異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

文字の大きさ
上 下
30 / 335
第1章:異世界と吸血姫編

第30話:PT戦

しおりを挟む
 結局この旅は黒●号と荷馬車をそのまま使う事となった訳だが、相も変わらず●王号は威風堂々とした佇まいであった。
 そんな黒●号に牽かれる荷馬車の中に俺とアリシエーゼが乗り、後は荷馬車の周りを他のメンバーが囲んで進んで行った。
 ちなみに御者はパトリックが務めている。
 俺はちょっとした興味本位で現在は御者台にパトリックと乗っている。

「おぉうッめっちゃ早く感じるぅぅ」

「ハハ」

 ガッタンガッタン激しく揺れて黒王●号のパワーの元結構なスピードで多少均されてるとは言え森を走り抜けるこれは、遊園地にある絶叫マシンの比じゃ無いくらいの体感だった。
 暫く進むと道が二つに別れており、一行は左の道を進んで行った。

「右の道は一昨日屋敷に来る時に使った道なのかな」

「そうそう、あの時はあっちの道を使ったよ」

 俺の独り言の様な言葉にパトリックは前を見て手網を握りながら答えた。

「やっぱりそうなんだね。そう言えばパトリックってヒーラーって事は神聖魔法の使い手だよね?」

「うん、僕は様にお仕えしているよ」

 まただよ・・・
 何で地球の天使と同じ名前なんだよ
 って言うかなんで天使じゃ無くて神様になってんだ
 その辺りは地球によく似た異世界だからで通ってしまうんだろうか

 アルアレも傭兵には見えなかったがパトリックはもっと、言うならば軟弱に見える。
 サラサラとした中分けの黒髪で、十代に見えなくも無いが二十二歳だそうだ。

 この見た目で二十代は反則だろ・・・

 そんなパトリックと取り留めのない話をしながら御者台を満喫しながら森の中を進んで行く。
 屋敷を出発してから1時間程経った頃であろうか。
 パトリックが突然黒●号の手網を引いて馬車を停めると、大きな声で後ろから着いて来ている他のメンバーに言う。

「左前方!ウルフ五!」

 その声と同時にナッズとソニが武器を携えて前方に駆け出した。

「なんだなんだ?敵?」

「そうだよ!狼だ!」

 そう言ってパトリックは御者台から馬車の上に飛び乗り、全体を俯瞰して見える様に位置取った。

「ハルくんは中に入って姫様と一緒に居て!」

 既に狼と戦闘を始めたナッズ達を見つめながらパトリックは俺に言った。

「いや、俺はここに居るよ。ちょっと見てみたい」

「でも危ないよ?」

「へーきへーき」

 俺は手をヒラヒラしてパトリックに答える。

「なんじゃ獣か?」

 アリシエーゼがそう言ってひょこりと荷馬車の上に顔を出してパトリックを見た。

「はい、狼が5です」

「ふーん、まあすぐ終わるじゃろ」

「はい」

 二人の会話が終わる頃には狼の数は残り一匹となっおりその通りすぐに終わりそうだあった。
 先頭のナッズとソニは上手く連携して一人の攻撃で回避場所を誘導してもう一人がそこに攻撃を加える様な形で終始主導権を握って戦闘をしている様に見えた。

 なるほどな
 やっぱり結構な時間を共に過してるだけある
 連携がスムーズだな

 こういった集団戦の様なものの経験は皆無の素人から見るとその動きは淀みなかった。

「終わりましたね。後続は――無さそうですね」

 そう言ってパトリックは御者台に座り直して手網を握り直してすぐに場所を走らせ始めた。
 アルアレは今回戦闘には参加しなかったが、まあ魔法を使うまでも無かったのだろう。
 ナッズ達は殺した狼の牙をナイフを使って器用に取っていた。

