追放された最弱転生者ですが、幼女に聖女にお姫様付き!?無双生活はじめました

友野紅子

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第三章 真の聖女

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 次元獣の換金を終えギルドを出た俺とチナは、『癒しの力を持つ聖女』がいるグルンガ地方教会に向かうべく、乗合馬車に乗り込んだ。
「わー! いい景色~」
 チナは馬車が走り出してから、ずっと車窓に張り付いて移ろう景色を眺めながらはしゃいでいた。彼女の嬉しそうな様子を見ていると、俺の頬も自然と緩んだ。
「そうだチナ、これを尻の下に敷いておくといい。それから、まだまだ先は長い。あんまりはしゃぎすぎると、体力がもたないぞ」
 俺は荷物袋から敷物を取り出して、隣のチナに差し出した。座ったまま目的地まで早く行ける馬車は快適ではあるが、長時間の乗車となればそれなりに疲れるものだ。特に小さな子供なら、なおさらだろう。
「全然平気! お兄ちゃんと一緒に馬車にのって、外の景色を眺めて、わたし、こんなに楽しいのは初めてよ」
 チナは俺の心配をよそに、元気いっぱいで答えた。
「……でも、敷物はありがとう。本当はちょっとお尻が痛かったの」
 はにかんだ笑顔でされたカミングアウトと、敷物に向かっていそいそと伸ばされた小さな手がとても可愛らしい。
 俺は片腕でチナの脇腹をヒョイと掴んで軽々と持ち上げると、反対の手で彼女の座席の上に敷物を置く。
「わっ! ふわふわで快適」
 敷物の上にそっと下ろしてやれば、彼女はにっこりと笑ってみせた。
「そうか」
 チナの頭をワシャワシャと撫でながら、口角の緩みを自覚していた。
「……チナ、俺もお前と同じだ」
「え?」
「お前と並んで、こうして車窓から移ろう景色を眺める。こんなに楽しいことはない」
「お兄ちゃんったら、わたし、言ったじゃない。……そういうのは、簡単に言っちゃいけないんだから」
 言葉とは裏腹、チナは俺の腕に甘えるようにすり寄った。どこか小動物を思わせる彼女の仕草に、思わず笑みがこぼれた。
 チナとふたりで旅を始めてから、無機質な俺の日常は一変し、笑顔があふれていた。

 二日後。
 乗合馬車を乗り継ぎ、俺たちは地方都市グルンガに降り立っていた。
「ここが地方都市グルンガか……」
 停車場は街の端だが、それでも多くの人々が行き交って活気が伝わってきた。中央の広場に向かえば、さらに賑わっているのだろう。
「大きい街! 人がいっぱい! それに、お店も!」
 地方教会があるのは、往々にして大都市だ。逆を言えば、教会があることで人や物が集まって来るのだ。
「街の散策もいいが、ひとまず今晩の宿を確保するか。これだけの都市だ、きっと部屋に風呂の付いた宿もあるぞ」
「やったぁ!」
 今にもひとりで駆け出してしまいそうなチナの腕を取って、飲食店や宿が軒を連ねる通りへと足を進める。
 古びた外観の小間物屋の前を通りがかった時、ちょうど中から扉が開け放たれた。見るともなしに視線を向ければ、店内から中年の夫婦と草臥れたワンピースの少女が姿を現した。
「急に呼び止めちまって悪かったね。だが、あんたの薬で娘はずいぶんと呼吸が落ち着いてきた」
 引き開けた扉に手をかけたまま、婦人が丁寧に礼を告げる。
「本当にあんたは娘の命の恩人だよ。それなのに礼にこんな物しか持たせてやれなくて、すまないな」
 婦人の隣に立った男性も続ける。
「とんでもない。私の薬草は症状を和らげる手助けをするだけです。これも全ては、お嬢さんが備えていた生命力と体力によるところです。こんなにいただいてしまって、逆に申し訳ないです」
 最初に認識したのは澄んだ声。次いで、扉を潜って通りに現れた少女を認め、その眩いほどの金髪に息を呑んだ。
 年の頃は十六、七歳。少女はほっそりとした体形に、整った目鼻立ちをしていた。だけどなにより目を引いたのは、澄んだ菫色の瞳と月光を溶かしたみたいな金髪。少女からは、不思議な気品のようなものを感じた。
「セリシア、なにを言ってるんだい。たとえそうだとしても、あんたの薬が咳の発作で苦しむあの子を楽にしてくれたよ」
「そうだ。分かっちゃいたが、やはり聖女はこっちの足元を見て、娘のために薬ひとつ調合しちゃくれなかった」
「おばさん、おじさん……。本音を言うと、いただいた道具類はとてもありがたいです。ちょうだいして、今後の調薬に使わせてもらいます」
 セリシアと呼ばれた少女は、そう言って腕の中の紙袋を大切そうに抱え直した。
「ああ。ぜひ、そうしとくれ」
「あの、それではすみませんが私はこれで失礼いたします」
「気を付けてお帰りよ」
「はい」
 ふたりに挨拶を済ませるとセリシアは店を飛び出し、俺たちの横をすり抜けて走って行った。その時に一瞬だけ見えた彼女の横顔は、パッと見にも相当焦っているように見えた。
「失礼。彼女はこの街の薬師かなにかか?」
 彼女の素性が気になった俺は、店の扉が閉ざされる前に夫婦の元に歩み寄って尋ねた。
「いや、セリシアは教会の下働きの娘だ。別に薬師を謳ってるわけじゃないが、ちょっとの不調や怪我ならあの子の薬で治っちまう。富裕層を除けばこの街の者は皆、あの子に助けられているよ」
「教会? それは『癒しの力を持つ聖女』がいると噂のグルンガ地方教会か?」
「あんたたち、この街の者じゃないね。もしかして、聖女様の癒しを求めてやって来たクチかい? 可哀想だが、聖女の治療は受けられないよ」
「なぜだ? 聖女が瀕死の重傷を負った兵士を回復させたというのはデマだったのか?」
 夫婦は俺たちを聖女の治療を求めてやって来た巡礼者と思ったようで、声を低くして教えてくれる。
「その噂は間違いじゃないが、聖女様の癒しは金と権力のある者限定だ。治療を受けるには、教会幹部からの紹介状を持って訪ねるか、金を積むかしかない。ただし、あたしら一般市民にゃ到底用意できないほどの大金を用意せにゃ、見向きだってしてもらえない」
 夫人は憤慨した様子でさらに続ける。
「うちも一昨日、なけなしの金を持っていって教会の門戸の前で頭を下げたが門前払いされた。セリシアはその時の様子を見ていたようで、さっそく自作した薬草を持って訪ねてきてくれたんだ。それで一旦症状が落ち着いたんだが、今日は今朝から娘の調子が悪くてね。そうしたら偶然セリシアが通りがかってね、声をかけたらこうしてわざわざ追加の薬を持って来てくれたんだよ」
 亭主は夫人の言葉にうんうんと頷き、セリシアへの感謝を滲ませて口を開いた。
「貰った薬を飲ませたら、娘の激しい咳の発作があっという間に静まった。セリシアには頭が下がる。とはいえ、ちょっとした軟膏や湿布薬ならいざ知らず、まさか咳止めまで作っちまうとは思わなかったけどな」
 薬草を素材とした天然成分だけで咳を止めることはなかなか難しい。だから腕のいい薬師でも、咳止め薬は気休め程度の効果しか発揮しないことも多かった。これを聞くに、彼女がかなり調薬の技術に優れているのは瞭然だった。
「ほう。薬師を生業にしている者でも咳止め薬の調合は難しいと聞く。……まさか、彼女は調薬に光魔力を使っているのか?」
「はははっ、それはない。光属性は持っているそうだが、セリシアはシンコだ。調薬に使うほどの魔力はないだろうよ」
「え? あのお姉ちゃんもシンコなの!?」
 セリシアがシンコという事実に、チナが真っ先に反応した。
「ああ、シンコというのを理由にあの子は教会でも肩身の狭い思いをしているよ。両親を亡くして教会に引き取られてから、朝から晩までずっと聖女の世話や家事仕事にこき使われている。だがね、たとえ癒しの力がなくたって、あたしらに言わせりゃ教会の奥で金と権力に胡坐をかいて座ってる聖女より、セリシアの方がよっぽど聖女の名に相応しいさ」
「その通りだな」
「そう言えば、前にあの子が教えてくれたっけ。薬剤の調合をする時は、いつだって心の中で光の魔力に祈りながらしてるってね」
「ほう、彼女がそんなことを」
 ……祈り。
 俺はこの一語を耳にすると、いつだって思わずにいられない。祈りというのは、皆が想像するよりも遥かに大きな力と可能性を秘めている。……そう。俺が新魔創生をなし得、次元操作の使い手となったように。
 強い意志で希う、それこそが全ての源となるのだ。
「病の娘さんがいるというのに引き止めてしまってすまなかったな。だが、色々聞かせてもらえてよかった」
