異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第140話:ミスリル

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「見よ!これが私の手によって作り出された、その名もだ!」

「・・・おー」

「・・・オー」

 俺とユーリーが味気無い拍手で篤を讃えると、篤は何故か気を良くして更に説明を続けた。

「篤とアサシンを掛けているんだ。分かるか?」

「それは分かってるが、敢えて触れなかった」

「何故だ?」

 何故って・・・
 先ず、あつしんが意味不明でダサいし、爪も付いていないのに何故クローなんだとツッコミたくなる衝動を必死に抑え少し前の事を思い出す。

 準備六日目、自分の準備は終わっていた為、昼飯を食べた後、宿屋の部屋で寛いでいる時に鍛冶師の爺さんの弟子と名乗る男が宿屋へ篤からの言伝を持ってやって来た。

「天才が又もや偉業を成し遂げた。伝説に名を連ねるであろう、伝説の伝説により作られし伝説の武具を然とその眼で見よ!だそうです」

「・・・・・・」

「・・・なんじゃ、伝説がやたら多いのう」

「・・・そうだな」

 いやッ!そうじゃねぇし!

 色々と言いたい事はあるが、とりあえず手甲かま完成したって事だろうと理解してやって来た男に答える。

「分かった。後で其方に伺うと伝えてくれ」

「はい」

 この時、モニカがポーチ作りで忙しい為ユーリーを預かっており、ついでに暇なアリシエーゼも俺の部屋でキャッキャしていたので、三人で篤の元へ向かったのだ。

「とりあえず、篤の作った武具第一号が完成したんだな」

「まぁそうなんだが、素晴らしい作品に仕上がったぞ」

「へぇ」

 興奮する篤から手甲を受け取り、俺は早速両手に装着してみた。
 以前の手甲は銀色の指まで確りと鉄で覆われている、フルプレートメイルを装備する騎士が装備していそうな手甲であったが、今は少し違う。
 色は俺のブーツと同じ漆黒で、指の部分を覆う鉄は排除されて、ナックルガードがかなりゴツくなっていた。
 なんと言うか、完全に殴打を目的とした形だ。
 空力を考慮したのだろうか、ゴツい中にも洗練されたシャープなデザインがあちこちに施され、所々中の空気を逃す為だろうか、隙間や穴がある事が分かる。

 ドラゴンを模したと言われたらそうなんだと納得しそうな形だな

「結構形変わったなぁ」

「儂がデザインしたんじゃぞ」

 鍛冶師の爺さんも何故か篤と同様に興奮した様子でそう言ったが、この爺さんの店で売られている武具を見ると、他の一般的なデザインの武具とは異なったものも数多く売られていたのを思い出し納得した。

「デザインだけでは無い。この手甲は以前は魔力を溜め込みそれで障壁を張ったり、その障壁の強弱を魔力操作の応用で操作すると言った物だったろう?」

「うん、でも俺は魔力操作出来ないから十全にはこの機能は使えて無かったんだよな」

「あぁ、だがこの篤んクローは違う!!自然界からのマナ吸収は以前の其れとはまるで別次元の物となっているし、魔力が無い暖でも、出力調整も思いのままだ!!勿論、耐久性は言わずもがな。だッ!」

 マジで・・・?

「ち、ちょっと待て・・・魔力無しの俺がそんな事出来ると?」

「あぁ!それもこれも、全てあの時購入したミスリルにある!!」

「あれか・・・」

「儂もまさかお前らがミスリル何ぞ待っているとは思わなかったぞ。お陰でミスリルの加工何て言う鍛冶師冥利に尽きる体験が出来たんじゃがな!」

 鍛冶師の爺さんはそう言って豪快に笑う。

「私もまさかとは思ったがの。人間よりも長いこの人生でミスリルを扱ったのは三度目じゃが、とても楽しかったぞ」

 彫金師の婆さんもそう言ってとても穏やかな笑みを浮かべたが、やはりエルフ。その寿命は人間の比では無いので、その長い人生の中では流石に超希少な金属素材であるミスリルと言えど扱った事はあった様だった。

「じゃがな、ミスリルは本来、どんな金属とも相性が良く混ざり合い、その掛け合わせる金属の種類と配合するミスリルの割合いでとてつもなく強くも、そして逆に弱くもなる金属と聞く。配合がバッチリ合う黄金比さえ見出せればそれは無敵の武具を作成出来ると言われておるが、それが魔力操作などと繋がる事がどうも分からん」

