異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第118話:表層

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 ここまで、何だかんだと色々と回り道をしてしまっが、遂に魔界の地を踏む事が出来て感動をする。
 いや、感動はしたんだが、そんな感情も魔界の有り様と言うか、存在自体を目で見て身体で感じて吹き飛んでしまった。

「ひ、広い・・・」

 そう、広いのだ。
 広くて広くて、先が見通せない程なのだ。

「はは、僕も最初はその感想しか出て来なかったよ」

 いつの間にか俺の隣に並んだファイが笑って語り掛けて来る。

「・・・魔界の構造は円錐型で下に行くにつれ狭くなって行くって聞いてたけど、こんなに広いとは思わなかったよ」

「それは知っているんだね。でも、それは予測でしかない」

「と言うと?」

「君も知っているだろうが、公式では魔界は二層までしか到達していない事になっているんだ。どれだけの深さがあるか分からないのに、たった二層に到達しただけで全体の形を断言なんて出来ないだろう?」

 確かに言われるとその通りだ。
 歴代の聖女達がどれ程の深度まで潜っていたのか分からない以上、この辺は予想で語るしかない。

「それにしても魔界なんて千年以上ここにあるんだろ?それで二層にまでしか到達していないって何か無理があるんじゃないか?」

「・・・こうやって記録を詳細に取り出したのもここ何十年かなんだ。それ以前に誰かがもっと深く潜っているかも知れないけど、それを知る術は無い。まぁ、僕は軍や教会が知っている事を隠していると思っているけどね」

 その言葉に俺はギョッとして辺りを見るが、聞こえているのかいないのか、誰も此方を見てはいなかった。

「そんな警戒しなくても大丈夫だよ」

 アハハと軽く笑うファイとその後も色々と話をた。
 為人を知ると自分で言っておきながら、こうやって話す機会を逃すのは可笑しいし、悪手だと思ったからだ。
 ファイはこうして話してみるととても気さくな人物で唯のハーレム野郎とは違う印象を受けた。

 ファイ・ロゼリオン。
 歳は22歳で、ロゼリオン子爵の嫡男としてこの世界に生を受けるが、余り詳しくは語ってくれなかったが訳あって騎士団では無く傭兵団に所属する事になり現在に至るそうだ。

 何があったのかは知らないが、まぁ此奴も色々あるんだろうさ

 そう納得させて話の続きを聞く。

「何で二層までしか進んで無いのかって話だったね」

「うん、幾ら一層が広大だったとしても余りに時間が掛かりす過ぎてると思うんだが」

「うん、その通りだよ。君は案外頭が回るのかな?普通は、広大な魔界で一層の探索に時間が掛かっていると言う事にそれが事実でそうなんだとしか思わなかったりするんだけどね」

「案外ってのは何だ・・・失礼な奴だな」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃ無かったんだけどね。でも、長年一層までしか基本的に傭兵達は進めていない。それは、それで十分だったからだよ」

「十分?それは魔界から得る糧は一層で十分手に入るから誰も危険を犯してまで進もうとはしなかったって事か?」

 そう言うとファイは目を丸くて驚いていた。

「そうだよ!何で分かったんだい!?」

 何でと言われても、聖典の数々から導き出しただけだが・・・

「そんなのちょっと考えれば分かる事だろ」

 俺は態とらしく鼻を鳴らして言った。

「凄いね、君!俄然興味が出て来たよ!君と彼処のアリシエーゼさんだったかな?二人には本当に興味が尽きないなぁ」

「なんだそりゃ、お前はホモでロリコンなのか?」

「ぶッッ!!!」

 俺の発言にファイと俺を遠巻きに見ていた猫人族の女性が盛大に吹き出した。
 ケホケホと咳き込む猫人族を不思議に思っていると、一連の流れを見ていたファイが突然声を上げて笑い出した。

