81 / 114
第七十八話 本部からの来客
しおりを挟む
「お母さん、どうする?」
「どうするって?」
「……っ、ツノゴマに文句の一つでも言っていいと思うの!」
興奮しているペレシアの両肩に手を置いてクルバは優しく微笑んだ。それだけでペレシアは口を噤む。
「何も言う事はないよ。たしかに水が出なかった日々は辛かったけど、親切な誰かさんのおかげで今は解決したからね」
そう言ってクルバはセシリヤの方を見た。視線を受けたセシリヤは素知らぬふりをしてソーセージを口に入れる。
「そっか……、お母さんがいいなら何も言う事ないわ」
ペレシアはくしゃくしゃに顔を歪めて涙ぐんだ。
「あ、そうだ……! セシリヤさん、丁度良かったです。お伝えしたいことが……!」
涙を拭ったペレシアがセシリヤを向いて言った。油断していたセシリヤはカフェオレで咽そうになる。
「な、何⁉」
ツノゴマの件ではないだろう、とは思うが万が一ということもある。セシリヤは次の言葉を待った。
「はい! 実は、本部からお二人起こしでセシリヤさんとミラ様をお呼びです」
「……二人?」
「はい」
頷いたペレシアにミラが勢いよく立ち上がった。目を丸くしてセシリヤがミラを見上げる。
「え、どうしたの⁉ 急に」
「……本部から二人? そんなはずは……、いや、あり得る……うわ、最悪」
テーブルに両手を付いたミラがぶつぶつと呟いている。
「セシリヤさん、すぐに逃げましょう!」
「はい⁉ 逃げるってどこに?」
セシリヤの手を取ったミラに困惑していると、
「残念だったな、手遅れだ」
扉が開いた。二人が視線を向けると、そこには中年男性が立っていた。
「うわぁ……、来ちゃった」
ミラが心底嫌そうな表情をする。彼の反応を気にしていないのか、中年男性は構わず中に入ってきた。
「そう、来ちゃった」
語尾にハートマークでも付いていそうな言い方にセシリヤとミラは身震いする。ドン引きしている二人に「なんだ、お前ら失礼だな」と男が息を吐いた。
「いや、どう見ても貴方のその言い方の方に問題があるかと思いますが……。一度ご自分の言動を見直してみてはいかがでしょうか。ヴァシリー様」
ヴァシリーの後ろから女性が顔を出す。
「あ、ラウラ!」
気付いたセシリヤが相手の名前を呼べば、ラウラは咳払いをして眼鏡の智を上げた。
「やっぱりあんたも来たのかよ……」
「ええ。転移魔法が使えないヴァシリー様がどうしても、と言うので仕方なく」
(いや、どう見ても仕方なくって顔じゃないけど?)
得意げな表情を隠しきれていないラウラにミラがそっとツッコミを入れる。
「ヴァシリーは何しに来たのよ。あなたそんなに暇じゃないでしょ? 暇なの?」
セシリヤの問いにヴァシリーは椅子に腰かけながら眉を寄せて難しい顔をする。
「うーん、暇じゃないんだな!」
声を上げて笑うヴァシリーをミラとラウラが呆れ顔で見た。セシリヤは「でしょうね」と肩を竦める。
「本部の総帥であるあなたが暇なはずないもの。それで? わざわざ何の用?」
「一つはいつまで経っても帰って来ない部下を迎えに」
ヴァシリーの視線がミラへと向けられる。視線を受けてミラは顔を背けた。ラウラは溜息を吐きながら「ほんと、世話の焼ける後輩を持つと苦労するわ」と小声で毒づいている。
「先輩、聞こえてます」
ニコニコと作り笑いを貼り付けるミラにラウラも負けじと笑みを貼り付ける。静かに火花を散らしている二人を無視してヴァシリーが続きを話し始めた。
「二つ目はセシリヤ、お前に用があってきた」
「用? 私に?」
首を傾けるセシリヤにヴァシリーが頷く。いつもは飄々として捉えどころのない彼のいつになく真剣な表情にセシリヤは緊張した。
