異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第2章:闇蠢者の襲来編

第71話:殲滅魔法

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「マジであっちもヤバくなって来てる!」

 俺はコボルトを殴り殺しながらアリシエーゼに叫ぶ。

「彼奴ら、さっさと殲滅魔法でも打たんかッ」

 仲間の方を見て舌打ちしながらコボルトを一度に俺よりも確実に殺しながらアリシエーゼは舌打ちする。

 それがどれ程の威力かは知らないが、アルアレや聖女辺りは使えるんじゃなかろうか?
 だったら、前衛が敵を抑えている間にさっさと打って数を減らすべきだろうと俺も思う。

「何やっている!貴様ら!!さっさと殲滅魔法で数を減らすんじゃ――んがッ!うへ!ペッ、なんじゃこの血はッ!不味い!」

 仲間達にそう叫けびながらアリシエーゼはコボルトを撲殺していたが、不意に返り血が口の中に入り、言い途中で噎せた。

 チラリと仲間達を見るが、直ぐにコボルトが殺到して来る為、仕方無く、聴覚を頼りにあっちの状況は確認する事にした。

「イリア様ッ!」

「こんな状況で集中出来ないわよッ――きゃあッ!?」

「何とかその間敵を抑えますので!お早く!」

「全然抑えられて無いわよッ!早く貴方達で何とかしてよ!もう嫌ッ!」

 んだよ彼奴
 いいからさっさと準備しろやッ

 聖女がこの状況になってもどうもしない状況を俺達の仲間も業を煮やしたのかどうかは分からないが、ナッズが叫ぶ。

「あぁッ!!本っっ当にうぜぇ!!このままじゃジリ貧だろうが!!」

「聖女様に向かってッ!何だ!その口の利き方はッ」

 これはイヴァンか

「もういいッ!アルアレッ!!」

 ナッズは早々に聖女に見切りを付け、アルアレへの要請に切り替えた様だった。
 しかしアルアレからの返答は無い。
 目の前のコボルトの対応で精一杯なのか、それとも聖女に何か配慮しているのか。

「アルアレッ!!」

 ナッズの切羽詰まった様子に漸くアルアレが答える。

「・・・暫く引き付けをお願いします!」

「「「おうッ」」」

 傭兵達は景気良く返答し、アルアレが大規模な魔法を準備する間、仲間達は全力で敵を引き付けてサポートする。

 アルアレは聖女の本性を垣間見て何を思ったかね

 そんなどうでもいい事を思いつつ、コボルトを殲滅して周り、スーパーコボルトも注視した。

「イル・ホーン・ヴァアル・ロウ・デヴァアル・キルリ・ホーン・イスルア・エン・エル・ジュード・ザコナ・ゲハナ・ハス」

 パトリックの回復魔法と同じで意味不明な言葉がアルアレの口から紡がれる。

 パトリックの時より永いな

 そんな事を思いつつ、目の前のコボルトを殴り、そして蹴る。

「輝きの翼、百の魔、千の剣にて滅す、僕の許、聖光にて照らさん!」

 次も同じで意味の有りそうな言葉を力強くアルアレは発した。
 相も変わらずコボルト達はそんな事はお構い無しに目を血走らせ、唯闇雲に敵を滅し様と牙を剥く。

 此奴ら普通じゃ無いな
 異常だ

 そんな事を今更思うが、きっとスーパーコボルトが何かやってるんだろうと直ぐに意識を戻す。
 アルアレが言い終わるや否や、アリシエーゼがコボルトを薙ぎ払いながら俺の前を通り過ぎて軽い口調で言う。

「避けた方が良いぞ」

 そんな事を行って通り過ぎて行くアリシエーゼであったが俺は何の事か理解出来なかった。

千翼輝魔滅オー・スタズ・ロー!!!」

 最後にアルアレは右拳を天に突き上げ更に力強く魔法名を発した。
 その強き言葉に呼応する様に、アルアレの真上に巨大なが出現した。
 その翼だと思った物は、良く見ると一つ一つの羽が白く輝く光の剣の様なもので出来ていた。

「すっげ・・・」

 俺とコボルト達は戦闘中にも関わらず思わず天を見上げて呟いた。
 翼は巨大で、数メートル―――いや、十数メートルはあろうか。
 そんな翼が一度、天でバサリと羽ばたく。
 すると、アルアレの周りに居た仲間達が聖女の一団も含めて身体が淡く光出した。

 ん、何だ?

 そんな事を少し思っていると、天の翼がもう一度バサリと羽ばたいた。

 ―――っと思った時、その翼が信じられない速度で周囲に弾け飛んだ。

「んぁッ!?」

 飛び散った剣の羽は速度を維持したまま、まるで意思があるかの様にアルアレ達を避けて、周囲の敵の頭上に降り注いで行った。
 俺の周りのコボルトも小さく悲鳴を上げて光の剣に頭から貫かれてバタバタと倒れて行く。
 流石にこの攻撃に、攻め一辺倒だったコボルト達も逃げ惑うが、正しく光の様な速度で迫り来る攻撃に為す術は無さそうであった。

「ホントに殲滅魔法じゃん・・・はは」

 その威力を目の当たりにして乾いた笑いを口から出しながら俺は難を逃れたコボルトに追い討ちを掛ける。
 コボルトの顎に掌底を横から叩き込んで首を曲げ折ると同時に目の上辺りに眩しさを感じた。

 瞬間その場から飛び退くと、今俺が立っていた位置にアルアレの光の剣か突き刺さった。

「お、おい、アルア―――ッィギィァッ!?」

 危うく巻添えになる所だったと、アルアレに言おうとしたその瞬間、続け様に俺へと降って来た光の剣に俺は左肩から瞬断された。
 俺の叫び声を聞いて、アルアレか叫ぶ。

「な、何故!?!?」

 俺が聞きてぇよ!

 もの凄い痛みに気が狂いそうになりながら踏ん張り、次も誤射されないかと警戒態勢に移行している内に切り落とされた左腕は再生していた。

「や、やっぱり彼奴!一瞬で腕が生えて来たわッ!見たでしょ!?」

 クソ聖女の発狂に近い叫び声か聞こえるが、見られたかと思うと同時に後で忘れさせ様と心に誓った。
 素早く辺りを見回し状況を確認する。
 アルアレの魔法はアルアレに近い位置から密度が濃く効果を発揮しているが、外側に向けて円を描く様に範囲は拡大しており、村の中だけで無く森の中へも剣は降り注いでいた。
 どれ程の数のコボルトがアルアレの魔法で倒れたかは定かでは無いが、少なくとも村の中に居たコボルトはかなりの数が死んでいた。

 正に殲滅だな

 等と思いながらそう言えばスーパーコボルトはと、元々彼奴が居た位置に目を向けた時だった。

 「避けろッ!!」

 アリシエーゼの叫びにハッとして仲間達の方へと振り返る。
 丁度、聖女の一団の間近に転移していたスーパーコボルトが右腕を振り上げており、俺が其方に走り出した時には振り上げられた右腕は周りに居た聖女側の傭兵達に振り下ろされていた。

 「ぐがッ」

 「ぁ、カッ」

 傭兵の数人が革鎧ごと身体を引き裂かれ、スーパーコボルトの返す右腕の振り上げに更に数人が首や腕を有り得ない方向にねじ曲げられながら吹き飛んで行った。
 俺とアリシエーゼが仲間達の方へ向かうがその間にスーパーコボルトは聖女のお守り騎士にも牙を剥き、鉄鎧を装着しているにも関わらずスーパーコボルトの腕が騎士の身体を貫き、その身体を近くの別の騎士に投げ付けた。

 「ぎゃあああッ!!」

 聖女は顔を蒼白にして、女とは思えない声を上げて叫びその場から逃げ様としたが、スーパーコボルトはせせら笑いながら聖女を切り刻もうと迫った。

 間に合わないッ

 そう思った時にはスーパーコボルトの凶刃である右腕が聖女の間近へ迫っていた。

 「ふんッ!!」

 寸前で横から入って来た大男の騎士の左手に持っていた大盾がスーパーコボルトの右腕を跳ね上げた。

 ガキィンと激しい音がしたが、何とかスーパーコボルトの攻撃を防ぎ大盾を自分に引き戻しながら大男は言った。

 「イリア様はやらせはせんッ!この私が居る限り――グォッ!?」

 大男が言い終わる前にスーパーコボルトは大盾に前蹴りを喰らわせ、大男を凄まじい勢いで吹き飛ばした。

 「きゃっ!?」

 大男は吹き飛ばされ、聖女もそれに巻き込まれて数メートル先まで転がった。

 「た、隊長!?」

 それを見てイヴァンが叫ぶ。

 「馬鹿野郎!前を見ろ!!」

 俺は思わず叫ぶと、イヴァンはハッと顔を上げてスーパーコボルトを見るが、時既に遅し。
 直後にはスーパーコボルトの右手がイヴァンの鉄鎧ごと身体を貫いていた。

 「イ、イヴァァンッ!!」

 大男は吹き飛ばされて直ぐに立ち上がったが、イヴァンが貫かれている光景を目の当たりにして悲痛な叫びを上げた。
 直後に俺とアリシエーゼが追い付き、直様スーパーコボルトに反撃を行う。
 が、直ぐに転移魔法を使って距離を取られてしまった。

 「ビビってんじゃねぇよ、駄犬が」

 俺は挑発してみるが、スーパーコボルトは其れに取り合わず、怒りの混じった咆哮を上げて残りのコボルトを呼び寄せた。
 ゾロゾロと森の中からコボルトが現れるが、当初の様な凄まじい数でも密度でも無さそうで、アルアレの殲滅魔法が相当良い仕事をしてくれたのが分かった。

 俺に誤射したけどなッ

 「なんだよ、一人じゃ怖くて戦ってらんねーってか」

 反応が無いのをいい事に俺は更に挑発を続ける。
 その間に仲間達には体制を整えさせる。
 チラリと後ろを見るが、イヴァンはもうダメそうであった。

 「イヴァン、しっかりしろッ」

 大男がイヴァンに近付き、身体を揺するがピクリとも反応していない。

 「お前らも直ぐにそいつの様に身体に大穴を開けて切り刻んでやるからなッ!!」

 そう言ってスーパーコボルトは周囲のコボルト達に命令をして突撃を開始させた。

 さーて、最終決戦と行きますかね!
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