異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第2章:闇蠢者の襲来編

第74話:変異

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 影移動してスーパーコボルトを吹き飛ばしたアリシエーゼは一度鼻を鳴らして言った。

 「やはりそれ程でも無かったのう」

 それは魔法の威力がなのか、それともスーパーコボルトの強さがと言う事なのか。

 後者だろうな・・・

 激しく吹き飛ばされたスーパーコボルトはかなり遠くまで吹き飛ばされていたので、俺とアリシエーゼは近付き確認をする。

 「お前、すげぇな!なんだあれ。精霊魔法か?」

 アリシエーゼに合流して俺は何だか興奮を抑えられずに言うと、再び鼻を鳴らして言った。

 「ふんッ、あの程度造作も無いわ」

 「でも無詠唱魔法使えるのに呪文詠唱とかしてたし、それなりに高位の魔法なんだろ?」

 「・・・詠唱。ま、まぁそうじゃな!そうじゃった!」

 何だかアリシエーゼの様子が可笑しいがとりあえず流した。
 スーパーコボルトが吹き飛ばされた地点まで辿り着くと、土埃が舞っており姿は確認出来なかった。

 「これじゃ見えないな」

 「どれ」

 そう言ってアリシエーゼは右手を横に軽く振る。
 すると、土埃が舞っている辺りに一陣の風が吹き、土埃を一瞬で吹き飛ばした。

 「おー、便利だなぁ」

 そんなアリシエーゼの精霊魔法であろうものの効果に感嘆して言い、スーパーコボルトを確認する。
 土埃が無くなったその場所にスーパーコボルトは立っていた。
 いや、立っていると言うよりも立ち上がろうとしていると言う表現の方がしっくり来ると思ったが、身体を震わせながら右腕をダラリと下げて今にも崩れ落ちそうな感じであった。

 「満身創痍だな」

 「じゃな」

 俺とアリシエーゼはスーパーコボルトの姿を確認して少し警戒しながら話す。
 翌々見てみるとスーパーコボルトの腹の右側がゴッソリと抉られており、正に大穴が開いている様な状態であった。
 たぶん、あのあたりの臓器などもゴッソリと持っていかれているであろう事は一目で分かったが、
 寧ろ何でその状態で立っていられるのか不思議なくらいであった。

 もう終わりだな

 俺はそう判断して最後に、とスーパーコボルトに話し掛けた。

 「よう、痛そうだな。終わらせてやろうか?」

 俺はそう軽い調子でそう言うかスーパーコボルトは聞こえていないのか、何やら独り言をブツブツと呟いている。

 「・・・の、野郎・・・ゴフッ、ガッ、ハァ、ハァ。俺の、中に・・・」

 なんだ?
 何を言ってる?

 「何だ此奴?」

 「さあの・・・」

 俺は困惑して表情でアリシエーゼに問い掛けるが、アリシエーゼも同じ表情をしていた。

 「おい、最後に答えろ。お前をそんな姿にした悪魔ってのは何処に居る?名前とか何か情報言ってから死ね」

 スーパーコボルトはそれでも俺の問いには答えず、独り言を続けた。

 「・・・あ、有り得・・・ねぇ、こんな、も、の・・・ハァ、ハァ・・・ふざけ、ん・・・」

 ダメだ此奴

 俺は諦めてアリシエーゼを見る。
 アリシエーゼもそれを受けてコクリと頭を縦に動かした。
 色々と確認したい事も有り、これでは何も分からないでは無いかと思ったが、どうにもダメそうだと諦めてトドメを刺そうと動いた。

 「待て。妾がやろう」

 俺が前に出るのをアリシエーゼが止める。

 「何でだ?今の状態なら首をへし折るくらい出来るぜ?」

 「それで死ぬとは限らんじゃろ。頭を吹き飛ばして終わらせる」

 アリシエーゼはそう言って俺の返答も聞かずに歩き出す。

 まぁいいか・・・

 アリシエーゼに任せるかと思ったその時、後ろの方が何やら騒がしくなったのでそちらを振り向く。

 「おぉぉ!?イヴァン!!良かった!」

 「奇跡だ!!」

 「あの傷を一瞬で!?」

 聖女のお付騎士の大男はまだコボルトと戦闘の最中に大声を上げて、今まで倒れていたが上体だけを起こしたイヴァンの背中をバシバシと叩いて喜んでいた。

 あー、マジか・・・

 腹に穴を開けられ殆ど死にかけていたイヴァンだが、どうやら明莉の回復魔法に見せ掛けた奇跡により復活を遂げていた。
 その奇跡は誰の目から見ても奇跡以外の何者でも無く、聖女イリアですら余りの非現実的な行いに驚愕の表情を浮かべていた。

 「まだ他にも生きている方がいるかもしれませんッ!ここに連れて来てッ、下さい!」

 「わ、分かった!」

 明莉の言葉を聞き、周りの連中は色めき立ち、息があれば助けられるかもと周りのコボルトを倒しながら生存者を探索し始めた。

 絶対面倒臭い事になるだろ!?

 俺は叫びたかった。が、それを心の中に留めた。

 「居た!まだ息があるぞ!」

 「早く運べッ!コボルトにも注意を払えよ!」

 聖女付きの騎士や傭兵はコボルトを蹴散らしながら生存者を探していたが、うちらの傭兵達はそんなやり取りを横目で見ながらもコボルト殲滅に注力している様に見えた。

 「奇跡だ!!これは神の奇跡に違いない!!」

 その中で一際大きな声が響く。
 大男達に状況を説明されていたのか、その事実を知るとイヴァンは立ち上がりそう言った。

 「私は奇跡を感じた!神を感じたのだ!!」

 聖女イリアはイヴァンの状態と先程の奇跡の行いを思い出してか、苦虫を噛み潰した様な表情で呟いた。

 「・・・ありえない」

 あーあ・・・

 だから辞めておけと明莉には言ったのだが、今の状況を見た限り、この後の展開も予想出来るなと溜息をついた。

 「はぁ・・・マジで後で記憶消しておくか」

 俺は片手で顔を覆い、ヤレヤレと首を左右に振った。
 と、その瞬間―――

 ゾワリ

 と俺の身体に何かが駆け巡る――いや、這いずり廻わられる感覚に襲われ、振り返る。
 見るとスーパーコボルトに近付いて行ったアリシエーゼがゆっくりと後退りしているのが見て取れた。

 「ア、アリ―――」

 アリシエーゼの名前を呼ぼうとしてハッとする。
 自分の身体が小刻みに震えていた。

 クソッ!!

 俺は瞬時に自身の脳をイジり倒して恐怖心を排除して叫ぶ。

 「アリシエーゼ!早く下がれッ!!!」

 俺の声にビクリと身体を震わせたアリシエーゼだったが、直ぐにバックステップで俺の元まで飛んで戻った。

 「アッ!ガァ!?う・・・は、早くッ、お、俺をッ!お、俺をぉぉぉぉッ!?ころ、ころろ、ごろぜぇぇぇえええあああッッ!!!」

 スーパーコボルトは時折、身体を激しくビクつかせながらそう叫んだ。

 ヤバい・・・
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