異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第124話:異常事態

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 セカンドアタックを開始して魔界の入口から中に入ると、例のあの地鳴りの様な音が止んでいるのに気付いた。
 他の者もそれについて何やら話しており、若干落ち着かない雰囲気になって来たが、其れを各中隊の代表達が宥めていく。
 寄せ集めの集団で一時的に中隊を組んでいるに過ぎないが、思いの外纏まりがあり、直ぐに騒ぎは沈静化していった。

 結局俺達はまた殿の部隊となり、ファイ達の中隊に加わる事となったが、下に行けば戦闘機会なんていくらでも有るかと思い、あまりその事に関しては考えない様にした。

 余り入口で固まっているのもアレなので直ぐに下層へ向けて出発する俺達だが、数時間走ってみたは良いものの、一匹の魔物も出現する事無く短い十分程の小休憩を取るべく一層の中程辺りで足を止めた。
 戦闘も無かった為、皆特に疲労も無いのだが、魔物が全く襲って来ない事が逆にストレスとなって精神的な疲れが見え始めていた。

「・・・静か過ぎるね」

 ファイが此方に近付いて来てそう言うが、表情もかなり硬かった。

「周辺には全くと言っていい程魔物なんて居そうに無いぞ」

「君は索敵系の魔法が使えるのかい?」

「まぁ、そんなとこだ」

 そんな会話をしている最中もファイの顔色は優れなかった。

「敵が居ないんだからラッキーじゃないか。どんどん先に進めるだろ・・・・・・・・・なんて冗談は笑えないか」

「・・・ちょっとね。この前の地鳴りと言い、ハッキリ言って嫌な予感しかしない」

「・・・まぁ、でも先に進むんだろ?」

「勿論だよ」

「だったら、んな顔してんなよ。お前が前に言ったんだろ?このアタックは士気を保つ事、上げる事が大事だって。たったら、中隊長のお前がそんな顔してたら駄目だろ」

 俺がそう言うと、ファイは目を見開いて驚いていたが、やがて納得したのか少し表情を緩めた。

「・・・確かにそうだ。僕が皆を鼓舞しないとッ」

「そうそう。さっさと仲間の元に行ってやれ」

 ファイはありがとうと笑い、そして自分の中隊の元へと戻って行った。

「・・・とは言ったものの、どうするかね、こりゃ」

 結局、地鳴りの原因や魔物が居ない事の原因はここに居る誰もが分からない事なのだが、そう言わずには居られなかった。

「・・・戻るか?」

 アリシエーゼが俺の顔を伺いそう言って来るが、俺もそれを考えていた。
 絶対に何か可笑しいし、嫌な予感しかしない。

「・・・悩んでる」

「何を悩む必要がある?絶対にこの先何かあるに決まっておるじゃろ」

「まぁ、そうなんだが直ぐに何か起こると決まってる訳でも無いしさ」

 そこまで言うとアリシエーゼは溜息を付いて俺を睨む。

「・・・お主、まさかと思うが、あのファイとか言う男をどうにかしてやろうとか考えてはいまいな?」

「・・・どうにかって何だよ」

 正直、ファイは亡くすには惜しい男だと思っていた。
 多分、今この魔界では誰も経験した事の無いイレギュラーな自体が起ころうとしていると言う予感めいたものは確実にある。
 それに遭遇する前に俺達は離脱する方向に変わりは無いが、ファイにも声を掛けておきたいと言う思いが無いかと言われると、有ると今は答えざるを得ない。

「助けるだとかそう言う事じゃ。お主分かっておるのか?仲間の命が懸かっておるんじゃぞ?」

「・・・んな事は分かってるよ」

 アリシエーゼの言う事は最もであるし、今回は本当に唯の下見なのだ。
 何で危険と分かっているのに更に一歩踏み出す必要があるのだろうか。

「じゃったら―――」

「分かってるが、ファイの事でどうしても気になる事があるんだ」

 俺はアリシエーゼの言葉を遮り、俺の思いを伝える。

「―――む、なんじゃその気になる事とは」

「とりあえずもう少し時間くれないか?予定てまは今日このまま一層を抜けてら二層に入ったら直ぐに野営地を探して野営に入る筈だ。そこまででいい」

 俺の言葉に皆押し黙った。それは俺の判断が間違っていると暗に言っているのだと理解していたが、今はもう休憩も終わるし時間が無いので、妥協案を提示した形だ。

「・・・私はそれでいいですよ」

 意外にも最初に理解を示してくれたのは明莉だった。

「正直、ファイさんだけじゃなくてここに居る人全員私は死んで欲しく無いんです。だから暖くん、皆を助けられる様に行動して欲しいです。暖くんにも、皆にも。」

 全員を助ける気は更々無いのだが、明莉らしいと思った。
 そして同時に誇らしいとも思った。
 まだ何かが起こった訳では無いし、何も起こらないかも知れないが、今ここで離脱をすれば助けられる命を放り出す事と同義だ。明莉はそれを是としない。