「どうするって?」
「……っ、ツノゴマに文句の一つでも言っていいと思うの!」
興奮しているペレシアの両肩に手を置いてクルバは優しく微笑んだ。それだけでペレシアは口を噤む。
「何も言う事はないよ。たしかに水が出なかった日々は辛かったけど、親切な誰かさんのおかげで今は解決したからね」
そう言ってクルバはセシリヤの方を見た。視線を受けたセシリヤは素知らぬふりをしてソーセージを口に入れる。
「そっか……、お母さんがいいなら何も言う事ないわ」
ペレシアはくしゃくしゃに顔を歪めて涙ぐんだ。
「あ、そうだ……! セシリヤさん、丁度良かったです。お伝えしたいことが……!」
涙を拭ったペレシアがセシリヤを向いて言った。油断していたセシリヤはカフェオレで咽そうになる。
「な、何⁉」
ツノゴマの件ではないだろう、とは思うが万が一ということもある。セシリヤは次の言葉を待った。
「はい! 実は、本部からお二人起こしでセシリヤさんとミラ様をお呼びです」
「……二人?」
「はい」
頷いたペレシアにミラが勢いよく立ち上がった。目を丸くしてセシリヤがミラを見上げる。
「え、どうしたの⁉ 急に」
「……本部から二人? そんなはずは……、いや、あり得る……うわ、最悪」
テーブルに両手を付いたミラがぶつぶつと呟いている。
「セシリヤさん、すぐに逃げましょう!」
「はい⁉ 逃げるってどこに?」
セシリヤの手を取ったミラに困惑していると、
「残念だったな、手遅れだ」
扉が開いた。二人が視線を向けると、そこには中年男性が立っていた。
「うわぁ……、来ちゃった」
ミラが心底嫌そうな表情をする。彼の反応を気にしていないのか、中年男性は構わず中に入ってきた。
「そう、来ちゃった」
語尾にハートマークでも付いていそうな言い方にセシリヤとミラは身震いする。ドン引きしている二人に「なんだ、お前ら失礼だな」と男が息を吐いた。
「いや、どう見ても貴方のその言い方の方に問題があるかと思いますが……。一度ご自分の言動を見直してみてはいかがでしょうか。ヴァシリー様」
ヴァシリーの後ろから女性が顔を出す。
「あ、ラウラ!」
気付いたセシリヤが相手の名前を呼べば、ラウラは咳払いをして眼鏡の智を上げた。
「やっぱりあんたも来たのかよ……」
「ええ。転移魔法が使えないヴァシリー様がどうしても、と言うので仕方なく」
(いや、どう見ても仕方なくって顔じゃないけど?)
得意げな表情を隠しきれていないラウラにミラがそっとツッコミを入れる。
「ヴァシリーは何しに来たのよ。あなたそんなに暇じゃないでしょ? 暇なの?」
セシリヤの問いにヴァシリーは椅子に腰かけながら眉を寄せて難しい顔をする。
「うーん、暇じゃないんだな!」
声を上げて笑うヴァシリーをミラとラウラが呆れ顔で見た。セシリヤは「でしょうね」と肩を竦める。
「本部の総帥であるあなたが暇なはずないもの。それで? わざわざ何の用?」
「一つはいつまで経っても帰って来ない部下を迎えに」
ヴァシリーの視線がミラへと向けられる。視線を受けてミラは顔を背けた。ラウラは溜息を吐きながら「ほんと、世話の焼ける後輩を持つと苦労するわ」と小声で毒づいている。
「先輩、聞こえてます」
ニコニコと作り笑いを貼り付けるミラにラウラも負けじと笑みを貼り付ける。静かに火花を散らしている二人を無視してヴァシリーが続きを話し始めた。
「二つ目はセシリヤ、お前に用があってきた」
「用? 私に?」
首を傾けるセシリヤにヴァシリーが頷く。いつもは飄々として捉えどころのない彼のいつになく真剣な表情にセシリヤは緊張した。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる