異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第45話:神のみぞ知る

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「なあ、何でなんだよ?」

 俺は何度目とも分からない質問をアリシエーゼに向けていた。

「だから知らんと言っとるじゃろうがッ!そんなもんは直接神に言えッ!」

 アリシエーゼはその何度目ともなる質問に業を煮やしてキレ気味に返した。

「だから会えれば直接文句の一つでも言うけど会えないからお前に聞いてんだらうが」

「じゃからそこで何で妾に聞くんじゃ!チートなんて無くともお主は既に化け物みたいなもんじゃろッ」

「ひ、酷くね・・・?」

「酷くは無いッ!妾が何もせずとも既にお主のあの能力は常軌を逸しておったわ!」

「まあ確かに便利ではあるけどさ・・・」

 明莉や篤が神様からチート能力を貰って、何で同じ転移者の俺には何のチートも無いんだとアリシエーゼを問い詰めた。別にアリシエーゼが答えを持っていると思ってでは無い。
 何となくアリシエーゼを問い詰めたかっただけだ。

「まったくお主は―――」

 アリシエーゼは俺の度重なる質問にまだイラつきが治まらないのかブツブツと言っているが、俺達は今、間者が集まる集落から、山の麓にある洞窟に向けて歩を進めていた。
 明莉の覚醒イベントと言う何とも羨ましいものがあったが、その覚醒した能力の把握はとりあえず棚上げし、先ずはゴブリン共をどうにかするのが先決と間者のまとめ役の初老の男と共に洞窟を目指す事とした。
 この男は当然ながら俺の能力で俺達に好意的な人間に作り替えている。
 好意的と言うか、こいつらの仲間って事にしているが、洞窟に行けば間者仲間が十数人いる事は分かっている為、最終的には全て統合して須らく、都合良く予定だ。

「それにしてもまだ着かないのか」

 かれこれ二時間程は歩いている気がするが、間者の男――名をモリーゼと言うらしい――曰く、まだまだ先との事だった。

「半日くらいのはずじゃなかったか?」

 話を聞いたり、頭の中覗いたりをした情報を統合すると凡そ半日くらいの道程だったはずだ。

「そんなモノ、妾達がゆっくりと歩いてるからに決まっておろう」

「・・・あぁ」

 そう言えばそうだったとアリシエーゼの言葉にゆっくりと頷いた。

「みんな身体強化して普通ならガンガン進むのか」

「そう言う事じゃ」

 確かにそれだと俺達の歩みは遅いだろう
 転移者組は身体強化が―――あれ?ちょっと待て・・・

「明莉と篤は身体強化って使えないよな・・・?」

 そう言って立ち止まり俺は明莉と篤を見た。

「身体強化?それはどうすれば出来るんだ」

「ちょっと分からないですけど・・・」

 二人の答えから身体強化は出来ないと分かるが・・・

「魔力で身体を強化する一種の魔法だよ。俺達転移者には魔力を作り出す事は出来ないから必然的に魔法なんて使えない事になると思うけど」

「暖、お前は何を言っているんだ」

「うん?」

 篤はそう言って眉を潜めた。

「私にはあるぞ」

「・・・何が?」

 あぁ・・・嫌な予感がする・・・

「魔力が、だ」

 んぁぁぁああああッ!!!
 やっぱりぃぃぃぃいいッ!!!

「そんな馬鹿な話があるかッ!どうやって作り出すんだよ!」

「どうと言われてもな・・・私の内側から何かが湧き出てくるのが分かるが、これが魔力と言われれば納得だ」

 そう言って篤は自身の身体の調子を確かめる様に両手を開閉している。

 強者か・・・

「何でそれ早く言わねぇんだよッ」

「聞かれていないからな」

 俺の慌てぶりとは逆に篤は淡々と答えた。
 確かには殆ど覗いていないのだから、脳に魔力精製が出来る機関が存在していたかどうかまでは確認していない。
 ただ、明莉も先程の覚醒イベントで確りと頭の中を覗いた訳では無いが、アルアレ達を覗いた時に感じた身体中を駆け巡る電気信号に似ているが其れとは非なるものは感じ取れていなかったから魔力は無いと判断したし、篤に関しても初見で為人を知る目的でほんの一瞬接続アクセスした時には何も感じなかったからてっきり魔力は無いものと思っていた。

「俺と明莉には魔力作り出す事は出来ないぞ・・・それは確認した」

「では何故私だけが魔力を作り出せるのだ?」

「知らねぇよ・・・本当に魔力かそれ」

「そうだと断言出来る。何故かは説明出来ないが」

 篤は少し困惑した表情を浮かべるが、俺はきっともっとシケた面をしている事だろう。
 何でと考えても答えはきっと分からないのだろうが俺は、篤と俺や明莉の違いは何だろうかと考える。

 神と名乗る者に出会ってから転移している?

 いや、俺は出会ってないが、篤と明莉は出会っている

 能力の有り無し・・・でも無いか

 能力・・・・・・能力、か

 確か篤は神からハッキリと能力を授かっていたはずだ
 しょーもない願望を伝えてそれを為せる能力を授かったと言っていた
 一方、明莉はどうだ?
 確か神へは、元の世界に帰りたいと願い却下されて気付けばこの世界だったはずだ
 ただ、明莉は実は能力は授かっていて、しかもそれは魔力を必要としないチート能力だった

 つまり?

 明莉は正規の手順とは異なっていたからか何なのか原因は不明だが魔力を有しない身体でもチートが使える様に、元の世界の身体のままこの世界に転移させられた?
 篤は逆に正規の手順かどうかは分からないが魔力を使ってチートを使える様に魔力を自信で精製出来る様にした上でこの世界に転移・・・?

 そこまで考えて俺は篤に聞いてみた。

「篤、この世界に来る前と今って何か変化って感じるか?」

「・・・それは何だ、身体の変化と言う意味か?」

「身体もそれ以外も全てだよ」

「・・・特に感じない」

「そう・・・ならいいや」

 そう言って俺はこの会話を切り上げ次の話題に移ろうとした。

「・・・待て、まさか、そう、なのか・・・?」

「さぁてね。神のみぞ知るってやつだろ」

「・・・・・・」

 俺と篤の間の重苦しい雰囲気を察してか明莉が声を掛ける。

「あ、あの・・・結局は何なんですか?」

「ん、まぁ想定外だったけど、篤は身体強化を使えんじゃねって話―――」

「明莉も使えるんでは無いか?」

 俺の言葉を遮りアリシエーゼが言う。

「いや、魔力無いんだから使えないだろ?」

「それなんじゃが、先程の明莉のあの力、魔力で発動していないと言ったが、じゃとしたら何を使って発動しておるんじゃろうな」

「対価を必要としないかもしれないだろ」

「むぅ、そうなんじゃが、もし魔力とは別の何かを使ってあれを発動しておったとしたら。もしそうならそれを魔力と同じ様に扱う事が出来れば」

 明莉のあの癒しの力は魔力を使わず発動していたとアリシエーゼとアルアレは言っていた。
 使わずと言うか魔力を感知出来なかったと言っていたので、確かに別の何かを使用して魔法の様なものを発動したのかもしれない。

