かくて優しい。だけど一瞬も気を抜かずに俺を品定めしてるのが分かる。
それくらいあからさまな視線で正直良い気はしない。
でも黒川さんのお父さんだし、俺は黒川さんの番で恋人だから受けて立たないと、と腹に力を入れて視線を受け止める。


「ここに来るのはとても勇気のいる事だ。正直来たくなかっただろう?」

「…はい、少し」


会長さんはふっと笑いながら小首を傾げ聞いてきた。黒川さんと同じサラサラの黒髪が揺れる。

離れて数時間なのに、あぁ黒川さんに早く会いたいな、と思った。


「なのに来てくれてありがとう。そして申し訳ない。息子が後先考えず君をこっちの世界に引き摺り込んでしまった。許される事ではない。」

「…全然、大丈夫、デス。」

「覚悟は出来てる?」


その問いはずっしり重く俺の心にのしかかってくる。

黒川さんと番になった事。
そしてそれで裏社会と繋がってしまったという事。つまり、俺はこれから今までのようにのうのうと生きていられない。いつでも命を狙われる危険がある。
そして黒川会の最大の弱点になる…って事かな…?

だって何かの取引で俺を拉致って人質にすれば黒川さんをおびき出せるしどんな条件でも突きつけられる。
俺は黒川さんの番だから。
黒川さんは俺を連れ戻そうとするから。絶対に。なぜかそんな確信があった。

こんな時に頭の回転が速いのが憎い。

もし俺が頭が悪くて回転も鈍かったら黒川さんが好きって気持ちだけで日々楽しく生活できたんだろう。


「正直まだ…」


絞り出した声は酷く掠れていた。


「そうか…。そうだろうね。でももう覚悟しろ。それしか道はない。キミは綺麗な世界に戻れない。」


手も震えている。淀んだ瞳が再び俺を捉えた。怖い。それだけが頭の中を支配する。

黒川さんと同じ黒目なのに、何故こんなにも違うように感じるのか。
やっぱりこの人は黒川さんのお父さんだけど、ヤクザの頭でもあるんだ。

自分を落ち着かせる為にちょっと失礼だけど、すーはーと深呼吸をする。


「…はい。でも黒川さ、あっ、廉さんが僕を選んでくださったので、あの…頑張りますっ…」

「…そうか…」


会長さんは『本物の笑顔』で微笑んでくれた。
これならいけそう…これだけは伝えておかないと…!!

俺はソファから立ち上がる。
次に膝に頭がつきそうなくらい礼をする。


「あっ、あの!!」


そして持っている勇気全てを振り絞って半ば叫ぶように言った。


「息子さんを僕にください!!!」

「は……?」

「お願いします…!!!」

「……ふっ…………っ……、っ…」


不自然な間に不安になり、そっ…と顔を上げると、会長さんは腹を抱えながらぱぁっと笑顔になっていた。

体が小刻みに揺れているしどうやら声も出ないくらい面白かったらしい。
襖の向こうからも『ッグ、』っと笑い声を堪えるような音が聞こえる。


「……」

「…ふぅ。久しぶりに大笑いしたよ。ありがとう。」

「…」

「ハハハ、怒らないで、はぁ…うん。」


会長さんはひとしきり笑ったあと深呼吸して真面目な顔に戻って俺を見据えた。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

処理中です...