異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

文字の大きさ
上 下
119 / 335
第4章:偽りの聖女編

第119話:ファーストアタック

しおりを挟む
「・・・何だい、地獄って?」

 ユーリーの言葉を聞き逃さなかったファイが、俺に尋ねるがこんな事馬鹿正直に言う訳にもいかないので、俺は適当に誤魔化した。

「ん、あぁ、別に何でも無いよ。こっちの話だ」

「・・・・・・」

 ファイは何か言いた気であったが、それ以上は何も言わなかった。
 ユーリーの奴また訳の分からない事をと思ったが、一つ分かった事があった。
 と言うか、そうじゃないかとは思っていたが、ユーリーの言う地獄と言うのは魔界の事であろうと言う事だ。

 地獄と魔界がイコールだったとすれば、隼人と言うか、あの触手のバケモノに俺の能力を使った時のユーリーのあの今まで見た事の無い反応を考えると、魔界と隼人が繋がり、また隼人の記憶の中にあった悪魔の存在も浮き彫りになった気がした。

 あの悪魔がこの魔界にいる可能性が高くなった

 聖典で得た知識から考えるに、あの悪魔はもしかしたら、とかそう言った類のものか?と考えるがそれ以上は今の段階では単なる想像でしか無くなるので余り考えないでおこうと思ったが、魔王なんてこの世の理から外れそうな存在が此処に居るのなら―――

 俺が転移した時に見たあのの事が何か分かるかも

 何故だかそう思った。
 俺以外の明莉や篤は転移させられる際に神様と出会って?いる。
 なら俺が見たあの眼も神様と関係があるかも知れないし、そうであるならば悪魔や魔王なんて神と相反する、敵対する存在の代表格だ。
 そんな存在ならば逆説的に神様の事を知っているかもしれないし、それならばもし素直に答えてくれるのであればの話だが、あの眼や神様について何か分かるかもしれない。
 そこまで考えてある不安が心を過る。

 あれ、俺の場合だけ転移に関わってるのが悪魔なんて事無いよな・・・?

 他の皆は神様が転移させているが、俺の場合だけ悪魔が転移させたとか・・・
 もしあの眼が悪魔や魔王と言った存在ならばその可能性もあるのか?と思ったが、それだと意味が分からなくなる。

 とりあえず今は分からないし、考えるのは辞めよう・・・

 そこからはモヤモヤしつつも一層攻略と言うか、肩慣らし的な意味合いが強いこの一回目のアタックに集中した。
 魔界と言う環境にも大分慣れて来て、殿と言う事と、まだ一層でも出入口に近い場所と言う事もあり、かつ魔物などと直接対峙する事が少ないと言う事もあり、緊張を解す慣らし時間には最適だった。
 暫くすれば皆の動きの硬さも無くなり、積極的に動く様になる。
 そうなると、ゴブリン程度の魔物では満足出来なくなるのは必然だった。

「魔界って言っても大した事ねぇな・・・」

 ついつい本音が漏れてしまうのも仕方の無い事だと自分自身に言い聞かせるが、他の、特にアリシエーゼと篤はそれを聞き逃さなかった。

「お主・・・それフラグじゃぞ」

「これは完全に魔界とやらを舐めてる発言だな」

「い、いや、そんなつもりじゃ無いんだが・・・でも正直退屈だろ?」

 実際、ファイ達もバックアタックは流石に警戒しているが、これだけ広大な場所だ。
 見通しもかなり良いし、何より暗闇と言う訳では無いので後ろを取られるなんて事はほぼ無いと思っても良かった。

「どうせ明日には一旦戻るんだし、二回目のアタックの時は前線に投入して貰うか」

「・・・それは流石に気後れするんだが」

 俺の発言に篤は眉を顰めるが、確かに篤と明莉には荷が重いかと考えを改める。

「まぁ、危険と判断したら直ぐに下がれば大丈夫では無いかの?」

「本当か?」

「いや、分からん」

「・・・おい」

「ゴブリンやらオーク程度なら全く問題無いと思うがの」

 確かにアリシエーゼの言う事も一理あるかも知れない。
 あのコボルトの群れの特攻に近い侵攻を大した怪我も無く乗り切れていた訳だし、たかが数匹や数十匹程度現れたとしても別に大した脅威では無い気がする。

「ちょっと、悪魔って奴がどれ程の奴なのか。それが分かったら判断しよう」

「うむ」

 篤が何か言いたげだったが、伝説の槍とやらもまだ一度も使っていない篤は少し考えてから納得して何も言わなかった。

「そんなに退屈かい?」

「!?」

 俺達の会話を聞いていたのであろう。
 ファイは俺達の会話が終わるのを見計らって話し掛けて来た。

「・・・悪魔ってさ、この一層でも現れるんだよな?」

「そうだね。稀にアークデーモンと呼ばれる奴は出現するね」

「それって強いのか?」

「その辺の魔物とは格が違うと言ってもいいと思うよ」

「そんなに違うのか・・・」

「まぁでも単体なら僕一人でも問題無く対処出来るよ」

「複数体なら?」

「・・・ちょっと考えたくは無いね」

「そうか・・・」

 結局はファイの強さも底が全く見えていないので、あまり参考にならなかった。

「まぁこんな所に悪魔は滅多に出ないよ。ホルスにいる傭兵団の多くも、狩場は中間地点よりも奥に設定しているしね」

「この一層って二層に行く為のポイントまで最短でどれくらい掛かるんだ?」

「んー、休み無く走り続ければ半日ちょっとかな?」

「えッ!?その程度なの?」

「そうだよ?一体どれくらいの広さだと思ってたんだい?」

「いや、今までずっと二層に到達出来ていなかったって行ってたから、本当にこのフロアは広大で、端まで行くのに何ヶ月も掛かるだとかで、そうなると物資の問題もあるから皆二の足を踏んでるのかと思ってたよ」