「上手く殺せなかった。毛皮は無理だな」

「今回はあまり素材も乗せておけないので別に構わないでしょう」

 アルアレはそう言ってアルアレとソニを見る。
 二人はすぐに全ての狼から牙を取り立ち上がった。

「ちょっと手を洗わせてくれ」

「いつも通り左前です」

「はいよ」

 そう言ってナッズは馬車の左前の樽下側に付いているコルクの様な物を引き抜き水を出した。
 そしてソニと二人で血の付いた手をよく洗い、終わるとまたコルクの様な物を詰めて水を止めた。

 あんな物付いてたのか
 全然気付かなかった

 先程の会話は飲料水以外の水は左前の樽に入っているって事だったんだなと納得して俺も御者台に座り直した。

「じゃあ出発します」

 そう言ってパトリックは再度手網を操り馬車を動かし始めた。

「今の狼って魔物なの?」

 俺は疑問に思っていた事をパトリックに聞いてみた。

「ううん、あれは只の獣、野生動物だよ」

「あ、そうなのね」

「この辺りの森には魔物はあまり居ないかな。居てもゴブリンとかコボルトの小集団くらいだと思うよ」

「へぇ」

 やっぱり居るのねゴブリン

 どうもこの世界では普通の獣と魔物や魔獣はすみ分けられていて、魔物は知性があるものが殆どらしいので、知性の有無で分けられている感じだった。

「魔獣って魔物の獣版、魔物は二足歩行、獣はそれ以外って思っていいの?」

「うーん、ちょっと違うかな。魔物にも二足歩行じゃないのもいるし」

「例えば?」

「アラクネとか」

 アラクネってあれか
 上半身が人間の女で下半身は蜘蛛ってやつ

 確かに言われてみるとアラクネは魔獣と言うより魔物って感じはするなと思った。

「なるほどなぁ。それはそうと次何か出て来たら俺も戦闘に参加するよ」

「え!?大丈夫なの?」

「問題無いよ」

 そう言えば人外になったと皆には伝えて無かったなと気付いたが別にいいかとそのままにした。

「おーい、次何か出て来たら俺も戦うからお前もやろうぜー」

 御者台から荷馬車の壁をドンドンと叩いてアリシエーゼに伝えた。
 するとアリシエーゼは走行中に荷馬車の天井によじ登り御者台の方まで匍匐前進で来た。
 そして荷馬車の上なら行者台を覗き込む様な形で話し掛けて来た。

「試すのか?」

「うん、ちょっと動いてみたい」

「そうか」

 そんな会話をしていると都合良く次の獲物が現れた様であった。

「ッ!ゴブリン!―――じゅ、十一!右前方!」

 パトリックはその体格に似合わないデカい声を挙げ馬車を停める。
 ナッズとソニがすぐさま前方へ駆け出す。

「アルアレとパトリックは後方で待機して指示出ししてくれ!」

 俺はそう言ってアリシエーゼと共にナッズ達の元に向かった。
 御者が馬車を操りながら索敵を行うのが普通なのかそれともパトリックの索敵範囲が広いから任されてるのか分からないが恐らく魔力探知みたいなもので索敵しているんだろうと予想を立てた。
 それなら戦闘中の今も索敵は怠っていないと思われるので挟撃される心配は無いかと逡巡する。

 これはちゃんと確認取っておくべきだったな

「アリシエーゼは俺と遊撃で、抜けてきたのをよろしく」

「うむ!」

 ナッズ達は馬車が走っていた道から右前方の森の中でゴブリンと会敵して既に戦闘を始めている。
 全部で十一体なので流石に二人で抑えるのは無理があると最初から分かっていたし更には開けた道での戦闘では無く、木々が生い茂る森の中での戦闘の為ナッズの大剣では大立ち回りは出来ずにいた。
 ナッズは二匹を相手取っており、更に別の二匹がナッズに攻撃を仕掛けようと隙を伺っている状態で、ソニは三匹のターゲットを取っている。
 そして四匹のゴブリンがナッズとソニの横を抜けて来た。
 丁度上手い具合に二匹ずつに別れたのでそのまま一人で二匹を片付ける様に俺とアリシエーゼも自然と別れた。