「・・・はぁ、仕方の無い奴じゃ、今日の野営までじゃぞ」

 アリシエーゼはやれやれと言って同意してくれた。傭兵達もアリシエーゼが言う事に是非は無いので、特に異論は出なかった。

「・・・・・・」

 ユーリーが無言で俺の手を握って同意を示してくれ、篤も無言で頷いてくれた。
 ドエインの行動原理は明莉を傍で護るなので、明莉が行く所にドエイン在りだ。
 モニカは連日の徹夜が祟ってか、少しボーっとしていて、どちらでも良いと言った感じだったので触れないでおいた。

 前方から「出発!」と声が聞こえて、隊列が動き出すのを確認して、俺は仲間を振り返り、一人一人の顔を見て頷いた。

 この手で触れられる範囲は絶対俺が護り通す

 そう決意して走り出した。
 休憩後も魔物が現れる事は無かったが、最初のアタックでは和気藹々とした雰囲気であったが、いまは誰も無駄口を叩く事無く走り続け、遂には一度も戦闘をせずに一層と二層を繋ぐ大きな階段の前へと到達した。

「階段は石造りなんだな・・・」

 一層は地面や壁は剥き出しの岩と言う感じで、そこにも苔が生えたりと一層自体が自然の産物の様に見えなくは無かったが、この階段は明らかに人工物だった。

「二層はね、一層とは全然違うんだよ」

 ファイが近付いて来て俺にそう言った。

「違うとは?」

「二層は、床も壁も石造りで、なんと言うか、通路が続いている感じなんだ」

 おぉッ!?正しくダンジョン!

「だから、一層よりも狭くてね。何故かは分からないけど光源が無いのに、一層と同じで真っ暗闇では無いんだよ」

 一層もそうだが、外の光でも取り入れて活用出来る様な機能でも備わっているのだろうか?
 光の出る箇所が見当たらないが、暗闇で無いのなら此方としても好都合なので深くは考えない様にした。

「狭いってどれくらいなんだ?」

「んー、狭いと言ってもここよりはって事だから、小隊が三つくらいは展開しても問題は無いよ」

「成程、じゃあ天井の高さは?」

「どうだろう?たぶん五メートルくらいはあるんじゃないかな?」

 それなら行動に支障は出ないかと思い、ファイに礼を言う。

「このまま二層に入って、地図に記載されてる野営向きの開けた場所まで移動してそのまま野営に入るんだよな?」

「そうだね。その辺りまでは僕達がマッピングしたから大丈夫だよ」

 ファイが二層に到達して最初にやったのが勿論マッピングだ。
 ファイの中隊と言うか、ホルスの蒼炎の牙では傭兵団全体でマッパーとポーターの育成を優先して行っており、今回も小隊に一人ずつマッパーとポーターを連れて来ている。
 曰く、レッサーデーモンも出現するが、問題無く対処出来るレベルだったが、二層到達した時は一層で素材を集め過ぎてしまった為、仕方無く途中で帰って来たそうだ。
 余裕があれば確実に二層は踏破出来ると言っていた。

「ただ、先日の地鳴りの件とかもあるから、前方の中隊から小隊を二つ程出して一度偵察を行うってさっき言ってたよ」

 階段に到達して直ぐにファイが聖女の居る最前列へと向かったので何かと思っていたが、そう言う事かと納得した。
 とりあえず今が待ちの状態なら丁度良いと俺はファイに話を切り出した。

「あのさ、ファイ」

「うん、何だい?」

「ちょっと聞きたい事があるんだよ。何でお前達―――」

「待った!」

 俺が思っていた疑問をファイに投げ掛けている最中にファイがそれを制する。
 前方が騒がしい事に俺も気付き、何だと思い意識をそちらに向ける。

「ファイ様!聖女様がお呼びですッ」

 前の方からディアナがファイの元に駆け寄って来てそう言った。

「聖女様が・・・?」

 ファイが怪訝な顔をするが、前方に居る全員が此方を見ているので本当なのだろう。

「ちょっと行って来る。悪いけど話は後で」

 そう言ってファイは踵を返して最前列へと駆け出して行った。

 悪い予感しかしないんだが・・・
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