異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第1話:異世界転生?

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 其の日、俺は『眼』を見た。
 空から――いや、宇宙から地上を覗き込む何者かの『眼』を

 其れは只々巨大で、宇宙から地球を覗き込む巨人の『眼』でもあった

 其れは蟻の行列を覗き込む無垢な子供のビー玉の様にキラキラと好奇に輝いてる『眼』でもあった

 其れはこの世の有と在らゆる絶望を識って全てを諦めた感情の抜け落ちた無機質な『眼』でもあった

 其れは神の如き我が子を寵愛し慈しむ暖かな『眼』でもあった

 そんな矛盾に満ちた巨大な其れを見て人智の及ばぬ、それこそ神の『眼』に見えたが一つだけ確信した






 ――其れは観ていた



 *******



 そこには見渡す限り視線を遮る物が一切無い草原があった。
 柔らかな頬を撫でる心地好い風が足元の背の低い緑の草を揺らしている。
 周りを見渡すも、遥か遠くに所々丘陵が存在するだけで他には何も無かった。
 そんな現代人なら総じて心が安らぎそうな草原に俺は立っていた。

「ッ!?」

 脳が大いに混乱し、慌てふためく。
 ほんの瞬きをする一瞬で自分を取り巻くようが劇的に変化した事に脳が追い付かない。きっと傍から見れば俺の頭の上にはそれは数多くの「?」が浮かんでいる事だろう。
 それはそうだ、ほんの数秒前まで拠点にしていたホテルから徒歩二分程のコンビニに弁当でも買いに行こうと何を考えるでもなく歩いていたのに、喧騒とまでは行かないが夜も始まったばかりのそれなりに騒がしい繁華街から、気付けば其れは其れは長閑な草原に、まるででもしたかの様にしたのである。
 まるで理解が追い付かなかった。
 辺りを見回すも、見れば見る程そこは現代日本とは遠く懸け離れた場所としか思えなかった。


 そしてあの『眼』―――


 それについて考えてみるが当然ながらまったく分からない。

 蜃気楼みたいな自然現象?プロジェクションマッピングやホログラム?その場合理由って――いやいや意味分かんないだろ――でも俺の頭が可笑しくなったと言うのはに無い

 そんな事を考えていると少し頭が冷えて来た気がした。

 先ずは状況把握を優先しよう
 そもそも此処は何処なのだろうか

 辺りを再度見渡してみるも、先程と何も変わらない長閑としか言い様の無い草原があるだけだ。
 人工的な建造物も見える範囲では発見出来ないし、人も動物も見当たらない。当然の如く道なんてものは存在せず、只只長閑な草原が続いているだけだ。
 自分の記憶を思い起こしてみる。

 日本でこんな大草原があっただろうか?
 まあ、北の大地に遥か地平線まで見渡せる何たら畑みたいなものも無くはない訳だが、そもそも俺はとある都市の中心街に居たはずだ
 それが瞬きをするよりも刹那な瞬間、気が付けば大草原って…
 明らかに自分の、いや人間の理解を超えて――と、ここではたと思い出す
 スマホがあるじゃないか!
 現代人にはもう無くてはならなくなってしまったと言っても過言では無い文明の利器!!
 それさえあればGPSを使い、自分が今現在何処に居るか直ぐに分かる

 焦り過ぎてそんな現代人には単純明快な答えにすら至らない自分自身に嘲笑を浮かべながら履いていたパンツの左後ろのポケットを弄る。

 え?無い…

 何処かに落としたのかと、自分の足元を見回してみるも特に何も落ちていない。
 そのまま他の所持品も確認するが何も無かった。
 と言っても、ホテルを出る際に所持していたのは財布とスマホのみだった事を思い出し、自然と自分の現在の服装に目が行く。
 まだ二十四節気で言う秋分を過ぎた辺りだが、最近は妙に肌寒く感じていたので、Tシャツにふかふかの裏起毛が付いた黒いジップアップパーカー、カーゴパンツとスキニーを併せた様な九部丈のカーキ色のパンツに白地に青いラインの入ったハイカットのスニーカー。
 自分の記憶通りである事を確認し少しだけホッとするも結局は所持品が消えている事が分かっただけで、此処が一体何処であるかは以前分からなかった。
 寧ろ、謎が深まった様な気さえした。