「なに、かまいやしないよ。それより、さっきも言ったように目玉が飛び出るほどの大金を持っているんじゃなけりゃ、聖女の治療は諦めて腕のいい薬師でもあたった方がいい。セリシアを頼るにしても、たぶん今日はもう難しい。夕方から夜は夕食の支度から聖女の身の回りの世話だなんだって、あの子は大忙しだ」
「そうか。ならば明日、改めて彼女を訪ねるとしよう」
 夫婦に別れを告げ、再び通りを進み始める。通り沿いの宿屋を数軒素通りしたところで、チナが俺の袖を引いた。
「お兄ちゃん、今晩の宿を取らないの?」
「別れ際の彼女の様子が少し気になる」
「え?」
 婦人は、セリシアは夕方から夜にかけて忙しいと言っていたが、今はまだ正午を回ってさほど時間が経っていない。それにしては、俺の横をすり抜けていく彼女はひどく慌てていた。
「宿は後にして、地方教会に行ってみよう」
 もしかすると、なにか特別な用事が控えていたり、言いつけられた用事の途中で帰りを急いでいたりしたのではないか。帰りが遅くなったことで聖女や魔導士たちから叱責を受けていなければいいが……。
「わっ!?」
 俺はチナを掬うように片腕に抱き上げると、地方教会へと続く大通りを走りだす。
 地方教会の場所は、誰に尋ねるまでもなかった。大通りの先には、他の家々や商店より頭ひとつ抜きんでた地方教会の建物が見て取れた。王都オルベルの聖魔法教会には及ばないが、煌びやかな装飾の尖塔が一際存在感を放っていた。
 教会までの距離は、目算でおよそ一キロ。うまくすれば、セリシアに追いつけるかもしれん。
「チナ、少し急ぐぞ」
「っ、うん」
 チナがキュッと肩を掴むのを確認し、俺は一気に速度を上げた。
「ありがとう、セリシアお姉ちゃん」
 ところが、大通りをほんの数十メートルほど進んだところでセリシアの名前を耳にして足を止めた。声は大通りに繋がる細い横道から聞こえてきた。俺は即座に大通りを曲がり、横道へと駆け出した。
「どういたしまして。これからも錆びた鉄くぎや金属屑なんかを踏んじゃった時は、すぐに言ってちょうだい。ちゃんと消毒をしないと、後々大変なことになってしまうから」
 横道を少し行くと、道の端にしゃがみ込むセリシアと七、八歳くらいの少年の姿を認めた。俺はチナを一旦地面に下ろし、二人のやり取りを注視した。
 少年は裸足で、その右足には真っ白な包帯が巻かれていた。どうやらセリシアは、帰り道で行き合った子供の足の怪我を治療してやっていたらしい。治療に使った道具類を鞄にしまいながら、優しげな笑みで少年に伝えていた。
「うん! それじゃあセリシアお姉ちゃん、本当にありがとう!」
「気を付けて」
 セリシアは少年を見送ると鞄を掴み、スックと立ち上がって大通りに向かって走り出す。
 俺たちの横をすれ違いざま、彼女の唇がほんの微かに動いた。
「……だめだわ、もう間に合わない」
 悲愴感の篭もった小さな呟きが耳を打った次の瞬間、俺は動いていた。
「失礼、ずいぶん急いでいるようだ。俺が教会まで送らせてもらう」
「えっ!? き、きゃあっ!」
 セリシアに並び、ひと声かけてから膝裏と背中に手をあてて掬うように横抱きにする。初めは目を丸くしていたセリシアだったが、浮遊感にハッとした様子で俺の肩を掴んだ。
「あ、あなたたちはいったい!?」
 困惑を全面にするセリシアに、チナが足元から声をあげる。
「大丈夫だよ、セリシアお姉ちゃん! お兄ちゃんは、誰よりも信頼できる人よ」
 元気よく言い募るチナを認め、セリシアがパチパチと目を瞬く。
「すまんが、詳しい説明は後だ。チナ、お前も俺にしっかり掴まっていろ」
「うん!」
 俺が体勢を低くすると、チナはピョンッと跳び上がって俺の肩に両手を回し、背中にしっかりと掴まった。そのままセリシアを抱き、チナを負ぶって次元操作を発動した。
 ――ブワァアアーーッ。
 魔力が俺たちを包み込み、全身がふわりと宙に浮き上がる。浮遊感はほんの一瞬で、再び足が地面を踏みしめる感覚が戻る。次元操作の効力は絶大だ。セリシアを抱き上げてほんのひと呼吸の後には、俺たち三人は教会の正門の前に立っていた。
「……嘘でしょう?」
 目の前の光景が信じられないというように、セリシアが腕の中で呆然と呟いた。
「刻限が迫っているんだろう? さぁ、急いで行くんだ」
 俺は彼女を丁寧に地面に下ろし、トンッとその背を押した。
「セリシアお姉ちゃん、早く早く」
 チナも俺の背中から身軽に地面に下り、セリシアに発破をかける。
「あの、お名前はなんとおっしゃるのですか!?」
「俺はセイ、もしかすると君とはまた会うこともあるかもしれん」
「は、はい。セイ様、ありがとうございました。このお礼は必ずさせていただきます。お言葉に甘え、今は失礼いたします!」
 セリシアは俺を見上げ早口で礼を告げると、弾かれたように駆け出した。彼女の姿は正門ではなく、その数メートル先にある従業者用の通用門に消えた。
「チナ、すまんが今晩風呂の付いた部屋には泊まれそうにないがいいか?」
「もちろんよ」
 俺の問いかけに、チナはしたり顔で頷いた。どうやら彼女は今の台詞で、俺の意図を全て察したようだった。
 ……とても五歳とは思えんな。俺は内心で、チナの聡明さに舌を巻いた。
 チナの頭をワシャワシャと撫でてから、迷いのない手つきで正門の横に設えられた呼び鈴を鳴らす。すると幾らもせず中から応答があった。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「巡礼で教会を回っている。今夜の宿泊をこちらでお願いしたい」
「当教会は、事前に紹介のあった巡礼者様以外の宿泊を全てお断りしております。お帰りください」
 居丈高に言い放たれるが、別段気を悪くすることもない。むしろ、けんもほろろな対応は端から想定していた通りだ。
「事前紹介はないが、火の筆頭侯爵・アルバーニ様の紋状ならば持っている」
 僅かな逡巡の後、俺は一年前に出会ったアルバーニ様の名前を出した。
「なんと!? しばしお待ちくださいませ」
 ――ギィイイイ。
 俺が『アルバーニ様の紋状』と口にした直後、重厚な両開きの門戸が中から引き開けられていく。チナはギョッとしたように俺の足に縋り、ゆっくりと開かれていく門戸と俺を交互に見つめていた。
 ヴィルファイド王国民なら、火・水・風・土・光・闇の六つの魔力属性を冠し、王族と並ぶ権威と権限を有する筆頭六侯爵の存在をほんの幼子でも知っている。そうして筆頭六侯爵が真に信頼を置いた者にのみ託す紋状の存在もまた周知だ。
 珍しいことに筆頭六侯爵の爵位というのは世襲ではない。そうして、侯爵が己の紋状を託せる者は、生涯においてただひとり。紋状は侯爵からの厚い信頼の証であり、お墨付きなのだ。だからこそ、その紋状を授かった者は、有事において筆頭六侯爵その人と同等の権力行使まで認められている。同様に、これを明かせば平時にあっても様々な優遇が受けられることは想像に難くない。
 蛇足だが、かつて俺が一週間だけ所属したパーティにいた勇者・アレックは、風の筆頭侯爵の息子だ。奴のことを思い出す度、つくづく筆頭侯爵の爵位が世襲でなくてよかったと、俺は安堵の胸を撫で下ろした。
 門戸が完全に開ききると、中から教会職員を示す白いローブに身を包んだ初老の男が姿を現した。俺はすかさず胸ポケットから紋状を取り出して翳す。
「私は当教会の初級魔導士・フレンネルと申します。アルバーニ様の紋状をお持ちとは知らず、大変失礼をいたしました」
 紋状を認めた瞬間、フレンネルと名乗った男は先ほどまでの態度とは一転し、平身低頭で俺たちを出迎えた。
「俺はセイ、これは連れのチナツだ。巡礼途中ゆえこのような旅装束のままだが許せよ。見ての通り俺は縁あってアルバーニ様より紋状を託されている。今晩の宿泊を頼めるな」
 常とは異なる俺の口調と態度に、チナはますます驚きが隠せない様子だった。
「もちろんでございます。長旅でさぞお疲れでございましょう。急なことゆえ至らぬ部分もありましょうが、精一杯お迎えさせていただきます。どうぞ心ゆくまでお過ごしください。また、教会長と聖女からも一度ご挨拶をさせていただきたく――」
「たしかに疲れた。早く腰を下ろし、熱い茶で一服がしたい」
 セリシアの様子が気が気でなく長口上に焦れていた俺は、フレンネルの言葉尻を割って尊大に言い放つ。
「これは長々と立ち話を失礼いたしました! ささ、どうぞ中にお入りください」
 フレンネルは頭を下げ、即座に俺たちを招き入れた。
 ――パシンッ!
