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第七十八話 本部からの来客
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「お母さん、どうする?」
「どうするって?」
「……っ、ツノゴマに文句の一つでも言っていいと思うの!」
興奮しているペレシアの両肩に手を置いてクルバは優しく微笑んだ。それだけでペレシアは口を噤む。
「何も言う事はないよ。たしかに水が出なかった日々は辛かったけど、親切な誰かさんのおかげで今は解決したからね」
そう言ってクルバはセシリヤの方を見た。視線を受けたセシリヤは素知らぬふりをしてソーセージを口に入れる。
「そっか……、お母さんがいいなら何も言う事ないわ」
ペレシアはくしゃくしゃに顔を歪めて涙ぐんだ。
「あ、そうだ……! セシリヤさん、丁度良かったです。お伝えしたいことが……!」
涙を拭ったペレシアがセシリヤを向いて言った。油断していたセシリヤはカフェオレで咽そうになる。
「な、何⁉」
ツノゴマの件ではないだろう、とは思うが万が一ということもある。セシリヤは次の言葉を待った。
「はい! 実は、本部からお二人起こしでセシリヤさんとミラ様をお呼びです」
「……二人?」
「はい」
頷いたペレシアにミラが勢いよく立ち上がった。目を丸くしてセシリヤがミラを見上げる。
「え、どうしたの⁉ 急に」
「……本部から二人? そんなはずは……、いや、あり得る……うわ、最悪」
テーブルに両手を付いたミラがぶつぶつと呟いている。
「セシリヤさん、すぐに逃げましょう!」
「はい⁉ 逃げるってどこに?」
セシリヤの手を取ったミラに困惑していると、
「残念だったな、手遅れだ」
扉が開いた。二人が視線を向けると、そこには中年男性が立っていた。
「うわぁ……、来ちゃった」
ミラが心底嫌そうな表情をする。彼の反応を気にしていないのか、中年男性は構わず中に入ってきた。
「そう、来ちゃった」
語尾にハートマークでも付いていそうな言い方にセシリヤとミラは身震いする。ドン引きしている二人に「なんだ、お前ら失礼だな」と男が息を吐いた。
「いや、どう見ても貴方のその言い方の方に問題があるかと思いますが……。一度ご自分の言動を見直してみてはいかがでしょうか。ヴァシリー様」
ヴァシリーの後ろから女性が顔を出す。
「あ、ラウラ!」
気付いたセシリヤが相手の名前を呼べば、ラウラは咳払いをして眼鏡の智を上げた。
「やっぱりあんたも来たのかよ……」
「ええ。転移魔法が使えないヴァシリー様がどうしても、と言うので仕方なく」
(いや、どう見ても仕方なくって顔じゃないけど?)
得意げな表情を隠しきれていないラウラにミラがそっとツッコミを入れる。
「ヴァシリーは何しに来たのよ。あなたそんなに暇じゃないでしょ? 暇なの?」
セシリヤの問いにヴァシリーは椅子に腰かけながら眉を寄せて難しい顔をする。
「うーん、暇じゃないんだな!」
声を上げて笑うヴァシリーをミラとラウラが呆れ顔で見た。セシリヤは「でしょうね」と肩を竦める。
「本部の総帥であるあなたが暇なはずないもの。それで? わざわざ何の用?」
「一つはいつまで経っても帰って来ない部下を迎えに」
ヴァシリーの視線がミラへと向けられる。視線を受けてミラは顔を背けた。ラウラは溜息を吐きながら「ほんと、世話の焼ける後輩を持つと苦労するわ」と小声で毒づいている。
「先輩、聞こえてます」
ニコニコと作り笑いを貼り付けるミラにラウラも負けじと笑みを貼り付ける。静かに火花を散らしている二人を無視してヴァシリーが続きを話し始めた。
「二つ目はセシリヤ、お前に用があってきた」
「用? 私に?」
首を傾けるセシリヤにヴァシリーが頷く。いつもは飄々として捉えどころのない彼のいつになく真剣な表情にセシリヤは緊張した。
「どうするって?」
「……っ、ツノゴマに文句の一つでも言っていいと思うの!」
興奮しているペレシアの両肩に手を置いてクルバは優しく微笑んだ。それだけでペレシアは口を噤む。
「何も言う事はないよ。たしかに水が出なかった日々は辛かったけど、親切な誰かさんのおかげで今は解決したからね」
そう言ってクルバはセシリヤの方を見た。視線を受けたセシリヤは素知らぬふりをしてソーセージを口に入れる。
「そっか……、お母さんがいいなら何も言う事ないわ」
ペレシアはくしゃくしゃに顔を歪めて涙ぐんだ。
「あ、そうだ……! セシリヤさん、丁度良かったです。お伝えしたいことが……!」
涙を拭ったペレシアがセシリヤを向いて言った。油断していたセシリヤはカフェオレで咽そうになる。
「な、何⁉」
ツノゴマの件ではないだろう、とは思うが万が一ということもある。セシリヤは次の言葉を待った。
「はい! 実は、本部からお二人起こしでセシリヤさんとミラ様をお呼びです」
「……二人?」
「はい」
頷いたペレシアにミラが勢いよく立ち上がった。目を丸くしてセシリヤがミラを見上げる。
「え、どうしたの⁉ 急に」
「……本部から二人? そんなはずは……、いや、あり得る……うわ、最悪」
テーブルに両手を付いたミラがぶつぶつと呟いている。
「セシリヤさん、すぐに逃げましょう!」
「はい⁉ 逃げるってどこに?」
セシリヤの手を取ったミラに困惑していると、
「残念だったな、手遅れだ」
扉が開いた。二人が視線を向けると、そこには中年男性が立っていた。
「うわぁ……、来ちゃった」
ミラが心底嫌そうな表情をする。彼の反応を気にしていないのか、中年男性は構わず中に入ってきた。
「そう、来ちゃった」
語尾にハートマークでも付いていそうな言い方にセシリヤとミラは身震いする。ドン引きしている二人に「なんだ、お前ら失礼だな」と男が息を吐いた。
「いや、どう見ても貴方のその言い方の方に問題があるかと思いますが……。一度ご自分の言動を見直してみてはいかがでしょうか。ヴァシリー様」
ヴァシリーの後ろから女性が顔を出す。
「あ、ラウラ!」
気付いたセシリヤが相手の名前を呼べば、ラウラは咳払いをして眼鏡の智を上げた。
「やっぱりあんたも来たのかよ……」
「ええ。転移魔法が使えないヴァシリー様がどうしても、と言うので仕方なく」
(いや、どう見ても仕方なくって顔じゃないけど?)
得意げな表情を隠しきれていないラウラにミラがそっとツッコミを入れる。
「ヴァシリーは何しに来たのよ。あなたそんなに暇じゃないでしょ? 暇なの?」
セシリヤの問いにヴァシリーは椅子に腰かけながら眉を寄せて難しい顔をする。
「うーん、暇じゃないんだな!」
声を上げて笑うヴァシリーをミラとラウラが呆れ顔で見た。セシリヤは「でしょうね」と肩を竦める。
「本部の総帥であるあなたが暇なはずないもの。それで? わざわざ何の用?」
「一つはいつまで経っても帰って来ない部下を迎えに」
ヴァシリーの視線がミラへと向けられる。視線を受けてミラは顔を背けた。ラウラは溜息を吐きながら「ほんと、世話の焼ける後輩を持つと苦労するわ」と小声で毒づいている。
「先輩、聞こえてます」
ニコニコと作り笑いを貼り付けるミラにラウラも負けじと笑みを貼り付ける。静かに火花を散らしている二人を無視してヴァシリーが続きを話し始めた。
「二つ目はセシリヤ、お前に用があってきた」
「用? 私に?」
首を傾けるセシリヤにヴァシリーが頷く。いつもは飄々として捉えどころのない彼のいつになく真剣な表情にセシリヤは緊張した。
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