異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第44話:力の代償

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「な、何ですか、覚醒イベントって?」

 明莉は混乱しているのか、半泣きで聞いてくる。

「明莉も神様に実はチート能力を授かってたって話だよ」

「チ、チート・・・?」

「前に明莉が言ってただろ?神様から何も能力は貰って無いって」

「は、はい」

「でもそれは間違いで、実はちゃんと能力は貰ってたんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「そうじゃなきゃ今の現象は説明出来ないと思うんだよね」

 俺と明莉が話していると、アリシエーゼが割り込んで来る。

「ちょっと待つのじゃ。先程の光や明莉からは魔力がまったく感じられなかったのじゃ。これ本当に魔法かの・・・?」

 なに、そうだったのか?

「確かに言われて見ると魔力は感じられなかったですね」

 アルアレも同意する。

「じゃあ、さっきのは魔法じゃないと?」

「わからん・・・そもそも発動条件は何なのじゃ?何故今迄発動せんかったんじゃ」

「明莉は神様からはチートを貰ってるとは思って無かったんだ。と言う事は、自身が回復魔法?を使えるとも思って無い訳で、その状態からか自分で回復魔法使おうなんて発想自体出てこないと思うんだよな」

「そう言われるとそうじゃな・・・」

「だろ?今迄は回復魔法を必要とする場面にも遭遇しなかった訳だし、だからこの人を癒したい!とかそう言う思いも抱かなかったはずだから今迄発動しなかったのは何となく分かる気がするんだ。まぁ、発動条件はよく分からないが・・・」