 俺が教会の敷地内に一歩踏み出したその時、周囲になにかを打つような鋭い音が響いた。
「セイ様!? お待ちください!」
 背中にかかるフレンネルの制止を無視し、素早く音があがった方向に駆ける。教会の建屋を回り込み、裏側に回り込む。
 俺が仁王立ちになった赤毛の女性とその足元に伏したセリシアの姿を認めるのと同時に、厳しい叱責の声が響く。
「遅い! どれだけ待たせたと思ってるの!?」
 上等な絹地をふんだんに用いた派手なドレスを見るに、女性はおそらくこの教会の聖女だろう。聖女はセリシアに向かい髪を振り乱し、悪鬼のごとき表情で喚き立てる。その姿はまさに醜悪のひと言につき、品位もなにもあったものではない。さらに聖女はドレスだけでなく、全身を過剰なほどの宝飾品でゴテゴテと飾り立てていた。
「イライザ様、申し訳ございません」
 俺は憤慨を露わにするイライザと呼ばれた聖女と地面に額を擦り付けて詫びるセリシアを前にして、一瞬で状況を理解する。
 謝罪を口にする彼女の頬は赤く腫れ、あろうことか唇の端が小さく切れてしまっていた。その傷はおそらく、小さな突起物かなにかが当たってできた物。そうして、派手な出で立ちの聖女イライザの両手の指の幾つかには、輝石が煌く指輪が嵌まっていた。これらから導き出される答えはひとつだ――。
「お前は言いつけられた用事ひとつ満足にこなせないのか、このグズが!」
「っ、いかん!!
 激昂した女性が大きく手を振りかぶるのを目にし、俺はすかさず前に飛び出した。ふたりの間に割って入り、セリシアをしっかりと背中に庇いながら、わざと大仰な口ぶりと仕草で語る。
「おぉおぉ! なんと煌びやかなお姿か! よもや、あなた様が巷で噂の『癒しの聖女様』では!?」
「なんだお前は!? なんの許可があってここにいる!?」
 突如割り込んで現れた俺に、イライザは虫けらでも見るような目を向けた。
「これはこれは。私は今宵の宿をこちらにお願いしたくまいった次第で」
「ほざけ! ここはお前のような薄汚い貧乏人が使える場所ではない! 早々にここを退き、安宿にでも移れ!」
「ふむ。よもやこちらに滞在するに、金銭が必要とは思わなかったが……。どれ、これくらいで足りようか?」
 言うが早いか、俺は懐から金貨が詰まった革袋を二、三袋取り出して彼女の前に積み上げる。大量の金貨を前に、イライザは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして立ち尽くした。
 普通に旅をしている中で、こうもあからさまに金銭を要求される状況などそうそうあるものではない。この街に来る前に折よく次元獣をギルドに持ち込んで換金していたが、まさかこんな用途で役立とうとは思ってもみなかった。
「せ、聖女様っ! そちらはセイ様と申しまして、筆頭六侯爵のおひとりアルバーニ様の紋状を授かったお方でございます!」
「なんだと!?」
 息を切らしながら遅れてやって来たフレンネルが慌てて耳打ちすれば、イライザはギョッと目を剥いた。
「巡礼中ゆえ、このような薄汚い旅装束のまま訪れてしまったことは、平にご容赦を」
「まぁまぁ! 『薄汚い』など、めっそうもない。セイ様は紋状を授かるに相応しい気品に溢れているというのに、私としたことがとんだ早とちりをしてしまいました。先の私は少々目をおかしくしていたのです。どうかお許しくださいませ」
 金と権力を前に、イライザはコロッと態度を一転させた。彼女の変わり身は、いっそ清々しいほどだった。
「なに。こちらが事前連絡もなしに急に押しかけてきたのだ、謝罪には及ばん」
「えぇっと、こちらはどういたしましょう? お返しさせていただいた方が……?」
 イライザは金貨の詰まった袋を手に形ばかりの問いを口にするが、俺に返そうとする素振りはない。
「それは既にそちらにお渡ししたもの。俺は一度出したものを引っ込めるほど器の小さな人間ではない」
「まぁ! それではありがたくちょうだいいたします。天主は全て見ておられるのです。ですから、きっとセイ様には天からの加護がございますわ!」
 イライザがどこまで本気で語っているのかはわからんが、その言葉通り天主が金銭によって忖度を与える存在ならば、世界は終わりだ。
 先に告げた通り、差し出した金を惜しいとは思わない。しかし、それらは彼女の贅沢のためではなく、窮する民草のために使われて欲しい。
「そう言えば、道中で小耳に挟んだのだが、去年の長雨の際に街の西を流れる大川の川縁が大量の土石流によってかなり浚われてしまったとか。近隣住民らは、次に大雨が降ったら川が決壊してしまうのではないかと心配していた」
「はっ?」
 俺が道中の馬車内で小耳に挟んだ話題を口にすれば、イライザは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして俺を見返した。
「その金額があれば川の護岸工事が叶う。自然災害による被害は、当然天主も望むまい。ふむ、きっとお喜びになるな!」
 大金が自由に使えると思い喜びかけていたのだろう、イライザの聖女の顔が歪む。
「な、なるほど。さっそく、そのように手配をいたしましょう」
 俺のまっとうな意見に異論を唱えることは難しかったようで、結局イライザは強張った笑みを浮かべつつ不承不承に頷いた。
「なにをぐずぐずしている!? 早う客間を整えてこんか」
 俺とイライザの後ろで、フレンネルが地面に膝を突いたままのセリシアを怒鳴りつける声にハッとして振り返る。
「申し訳ございません」
「待て! セリシアと言ったな、俺たちの客間は最低限の寝具が揃っていればいい。部屋の整えは不要だから、このまま客間に案内せよ」
 即座に立ち上がり駆けていこうとするセリシアを制止し、案内を命じる。あえてセリシアとはこれが初対面のふうを装った。
「し、しかし……」
 セリシアは戸惑いを滲ませ、俺とフレンネルを交互に見つめた。
「フレンネル、長旅で連れも疲れている。早々に部屋で腰を下ろし、ひと息つきたい。不足の物があれば、部屋でセリシアに申し伝える。下がらせてもらうぞ」
「セイ様がそうおっしゃるのであれば、ぜひそのように。……セリシア、セイ様とチナツ様にくれぐれも失礼のないようにご案内するのだぞ」
 俺がこんなふうに言い切れば、フレンネルが否やを唱えられるわけもなく、セリシアに向かって居丈高に案内を命じた。
「承知いたしました。どうぞこちらへ」
 セリシアの先導でイライザとフレンネルの前をすり抜け、教会の正面玄関をくぐる。そうして回廊を進み、突き当たった一等豪華な両開きの扉の先に続く客間へと通された。
 客間に入るや、扉をピタリと閉めきって鍵をかける。
「セリシア、頬を打たれたのだな!? 見せてみろ!」
 すぐにセリシアに向き直り、頤に右手をあててクイッと上を向かせる。
「っ!」
 ふたりの目線が間近に絡むと、セリシアは大仰なほど体をビクンと跳ねさて体を硬直させる。目にした俺は、顎に添えた指の力を緩めた。そんなに強く掴んだつもりはなかったが、もしかすると口もとの傷に響いたのかもしれない。
「すまん。傷が痛んだか?」
「い、いえ……っ。大丈夫です! 傷も大したことはありませんので、どうかお気になさらず」
 セリシアは伏し目がちに床へと視線を落とし、早口に言い募る。しかし『大丈夫』という言葉とは裏腹に、上向かせて固定したままの頬はひと目でそれと分かるくらい赤くなっているし、滲んだ血こそ拭い取られていたが口の端に走った傷口は今もしっかりと見て取れる。
「そう深くはなさそうだが、念のためこれを貼っておくといい。……どれ」
「えっ……?」
 俺は荷袋から医療キットを取り出すと、消毒液を含ませた絆創膏を取り出して、手早く彼女の頬に貼る。
 セリシアは驚いたようにパッと目線を上げて、自身の指先でツツツッと口もとに触れる。絆創膏の感触を確認した彼女は、恐縮しきりで頭を下げた。
「すみません! 私などに、畏れ多いことです!」
「やめてくれ。君にそんなふうに畏まった態度を取られると落ち着かない。先ほどは聖女やフレンネルの手前、やむなくあんな横柄な対応をしたが決して本意ではなかった。実を言うと、俺は路地裏で会う前に、小間物屋で君を見ているんだ」
「小間物屋のおじちゃんとおばちゃん、セリシアお姉ちゃんのことすっごく褒めてた! それで本物の聖女様より聖女様に相応しいって言ってたけど、私もそう思う。派手で怖いあの聖女様より、セリシアお姉ちゃんの方がずっと聖女様みたいだもの!」
 ここでチナが嬉々とした声をあげた。耳にしたセリシアはパチパチと目を瞬いて、答えに困った様子だった。
「小間物屋の夫婦から、君が手製の軟膏や湿布薬、果ては咳止めまで調薬していると聞き、一度話をしたいと思ったんだ。それで教会の下働きをしているという君を追って来たわけだが……」