「違うんだよ。さっきも言ったけど、金を稼ぐ目的なら、この一層で事足りてしまうのが問題なんだ。アークデーモンの素材は破格の値段で取引きされるんだ。だから、一回のアタックでアークデーモンさえ狩れれば黒字間違い無しなんだよ」

「つまり、物資の問題では無くて、危険を犯してまで到達点の記録を更新しなくても全然いいと」

「そうだね」

 そう言ってファイはとても悲しそうな表情をした。

「ファイは何で下を目指すんだ?」

 ホルスの街滞在中に聞いた、最近傭兵団がかなりの素材を持ち帰って来て大騒ぎだったと言う話、あれはファイ達蒼炎の牙が二層で入手した素材だ。
 つまりは蒼炎の牙が本当の意味の攻略を進めている傭兵団であるが、ファイ自身が言っていた様に、金を稼ぐ為ならば別に他の傭兵団と同じ様に一層でアークデーモン狙いで借り続けていれば良い。
 そうでは無く、階層攻略を目的としてアタックをするファイ達蒼炎の牙の目的が分からなかった。

「・・・エル教会の教義は知っているかい?勿論、崇める神の信仰が第一なんだろうけど、そう言う意味では無くてさ」

「魔に連なる者の一切の存在を赦さないってやつか?」

「・・・そう。神を崇める為に悪魔や魔物の存在は邪魔以外の何者でも無いんだよ。安心して信奉する神に遣える為には悪魔を排除しなければならないと思い、今じゃそれが第一と考えている。悪魔を一掃する事が何より崇める神の為と信じてる。目的や経緯はどうあれ、僕は人々が本当に心から笑って生きる為には魔の者は根絶しなければ成らないと思ってるから、その点は教会の考えに同意なんだ」

「・・・つまりはファイは教会と同じで諸悪の根源はこの魔界の奥に在ると思ってるから、独自で魔界の攻略をしようって考えなのか?」

「端的に言えばそうだね」

 やっぱり君は頭が良いねと言ってファイは笑った。

「ただ、正直本気で魔界攻略を考えている人間がうちの傭兵団にどれだけいるのか分からないし、命を賭けてまでそれに挑むのを躊躇う者が居るのも理解しているつもりだよ。だからそんな者達と立ち回りとの折り合いを付けつつ、準備を入念にしながら挑んでるのが現状で・・・あまり進捗状況は良くは無いよね」

 今度はそう言って自分を卑下した笑いを浮かべるファイを見て、やっぱりイケメンはどんな表情をしても似合うだな等と関係無い事を思ってしまった。

「何故そこまで、言い方は悪いかも知れないが、自分を犠牲にしてまで挑むんだ?」

 確かに魔物は魔界が生み出すので、その原因を断つと言う事は、この世から魔物を消し去ると同義な訳だが、自分の人生を捧げる勢いなのが分からなかった。

「うーん・・・何だろう。多分、僕が貴族に産まれたからなのかな」

 それを聞きた瞬間理解した。

 あぁ、此奴はリラと一緒なんだ

 そう思うととてもしっくりと来た。
 ファイが言うには、攻略を進める為に色々な準備を推し進めて来たらしい。
 蒼炎の牙だけで攻略出来るとは思っていないらしく、他の傭兵団にも攻略階層を更新して貰って人類の魔界到達点を更新して貰う必要があるが、リスクが大きいと二の足を踏む。
 なので、成る可く安全に攻略する為の各階層のマップ作りを行う必要があり、その為の人材の育成、マッパーだけでは無く、荷物運びを専門とするポーターの育成。
 先ずはこれを自身の傭兵団で行い、人員の育成と同時に各階層のマップを作成して行く。
 このマップは出来るだけ全ての場所を網羅していて、詳しい情報が載っている程良いので、そうなると、フロアを隅から隅まで踏破する必要が出て来る。
 なので進行速度は遅くなるが、人員育成は上手くいっている様だ。
 一層は踏破したので最近二層に挑んだらしく、これもマップ作成を目的としているが、ファイは他の事も考えていたらしい。

「下に潜ればそれだけ儲けられるって示したかったんだ」

 成程なと思った。
 フロアの奥に行けば、階層を下に進めば進む程、出現する魔物の強さは変わる。
 そうなれば手に入れられる素材の質なども必然的に良くなる。
 詳細なマップを作って安全なルートを示しつつ、自ら実践して下へ進めて儲けもデカくなると示す。
 実際この間は蒼炎の牙特需が巻き起こった訳で、それを見て感じて他の傭兵団も触発された筈だ。

「随分とまわりくどい事してるみたいだけど、着実に実にはなってきてるんじゃないか?」

「・・・そう思いたい。でも何だか皆を利用しているみたいで気は引けるよ」

 それを聞いて俺は声を出して笑った。

「そんなの気にしてどうするんだよ。自分がやりたい様に生きる。それだけだろ」

 それを聞いてファイは目を丸くした。

「・・・はは、君って可笑しな人だね」

「そうか?」

 二人でそんな話をしていると前方の集団が足を止めた事に気付く。どうやら休憩に入る様だ。
 結局、ここまで殆ど会話しかしてないなと思ったが、まだ始まったばかりだ。

「昼の休憩が終わったら、たぶんペースが上がると思うから、十分に休息は取っておいた方がいいよ」

 ファイの言葉に俺は言葉を発さずにただ笑った。

 望むところだ
しおりを挟む

処理中です...