 俺の前に駆けて来たゴブリンを改めてよく見てみるが、テンプレのゴブリンだなぁくらいの感想しか湧かなかった。
 くすんだ緑色の肌に鼻は鷲鼻で耳は人間のものより若干尖っていて醜悪な顔。
 身長は百四十センチ程であろうか低く、ボロボロの腰布を巻いているだけの貧相な格好で、日本でなら邪鬼とか呼ばれてるかもな等と思いながら俺は二匹を相手取る形で進路を塞ぐ。

「グギャギャッ」

「グゲァガッ」

 二匹のゴブリンはゴブリン語?なのか何なのかよく分からないが言語でコミュニケーションをお互いに取り合い、俺の方を見て醜悪な顔を更には歪ませた。

「ググゲェゲッ、グガゲッ――」

 一匹のゴブリンが相方のゴブリンに何か言っていたが俺は構わずそのゴブリンへと攻撃を仕掛ける。

「戦闘中に相手から目を逸らすな――ッよ!」

 素早く腰を落とし右足が凄まじい力を加え地面が悲鳴を上げる様に爆ぜた。
 そのまま勢い良く俺はゴブリンの横を通り過ぎざまに右拳を顔面に叩き付けるとゴブリン顔面はボグンッとくぐもった音を立てて吹き飛んだ。

 力の加減を間違えた・・・

 顔を無くしたゴブリンはそのまま後ろに倒れて絶命した。
 俺はゴブリンを見下ろしながら自分の右拳を見ると骨が剥き出しになって血が吹き出していたが、それを確認している内に傷は何も無かったかの様に修復されていて、自分の血なのかゴブリンの血なのか分からない跡だけが残されていた。

 かなり抑えたつもりだったけどもっと抑えてもいいな

 今は三割程の力で踏み込み、その勢いを利用して同じく三割程の力で拳を振り抜いたが、一割くらいの力でもオーバーキルになりそうだなと思った。

 でも踏み込みは出来るだけ早くしたいし
 そうなるとその勢いを利用するとどうしても力が乗っちゃうしなぁ

 魔力障壁を貼れない俺は別の方法で身体を保護しないとダメだと言う事だ。

「まぁ、装備でどうにか出来るかね」

 そう言って俺は残っているゴブリンにを向ける。

「クゲッ・・・」

 相方が一瞬の内に絶命している事に理解が追い付かないのかゴブリンは固まっていた。
 俺は素早くゴブリンの前まで移動し、ボディを打つ容量でまたゴブリンの顔面を吹き飛ばした。
 拳はまた損傷したが問題無く一瞬の間で修復したのでアリシエーゼの方を振り向く。
 アリシエーゼも既に二匹のゴブリンを片付けていたのかこちらに歩いて来ていた。

 あいつはどうやって倒したんだろうか

 アリシエーゼは特に問題無いだろうとそちらを気にしていなかったのでどうやってゴブリンを倒したのか分からなかったので死体を見てある程度推測しようと思っていたが・・・

「あれ?死体は?」

「無いぞ?」

「うん??」

 アリシエーゼは俺の前まで来るとそう答えた。

 無いってどう言う事だろうか・・・

 確かにアリシエーゼがゴブリンと相対していた辺りを見てもゴブリンの死体は無い。

「どう言う事だよ?」

「跡形も無く消し飛ばしてやったわ」

 そう言ってアリシエーゼは鼻を鳴らした。

 オーバーキル!
 俺よりもオーバーキル!