 俺は一旦言葉を途切れさせると、しっかりとセリシアの目を見て再び口を開く。
「なぁセリシア、君はこの教会でずっとこんな扱いを受けているのか? 住み込みの下働きは、賃金などの労働条件で待遇が劣る傾向がある。とはいえ、殴られたり暴言を吐かれたりというのは普通じゃない。待遇改善を申し出て、それで改善が見込めなければ早急に他の働き口を探した方がいい」
「……いえ。教会には両親亡き後、引き取ってもらった恩があります。それに私はシンコですから、働き口は限られます。ここでの扱いが不当とは思いません」
「君さえよければ俺たちと一緒に来ないか。この場ではあえて俺たちの旅の目的については伏せるが、君は薬草の知識とその調薬に造詣が深い。俺たちと共に旅をしながら、その技にもっと磨きをかけていくこともできる」
「とんでもないことです。私の持つ薬剤の知識は今は亡き街の薬師から授かったものが全てで、特段秀でたものではありません。ご一緒しても、足手まといにしかなりません。それに今は、これでも街唯一の薬師を兼ねております。私がいなくなってしまっては、多少なり困る人たちも出てきます。セイ様のお気持ちだけ、ありがたくちょうだいいたします」
 固辞するセリシアを前に、これ以上同行を持ち掛けることはしなかった。
「そうか。もし、気が変わったら言ってくれ。俺たちはいつでも歓迎する。それから、ひとつ確認させてくれ。君は『街の薬師から授かったものが全て』と言ったが、君が調合した薬の効果はその薬師のものと同じか?」
「……少し、効果が強く出ているように感じます。ただ、薬効というのは患者の状態によって変わってきますから、薬がうまく利いたケースがたまたま複数件認められただけです」
「なるほど」
 彼女の弁解は俺を納得させるに足るものではなかったが、セリシアを困らせるのは本意でなく頷くにとどめた。
「もう! セリシアお姉ちゃんてば、ほんとに人がいいんだから」
 チナがぷぅっと頬を膨らませながら零した呟きに、声には出さずとも内心で同意する。セリシアはこれに曖昧に微笑んで、腰を屈めてチナと目線の高さを合わせた。
「チナツちゃんはいいわね。私は両親を亡くしてしまったし、もともと一人っ子で兄弟もいなかった。こんなに頼もしいお兄さんがいて、羨ましいわ」
「だったら私もセリシアお姉ちゃんと同じだよ」
「え?」
 セリシアは小さく首を傾げた。
「お兄ちゃん、本当のお兄ちゃんじゃないんだ」
「そうだったの……。『お兄ちゃん』と呼んでいたからてっきり、兄妹なんだと思っていたわ。ごめんなさい、私の勘違いだったわね」
「ううん、全然! 私、お兄ちゃんのこと兄妹とか関係なく大好きだし、兄妹に見えたなら嬉しい!」
「こう見えて、チナと出会ったのも一緒に旅を始めたのもつい最近のことなんだ。だが、なかなかどうして。これが不思議とうまくやれている」
 俺への好意を隠そうとしないチナの素直な言動は好ましく、彼女の水色の頭をクシャリと撫ながら、セリシアに補足する。
「まぁ、とてもそうは見えませんでした。てっきり、おふたりはずっと以前から一緒にいらっしゃるのだとばかり」
「俺たちは共に弾かれ者で、似たもの同士。気が合わないわけがない。そしてそれはセリシア、君にも当て嵌まる」
「おふたりが弾かれ者? それに、私にも……とは一体どういう意味でしょう?」
「君はさっき『シンコだから』と己を卑下した物言いをしていたな。だが、チナツもシンコだ。そして、俺に至ってはセイスだ」
 セリシアは信じられないというように、目を真ん丸に見開いた。
「セイスやシンコへの差別は根強く、就業や生活面でのハンディも否定しない。だが、それが全てではないことは、街の人たちとの交流する中で君とて承知しているはずだ。習得した調薬の技術や君自身の人柄によって、君は多くの人に慕われている。君はもっと、自分に自信を持っていい」
 セリシアは困惑した様子でパチパチと目を瞬かせ、俺を見上げていた。
「それから、俺たちはいつでも君を歓迎する。これだけ覚えておいてくれ」
「セリシアお姉ちゃん。私もね、お兄ちゃんに会うまでずっと『シンコの私なんて』って自分に自信がなかった。でも、今は『シンコの私だって』って思ってる。私も、いつだってセリシアお姉ちゃんを大歓迎よ!」
「セイさん、チナツちゃん、……ありがとう」
 セリシアは顔をクシャクシャにして、絞り出すように声にした。
 その後、セリシアは夕食の支度のため、慌ただしく厨房に向かっていった。聞けば、専属の料理人が別にいるのに、セリシアは毎食の下ごしらえや後片付けに駆り出されているらしかった。察するに、彼女のここでの生活は息つく暇もない忙しさだろう。
 セリシアが出ていくと、客間には俺とチナのふたりが残った。
「わっ! このベッド、とってもふかふか」
 チナは奥の寝台にボフンとダイブして、嬉しそうな声をあげた。
「あ、そうそう。この間のやつだけど……」
 そのままベッドの上をゴロゴロと転がっていたチナが、思い出したように声をあげた。
「こんな感じ?」
 手前の寝台脇で荷解きしていた俺が手を止めて振り返るのと、彼女がポシェットの中から土色の塊を取り出したのは同時だった。俺は荷解きもそっちのけでチナツに歩み寄った。
「早いな。もうでき……っ!? な、なんて完成度だ!!」
 チナツの手に握られた土色の塊……土製の武器を目にした瞬間、俺はその完成度の高さに度肝を抜かれた。俺が前世の知識をもとに、旅の始まりにチナツに手渡したのは、リボルバー式小型拳銃の設計図。孤児院でチナツが作ったライフルは威力や精度は申し分なかったが、強度が不足していた上、連射ができないため都度魔力を装填する必要があった。
 小型拳銃ならそれらを全てカバーできるが、反面、構造はライフルと段違いに複雑で、特に肝となる回転部分のチャンバーは精緻な魔力制御によって細部まで繊細に作り上げていく必要があった。それをまさか、この短期間で形にしてしまうとは……!
 当然、移動中の馬車内や宿、人目が無いところでチナがコツコツと作っていたのは知っていた。しかし、チナが製作途中の状態を見せることをよしとしなかったのだ。
 チナから受け取った小型拳銃を、表裏ひっくり返して検分していく。もちろん素材は土だから、スカンジウムなどの軽量で硬度に優れた素材と比べるべくもなく脆い。もし、本物のリボルバー式小型拳銃と同等の強度を備えたら完璧だが……いいや、そこまでは望むまい。実際にこの拳銃に装填するのは俺の魔力だ。強度を見ながら発射威力に折り合いをつけていけばいいだけのこと。
「チナ、完璧な仕上がりだ! これをここまで形にするのは大変だったろう。想像以上だ、ありがとう」
「ほんと!? よかった!」
 ワシャワシャとチナの頭を撫でながら労えば、チナは満面の笑みを浮かべた。
「作り方はもう覚えたから、もっと欲しかったり、改良したいところがあったら教えて。やってみる」
 チナがあっさりと続けた台詞に、俺は思わず舌を巻いた。魔力量だけで言えば、シンコのチナツはトレスにも劣る。実際、土魔力をぶつけ合うような状況では、彼女はひとたまりもないだろう。ところが、彼女は少ない魔力を繊細に注ぐことで、こんなにも強力な武器を生み出した。
 俺の次元操作にしてもそうだ。各々の属性でみれば極僅かな魔力、しかしそれらを掛け合わせて発現させることで何倍もの力を生じさせる。そう考えると、保有する魔力の大小は問題ではなく、むしろ弱者とされるシンコやセイスにこそ、具現の方法や掛け合わせの相乗効果といった意味では可能性が持てる。
「チナ、もしかするとお前ならできるかもしれん」
「任せて! 今度はもっと難しい物を作ればいいの?」
 チナは俺の言葉を先回りして、胸を張った。
「いいや。いずれは新しい創作も頼むが、今お前にやって欲しいのはそれではない」
「え?」
「これを、俺が力いっぱい魔力を注いでも耐えうる素材にしたい」
 コテンと首を傾げるチナに告げたのは、属に"錬金術"と呼ばれる技で、歴史上ペテンや詐欺の代名詞として語られることがほとんど。しかし俺は、チナの土・火・水・風・闇の五属性を掛け合わせて発生した魔力に、彼女だけが持つ優れた魔力制御を加えれば決して夢ではないと考えていた。
 コツさえ掴めば、彼女は間違いなく土を金に変えることができる。
「うーんと、それって固く丈夫にすればいいってことだよね……」
「その通りだ」
 案の定、呑み込みが早いチナは、すぐに俺の意図を理解する。そうして悩んだ様子ながらさっそく右手を前に翳すと、気合の入った掛け声と共に俺の両手に握られた小型拳銃目掛けて魔力を放った。
「えいっ!」
 次の瞬間、小型拳銃が俺の手の上でボンッという音を立てて爆発する。