「じゃが、ミスリルは魔導回路を彫り込むのにも、付与術式を練り込むのにも非常に長けた金属じゃ。その辺りが関係してくるのか?」

 何やら爺さんと婆さん、そして篤を交えてミスリル談義が始まるが、完全に俺とアリシエーゼ、ユーリーは置いてきぼりだった。

「全然着いていけない・・・」

「う、うむ・・・」

「・・・ジジイトババアハシャギスギ」

 こら!ユーリー!口が悪いですよッ

「爺さんや、婆さんや。この天才である私が一つだけ教えてやろう!確かにミスリルには今言った様な特性がある事も事実。だが!ミスリルの本来の能力はそこでは無いのだよ!」

「な、何ぃ!?」

「・・・一体、ミスリルの本来の力とは何なんじゃ」

 何だこの茶番は・・・

「良いか、ミスリルの隠された能力、それは・・・使用者の精神を感じ取るところにある」

 何ッ!?

「な、なんじゃと!?」

「それはどう言う事じゃ!?」

 爺さんと婆さんも篤の発言に食い付くが、アリシエーゼを見ると、目を見開いてワナワナしているので、こちらも知らない事の様だった。

「精神を感じ取るってどう言う事だ?」

 俺は疑問に感じた部分を直接篤に問うと、それを受けた篤は俺の方に顔を向け、不敵に笑った。

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた!実はだな、このミスリルは使用者の精神を感知し、それに応じて今回の場合は、ミスリル以外の金属と内包された魔力に直接干渉を行い、金属自体の硬度や、魔力障壁の強弱を自在に操る事が出来るのだ!!」

 え、普通にすげぇ・・・

「ミ、ミスリルにそんな事が出来るとは・・・」

「私も初耳だよ・・・」

 爺さん婆さんも驚愕しているが、これマジで世紀の大発見なのでは無いだろうか・・・

「な、なぁアリシエーゼ・・・これって今の人間社会の体制とか全部ぶっ飛び兼ねない事なんじゃ・・・」

「・・・そうじゃな。ミスリル製の武具を装備した穢人なら、魔力持ちとも対等に渡り合える可能性があると言う事じゃ・・・仮に多数の穢人がこんなもの手に入れたら直ぐに反乱。と言う事に成り兼ねん」

「・・・だよな」

 そんな事を俺はアリシエーゼとコソコソと話していると、篤はそんな事も気にも止めずに続けた。

「実際に使ってみた方が早いだろう!暖!早速、この爺さんを殴ってみるんだ!!」

「な、なんじゃと!?」

「・・・・・・」

 おいおい、何で爺さんを殴り殺さないといけないんだ・・・
 殺るならお前を殺るぞ、俺は

「むッ!?何だ?また私で試そうと言うのか?」

 またって何だよ?
 俺はお前で試し殴りをした覚えは無い・・・

「はぁ・・・爺さん、ここって試し斬り出来る所とかってあるか?」

「あるぞ、倉庫の裏手の方じゃ」

 とりあえず広めのスペースを確保出来そうな所を確保するべく、俺達は爺さんの案内の元、裏庭へと向かった。
 その際、爺さんの弟子達も興味津々でゾロゾロと一緒に着いて来ていたが、俺達は何も言わない。爺さんが窘めないのなら、別に俺達がとやかく言う事では無いしな。

「ここじゃ」

 案内された場所は、広さ的には十五メートル四方くらいの囲いも無い空き地で、そこに無造作に太いマルタを人間の身体に見立てた簡素なカカシの様な物が三体無造作に立てられている場所だった。

「あぁ、そうだ。前の手甲は何もせずとも常時自然に吸収した微小な魔力を障壁にしていただろ?」

 到着して早速、腕に装着した手甲の具合を確かめて調整している俺に篤が問い掛ける。

「ん?あぁ、そうだったな」

「これも同じなのだが、自然吸収するマナの量が桁外れに違う。何も考えずとも強力な障壁が常時展開されていると言う事だ」

「つまり今も俺は魔力障壁を展開している状態って事か?」

「そう言う事だ」

 そう言って篤はニヤリと笑った。
 それは確かに凄い。何もしていないアイドル状態での障壁が一体どれ程の強度なのかは気になるが、それだけでも篤に感謝してもし切れない物である事は確かな様だ。