「あ、そう・・・」

「お主も問題無さそうだったの。総合の様なものをやっていたと言っておったから問題無いだろうとは思っておったがの」

「うん、まあ魔物にも俺の体術は有効な気はするけど・・・」

 そう言って俺は右拳を見つめた。

「あぁ、身体が耐えられなかったか」

「うん、でもその辺りは装備である程度どうにかなるかなって」

「まぁ、ある程度はの。じゃが本気を出せば耐えられる装備なぞその辺に売ってはいないだろうのう」

 アリシエーゼはそう言ってふむと唸る。

「魔法で装備に何かしらの力とか恩恵とか付与する様な事ってこの世界で出来るのか?」

「出来るぞ。属性の付与や身体の力等が増すものや剣なら斬った時に、棍や打撃武器なら殴り付けた時に魔法の効果、衝撃だったりを発動するものもあるぞ」

「おぉ、正しく思い描いている魔法装備!」

「ただし人が付与したものは大した効果は望めないぞ」

「何ッ!?」

「妾も大して詳しくないんじゃが、物に魔法陣を描いてどうたらとかよく分からんがかなり難しいらしい」

「じゃあダメじゃないか」

「ただし、魔界の魔物が持っている装備の多くは魔法が付与されておると聞く」

「おぉ、なら好都合じゃないか」

「そうじゃの。手に入れられればな」

 やはりダンジョン攻略の方向性は間違いだは無いんだろう

「それに魔界から持ち帰られた武具が市場に流れる事もあるみたいじゃしの」

「それならして譲り受ける事も可能だな」

 もし店売りしているのなら話は早いか
 まずは今向かっている街で色々と情報収集をする事にしよう

 ナッズたちの方も既に戦闘を終了している様でソニとこちらに歩いて帰って来た。
 魔物素人から見た感じではあるがナッズとソニは危なげなくゴブリンを相手取っていたし、まあ問題は無かったんだろうと思った。
 かくいう俺も初の二足歩行の人型の魔物だったので何かしら戸惑いみたいな物が生じるかとも思ったがまったくそんな事は無かった。
 ナッズとソニが帰って来る姿を見てふと気になった事をアリシエーゼに尋ねてみた。

「なぁ、ゴブリンの討伐部位ってどこなんだ?」

「討伐部位??」

「あれ?魔物の討伐部位とかをギルドとかそれに準ずる何処かに出せば報酬貰えるとかそう言うシステムって無いのか?」

「さぁ?」

 おい・・・

「ゴブリンの討伐部位は耳になりますよ」

 そう言ってソニが会話に入って来た。

「耳?左右両方って事?」

「いえ、左耳ですね。ですが今回は討伐依頼を受けていませんので特に持ち帰ったりはしないですけどね」

 聞けば、依頼として魔物や害獣の駆除、討伐の依頼は出ると言う。
 そうした依頼は、受領した傭兵団が自分の所の傭兵にやらせたり、または外部への委託をして依頼を達成する様だ。
 討伐依頼は基本的に依頼地周辺の魔物などの討伐となるので少ない時は十数匹程度となるが場合によっては百匹を超すなんて場合もあるらしく、その数を持ち帰るのは困難な為、魔物や害獣毎に定められた部位のみ持ち帰りるらしい。
 ゴブリンの耳は持ち帰り後は利用価値はまったく無いので廃棄される様だが、討伐数の把握等には使うし、利用価値がある部位の場合は、依頼報酬とは別に大きな傭兵団なら討伐数に応じたボーナスも出ると言う。
 小さい傭兵団は討伐部位の一括買取りをして個別にボーナスとして支給するだけの資金は持ち合わせていない為、中小の規模が小さい傭兵団では、個人で商店等に売却してその売却額をもってボーナスとするとの事だった。
 然るべき所に売却すればそれなりの金額が手に入るらしいので、傭兵団に売却とか任せておいて金を受け取るか、自分で売却するかの違いでしかないとの事だった。

「今回は依頼を受けている訳では無いのでそのままです」

「常時依頼みたいのは無いのか?」

「何ですかそれは?」

 そんなものは無いのね・・・

「いや、いい。それよりも魔法が見たいの!俺はッ」

「そう言われても・・・ゴブリン程度に魔法なんて滅多に使いませんよ。数が多ければ別ですけど、今位の数なら魔法は使わずそのまま処理しちゃいます」

「えー、じゃあ何匹なら使うの?どんな奴が出てきたら使うの?」

「この人数でしたら、オーガが出て来たら使うかもしれないですね。でもここにはオーガは生息してませんよ」

 そう言ってアルアレにニコリと微笑んだ。

 アルアレくん、それフラグね!