「ウッ!!」
 俺は低く呻きをあげながら咄嗟に手を引く。
 小型拳銃は見る間に原形をなくし、サラサラとした砂になって落ちていき、足元の床に小さな山を作った。
「きゃああっ! お兄ちゃん大丈夫!?」
 チナは目の前で起こった出来事に取り乱し、泣きながら俺に縋りついた。
「ああ、大丈夫だ。反射的に放したから大事ない」
 この言葉に嘘はない。とはいえ魔力が注がれた際、小型拳銃は瞬間的にかなりの熱を持ったから、すぐに放さなかったら危なかった。危機一髪のタイミングで難を免れた俺は、内心で安堵の息をついた。
 一方で、今回の一件によってひとつ嬉しい発見もあった。熱して土の形状を変えようという意図でこのような発現の仕方になったのだろうが、チナが放ったのは火と土の混合魔力。言うなれば、彼女がしたのは魔力の足し算のようなもの。これを掛け算にすると新魔創生になる。たった一度で二属性の同時発動を成し遂げてしまうあたり、チナの素質は極めて高い。彼女が新魔創生を体得する日はきっとそう遠くない。幾度も失敗を重ねながら二年の月日をかけて次元操作体得した俺としては、舌を巻かずにはいられなかった。
「っ、よかった……! よかったよ!」
 泣きじゃくって震える細い背中をトントンと抱きしめながら、シンコのチナ、そしてセリシア、このふたりとの巡り合わせに天の意志を感じずにはいられなかった。
 ……いや、天というよりは、両親の悲願といってもいいかもしれん。新魔創生に初めに目を付けたのは、俺の両親だった。そうして彼らは、それを体得しかけていた最中、事故によってこの世を去ったのだ。ただの偶然なわけがない、絶対に何者かの作意がある。両親の試みを頓挫させようとする何某かの力が働いたのだ。
 では、その力とはなにか――。教会、あるいは、そこに組する勢力か……。どちらにせよ、敵は手強い。奴らに打ち勝つために、さらに情報を集め、対策を練らなければ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。私、とんでもないことを……。一歩間違えば、お兄ちゃんに大やけどを負わせていた」
「いいや、お前が謝ることはない。むしろ、俺は感心しているんだ」
「え?」
 チナが涙に濡れた目を向ける。
「お前の能力は俺の想像を遥かに超えている。この調子なら、きっとお前はじきに成し遂げてしまうだろう」
「……私、頑張る! 絶対に素材を変えてみせるから!」
「頼もしいな。ただし、ひとつだけ約束してくれ。材質変化の練習はひとりでは行わず、必ず俺に声をかけてくれ。そうすれば、仮に魔力暴走が起こっても俺が抑える」
「分かった、約束する!」
 チナは力強く頷いて答え、涙の残る目尻を手の甲で拭ってスックと立ち上がった。
「それじゃあお兄ちゃん、さっそく練習するから見てて!」
「ん? だが、肝心の小型拳銃が砂になってしまったからな」
「大丈夫よ! ……えいっ」
 俺が、元は小型拳銃だった足元の砂山を見下ろして零せば、チナが即座に砂山に向かって元気のいい掛け声をあげた。すると、見る間に小山は再び小型拳銃の形をとる。
「はい! できた……って、お兄ちゃん? どうかしたの?」
 驚きに目を丸くした俺に、チナが小首を傾げる。
「チナ、お前は凄いな。こんな精緻な仕組みを一瞬で作り上げてしまうのか」
「一度作った物ならすぐよ。もちろん初めて作る時は、ああでもないこうでもないってやり直すけどね」
「そうか。……いや、驚いた」
「えー? こんなの普通よ。へんなお兄ちゃん」
 触れもせず、緻密な構造の拳銃を一瞬にして再現してしまうチナの能力。決して『普通』ではあり得ないが、チナはなんでもないことのようにカラカラと笑った。
 そうして、ここから俺とチナは材質変化の練習を開始した。チナは幾度か魔力を暴走させたが、俺が難なく全てを止めた。事前の予想と気構えさえできていれば、爆発や炎上にももう驚くことはなかった。とはいえ、新魔創生による錬金術は、やはり一朝一夕でなせるものではない。土が色を変えたように見えても、なかなかその先に進んでいかない。
 夕食に呼ばれたので、この日の練習は終わりになった。
「全然だめね……」
「なに、落ち込むことはない。簡単にこれがなせてしまっては、今頃この世は金銀財宝で溢れていただろう。それくらい、チナが挑んでいるのは難しいことなんだ。焦らず地道にいこう」
「うん、分かった」
 肩を落とすチナを励ましながら食堂に向かい、待ち構えていた教会長と聖女イライザと夕食を共にした。
 ふたりはしきりに俺とアルバーニ様の関係、そして紋状を授かるに至った経緯を聞きたがった。他にも俺の仕事や交友関係、果ては金回りについてまで尋ねてくる始末だった。当然、俺がまともに答えてやる義理はない。答えられるところだけ答え、後はのらりくらりと適当に躱しながら、俺からも教会についての質問を重ねていく。特にイライザは単純な性格をしているようで、俺が能力や美貌を褒めてやれば、気をよくして饒舌に語ってくれた。
「いやいや、聖女様は実に得難いお方だ」
「まぁ。ほほほ」
「たしかに光属性の魔力は癒しと回復の効果に優れている。とはいえ、治癒まで叶えてしまうのだから、あなたは奇跡の人だ。……だが、もしかするとその奇跡は生まれつきではなく、体得したのではありませんか?」
「なぜ、そのように思われるのですか?」
 俺のこの問いには、イライザが口を開くよりも先に教会長が質問で返してきた。
「なに、アルバーニ様をはじめ人脈はわりと広い方でな。俺のところには、なにかと情報が集まってきやすい。だが、俺が聖女様のことを知ったのは、北の国との戦で負傷した兵士を治療して『癒しの力を持つ聖女』と呼ばれているのを耳にしたのが最初だ。こんなに素晴らしい能力の使い手がいたら、もっと早くに俺の耳に入っているはず。それらを鑑みるに、治癒が可能となったのは最近のことかと思ったんだが。もし、違っていたらすまない」
「さすがセイ様ですわ! 国内の要人に多くお知り合いがいるのですね。それでは隠せませんわね」
 俺の説明にイライザは喜色に声を弾ませて、教会長も納得した様子で頷いた。
「おっしゃるように、私が治癒の力を持ったのは最近のこと。生まれつき光属性の魔力は強かったのですが、さすがに傷を塞いだりはできませんでした。これが可能になったのは、デラ様の祝福を受け――」
「聖女様!!」
 教会長が鋭い声をあげ、イライザの言葉をピシャリと遮る。彼女はビクリと肩を跳ねさせて、慌てた様子で口を閉ざした。
「……と、とにかく! セイ様のご指摘の通り、後から身に着けましたの」
 イライザは取ってつけたように早口で答えた。
「ほう、やはりそうだったか」
「すみませんが、明日は早朝から予定が入っておりますの。そろそろ、自室に下がらせていただこうかしら」
 彼女はそれ以上の会話を避けてか、間髪入れずに申し出る。
 ……かなり警戒している。これ以上会話を続けても、なにも聞きだすことはできないだろう。
「なに、俺たちももう下がらせてもらう。馳走になった。……チナ、行くぞ」
「うん! ご馳走様でした!」
 俺は早々に席を立ち、チナを伴って食堂を後にした。
 ……イライザが口にしかけた『デラ様』というのは何者だ? あの口振りだと『祝福』というのによって治癒の能力が発現したかのようだ。
 頭の中で考えを巡らせながら客間に戻り、扉を閉める。完全に閉まり切ったところで、チナが俺の袖を引いた。
「どうした?」
「お兄ちゃん、私、孤児院にいた時に『デラ様』って聞いたことがある」
「なんだって! それはいつだ? 詳しく教えてくれ」
 チナの口からその名前が飛び出したことに驚きは隠せない。
「聞いたのは、二週間くらい前よ。うちの孤児院には一人だけウノの子がいたんだけど、その子はウノの中でも比較的強い闇の魔力を持っていたみたいなの。その子の近況を確認しに、定期的に教会の人が来てた。その日は珍しく二人組でやって来ていて、院長との面会を終えて門を出た後『あの様子なら、問題なくデラ様の祝福を受ける器となれるだろう』って話しながら帰っていった」
 ……器? なるほど。ここの聖女もその器に選ばれ、デラ様の祝福によって癒しの魔力を発現させるに至ったのだ。デラ様というのが何者かは分からんが、後付けで魔力を付加、あるいは、増幅させることのできる存在がいる。そしてそれを可能にするのは、考えるまでもなく人の範疇を超えたなにかだ。
「あ、あとね。『闇の器が見つかってひと安心だ。これで無事に器が全て揃った』って言ってた」
「……チナ、これを俺以外の誰かに話したか?」
「ううん。お兄ちゃんにしか話してないよ」
 最後の器に闇の魔力が注がれた時、いったいなにが起こる? 教会はその六名に、なにをさせようとしている?
