異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第31話:精霊魔法とスキル

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「結局さ、精霊魔法ってなんだ?神聖魔法についてはアルアレに聞いたんだけどさ」

「何と言われても精霊に力を借りて発動する魔法の事じゃぞ」

 アリシエーゼが語った精霊魔法については、概ね俺が想像している様な内容だった。
 精霊とは形ある者では無く、ただそこに存在している存在であり、この世界では全ての物質からに至るまでに精霊が宿っているとされている。
 エレメント系の火、水、風、土、光、闇、雷などの他にも酸素や癒し、更に極めつけには生物の感情、喜怒哀楽なんてものにも精霊が宿る、司っているとされているらしい。
 精霊魔法は、自らの体内魔力を声に乗せて精霊に語り掛けて精霊の力を借りる事で魔法と言う事象を発現させているらしい。
 精霊魔法で重要なのは第一に精霊との親和性、その次に魔力の質とされている様で、精霊との親和性はそのまま、各精霊とどれ程心を通わせる事が出来るかを表す。
 当然、人により親和性の高い精霊とそうでは無い精霊が存在したりする。
 次に魔力の質だが、精霊魔法の発動には声に魔力を乗せて精霊に語り掛け、精霊に対して何をして欲しいか、どう言う結果を望んでいるかを伝える事となる。
 その際の声に乗せる魔力の質が語り掛ける精霊が好むものかどうかでも魔法の成功率や効果に影響を及ぼすらしい。
 つまりは、魔力の質が火の精霊が好む質であった場合、火の精霊は快く力を貸してくれるが、水の精霊には嫌われると言った具合に精霊魔法とは本人の資質が重要になって来るとの事であった。

「妾は生まれた時より精霊との親和性がかなり高くての。大体どの精霊からも力を借りる事が出来るのじゃ」

「光も?」

「光もじゃ」

「吸血鬼なのに?」

「なのにじゃ」

 なんだよそれ
 完全にゲームバランスをブレイクしてるじゃねぇかッ

「まぁもういいや・・・んで、スキルってのは何なんだ?」

「種族であったり個人であったりのスキルじゃよ?」

「だからそれどうやって使うんだ?」

「使おうと思って使うものもあるが、意識せずとも使ってるものもあるから何とも言えんのう」

「アクティブスキルとパッシブスキルがあるって事だな?」

「まぁ、ゲーム的に言えばの」

「さっき霧になるスキルがあると言ってたがそれはアクティブスキルって事だな?」

「そうじゃな。先に言っておくがお主は霧にはなれんぞ」

「だと思ったよ。どうせ魔力だろ」

「そうじゃ。霧と言っておるが、霧では無く魔力になるんじゃ。身体を全て魔力にするから色々混ざり物が多くて完全な実体の無い魔力にする事が出来ず、霧状になるってだけじゃな」

「つまり?」

「つまりは、思考性を持った霧状の魔力に自身を変えるスキルじゃ」

「へぇ便利そうだな」

「まぁ、隙間さえあれば壁のすり抜けみたいな芸当も出来るしの」

「それが種族特有のスキルって事か」

「そうじゃ。後は影術えいじゅつも種族スキルになるの」

「なんだそれ!?」

 今、影術って言ったぞ・・・
 それ聖典の数々にも度々登場する、影を操る最強術の事では・・・

「何って、影を操る―――」

「すげぇ!!」

 被せ気味の俺の言葉にアリシエーゼはビクリと身体を震わせた。

「影渡りとかも出来るのか!?」

「影渡り?影を使った移動術もあるが・・・」

「それだよそれ!」

 あ・・・魔力・・・
 そうだよ魔力無いから使えないんだった・・・
 理不尽だろ
 何なんだよこの世界は
 何で俺だけこんな目に会わないといけないんだ
 人外の力手に入れたけど
 チートも無く異世界に飛ばされるとか有り得ないだろ
 人外にはなったけども

「これはちょいとコツはあるがなかなか便利じゃぞ」

「そんな便利なもの使えていいですねー」

「なんじゃ投げやりじゃの」

「そりゃそうだろ。結局俺は使えねぇしさ」

「使えると思うぞ?」

「うん?何が?」

「影術、お主も使えると思うぞ。これ、別に魔力使わないしの」

「何ぃぃぃいいッ」

 どどどど、どう言う事だ!?
 霧は魔力操作したりとかしなきゃならないっぽいから無理なのは分かる
 影術も影を操る時に魔力使わないのか?

