異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第2話:異世界転移?

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 ―――異世界転生

 アニメや漫画、ラノベ等で何作品か異世界転生ものと呼ばれている作品を観た記憶があり、確かそれは死んで生まれ変わった先が地球ではなく、異世界――剣と魔法のファンタジーな世界等であり、主人公は前世の記憶が残っていてその記憶を基にしたりまたは神様や女神様が不遇の死を遂げた主人公に転生先で使える有用な能力や知識を与え、主人公がすると言うのがオーソドックスな異世界転生だったと俺は思っている
 今まで観たり読んだりしたの話はテンプレだとこんな感じだ
 ただこの場合の転生とは現世での輪廻転生では無く、生まれ変わり先が異世界であると言う事であり、死んでから生まれ変わると言う事だ

 服装はそのままだし、身体を動かした感じでは特に違和感は感じない。その事からこれは転生ではなく転移ではないだろうか、と思い至る。



 ―――異世界転移

 これは死んで生まれ変わる訳ではなく、肉体や精神はそのままに異世界へと転移してしまうものだ。

 まあ、転生と転移の違いは今はどうでもいい
 今重要なのは異世界への転生なり転移なりの話の場合ここがどんな世界なのかと言う事だ
 転移前の世界、つまりは地球、ひいては宇宙、全世界を満たす物理法則や全ての概念が転移前とは似通っている部分はあるが物理法則以外の何かみたいなものが存在していたりするのかもしれない

 ただ、俺が知っている異世界転移ものは地球人である転移者は、転移した先で身体能力などは以前と変わらないが転移先の全ての概念から逸脱していたり、転移先には存在しない知識が超絶有効だったり――つまりは地球での普通が転移先では異端であり異常でもある訳だが結果的に化物じみた能力を有する事となったり、はたまた異世界転生と同じ様に神様的な何かによって超常の力みたいなものを授かって無双してしまうのがオーソドックスな異世界転移だったりしたはずだ。

 俺が読んできた聖典の数々ではそうであった
 異世界だったらいいなあ

 異世界転移なんてそんな馬鹿なと否定する自分はいるのだが、もしかしたらと思う自分も存在していた。

「これで魔法でも使えれば異世界転移って事になるんだろうな…」

 そうひとりごちたと同時くらいに目指していた丘陵の麓へと辿り着いていた。
 目の前の丘陵は標高と呼べる程の高さがある訳では無く、十メートルから十五メートル程であろうか。
 ただ、丘陵は目の前の一山だけではなく、左右にはかなりの距離続いている様にも見える。
 目の前のものの更に奥にももしかしたら丘陵が続いてるかもしれない。
 キョロキョロと周りを見渡すも結局はどの丘陵も同じ様な高さなので目の前のものを登ってみるかと思ったが、少し休憩をと先程の考察へと再び思い耽る。

 異世界の剣と魔法の世界に転移したとすれば魔法を使えたりするのだろうか

 胸の奥で疼き始めているをなるべく押し殺しながら薄く目を閉じ自身の内に眠る更に別のを感じ取るべく意識を集中してみる。











「いや!わかんねーしっ!!」

 俺の大好きなチート主人公達ならばここでを感じ取り、それを転生者や転移者特有の類稀なるセンスってやつで操って魔法をぶっ放すみたいな流れになるんじゃないのか!?

「いや待て、もしかしたらそんな事しなくとも魔法は使える世界だったりするのかも!魔法名だけを只唱えるとかさ!」

 きっとそうなんだ
 なんたってここは異世界(仮)なんだからさ

 とりあえず右手を正面に構えてなんとなーく丹田辺りに力を込めながら適当なを口に出してみる。

「ファイアーボール」

 んー

「ファイアー」

 んんっ

「ファイアーランス」

 ランスじゃダメか?

「ファイアーアロー」

 おい、なんだなんだ?

「火球!」

 あ、もしかしたら…
 絶対これだろ!



「メ●!」
「メ●ミ!!」
「メ●●ーマ!!!」

 キーッ!何なんだ!!
 何が正解なんだ!!

「エクスプ●ォォォォジョン!!!!」

 …

「ア●●テマ!」
「ホ●リ●!」
「か●は●波!!!」





 なんだこれ
 何なんだここは
 異世界じゃないのか?剣と魔法のファンタジーの世界じゃないのか!?
 まあよくよく考えたら異世界転移なんてある訳ないよね…
 でもじゃあよく分からないこの転移じみた状況は何なんだ

 と冷静なもう一人の俺がツッコミを入れてくるがとりあえず放心してみる。
 現実逃避である。
 無意味に空を見上げ、「空は青いなぁ」とか「今日は良い天気だなぁ」とか呟いてみるが特に意味が有った訳でも無い。

 そんな時、突然ドォォォッンと何かが爆発した様な轟音が辺りに響き渡りそれを耳にしてハッと我に返る。音のした方向へ目を向けるが、どうも丘陵の向う側で聞こえてきた気がした。

「何だ今の音」

 考えても分かる訳も無かったのでそのまま丘陵を一気に駆け登った。
 ここ二年程ジムで筋量を増やしプライベートでは走り込みをしてスタミナを付け、とある流派の格闘技道場に通って只管自分を虐め抜いて来た俺からすればこんな丘を一気に駆け上がるのなんて訳は無かった。
 一気に丘の頂上まで登りきり勢いそのまま辺りを見渡し状況を確認する。
 すぐに爆発があったと思しき場所は発見出来た。
 自分が現在居る丘陵の頂付近から1キロくらい先に少し大きめの焚火をしているかの様な煙、それも黒煙が立ち昇っていた。

「あれが爆発したとこっぽいな」

 その黒煙は丘陵の頂からはかなりなだらかに下った先であり、更にその先には丘陵がまたあり、丁度今居る丘陵と先の丘陵との間で谷の様な箇所だった。

「あぁ、なるほど、ここは丘陵群と言うか丘陵地帯なのかな」

 等とまるで平静であれと自らを諌める様に周囲を覗いある程度の地形的な情報を把握して直ぐに黒煙付近へと目線を戻しそして黒煙へと駆け出す。
 力強く、丘陵の地面の土を履いていたスニーカーの靴底が押し出し、爆ぜ、まるで限界まで引き絞られてそこから解放された矢の様に、獲物を狙い定めてから襲い掛かる肉食獣の様に駆け出した。

 遠く1キロ程離れているしなんだかよく分からないが、やっぱり!と思った。絶対そうだ!とも思った。心の中で何かがストンと落ちてカチリとハマった。

「最高だろ!!」

 感情が抑え切れなかった。
 子供の頃に鬼ごっこをしていて自分が鬼でもう少しで子を捕まえられそうなのに捕まえられない。手を伸ばせば捕まえられそうなのにあと一歩の所でスルリと伸ばした手を躱される。
 けれども離されず、もう少し、あと一歩。
 あの時の高揚感と焦燥が入り交じった様な感情を感じながら黒煙へ向かって駆けて征く。

 丘陵の頂から全力で駆け出し、ペース配分など考えずに黒煙へと全力疾走した。傾らかな下り坂を途中躓きそうになりながらも転がらない様に踏ん張りながらも出来るだけ速く!
 黒煙に近付くと付近に動く人影の様なものが確認出来た。
 其れは人間であろうとは思ったが構わず人影がどう言ったものなのか確認出来る程まで近付くと確信した。



 此処は異世界だ!!
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