「そいつは凄い。吸収する魔力―――マナか。それの量も自分で調整出来るんだろ?」

「そうだ。多分その辺りの調整は簡単だ。思えば

 篤の言ってる事が全て本当ならマジで破格の性能だな

「ふーん、とりあえずやってみるか」

 俺はコキリと首の骨を鳴らして皆を下がらせてからカカシの一体と対峙する。
 先ずは。と思いカカシに向かって普通に歩いて行き距離を詰め、丁度良い位置に来た所で立ち止まる。

 先ずは何もしない状態で試してみようと何も考えずにカカシを本当に軽く殴り付けた。
 かなり太い丸太で出来たカカシがドンッと言う音共に軋んで揺れる。

 へぇ

 常時展開の障壁のお陰か、拳が傷付く様事は全く無い。
 次は障壁を切ってみようと思いそれを心の中で念じる。
 すると直ぐに違和感が身体を襲う。
 その違和感は表現し辛いが、水で纏っていたベールを脱ぎ捨てた様な、身体全体で感じていた何かが一瞬で無くなった様な、そんな感覚だった。
 ただ、寧ろ今の状態の方が身体に馴染むと言うか、普通の状態に感じる。

 こっちの方が感覚は研ぎ澄まされる気がするな

 そんな事を思いつつ俺は先程と同じ力加減で丸太で出来たカカシを殴り付けた。
 ドンッと同じ様な音が鳴りカカシが軋む音も同時に聞こえるが、自分自身で感じた衝撃は先程とはまったく別物だった。

 す、すげぇ!

 今の障壁無しの身体で感じた衝撃は、俺が今装備しているブーツと似通っていて、殴った感触を感じられる。
 もっと力を込めれば、手甲自体は壊れないが、中身は破壊されるだろうなと直感出来た。
 ただ、最初の障壁を展開してた時はまるっきり違う。
 感触や感覚が鈍くなると言えば良いのだろうか。それはそれでデメリットに成り兼ねない事ではあるのだが、それにも増して、全力を出せると言う事の事実であり、メリットの方が断然勝っていた。

 後ろで、ガヤガヤと何やら他の者達が話しているのが聞こえるが、俺はそれを無視して更に続けた。
 徐々に出力を上げてみようと、通常時から一段階程出力を上げる事を意識してカカシを殴り付けると、物凄い破壊音と共にカカシが粉砕してしまった。

「もうちょっと強度のあるもの無いか?」

 俺は振り返って鍛冶師の爺さんに話し掛ける。

「うーむ・・・他にはもう商品の防具とかくらいしか使えるもんは無いぞ」

「一番防御力のある物持って来てくれないか?」

「な、なんじゃと!?」

 俺は爺さんに頼み込み、売値の倍を出すからと言うと渋々了承してくれた。
 爺さんは弟子に指示をして鎧を持って来させて、それを残っているカカシの一体に取り付ける。

「それは黒魔泥ブラック・スライムでは無いが、非常に優れた対衝撃性能を持った魔物の素材をコーティング剤として使っておるから、鎧の硬度だけで言えばかなりのものじゃぞ。これに傷を付けられる武器は早々無い」

「成程ね!因みに売値って幾らなの?」

「金額は金貨百二十枚で設定しておる・・・」

「・・・・・・」

「・・・本当に保証して貰えるんじゃろうな」

「・・・後で金貨持って来させるよ」

 想像以上の金額に若干ビビりながらも俺は気を取り直してカカシと向き合い、先程と同じ程度の力で鎧に右ストレートを放つ。
 先程と違い、甲高い金属同士がぶつかり合う激しい音が鳴り響く。
 鎧を見ると凹みはしたものの、致命的な損傷は与えられていない様に思えたのでそのまま続けてもう一段階出力を上げる。
 出力を上げても身体で感じる感覚は特に変化が無いのでそこは若干戸惑うが、俺は構わずに鎧を殴り付けた。
 先程と同じ様に金属同士がぶつかり合う音が響き、続いて鎧が凄まじい勢いで弾け飛んだ。

「・・・さ、最強の硬度を誇っておると自負しておったんじゃがな」

 爺さんはそう呟き、砕け散った鎧を眺めていたが、確かに硬かった。
 ただ、殴り付けの感触や衝撃が希薄になっているので、それ程手応えを感じず俺は、こんなものかと思った。

「まぁ、全力はぶっつけ本番って事で」

 俺は後ろを振り返り笑いながらそう言った。
 ―――直後

「ッ!?」

 懐に飛び込んで来たアリシエーゼに気付くが、まったく予想していなかった事態に身体が一瞬膠着する。
 その隙を見逃さずアリシエーゼは俺のボディに打ち上げる様にアッパーを放った。
 防御がギリギリになるが、何とか自身の腹とアリシエーゼの拳の間に腕に滑り込ませた。が、アリシエーゼの攻撃を真面に喰らって俺は後方に吹き飛んでしまった。

