翠眼の魔道士

桜乃華

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第二十四話 ミラの能力 1/3

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 十二平方メートル程の部屋の中央に木製のテーブルが一つとそれを挟むように二人掛けのソファーが一つ、反対側に一人掛けのソファーが二つ置いてある。ガラス窓からは陽の光が差し込み部屋は明るい。奥に設置されている植木植物も手入れされているようで艶のある緑色だ。
 ミラは二人掛けのソファーへと腰かけた。自分の隣をポンポン、と叩いてセシリヤへ座るように促すが、セシリヤは向かい側に座った。

 「……どうして隣に座ってくれないんですか⁉」

 テーブルに両手をついて身を乗り出すミラにセシリヤは「隣に座る意味ってある⁉」と声を荒げる。ピー助は室内を駆けまわっており二人のやり取りには無関心のようだ。

 「ありますよ。セシリヤさんと密着出来る数少ないチャンスじゃないです……イチャイチャしたいです」

 「……イチャイチャする仲ではないでしょ」

 セシリヤとミラは恋仲ではない。ミラの片想い。一歩通行なのだ。溜息交じりに言うセシリヤにミラが初めて聞いたと言わんばかりに目を丸くした。

 「え……違うんですか?」

 「どこをどう解釈したら私たちがイチャイチャする仲になるのよ」

 「うーん。あれとかこれとか」

 セシリヤとの思い出を思い起こしているのだろう。ミラは頬を緩めてにへら、と笑う。黙っていれば美形な青年なのに、緩く笑うと可愛く見えてしまうから怒るに怒れない。

 「はああ……。報告をさっさと終わらせるわよ。私、この後用事があるから」

 ミラのペースに飲まれては枯れた水の調査に行けない。詳細な報告を済ませて支部から出よう。ついでにミラから逃げようとかは少しだけ考えている。

 「用事はいいですけど、報告を聞いたら確認に向かいますのでしばらくは僕と一緒ですよ?」

 「はあ⁉ なんでよ! 確認には一人で行って」

 笑みを向けて告げたミラにセシリヤがテーブルに両手をついて腰を浮かせた。確認を行うのは本部の仕事。基本的には単独で行うはずなので、同行は必要ないはずだ。

 「ええ……。せっかくセシリヤさんとの貴重な時間なのでなるべくご一緒したいという僕のわがま……じゃなかった。毎日仕事を頑張っているご褒美くらいあってもいいじゃないですか」

 「……聞こえてるわよ、本音。だいたい、ご褒美って私にはメリットがないじゃない」

 本音を隠す気がないミラに額を抑えながらセシリヤは再びソファーへと腰かける。ミラと行動を共にしてパンディオンと戦った洞窟まで行くことにメリットは何一つない。彼が得をするばかりだ。

 「メリットですか? んー」

 ミラは人差し指を顎に添えて天井を仰ぐ。少し逡巡した彼は「それでは」と口を開いた。
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