「兎に角、魔法では無い癒しの力など教会に知られたら事じゃぞ」

「あぁ、そうだな。そこは気を付けるとしてまずは能力の把握が最優先だと思う。神様が最初から説明してくれりゃんな事しなくてもよかったんだけどな」

「そうじゃなぁ。明莉よ、とりあえずもう一度今のをやってみるのじゃ」

「え、ど、どうすれば・・・?」

 それまで俺とアリシエーゼのやり取りを訳が分からず聞いていた明莉にアリシエーゼがいきなり振るが、当然明莉は何が何だか分からずにいた。

「こう、皆癒されよーみたいな感じでぶわーッとじゃな――」

「わかるかいッ」

「あ、痛ッ」

 思わず俺はアリシエーゼの頭にチョップを食らわしながらツッコミを入れた。

 何がぶわーッとだよ

「そうは言っても、魔法じゃないのなら妾達ではアドバイスのしようも無いと言うものじゃ」

 アリシエーゼは頭を抑えながら頬を膨らませ言った。

「それにしてももっと言い方ってもんがあるだろ」

「じゃったらお主ならどうアドバイスするんじゃ?」

「いや、知らねぇよ。そんなチート能力貰った事ねぇんだし」

「ほれみろ!お主だってダメダメじゃろうがッ」

 ダメダメって・・・

「・・・とりあえず明莉、俺が怪我してると思って、それを治したいと念じてみるんだ!」

「・・・お主、妾より酷いぞ」

「うるせぇ・・・」

 明莉は俺の言葉を聞き、それを自身の中で咀嚼する様に噛み砕きながらゆっくりと頷く。

「えと・・・な、治れー」

 明莉はそう言いながら俺に両掌を向けた。
 その瞬間、俺は淡い光に包まれた。

「「え!?」」

 俺とアリシエーゼは正に目が点となり唖然とした。

「あ、出来ました!」

「な、何故じゃ・・・」

「・・・ほらな?」

「・・・」

 魔法?の発動自体は念じたりすれば出来る様だが、回数に制限とか、後は―――

「一日何回とかの制限があるか確かめたい所だけど今は辞めておこう。ここで気絶でもされても困るしな」

「そうじゃな」

 俺の言葉にアリシエーゼが同意する。

「それに気になる事がもう一つある」

「なんじゃ、お主もか」

「私も気になる事があります」

 アリシエーゼと篤が俺の言葉に頷きながら言った。

「考えてる事は同じかな?」

「じゃろうな」

「そうだろうな」

 それを聞いて俺は少し可笑しくなり笑いが込み上げて来たが、それをグッと我慢して明莉に問い掛ける。

「明莉、俺達が気にしている事が何なのか分かるか?」

「え、いや・・・分からない、です」

 明莉は少し考えてから本当に分からないのか、眉間に皺を寄せて答えた。

「何でもいいから言ってみてよ。俺はこれが一番把握しておかなきゃならない事だと思ってる」

「うむ、妾もそう思うのじゃ」

 俺の言葉にアリシエーゼはうんうんと頷くが、当の明莉はやはり困り顔だった。

「気になる事・・・把握しておかなきゃならない、私の力・・・」

 困り顔でウンウンと唸り考える明莉は暫くすると口を開いた。

「・・・この力がどれくらい人の役に立つか、とかですか・・・?」

 それを聞いて俺達三人は一斉に言った。

「「「ぶっぶーッ」」」

「えぇぇ・・・」

 明莉はまたですかと泣きそうになりながら叫んでいたが、どれくらい役に立つかなんて決まっている。

 相当役に立つ
 役に立つどころじゃ無い

「じ、じゃあ、何なんですか!?気になる事って」

 明莉は少しふくれっ面になりながら俺達に言った。それを聞き三人で顔を見合わせて小さく笑い同時に口を開く。

「対価だよ」

「対価じゃ」

「対価が必要かどうかです」

 うん、考えている事は同じだったな

「た、対価、ですか・・・?」

「そう、対価」

 明莉は意外な回答に面食らった様にしていたが、これは重要な事だ。

「この世界では魔法を使う為に自身の魔力を使うんだ」

「魔力・・・」

「そう、魔力。これは明莉も俺も、そして篤も持っていない。からの転移者は脳で魔力を作り出す機関が存在しないからだと思うんだけど、兎に角俺達には無い魔力と言う力を使って魔法は発動する訳だ。逆に言えば魔力が無いと魔法を使う事は絶対に出来ない」

「・・・はい」

 明莉は以前話した魔力無しーー穢人の話を思い出したのだろうか、少し表情が暗くなる。

「でも魔力が無い明莉が魔法の様な力を使う事が出来たのは何でだと思う?」

「それは・・・」

 俺の言葉に明莉は考え込むが答えは出ないだろう。だから俺は続ける。

「この場合は、魔力以外のを使ってさっきの力が発動したとは考えられない?」

「あれ程の効果があるものじゃ。何の代償も無しに使えるとは思わん事じゃ」

 アリシエーゼが補足する。

「だ、代償ですか・・・」

「それが何かは分からないよ。髪の毛一本かも知れないし、目には見えない何かかも知れない。それこそ―――自分の生命力、命かも知れない」

「え、それって・・・」

「実際の所どうなのか分からないよ。分からないけど、よく言うじゃない。タダより高いものはないって」

「・・・・・・」

 明莉は完全に黙りこくってしまった。
 だがこれは認識しておかなければならない事だと思っている。
 何も分からないのにバンバンその力を使い、気付いた時には手遅れで自分が代償を払わされるなんて事には明莉にはなって欲しくない。
 明莉の力はもしかしたら、神様がくれた本当に奇跡の力で、対価なんて必要無いかも知れない。
 神様か何かがそれを明莉に教えてくれさえすれば問題無いが、実際は何の説明も無く放置プレイだ。
 だったら何か分かるまでは極力その力の行使は控えるべきだ。

「今って何か身体に違和感とか、変化は感じない?」

「・・・いえ、別に何も」

「そう・・・とりあえずその力が何なのか分かるまでは極力使わない方がいいと思うよ。教会にその力の事が知られても面倒臭いし、人前でも使うべきでは無い。と、思う」

「・・・分かりました」

 明莉が余りにビクビクと怯えている為、俺は極力明るい口調で言った。

「ッま、とりあえず明莉も実は神様からチート能力貰ってたって事はだ、これで晴れて異世界転移者を堂々と名乗れる様になった訳だ。おめでとう!」

 そう言って俺は明莉に笑顔を向けた。
 それを見た明莉は、何かを少し考えた後控えめに答えた。

「あ、ありがとう、ございます・・・?」


 神様、コノヤロー
 俺にもチート寄越せ!
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