「ッてぇ・・・何すんだテメェ!」

 俺は吹き飛んだ体勢から素早く起き上がり、アリシエーゼを睨むが当の本人は至って涼しい顔をして言って除けた。

「ほぅ、思ったより頑丈な障壁じゃな」

 アリシエーゼの言葉に俺は手甲を見るが、特に何も怪我や装備の損傷も無さそうだった事に気付いてハッとする。

「まぁ、妾も全然本気では無いが、無防備の状態でこれだけの障壁が貼れておるなら良いんじゃないかのう」

 アリシエーゼは素の無防備な状態での障壁強度や、障壁が如何に重要であるかを俺に身を持って分からせる目的でこんな事をしたのだと理解して俺は舌打ちした。

「ッたく・・・もう少しやり方ってもんがあるだろうが」

 そう悪態を付くが、本音では俺が感謝している事が分かったのだろうか、アリシエーゼはニヤニヤとしながら「そうじゃなー」とか言っていた。

「とりあえずこの手甲の性能は分かったよ。篤、ありがとう」

「うむ、まだまだアイデアはいっぱいあるのでな!期待していると良い!」

 ワーハッハッハッと高笑いする篤に本当に感謝しつつ、諸々の雑事を終わらせて皆で宿屋へと戻った。
 因みに、残った素材等は爺さんと婆さんに好きに使って欲しい良いと言ってあるし、二人の店には今後も贔屓させて貰うと伝えてある。
 二人は年甲斐も無く喜んでおり、特に黒魔泥ブラック・スライムの素材の提供は泣いて喜ばれた。
 俺達が使う分も多少は残しておいて欲しいと言ったら、こんなに使い切れるかと何故か怒鳴られたのは未だに納得が行かないが・・・
 また、帰る間際に忘れていた前回の戦闘で損傷してしまった革の胸当てと服を爺さんの店で新調した。
 オーダーメイドでは無く、丁度店売りされているものでサイズが合う物があった為購入したが、明らかに前に所有していた物よりも高価で高性能である事は間違いない。
 外套は特に損傷はしていなかったのだが、婆さんの店で良い物があると言われ無理矢理一つ買わされた。
 色は黒く、見た目は普通のフード付きの外套であったが、風の精霊を多く集める術式が埋め込まれており、それにより矢による不意打ち等、ある程度は防いでくれると言った物だった。
 物は確かに良い物なのだろうが、その強引な商法に若干引いたのは内緒だ。

 今日で俺の装備はほぼ完璧に揃った事にホクホクしながら宿屋まで皆で仲良く歩いて行く。
 宿屋に到着し、正面玄関が見えてくると突然アリシエーゼが剣呑な雰囲気を纏わせて言った。

「チッ、彼奴、何故こんな所におる」

 俺はアリシエーゼの見る方に目を向けると、そこには一人玄関の脇に佇むファイの姿があった。
 俺達の視線に気付き、ファイは微笑んで右手を上げて此方に歩いて来た。

「どうしたんだ、こんな所で」

「・・・いや、ちょっとキミに話があってね」

 何時もの爽やかなイケメンぷりが也を潜めており、代わりに少し影が落ちているかの様な表情のファイが少し気になるが・・・

 どんな表情してもイケメンってどう言う事だよッ

 そのイケメンっぷりに忘れていた嫉妬がまた目覚めてくる感覚に襲われつつもそれを表に出さずに俺は会話を続ける。

「俺に?」

「うん、ちょっと時間あるかな?」

「・・・別にいいけど」

 俺はそう言ってアリシエーゼ達を見る。
 篤もユーリーもファイには特に興味を示しておらず、アリシエーゼだけぐぬぬとか言ってるだけなので問題無いかと承諾した。

「何ッ!?今から皆で夕飯じゃろ!お主は要らんのか!お主抜きで始めてしまうぞ!?良いのか!?」

「・・・別にいいけど」

 俺の返しにショックを受けた様に固まるアリシエーゼに、ファイは心底申し訳なさそうにしながら謝った。

「本当に急でごめん。でもちょっとだけハルを借りるよ」

 アリシエーゼは結局終始ぷりぷりしていたので宥める事は諦めて俺はファイと夜のホルスへと繰り出した。

 さて、何の話しかな
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