「そうか、今後もこの件は絶対に口外してはだめだ。それから、お前がその会話を聞いていたことは、その二人に気づかれていないか?」
「それは大丈夫! たまたま通り沿いの生垣の下で遊んでて聞いたんだけど、二人は気付いた素振りすらなかったもん」
 往来に人がいないことで油断したのだろうが、子供は時に思いもよらない行動を取る。思わぬ場所にいることも、またしかり。
「はははっ。生垣の下か、それはいいところに隠れていたな」
「ふふっ。いいでしょう?」
 その後はチナとたわいもない話をしていたが、彼女が小さくあくびを噛み殺すのを目にし、早々に床についた。健やかなチナの寝息を聞きながら、俺もいつの間にか眠っていた。

 事件は、翌日の早朝に起こった。
 ――ガシャン。ガシャン。
 なんだ? 最初は夢うつつの中で、門戸を叩いていると思しき音を聞いた。幾らもせず、音は一旦止んだ。
「そんなっ、お待ちくださいませ! どうかお助け下さい!」
 次いであがった閉ざされた門戸を強く叩く音と悲痛な叫び声で、俺は完全に目覚めた。
 いったいなにごとだ!? 折よく客間は中庭に面し、窓からは正門が見下ろせる。俺は寝台から飛び起きると、大股で窓に向かいカーテンを開け放つ。
 なっ!? 目にした瞬間、即座にただならぬ事態を悟った。東から薄っすらと白み始めた空の下、必死に門を掴んで乞う男の着衣はところどころ焼け焦げ、剥き出しになった肌の一部が熱傷でただれているのが確認できた。
「……ん? お兄ちゃん、なあに?」
「チナ! どうやら街で火災が発生している。俺は行くが、お前はこのまま部屋にいるんだ」
「えっ」
 瞼を擦りながら起き出してきたチナに言い置き、俺はマントを掴んで客間から駆け出した。
「何度言われても同じこと。どんなに懇願されたところで我々に火消しは出来ぬ。他をあたれ」
 玄関の扉を押し開けると、必死の形相で門の格子に縋る訪問者をフレンネルがけんもほろろに追い返そうとしているのが目に飛び込んできた。
「消火作業は街の者が協力しております! そうではなく、お願いしたいのは重傷者の治療でございます!! 現場では家内をはじめ、複数名が大やけどを負って、動かすも出来ぬ状況でございます。今回ばかりはどうか、聖女様の癒しの魔力を使っていただきたいのです!」
「しつこいぞ」
「……っ、聖女様!! そちらで聞いておられるのでしょう! どうか、此度だけはお願いいたします!」
「馬鹿を言うな。聖女様は近隣領主様の腰痛の治療のために発たれるところなのだ。そのように掴んでいては門が開けられんだろうが、さっさとそこを退け!」
 驚くべきことに門と目と鼻の先の庭に、聖女イライザが乗った馬車が停車していた。車窓からは、煩わしそうにそっぽを向く彼女の横顔が見て取れた。
「聖女様! どうか――」
「あぁ、煩い」
 さらに言い募る男に、ついにイライザが口を開いた。
「汚い貧乏人に言葉を許した覚えはない。その上、私に癒しを所望するなどなんという思い上がりか。ドブを這うネズミが一匹や二匹焼け死んだからなんだというのだ? 早くそこをどけ、領主様との約束に遅れたらどうしてくれる」
 その発言は到底"聖女"が語ったとは思えない、聞くに堪えないものだった。
 男の戦慄く両手が格子から離れ、ガクリと地面に膝を突く。門から男が離れたタイミングでフレンネルが即座に門を開き、御者に発車を指示を出す。
「早く馬車をお出ししろ」
「ハッ!」
 御者が馬車を発進させるより一瞬早く、俺は馬車に駆け寄っていき、車窓越しのイライザに声を張った。
「聖女様!」
「あら、セイ様? 申し訳ありません、煩くして起こしてしまいましたわね。まだ朝も早いですわ。もう静かになりましたから、お部屋に戻ってお休みくださいませ」
「私からもお願いいたします。此度ばかりは領主様へは事情を説明し、街の負傷者の治療にあたっていただけませんか。重傷のやけどとなれば、薬師の手には余る。差し出がましくも、腰痛の治療とは違い、事は命に関わります。聖女様のお力がこれほど必要とされる場面はありません」
「まぁ、セイ様までなにをおっしゃっているやら。ここで治療の内容は問題になりませんわ。だって、ネズミと領主様を同じ天秤で量ることがそもそもあり得ませんでしょう。セイ様は前提からして間違っておりますわ。……あら、いけない。時間が押しておりますから、もう行かせていただきますね」
 言うが早いかイライザは御者に発車の合図を送り、あまりの言い草に言葉を失くして立ち尽くす俺の横を颯爽と走り抜けていった。直後に、玄関から大量の荷物を抱えたセリシアが転がるように飛び出してくる。
「ウッズおじさん! しっかりしてください」
「セリシア……」
 セリシアは男と顔見知りのようで、一直線に地面に力なく膝を突いて項垂れる男の元に向かった。
「お気持ちはわかります。しかし、今は肩を落としている場合ではありません!」
 腕をグッと取ると、セリシアはその目を真っ直ぐに見つめて叱咤する。
「大至急、負傷者の元に案内してください! こうしている間にも、患者さんはやけどで苦しんでいます。聖女様がいなくとも、今ある人手と薬でできる限りの処置をしましょう!」
 セリシアの言葉を受け、男……ウッズはハッとしたように目を見開いた。
「そうだなセリシア、あんたの言う通りだ! 火事は……負傷者はこっちだ!!」
 ウッズはスックと立ち上がり、先頭になって駆け出した。セリシアもそれに続く。
「俺も行こう! セリシア、荷物をこちらに!」
「待てセリシア、勝手は許さんぞ! ……セイ様も、どうかお戻りください!」
 セリシアが抱えた大量の荷物を取り上げると、背中に掛かるフレンネルの制止を無視して門を飛び出した。
 ウッズは教会を出てすぐに、大通りを曲がり細い横道に入った。
「あそこです!」
「あの煙か……!」
 ウッズが示したのは、昨日、セリシアが少年の治療をしてやっていた場所の近くだった。既に火は消し止められていたが、隣接する三軒ほどが黒焦げになっており、いまだ煙を燻らせていた。火元は三軒の真ん中に建つ木造家屋のようだった。
「……この匂い、油か?」
「料理屋の揚げ油に、火が回っちまったんです! 料理屋の夫婦と、仕込みを手伝ってたうちの家内が大やけどを負ってます。他にも、何人かがやけどを……!」
 俺の問いにウッズが涙ながらに答えた。
「ウッズ!」
 その時、人だかりの中にいた女性が俺たちの姿を認め声をあげた。
「すまん、やはり聖女様は来てはくれなかった。だが、代わりにセリシアが――」
「そんなんはいい、それより早くこっちへ! あんたの奥さんが、ずっとうわ言であんたを呼んでる!」
 女性はウッズの言葉を割って、叫ぶように口にした。
「なんだって!」
 ウッズが転がるように走りだす。俺もウッズに続き、女性が手招きする方へ走っていく。
 隣のセリシアが息を呑んだのが気配で分かった。俺も、一瞬呼吸が止まった。それくらい目の前には、厳しい現実が広がっていた。
「メアリ……! しっかりしろ!!」
 道端に敷かれた毛布の上に、数人の負傷者が寝かされていた。ウッズが真っ直ぐに駆け寄ったのは、負傷者の中でも特段重篤な女性のところ。ウッズは必死で呼びかけるが、女性はもう苦し気な息を漏らすばかりでまともな言葉を紡がない。瞼にもやけどを負っていて、その瞳が開かれることもない。
 他の負傷者の枕辺でも、同じような光景がみられた。料理屋の主人と思しき男に、老婆が縋って泣いていた。俺はその光景を食い入るように眺めながら、踏み出すことができなかった。
 セリシアの調薬は、間違いなく効き目がいい。しかし、軟膏と湿布薬では、死に瀕した重度熱傷者の救命には役立たない。迫りくる死の足音に、人々は絶望していた。俺もなす術なく腕に抱えた荷物を握り締め、無力感にギリギリと奥歯を噛みしめた。
 その時、ウッズの呼びかけに答えるように、メアリの指がピクリと動く。
「メアリ!」
「あぁ。……あな……た。最期に会えて、よかっ……」
 掠れ掠れにメアリが声を発するが、最後まで言い切る前に言葉は不明瞭に途切れる。彼女の命の灯が、今まさに消えゆかんとしていた。
「っ、逝かないでくれ!」
 ウッズが悲痛に叫び、周囲からはすすり泣く声があがった。
「どうか俺ひとり置いて逝ってくれるな……なぁ、メアリ?」
 ウッズの眦から零れた涙が、頬を伝ってパタンとメアリの額に落ちる。
「……もう、諦めろ」
 人の輪の中から老婆が一歩進み出て、ポツリと口にする。皆の視線が老婆に集まる。老婆の手には、握りこぶしほどのサイズの瓶が握られていた。
「これだけのやけどを負って、聖女様にも見捨てられ、もう全員助かりゃしない。ここにいる負傷者は皆、これが寿命だったんだ。……やけどで死んでいくのは大変な苦痛だよ。せめてこれ以上苦しまぬよう、ひと思いにあの世に送ってやるのが人の情けってもんだ」
 老婆の言葉に周囲はシンッと静まり返り、負傷者の苦し気な呼吸音だけが響いていた。
 老婆は、手前に横たえられていた重傷者の夫人の元に行くとしゃがみ込んで、瓶の中身を飲ませようと口を開く。
「おい、なにをしている!?」
 老婆が明確な意思を持って、夫人の命を絶とうとしているのは明らかだ。それなのに声をあげたのは俺だけで、夫人の親族と思しき者達は老婆のなすがまま止めようとはしない。
「やめるんだ!」
「……死なせない!」
 俺が老婆の腕を取るのと、セリシアが鋭く言い放つのは同時だった。
「これが寿命だなんて、そんなことない! 私が皆を死なせない……!」
 振り返ると、セリシアが全身に光の粉を纏わせてキラキラと発光していた。
 これは、光の魔力か!? それも通常の魔力の放出ではあり得ない、……まさか新魔創生をなし得たか!!