「そう、まぁとりあえず分かったよ」

「はい」

 俺達はそのまま馬車まで戻りまた森の中を進む事にした。
 その後も狼が小規模の群れで現れる事二回。
 それ以外はまったく何も無く、もうそろそろ光源が無いと限界だろと言う所で漸く森から抜け出す事が出来た。

 あれ?フラグは・・・

「ギリギリ抜けられたね・・・とりあえず森から少し離れた所で野営地探すね」

 パトリックが俺にそう言って馬を操り森から少し離れた平坦な場所を探し始めた。
 俺はあの後も御者台に座り、馬車ライフを楽しんだ訳だが、尻が限界だった。

「パトリックはよく平気な顔で座ってられるな・・・俺なんてもうケツが限界だ」

 そう言って俺は少し尻を浮かせて手で摩る。

「あはは、これはもう慣れだよ。僕も最初の頃は二度と乗るかと思ってたもん」

 パトリックはそう言って俺をチラリと見て笑った。

「これは慣れないと思うけどなぁ・・・」

 俺はそう呟いて浮かしていた腰を下ろし、辺りを見渡す。
 もうすっかり暗くなり、星の灯りだけを頼りに野営地を探すのもなかなか骨が折れそうだなと思ったが、何か違和感があった。

 うん?なんだろ?
 何か違和感がある気が――あ

 めっちゃ見える!
 昼間の様に見えてるから!

 なんて事でしょう。
 夜だから暗いと認識しているけど、よくよく考えてみるとまったく暗さを感じないではありませんか。

 これは・・・吸血鬼の能力って事かな

 そう自分を無理矢理納得させるが、何だかあまり釈然としない。人外だけど人外と認めたくない。

「何処かいいところ無いかなあ」

 パトリックは目を凝らし野営に適した場所を探しているがなかなか見付からない様だった。
 俺も注意して見てみると少し先に焚き火をした後の薪等が捨てられている所を発見出来た。
 たぶん、誰かが前に野営でもしていて、焚き火の箇所はそのまま残して行ったんだろう。