「とりあえずやってみたらどうだ」

 俺はアリシエーゼに言う。

「そうじゃの、おいお主ら」

 アリシエーゼはそう言って何かを考え込む篤と隣にいた明莉に声を掛けた。

「お主らに今から身体強化の方法をおしえるからよーく聞いておくのじゃ」

 そう言ってアリシエーゼは偉そうに胸を貼り、背を仰け反らせた。

「で、出来るんでしょうか?」

「・・・・・・」

 明莉は不安そうに、篤は考えを辞めてアリシエーゼを見た。

「なに、簡単じゃ。先ずは己の中の魔力を感じてじゃな、そうしたらこう、みょーんとじゃ―――」

「ていッ」

「あ、痛ッ」

 俺はアリシエーゼの頭に二度目のチョップを喰らわして説明を止める。

「な、何するんじゃ!?、」

「だから何でお前はそんな説明が下手なんだよッ」

 アリシエーゼは頭を抑えながら恨みがましく俺を見上げて来るが、何がみょーんだと思う。

 みょーんって何だ

「こんなもん簡単じゃし、説明など寧ろ要らんのじゃッ」

「知らねぇよ。見ろよ、全然分かってないじゃねぇか」

 そう言ってアリシエーゼに篤と明莉を見ろと促す。

「・・・」

「アハハ・・・」

 篤は無言で、明莉は苦笑いを浮かべてアリシエーゼに理解出来ない事を伝えていた。

「むぅ!なんじゃ!こんなものみょーんとやってびゃーッと―――」

「もういいって!篤、アルアレに教わってみてくれ。その方が絶対いい」

「分かった」

 俺の促しに篤は一言答えてそのままアルアレの方へと向かって行った。

「明莉も行ってきな」

「あ、は、はいッ」

 明莉も慌てて篤に着いて行った。

「・・・で、先程は何を考えておった」

 アリシエーゼは不意に真面目な雰囲気となり俺に聞いて来た。

 何ださっきのは演技か?
 馬鹿っぽく振舞っておいて実は・・・パターンか?

「・・・ん、まぁ何だ。アリシエーゼはさ、自分が自分である事ってどうやって証明する?」

「??なんじゃ急に」

「そのままの意味だよ。誰かにいきなりお前は偽物だ!とか言われたら、自分はの自分である事をどうやって証明するよ?」

「うーむ・・・自分しか知らない秘密じゃとか、共通の思い出の様なものじゃとかを語るとかかの?」

「まあそうだよな。じゃあさ―――」

 俺は言い切る前に一度篤を見る。篤はアルアレと会話をしており、身体強化についてレクチャーを受けて居るのだろう事が分かる。

「―――元々魔力なんて無かったのにこっちの世界に転移して来て魔力があって魔法が使える状態だと分かった上でさ、その状態を見て知った元の世界の自分を知る奴がさ、魔力があるなんてそんなのはお前じゃない、お前は偽物だって言ってきたらさ、魔力なんて持っていなかった頃の自分と今の自分は同じだ、元の世界のと同じだってどうやって証明する?」

 俺はそこまでを一気に吐き出す。アリシエーゼを見ると俺が言った意味を、何が言いたいのかを理解して絶句した。

「お主・・・何故その様な考え方が出来る・・・恐ろしいぞ」

「恐ろしいのは神だろ」

「そうじゃが・・・」

「まあ全部俺の単なる想像だ。気にすんな」

「いやいや、単なる想像で片付けられる事では無いであろう・・・」

「そうか?実際どうなのか何て本当に神様に会って聞かない事には分からないし、俺の想像は単なる想像だったってだけかもしれないし」

「そうじゃが・・・そうなんじゃがッ」

 そう言ってアリシエーゼは頭を抱えてウンウンと唸る。

「篤は俺が言わんとした事は理解しているよ」

「そうなのか?」

「たぶんね。これもたぶんだけどアイツは大丈夫だよ」

 そう言って俺はもう一度篤を見る。変わらずアルアレと話しており、先程の考え込む様な仕草も表情もしていない。

「それは何じゃ、お主の感か?」

「感と言うか・・・まあそうだな」

 そう言って俺は肺に溜まった息を吐き出す。

「そうか、じゃったら―――」

「おおおッ!これは凄い!!」

 アリシエーゼが何か言い掛けるがそれは篤の声に遮られた。
 声の方を振り返ると篤がピョンピョンとその場で垂直跳びをしている。

「うわはははは!暖!見てくれ!どうだ!」

 ピョンピョンしている篤は俺を見て嬉しそうに言った。

「・・・な?」

「・・・・・・」

 アリシエーゼは篤を見ながら複雑そうな表情浮かべて頷いた。
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