「どうか助かって……!」
 セリシアは横たわる重傷者らの前へ進み出て、固く両手を組み合わせる。直後、彼女の全身を包む光がふわりと広がる。全員が固唾を呑んで、セリシアの一挙手一投足を見守った。ところが、それっきりセリシアにも負傷者たちにも変化はみられない。
 見れば、瞼を閉じ唇を引き結んだセリシアの表情は苦し気で、苦握り合わせた拳も小刻みに震えている。その様子にピンとくる。おそらく、セリシアは発現した魔力の使い方が掴めずにいるのだ。
「セリシア、己の源に祈れ」
 俺は彼女に歩み寄り、そっと耳元で囁いた。
「え?」
 セリシアは薄く瞼を開き、俺を見上げた。
「そして、イメージするんだ。損傷した皮膚細胞の再生、穏やかな呼吸と適正体温の維持。それらのイメージを彼らに注ぎ込め」
 新魔創生は祈りと、そして想像力が全てだ――!
「……はい!」
 セリシアは俺の声に力強く答え、再びグッと目を瞑る。次の瞬間、彼女から眩いほどの光の粒子が舞い上がる。隣にいた俺は、光の粒子をもろに浴びる恰好になった。
 ……これは、ものすごい魔力だ! 光に触れた部分が柔らかな熱を帯び、皮膚細胞が活性化していく感覚があった。咄嗟に露出している手の甲に視線を落とすが、健康な皮膚ゆえに目に見えての変化はなかった。しかし広がった光が負傷者らを包み込んだ瞬間、全員が息を呑んだ。
 水ぶくれが破れ、肉の色を晒していた患部が新たな皮膚に覆われていく。赤黒くただれた広範囲の熱傷も、キラキラと発光しながら肌本来の色を取り戻してゆく。熱風で気管を焼かれて浅い呼吸を繰り返していた患者は、これまでの苦悶の表情が嘘のように穏やかな笑みをたたえ、大きくひと息吐き出した。
「メアリ……!」
 やけどで上下の瞼が張り付いてしまっていたメアリも、光の粒子がふわりと触れた瞬間に瞼を開いた。
「あなた? ……やだ、泣いているの?」
 その瞳にウッズを映すと、メアリは小さく微笑んで彼の涙を拭おうと手を伸ばす。一度は焼け落ちてなくなってしまったはずの手指で、彼女はそっとウッズの目尻を撫でた。
「っ、メアリ!!」
「え? あらあら」
 ウッズが大量の涙を迸らせ、メアリは驚いたように目を瞠った。集まっていた人々は目の前で繰り広げられる奇跡に言葉を失くし、瞬きすら忘れてただただ見入った。
 ――カシャン。
 地面になにかがぶつかって割れるような音があがる。見れば、俺が腕を取って薬殺を止めた老婆が、目を真ん丸にして立ち尽くしていた。彼女の手から瓶はなくなっていて、代わりに足元に割れたガラス片が散らばっていた。
「あたしゃ今、奇跡をこの目で見ているよ。そしてこれこそが、聖女の御業さ」
 老婆が震える唇で紡いだ『聖女』の一語。耳にして、俺の中でストンと嵌まる。発現にどんな力が起因しているのかはさておき、グルンガ地方教会の聖女イライザが癒しの魔力を持っているのは事実だ。しかし、富権力によって力を使い惜しむ彼女のやり方は、聖女には到底相応しいものではない。真の聖女は、イライザではない。セリシアだ――。
 負傷者の回復と共に発光は段々と弱まっていった。
 光が完全に消えた瞬間、セリシアの体がカクンと頽れるのを、すんでのところで支える。
「おい、大丈夫か!」
「は、はい。大丈夫です、ありがとうございます」
 セリシアの息はすっかりあがり、表情にも疲労が色濃い。そして言葉とは裏腹に、彼女は自分の足で立つことも難しい様子だった。初めての新魔創生でこれだけの魔力を使ったのだから無理もない。ただし、ふらふらの体を俺に支えられながらも、その目には達成感と強い決意が透けてみえた。
「……セイさん、昨日の言葉はまだ有効でしょうか?」
 俺を見上げ、セリシアが迷いのない口ぶりで尋ねる。
「もちろんだ」
「ではセイさん、改めてお願いします。どうか私を、旅にご一緒させてください」
「喜んで。セリシア、君の同行を心から歓迎する」
「ありがとうございます。私はこれまで、あまりにも狭い世界で生きていました。あなたと旅に出て、広い世界をこの目で見ます。その上で、私になにができるのか考えます」
 嫋やかな佇まいは、たしかに昨日までの彼女と同じ。それなのに、凛とした眼差しで前を見据える姿はまるで別人のようだ。もしかすると新魔力のみならず、彼女の心の中にもなにかしら"新たな変化"があったのかもしれないと感じた。
 その時、人垣から一人の女性が進み出て、俺たちに歩み寄る。女性は小間物屋の夫人で、気づいたセリシアは俺の腕から抜け出して自分の足で立ち、彼女に向き直った。
「セリシア、この人たちと行くんだね?」
「はい。……お嬢さんの回復を最後まで見守らずに出ていってしまい、すみません」
「なに言ってんだい! 娘はもう、ほとんど治ってる。それに、多めに貰った薬の残りだってある、心配はいらない。だからあんたは、ここにいちゃいけないよ。ここにいたら、その能力も教会の奴らにいいようにされちまう。あんたの能力は、あんたの心が望むまま使えばいい。この人たちと一緒に行って、広い世界を見ておいで」
 夫人は、申し訳なさそうに頭を下げるセリシアの肩をトンッと抱き、彼女の旅立ちを後押しする。
「おばさん、ありがとうございます」
「道中、くれぐれも体には気を付けるんだよ。それからね、この街はあんたの故郷さ。恋しくなった時は、いつだって帰っておいで。街のみんながあんたの帰りを待ってるよ」
「その時はぜひ、うちに泊まってくれ! 妻を死の淵から取り戻し、こうして抱きしめていられるのも、全部セリシアのおかげだ! こんなのは礼にもならんが、せめて帰郷した時くらいは心づくしのもてなしであんたを迎えさせてほしい」
「いいや、その時はぜひうちに来てくれ! 嫁いだ娘の部屋が空いているんだ。なんだったら、ずっとうちにいてくれたっていい」
 ウッズが全身やけどを負っていたのが嘘のように滑らかな肌を取り戻したメアリを胸に抱きしめて口にすれば、他の負傷者やその家族からも次々に同様の声があがった。
「皆さん……」
 セリシアは感極まった様子で目を潤ませた。そんな彼女に、件の老婆が進み出て感謝を口にする。
「セリシア、あたしからも改めて礼を言わせてもらうよ。あたしは、自分が取ったあの行動を後悔はしていない。野蛮なやり方だってことは誰よりも承知してるが、やけどで苦しむ負傷者にとってあれが最善だと疑っていなかった。それがこの街の長老としての責任だとも思っていた。だけど、あんたの起こした奇跡を目の当たりにして、今後はもう同じ行動は取れないだろう」
 老婆の語った台詞で、俺は初めて彼女がこの街の長老なのだと知った。長老は街の最高齢者の意であり、そこに権力的な意味は含まれない。しかし、この世界にあって年長者を敬う心は前世の日本より根強く染み付いている。
 街の人々は、長い人生経験を積んだ彼女の言葉に耳を傾け、その行動に一定の敬意を払う。これが全てとは思わないが、彼女が毒殺を主張した時に反論の声がでなかったのには、こういった側面もあったのだろう。
「今度似た状況になった時に、また奇跡が降ってくる保証なんてどこにもない。だけどたしかに奇跡はあった。そして奇跡は、命あってこそ。その可能性の芽を摘むことは、あたしにはもうできんよ」
「長老……」
「それから、これからお前の周りにはありとあらゆる思惑を持った者が近寄ってくるだろう。だが、最後に従うのは己の心だ。さぁ、広い世界へいっておいで、グルンガの真の聖女・セリシア。道中の幸運を祈っているよ」
「……はい。いってきます!」
 長老の餞の言葉に、セリシアはしっかりと前を見据え、力強く答える。周囲はセリシアの新たな門出を祝う温かな拍手で包まれていた。

 街の人々に別れを告げ、俺たちは教会に向かって歩きだす。
「おそらく、フレンネルは既に君が新魔創生をなし得たことを把握しているだろう」
「はい。教会は複数の情報屋を抱えていますから……」
 教会にはチナが一人で留守番をしており、俺が戻らない選択はない。だが、セリシアはフレンネルと顔を合わせない方がいい。
