異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第125話:任務

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「何かあったんでしょうか?」

 明莉が不安そうな表情を浮かべて走って背中が小さくなって行くファイを見詰めて言った。

「分からないけど、はあったんだろうね・・・」

「どうするんじゃ?」

「・・・すまん、待つ」

 アリシエーゼは大きな溜息を吐きつつ少し笑った。
 確認はしなかったがきっと皆も笑っていた。何故かそう思った。

 暫くするとファイが戻って来たが、表情を見る限り何を話していたかは分からないが、良い話では無さそうであった。

「ディアナ、小隊長を全員集めてくれ。君も来て欲しい」

 その口調にディアナは何も言わずに小隊長を招集する為に中隊が集まる場所へと駆けて行った。
 俺も何も言わずに頷く。

「妾も行くぞ」

「・・・いや、小隊につき一人だけで―――」

「小僧、妾に意見するな」

 ブワリッと物理的な圧力を伴ってアリシエーゼから殺意にも似た何かが突如溢れ出す。

「―――ッ」

 それを真正面から受けたファイはビクリと身体を震わせて固まった。
 周りにと言うより、この場に居た一団全員、須らく何らかの反応を示していた。
 剣を抜いて臨戦態勢を取る者、短く悲鳴を上げて恐怖する者、此方を振り返り異形を見る様な表情をする者と様々だが、アルアレや仲間達ですら息を飲む程であった。

 俺もハッキリ言ってビビった・・・

 きっと、物理的な物では無く、見えない何かパーソナルスペース的な物にでも踏み込んでしまったのでは無いだろうか。

「アリシエーゼ・・・落ち着け」

 俺は恐る恐るアリシエーゼに語り掛ける。
 暫し間を置いて、ふぅと短く息を吐くとアリシエーゼから剣呑な雰囲気が霧散した。

「・・・小僧、妾から暖を引き剥がす様な真似は今後一切するでない」

 そう言ったアリシエーゼは不機嫌極まり無い表情をしていたが、先程の殺気の様なものは発していなかった為、ファイがそれに反応する。

「・・・す、すみません。その様な意図は全く無かったのですが」

 冷や汗を垂らしながらそう言うファイの表情は今まで見た事の無い様なものであったが、それでもイケメンはイケメンだった。

 とりあえず何とか事なきを得たものの、ここに居る殆どの者が今まで感じた事の無い、何かを感じてそして圧倒されたばかりなので、妙な静寂と共に、緊張感の様な物かま漂っていたが、何時までもこんな事をやっていても埒が明かないので、俺は務めて明るい声で言った。

「とりあえず、場所移動するだろ?小隊長はもう集まるか?」

「・・・あ、あぁ」

 未だにあの衝撃を抜け出せないファイだが、俺の言葉に後ろを振り向き、丁度ディアナが小隊長を連れて此方に向かっている最中だったので俺達が居る場所より少し一層フィールド側、一団の最後尾より少し後ろを指差した。

「彼処にしよう」

 そう言ってファイが歩き出すので、俺とアリシエーゼを伴って着いて行った。

 ファイの中隊に所属する小隊長五人と俺とアリシエーゼが全員居る事を確認してからファイは口を開く。

「不味い状況になった」

 そう切り出したファイは先程の事は一旦忘れてるかの様な振る舞いだが、その表情は曇っていた。

「二層に偵察に行った小隊から何か報告が?」

 ディアナがそう先を促すが、まぁそんな所だろうと俺も思った。

「あぁ、二層に向かった小隊からの報告だと、ダンジョンの構造が変わっているらしい」

「えッ!?」

「なにッ!?」

「そんなまさか・・・」

 小隊長は口々に驚きを口にするが、俺は何となくだが、納得がいっていた。
 あの地響きは、下層の構造が物理的に変わっている最中の音だったのかと。

「で、何でファイが呼ばれたんだ?」

 俺は務めて冷静にファイに言った。

「・・・マップを作ったのは僕達だからね。マップの事を少々と―――」

「斥候を任されたんじゃな?」

 アリシエーゼもまた状況を理解し、先回りして予測する。

「・・・その通りだよ、アリシエーゼさん」

 一瞬間を置いてファイはアリシエーゼの言葉を肯定した。

「まぁ、妥当な判断じゃないか?構造が変わったと言っても、この中で二層を探索してるのはファイの所だし、まぁ一から探索し直すと思えばいいじゃないか」

「お前ッ!そんな簡単に言うな!」

 俺の言葉にディアナか突っかかって来るが、俺は構わず続けた。

「じゃあやらないのか?そうじゃねぇだろ。どっちにしろ進むんなら、効率や成功率を考えても妥当だって言ってんだよ。それとも何か?他の中隊に任せんのか?」

「そ、それは・・・」

「ストップ!そこまでにしてくれ。ディアナ、君だって分かっているだろう。これは僕達がやった方がいい。後、君も・・・余り煽らないでやってくれ」

 緊急事態であるからこそ、余計な不破は望まない。 ファイはこう言う取り持ちもお手の物なのだらう。
 双方どちらも善にも悪にもせずに素早く対応する辺り、やはりリーダーとしての素質はあるなと思った。

「あぁ、悪かった。気を付けるよ」

「・・・わ、私も悪かった」

 お互い謝りその場はそれで手打ち。
 それよりも話を進めたかった。

「それで、俺達もそこに加わればいいのか?」

「・・・話をが早くて助かるよ。君達には先行する僕達中隊の殿を任せたい」

 おいおい、どんだけ俺達を信頼してるんだ?

 いっそ笑いすら込み上げてくるが、それを我慢して確認する。

「俺達は初の魔界だぞ?俺が言うのもなんだが、そんな奴らに殿を任せるって?」

「うん、信頼してる」

「―――ッ」

 即答かよ・・・
 参ったな・・・

 俺は後頭部を右手で掻きながらアリシエーゼを見た。
 アリシエーゼも俺を困った様な表情で見詰めていたが、やがて諦めた様に目を閉じて首を振る。

「・・・任務は偵察だろ?どの程度やるんだ」

「野営地の確保とその周辺の偵察が主な任務になる」

 ここでサヨナラは流石に気が引けるし、仕方無いかとまたアリシエーゼを見た。
 俺達は無言で頷いて意思確認をした。

「分かったよ、殿は任せろ」

「ありがとう!」

 そんな眩しい笑顔辞めてくれ・・・
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