「魔力使わないの?」

「うむ。伊達に闇の眷属等と呼ばれておらんと言う事じゃの!」

「いや、意味が分からん・・・影操るのに魔力使わないってどう言う事だよ。魔力じゃないと説明付かないだろ・・・」

 そうなのだ。
 影に何らかの干渉をするってとうするんだよって話だ。
 影に手を突っ込んだって、手は影に飲み込まれたりはしない。
 影に伸びろ!と命じた所で動いたりしない。
 その影に干渉するには魔力と言うよく分からないものを使ってよく分からない現象を引き起こす以外有り得ないのでは無いだろうか・・・

「説明を付ける必要があるのか?」

「え?」

「全ての事柄に理由付けしないといけない理由はなんじゃ?」

「いや、そりゃ気になるだろ・・・」

「気にしなければ良いでは無いか」

「・・・・・・」

「兎も角、吸血鬼にとって影は身体の一部と言っても良い。身体を操るのに魔力なぞ必要無いではないか」

「まあ確かに・・・」

 確かにアリシエーゼの言う通りかもしれない。
 異世界と言うファンタジー世界で、地球の物理法則等に一々当て嵌めて考えた所で何の意味があると言うのだろうか。

「・・・分かったよ。んで、影術ってのはどう使えばいいんだ?」

「使おうと思って使えば良いだけじゃが?」

「??」

 ホント何言ってんだこいつ

「いやいや、どう言う術があるかも分からないんだから使おうと思えないだろ」

「別にこれとこれが使える等と言ったものは存在せんぞ?影を使って出来る事が出来る。それだけじゃ」

「????」

「お主、影から棘が出て来て相手を突き刺すだとかそういうのを思い浮べてはないか・・・?」

「え、出来ないの?」

「・・・はぁ」

 アリシエーゼはため息を吐いてから俺を諭す様に語る。

「お主は影を何だと思っておるんじゃ・・・質量も何も無いそんなので硬質化した刃物の様な物を作れる訳無かろう」

 あれ、ファンタジー世界だから地球の物理法則だとか、常識はぶっ飛ばせ!何だって出来る!みたいな話では無かっただろうか・・・

「じゃあ何が出来るんだよ・・・」

「うーんそうじゃのう・・・自分の影の中に潜むとか・・・?」

「なんだそりゃ」

「こんな感じじゃ」

 そう言ってアリシエーゼはいきなり焚き火に照らされて出来た自分の影に向かって仰向けに倒れた。

「お、おいッ」

 俺が焦ってアリシエーゼを捕まえようとしたがそのまま地面に倒れ込み、影と身体が重なった瞬間にドプリと音を立てて身体が影に飲み込まれて消えた。

「マジかよ・・・」

 アリシエーゼが居た場所には何も無く、正しく影も形も無かった。

「っと言う感じじゃ」

 突然、俺の真後ろから声が聞こえ慌てて振り返るとそこには何事も無かった様にアリシエーゼが立っていた。

「うぉッ!消えてから移動も出来るのか!」

「そうじゃ!凄いじゃろ」

「これを俺も使えるのか!」

「練習すればいけるじゃろ」

「どうやるんだ?」

「わかるじゃろ?」

「わかる訳無いだろ?」

「そんなバカな・・・」

「いやいや、わかる訳無いだろ?何でわかると思ってんだよ」

「妾は吸血鬼になった瞬間に分かったぞ?」

「え、マジで?」

「うむ」

「・・・・・・」

「感覚的な話になるので具体的な説明が出来んぞ」

「じゃあどうすれば・・・」

 参った・・・
 どうすればいいんだろうか・・・

「とりあえず練習すればいいのではないか?」

「何を練習すればいいんだよ・・・」

「倒れる?」

「嫌だよ・・・」

 何が悲しくて何回もバタバタと地面に倒れ込む練習をしなければならないんだろうか。

「とりあえず、俺でも影術は使えるんだな?」

「魔力を使わないし可能だと思うぞ」

「本当だな?本当に魔力無くても使えるんだな?」

「う、うむ。使える・・・はずじゃ」

「信じるからなッ」

 これで影術使えなかったらこいつをどうしてくれようか

「何かコツとかは無いのか?」

「うーむ、先程も言ったが影は身体の一部じゃ。なのでどうこうと意識すらする必要が無いと言うのが正直な所じゃ」

「身体の一部ね・・・まぁとりあえず練習してみるさ。ちなみにさっき影の中に入って一瞬で俺の後ろに移動しただろ?あれって何か意識したりしてるのか?」

「あぁ、そうじゃな。あれは影に入る前に移動する座標と言うかそれ程精密な情報では無いが、ある程度あの辺りに移動すると言うのを意識して影に入り込んでいるの。影の中に入ると周りは一切見えなくなる。光が一切無い真っ暗闇じゃ。」

「吸血鬼になると暗視っぽいスキルなのか身体構造が変化してるのか分からないけど夜でもハッキリと見える様になるだろ?それでも見えないのか?」

「そうか、そう言えばそんな機能もあったのう。まぁそれでもまったく見えん。事前に移動する事を意識しておけば一瞬の内に移動してまた影から出てくる事が出来る」

 どう言う原理なのかまったく分からないが、先程のアリシエーゼの影移動を見る限り、影に潜って身体が見えなくなると、影も消えていた。
 まぁ、影を作り出す身体がその場に無いのに影だけ残ってたらある意味ホラーではあるが、兎に角、影が一瞬の内に移動してそこから再度身体が出現すると言う事だろうか。
 影自体がスルスルと移動している様には見えなかったので、影が消え、どう言う原理か分からないが物理法則とかその辺ぶっ飛ばして一瞬で移動するのだ。
 まぁこの辺はあまり深く考えた所で良く分からないだろうし原理は考えない事にする。