「アハハッ!君って本当に面白いなぁ。あの子はミーシャ。猫人族の戦士で僕の大切な仲間だよ。あ、因みに僕は至ってノーマルだかね」

「は、はぁ・・・」

 俺は曖昧な返事しか出来なかったが、気を良くしたファイはそこから、中隊のメンバーを俺達に紹介し出した。
 なので俺もお返しにと仲間達を紹介した。

「・・・アリシエーゼさんは、あのエンフェンフォーズ家の人かい?」

「・・・違うのじゃ」

「・・・そう、僕の勘違いだったみたいだね」

 ファイは含みのある言い方をしたが、それ以上は追求しなかった。

 まぁ、分かる奴には分かるのか
 特に貴族とかは

 それからは他愛の無い話をしたり、魔界での立ち回りをファイの中隊の動きを見ながら教わっていく。
 やはり唯のハーレム野郎では無い様で、指示出しも的確だし何より個人の技量が飛び抜けている様に感じた。
 魔界でこんなに和気藹々としながらで良いのかと思わなくは無いが、如何せんこの魔界の一層は広過ぎる。
 広過ぎてあまりダンジョンと言う気もしないし、出会う魔物の数もあまり多くは無い。
 殿と言う事もあるが、基本的にバックアタックの警戒をしていれば良いし、前方やサイドから現れる敵は他の中隊が処理している。
 現れる魔物も、ゴブリンやオーク、コボルトの群ればかりだし、時々現れるオーガも余りに群れないのか、数匹程度が集まる集団と言うだけなので危なげなく皆処理をしていった。

「うーん・・・何か想像してたのと違うなぁ」

 俺はそうボヤくが、魔界、ダンジョンと言う事から、やはり洞窟の様な狭い空間を想像してしまうのだが、この魔界、ダンジョンは広い。
 一辺がどれ程あるのかも分からないが、地面はゴツゴツしているし、時折見える膨らみは岩の山であるので、何となくダンジョンっぽいと言えばダンジョンっぽいのだが・・・

「この辺りはまだ表層の表層だよ。一層も奥へ行けば行く程魔物の数も多くなるし、強さも変わってくる。それに今はまだ悪魔が出て来ないしね」

 今までの時折出てくるその悪魔と言うワードが気になった。

 魔物と悪魔は違うんだよな・・・?

 そんな疑問をファイにぶつけると、彼はまたあの屈託の無い笑顔を浮かべて快く回答してくれた。

「魔物と悪魔は根本的に違う。同じ魔に連なる者では有るけど、悪魔は悪魔が作り、魔物は魔界から作られると言われているんだ」

 魔物はダンジョン産で悪魔は化身や分体、眷属とかって事だろうか?

「魔界って世界各地にあるって言われてるんだけど、その魔界から魔物は生み出されて、最初は魔界で生活しているけど、ある日外に出ると言われている」

「ある程度数が揃ったら一気にって事か?」

「そう言う時もあるけど、単体で外に出る事にもある。諸説あるんだけど、今は魔界に適合出来ないら弱い魔物が外に出て、同じ種族同士が外で寄せ集まり、外の環境に応じて特殊な生態系を作って生活するって言われているんだ」

 その説明を聞き、俺の中に一つの疑問が生じる。

「あれ?ゴブリンとかは自分達で繁殖するよな?」

「良い所に気付いたね。そう、彼らは魔界に生み出された存在ではあるけど、生殖機能も有しているんだ。だから、外に出ても勝手に繁殖する」

 外の世界には魔界産の魔物と外の地上産の魔物が居るって事か・・・

「成程ね。厄介極まりないな」

 まるでゴキブリの様だと思ったが、それは敢えて口には出さなかった。

「数は本当に厄介だよ。ただ、やはり魔界の魔物に比べると明らかに弱いんだ。結局、生態系の解明とかはらまったく追い付いて無いから疑問だらけなんだけどね」

 そんな話をしながらも俺達は魔界の一層を奥へと進んで行くが、こうやって直接話して得る知識は能力で得る知識とは違い、なんと言うか

 いや、違うな
 この行為自体が楽しいのかな?

 自分自信の感情が良く分からなかったが、これはこれで良かった。
  まぁ、能力を使ってファイの知識を取り込めば、もっとこの世界や魔界に付いて知れるし、為人も直ぐに理解出来るが。やはりそれでは面白く無いと思った。

 とりあえず使わない様にしないとユーリーがまた五月蝿いからなぁ

 チラリとナッズの肩に乗るって静かに遠くを見るユーリーを見てそんな事を思っていると、ナッズの頭を急にペシペシと叩いてユーリーは俺の方を指差す。
 それに応じてナッズが此方に走り寄って来たが、何だかまたあの展開か?と身構えてしまった。

「・・・ハルヨンデル」

 嗚呼、やっぱり・・・

「・・・・・・ジゴクガヨンデル」

 さいでっか・・・
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