「もう少し先に進んだ左側に野営跡があるみたいだぞ」

「えっ!?どこ?」

「ほら、あそこだよ」

 そう言って俺は少し先を指差す。
 馬車が前進して行き、パトリックもどうやら焚き火跡を発見出来た様だ。

「ホントだ!凄いね、よく見付けられたね」

「うん、夜目はまあまあ効く方なんだ」

 馬車が野営地跡に着き、パトリックは辺りを少し見回し言った。

「うん、ここなら問題無く野営出来そうだ」

「そうか、ご苦労さん」

 そう言って俺は馬車から飛び降りて大きく伸びをして凝り固まった身体を解し、大きなダメージを負った尻を解放した。

「ここで野営か?」

 馬車が止まったのでアリシエーゼも外へ出て来た様だ。

「そうみたいだ」

「そうか。ところで・・・」

 アリシエーゼはそう言ってこちらを睨んで次の言葉を溜めていた。

 あ、これ面倒臭くてくだらない事言うパターンだな

「何で妾を放ってパトリックとばかり話しておるんじゃッ」

 ほーらな

「何でって、俺は御者台に乗ってみたかったんだよ。パトリックが御者してるんだから当然パトリックと話すだろ」

「妾も誘ってくれれば良いでは無いかッ」

「えぇ・・・入って来たいならそう言えばいいじゃねぇか」

 面倒臭い奴だな、ホント

「ふんッ」

 アリシエーゼはそう言ってナッズの方に歩いて行き、いきなりナッズを蹴飛ばした。

「さっさと薪の替りを拾ってこんかッ」

「いてッ八つ当たりはやめ――」

「うっさいわいッ」

 そう怒鳴ってアリシエーゼはもう一度ナッズを蹴飛ばした。

 うわ・・・ナッズ可哀想に・・・

 と思いつつニヤニヤしてしまった。
 ナッズはアリシエーゼから逃げる様に森の方に走って行き、暫くすると両手に木の枝等を大量に抱えて戻って来た。

「とりあえず後1回くらい取ってくれば今夜分は足りるだろ」

 そう言ってナッズはまた森の方へ掛けて行き、先程と同程度の量の木の枝を持って帰って来た。
 ナッズはその枝を適当に折ったりしながら焚き火跡に放り投げた。

「姫~、火頼んます」

「・・・・・・」

 呼ばれたアリシエーゼはズンズンとこちらに歩いて来て焚き火跡に徐ろに手を翳した。
 すると次の瞬間、そこに火が巻き起こり放り投げた木の枝に次々と引火していった。

 うぇ!?
 なんだ今の
 魔法か!?

「おい、今のは魔法か!?」

「・・・・・・」

「なぁ、それとも魔導具か?」

「・・・・・・」

 完全に不貞腐れてるなこれ

「悪かったって。後で遊んでやるからさ」

「子供扱いするなッ」

 アリシエーゼはぷんぷんであったが俺は構わず頭を勢い良く撫で回した。

「こ、こらッやめんか」

 アリシエーゼは嫌がり俺の手から逃げようとするが俺は逃さずに更に両手で頭をワシャワシャとしてやった。
 暫く撫で回し飽きたのでアリシエーゼを解放してもう一度質問をした。

「んで、さっきのは魔法だったのか?」

「む、そうじゃ。精霊魔法じゃ」

 アリシエーゼはムッとしながら乱れた髪を手直ししながら答えた。

「精霊魔法・・・うん?精霊魔法なのか?」

「そうじゃが?」

「何でお前精霊魔法なんて使えるんだ?」

「元々、妾は精霊魔法の才に恵まれておったからの」

「いや、意味分からん」

「何がじゃ」

「いや、だってお前吸血鬼だろ?」

「そうじゃぞ?」

「??」

「???」

 お互いが何を言ってるか分からず暫く無言になってしまった。

「吸血鬼って言ったら闇の眷属的なもんだろ。精霊魔法って精霊と相性良く無いと使えないとかじゃないの?テンプレ的にさ」

「何を言っておるんじゃ、闇の精霊だっておるじゃろ」

「あ、まぁ確かにそうだな。ってお前が使ったの火じゃねぇかッ」

「じゃから妾は元々精霊との親和性はずば抜けておった。吸血鬼になってからは闇以外の精霊には嫌われてしまったが、今は吸血鬼の始祖をも超える吸血鬼なんじゃぞ?つまり問題無しじゃ!」

 アリシエーゼは腰に手を当てて胸を逸らしながら得意げに答えた。

「いや、なんだよそれ・・・もう吸血鬼じゃないだろ」

「なんでじゃ。吸血鬼特有のスキルもちゃんと使えるぞ?」

「なんだよそのスキルって。霧になったりすんのか」

「それ出来るぞ?」

「マジかよ・・・トイズの頭ん中覗いた時はスキルなんてこの世界には無いって感じだったけど」

「どうせアニメや漫画の様な必殺技みたいなものを想像してたんじゃろ」

 そう言ってアリシエーゼはジト目を俺に送る。

「うッ・・・確かにそうだが」

「兎に角、スキルは存在するぞ。さっきお主が言っていた霧になると言うのも存在するし他にも色々とあるぞ」

 しれっとそんな事を言うアリシエーゼに俺は驚きを隠せなかった。
 スキルは無いと思っていたが、スキルは存在する・・・
 もしかして・・・と期待しそうになったが今までの顛末を思い出し、過度な期待はしない様に自身を戒める事にした。

 どうせ魔力を使わないとスキル発動出来ないとかそんなだろ

「そのスキルって俺にも使えるのか?」

「魔力が無いから無理じゃ」

「・・・・・・」

 やっぱり・・・

「そんな事だろうと思ったよ」

「まぁそこはどうしようも無いな」

「まぁいいよ。分かってたよ」

 それにしても、精霊魔法にスキル。
 ちょっと詳しく知りたいぞ。

 使えないけど・・・
しおりを挟む

処理中です...