「とりあえずこれ出来る様になればなかなか面白くなりそうだ」

「うむ、せいぜい励むが良い」

 偉そうにしやがって・・・
 アリシエーゼのくせにッ

「まぁいいや。それで今日の夕飯も仙●か?」

「センビーンじゃ。一々訂正するの面倒じゃからセンビーンと言えッ」

「はいはい、センビーンね」

「ソニがおるから料理自体は出来るが、食材を持ってきておらんから今日の所はセンビーンじゃな」

「マジかよ、アリシエーゼの影に収納とか出来ないのか?」

「そんな便利な機能は付いておらんわッ」

「んだよ、使えねぇなぁ」

「・・・・・・」

 アリシエーゼは何か言いたそうにしていたが俺は無視し焚き火の近くに座り込んだ。
 そして腰のポーチの中からセンビーンを三粒取り出してそのまま一気に口の中に放り込む。
 一瞬で腹が満たされる感覚はまだ慣れないが、とりあえずこれで今晩の夕食は終了だ。
 その後やる事も特に無いので影術の練習をしてみた。
 焚き火に照らされて出来た自分の影を指でつついたり、手で触ってみたりとしたがまったく出来る雰囲気は無かった。

 全然出来る気がしねぇ・・・
 寝るか・・・

 何だか練習もやる気が無くなってしまった為その場で寝転がった。

「なんじゃもう寝るのか?」

 アリシエーゼがいつの間にか横に来ていて、寝転がっている俺の隣に腰を下ろした。

「まぁ、特にやる事も無いしな」

「影術の練習でもすれば良いでは無いか。それにお主もう寝なくても大丈夫な身体になっておろう」

「練習は・・・まぁ適当に続けるよ。睡眠なんだけどさ、俺、未だに眠気普通にあるんだけどこれって変?吸血鬼的にさ」

「いや、妾もあるぞ。普通の吸血鬼には無い様じゃがな」

「あぁ、そうなんだな。ならいいか」

 普通の吸血鬼?には睡眠欲や性欲は無いらしいが、もう吸血鬼であるかも怪しいアリシエーゼは普通に人間の様に全ての欲求が存在するらしい。
 もちろんアリシエーゼの能力を分け与えられた俺にも存在する。
 当然ながらそれが何でなのかはアリシエーゼは知らない。
 眠気はあるが眠らなかったところでそれでバッドステータスが付くなんて事は無く、何徹しようがまったく問題無いらしい。
 血に関しても、一般的な吸血鬼のイメージにある様な吸血行動はする必要が無く、通常の人間と同じ様に食事をしっかり取っていれば問題無いがもちろん血を吸っても良いとの事であった。
 もう吸血鬼と呼べないのでは無いだろうかこれは・・・

「寝るなら馬車の中で寝たらどうじゃ?」

「いや、焚き火暖かいしここでいいよ」

「そうか。なら妾もっと」

 そう言ってアリシエーゼは俺の横に同じ様に寝転がり、俺に密着して来た。

「何やってんだ?」

「何って添い寝じゃよ」

「いや、何でそんな事するんだって言ってるんだ」

「何でって夫婦じゃからじゃろ」

「違うし。何だお前」

 俺はアリシエーゼを引き剥がして近寄るなと手で牽制する。

「良いではないか、愛い奴よのう」

「どこのお代官様だよお前は」

 そんなくだらないやり取りをぎゃーぎゃーとやってる内に夜は更けて行った。
 結局、その夜は何かが襲撃してくる事も無く無事に朝を迎える事が出来た。
 朝早くに皆準備を整え、早速出発した。
 二日目は前日と違い、森の中では無いからか、獣や魔物が現れる事は無かった。
 本気で暇で死にそうになったが、なんとか生き長らえる事が出来た。
 二日目も前日と同じ様な街道を逸れた平坦な空き地があったのでその場所で野営を行う事になった。
 街道と言っているが、煉瓦や石畳で整備されている様な立派な物では無く、長い年月をかけて商人や旅人によって踏み固められ、下草も生えなくなった馬車の轍が所々に残る道だ。
 道幅は馬車が二台すれ違えるくらいには広い。
 そんな道が永遠と続いているが、野営はその道を外れて行うのが暗黙のルールである様であった。
 夕飯は前日と同じセンビーンで済ませた。

 そろそろ肉でも食いたくなって来たなぁ・・・
 野ウサギくらいは居るかと思ったけど案外何も居ないもんなんだなぁ

 道中、ウサギや鳥を探して居たが出会う事は無かった。鳥は偶に空を悠々と飛んでる姿を目撃したが、それだけだ。

 飯は豆だし、何のイベントも発生しないし、案外異世界は退屈だな

 あッ、これフラグかな!
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