 この疑問は考えても埒が明かない
 次だ次

 分からない事は分からないと、次の疑問に意識を移す。

 俺がホテルを出たのは確か二十時を少し過ぎたくらいだったはず
 でも今この場所は空を見上げれば紛う事無き太陽が中天に燦々と輝いている
 此れを日中と言わずして何と言うのか
 つまりは、夜から昼へしたと言う事ではないのだろうか
 そうなると、に加えてまでも移動した事になる。

 いや、この場所へ移動してから夜から昼へと変わる間気絶などしていて気付かなかったとか、移動するその事象自体に時間が掛かるなんて事も有り得るかもしれない

 どちらにしても結局は何も分からないしかなり厄介だ、と思った。

「まあもう如何でもいいか」

 それと同時に諦めや断念に似た感情が自分の中に沸々と湧いて出て来ている事も直ぐに理解し受け入れたし、何よりも自分の今の境遇や状態かどんなに良い方向に考えてもと思えてしまうのだ。

 この状況がではなかったら何だと言うのだろうか

 そう思える程に自分のが汚れている事を自覚していたし、日本人特有のキリスト教などの神は信じていないが、八百万信仰とも言うべきか様々な物に神様が宿っているだとか、困った時の神頼み的な感性を持ち合わせている為になんてものも心情的に納得している部分もあったりする訳で、そういった考え方がある程度自分の中にも浸透しているからこそ、今までの自分自身の行動だけでは無い、考え方に至るまでの全てがを受けて当然と思っていた。

 それに死ぬ時は死ぬし、駄目な時は駄目で、今分からない事は結局今は分からない

 こうなってしまった原因も結局は情報が無いと分からないし、現状に対処するにしても情報が無いと対応が出来ないと思うと考えるのは辞めて自然と身体が動き出していた。

 先ずは人を探そう

 そう思い遠くに臨む事が出来る丘陵に向かって歩き出す。
 何故丘陵を目指したのかと言うと、単純に少し高い所からこの草原を見渡したら何かを発見出来るかもしれないと思い至ったからであった。
 あの丘を登り切った先に街が見え―――なんて事はあまり期待はしていないが、もしかしたら街道くらいは見付けられるかもしれない。そう思った。

「彼処までどれくらいだ?」

 丘陵を眺めながらそう独り言つ。
 そこまで大した距離では無さそうであるが、如何せん何も遮蔽物の無い草原である。比較対象する物が無く何だか少し距離感が掴めないでいた。

「まあ2キロから3キロくらいかな?」

 成人男性は平均して分間80メートル程歩けると言われているので、時速に直すと4.8キロ程歩けると言う事になる。それなら2キロから3キロなら2、30分程かと思い少し歩く速度を早める。
 何だかちょっとばかり早くあの丘の先に何があるのか、何が見えるのかを確かめたくなり心が逸って来ていた。
 歩が少しばかり早くなると自分の身体の状態が気になりだし、歩くのと平行して左右の腿を交互に腹に近付ける様に上げたり下げたり、両肩をグルグルと廻してみたりとそれこそ、スポーツを行う前の準備運動ウォームアップの様に入念に身体を動かしていく。特に違和感等は感じられず、最後にと少し立ち止まりその場でジャンプをしたりアキレス腱を伸ばしたりしていく。

 特には不具合を感じる事は無いし、の感覚とズレている気もしない

 ここでふと思う。

 此れはと言うやつではないだろうか…

 実は今の自分の状況に仮説までとは行かないが少しばかり思う事があったので準備運動を終えて再び丘陵へと向かいつつ、異世界転移について考えてみることにした。
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