「君の能力を知れば、なんとしても教会に留めようとするはずだ。君は、教会には立ち入らない方がいい。旅に際し、必要な物は新たに購入すればいい。多くは無理だが、もしどうしても必要な物があれば俺が持ち出す。なにかあるか?」
 俺もフレンネルと顔を合わさずに教会を出られれば最善だが、おそらく外部からの出入りは逐次監視されている。もっとも、俺ひとりなら最悪、チナを抱えて制止を振り切ってしまえばいいだけのことだ。
「いえ、どうしても必要な物などなにも。……けれど、恥ずかしながら私には先立つものがありません。正直、旅支度を購入品で賄うのは難しく、やはり着替えなど最低限の物は持っていきたいです」
「旅の仲間となったのだから打ち明けるが、俺は次元操作の使い手だ」
「次元操作……?」
 セリシアは反復しながら、小さく首を傾げる。
「君は保有する五属性を掛け合わせて再生の魔力を発現させたろう? 光魔力で傷を治癒し、回復を促す力を持つ者はいる。しかし、細胞を再生し、快癒まで導く――この再生快癒は君だけがなせる技だ。そして、次元操作も俺だけがなせる技だ」
「なんと……! セイさん自身も、新たな魔力を創生していたのですね」
 セリシアは目を丸くした。
「ああ。俺は保有する六属性を掛け合わせることで新魔力を発現させる。これが莫大な力を持つ次元操作で、俺はこの攻撃力を武器にこの身一つで多くの次元獣を討伐している」
「……驚きました。けれど、これであの時セイさんが下さった的確な助言に合点がいきました。あの言葉は、セイさん自身の経験に則っていたんですね」
「ああ。属性の数に違いはあれど、両者の根幹は同じだ。どちらも祈りと、そして想像力が肝になる」
「なるほど。あなたのおかげで、己の内に燻る力を治癒魔力として具現化することができました。本当に、ありがとうございました」
「なに、初めて力を発現させたのだ。使い方に戸惑うのは当然だ。むしろ、あの助言だけで再生快癒を使いこなしたのは大したものだ」
 なにを隠そう俺自身、次元操作を自在に操るようになるまでに二年を費やしているのだ。そう言った意味でも、セリシアは破格に筋がいい……いや、セリシアだけではないな。チナもいまだ制御はできていないが、既に二属性の同時発動を果たしている。このふたりが一層技を磨いたら……。想像すれば、ゴクリと喉が鳴った。
「あの。今のお話でセイさんの身の上はよく分かりました。けれど、私が無一文という部分は、なにひとつ解決していないのでは……?」
 セリシアが遠慮がちにあげた声が、束の間の物思いから俺の意識を今に戻す。
「ああ、それなら――」
「それなら大丈夫よ! 次元獣ってね、ギルドが素材として目玉が飛び出ちゃう高値で買い取ってくれるの。だからお兄ちゃんって、こう見えてすっごいお金持ち。セリシアお姉ちゃんの旅支度を揃えるくらい、どうってことないわ!」
 俺が口を開くのと同時に、街路樹の後ろから大荷物を背負ったチナが飛び出してきて、セリシアの質問に元気よく答えを返した。
「チナ!! お前、どうしてここに……!?」
「だって、お兄ちゃんがあんなに慌てて出ていったのよ? なにもないわけがないじゃない。それでなにかあれば、当然、街を出ていくことになるでしょう?」
 チナの受け答えに舌を巻く。
「教会からお兄ちゃんの荷物も全部持ってきたわよ!」
「フレンネルにはなんと言って出てきた?」
 誇らしげに俺の荷物を掲げてみせるチナに眩暈を覚えながら尋ねる。
「なにも。あの後も教会には聖女様に助けを求めて街の人が何人かやって来て、私はフレンネルさんが正門で対応してる隙に通用門から出てきちゃった。だから、フレンネルさんには会ってないの」
「あら、通用門には鍵がかかっていなかった? よく開けられたわね」
 俺が二の句を失くしていると、セリシアが不思議そうに口にする。これにチナはビクンと肩を揺らし、バツが悪そうに目線を泳がせた。
「ええっと。悪いなぁとは思ったんだけど、壊しちゃった」
「え!? ……壊したって、鉄製の錠前を?」
 セリシアは訝しげに首を捻っていたが、俺は歯切れの悪いチナの口ぶりでピンときていた。
「……チナ、材質変化を行ったな?」
 問いかける俺の声は自ずと低いものになった。
「約束を破ってごめんなさい! だけど私、昨日の夜眠る前にずーっとイメージしていたの。そうしたら、体の奥がぽかぽか熱を持ってくるのに気付いたの。この熱に、土の拳銃が固い金属に変化していく様子を念じたら、今度は絶対成功するって思った。起きたら一番にお兄ちゃんに見てもらおうってワクワクしながら寝たんだ。……だから、つい」
 チナは治まり悪そうに、言葉の最後を言い淀む。
「鍵のかかった通用門を前にして、一人で試したんだな」
「……うん」
「それで、お前のイメージした通りになったか?」
「うん! 寝る前に想像した通りになった! 体の奥の熱に『土になれ』って念じたら、金属の鍵があっという間に、ボロボロ崩れていったんだよ!」
 チナはこの質問には一転、キラキラと目を輝かせて答えた。
 ……恐れ入った。チナは一夜にして、それも実際の訓練ではなくイメージトレーニングによって新魔創生を体得してしまったのだ。金属を土に。そして、土を金属に――。
 もちろん、金属を土に変えるのとは異なり、土を金属に変えるにはさらに精緻な魔力制御を加える必要はある。しかしチナならば、それもじきにやり遂げてしまうだろう。彼女は新魔創生による錬金術を可能にしたのだ。
「……ぅううっ。ごめんなさい、怒らないで……」
 黙りこくってしまった俺に、チナはすっかり委縮して再び謝罪を口にした。
「チナ、俺は怒っていない。ただ、今回は魔力暴走も起こらずいい結果になったが、毎回ことが上手く運ぶとは限らない。俺はチナが怪我をしたり、危ない目にあったりするのが心配だったんだ」
「お兄ちゃん……!」
「ただし、次からは約束通り俺と一緒に練習だ」
「うん!」
 俺はチナの頭をワシャワシャと撫で、彼女の手から荷物を取り上げて左肩に引っかけた。そうして空いた右腕でヒョイッとチナを抱き上げた。
「えっ?」
「正直、教会に戻らずに済んだのは助かった。ひとりでこの大荷物を抱えてくるのは大変だっただろう、こうしていろ」
「うんっ!」
 パチパチと目を瞬かせていたチナは、俺の言葉に上機嫌で頷いてキュッと肩に縋った。
「あら。いいわね」
 隣で見ていたセリシアが微笑んで目を細くした。
「へへっ、いいでしょう」
「チナツちゃん、改めて私も二人と一緒に旅をさせてもらうことになったの。これから、どうぞよろしくね」
「セリシアお姉ちゃんなら大歓迎よ!」
 仲良さそうに笑い合う二人はまるで本当の姉妹のようで、俺の頬も自然と緩んだ。
「……あ、でもお兄ちゃんのことは狙っちゃ駄目よ」
 チナがポツリと零した台詞に、疑問符が浮かぶ。セリシアも、小さく首を傾げていた。
「お兄ちゃんは、私のなの!」
 チナが続けた子供特有の独占欲が滲む台詞に、俺は思わず噴き出した。
「お兄ちゃんってば、どうして笑うの!?」
「すまんすまん」
 不満げに頬を膨らませるチナがなんとも可愛らしく、謝罪を口にしながらも、油断すれば笑みが零れそうになる。
「あー! お兄ちゃんってば、まだ笑ってる!」
 チナの指摘にドクンと鼓動が跳ねる。
「お口がヒクヒクしてるもん! もう、お兄ちゃんなんて知らないっ!」
 彼女の鋭い観察力にぐうの音も出ない。
「チナ、この通りだ。俺が悪かった。だから機嫌を直せ」
 ふくれっ面でそっぽを向いてしまったチナを宥めるのに必死の俺は、俺たちを見つめるセリシアの表情がほんの少し強張っていたことも、その目が僅に翳りを帯びていたことも気づかなかった。
 こうして俺たちは各々の思いを胸に、グルンガの街を後にした。
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