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第4章:偽りの聖女編
第147話:雄叫び
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「ア、アンタ何でここに居るのよ!?」
「居ちゃ悪いか?」
門の外に居た俺が突然門の内側に現れた事に皆が驚き、その情報が伝わると直ぐにイリアとファイが駆け付けた。
「良かった・・・」
ファイは心底ホッとした表情をしていた。他の仲間や傭兵達も一様に安堵の表情を浮かべて喜ぶ。
「俺も一瞬焦ったけど・・・まぁ何とかなったよ」
俺は苦笑いを浮かべながら、頭の後ろを右手でボリボリと掻いて照れ隠しを行う。
一頻り、俺の帰還を労う儀式の様な物が完了したのを見計らい、俺は辺りを確認する。
「それよりも―――結構長い通路みたいだな」
門の内側は暗く長い通路が続いており、先はどうなっているのかは見通せない。普通なら。
俺は自身の身体能力を駆使して、闇に染まった通路の奥を注視する。
「先がどうなっているか分からないが、一本道の様だな」
俺がそんな事を言うと、アリシエーゼが直ぐに返す。
「少し歩くと、先にもう一つ門があるぞ。この門よりも小さいものじゃがな」
「あ、もう偵察は済ませたんだな。流石だ」
「ふふんッ、そうじゃろう!」
無い胸を張りながらふんぞり返るアリシエーゼを見て、何故だか無性に愛おしくなり、俺はアリシエーゼの頭を無造作にワシャワシャと撫でた。
「あぁ、良くやった」
「・・・・・・」
「良かったですねぇ、アリシエーゼさん。ハルさんに褒められてぇ」
「んなッ!?そ、そんな事で誰が喜ぶかッ!!」
俺に頭を撫でられたアリシエーゼは最初キョトンとした表情をしていたが、ニヤニヤしながら言うモニカの言葉にアリシエーゼは顔を赤くして反論した。
「・・・何やってんのよ、アンタ達」
「??」
ジト目のイリアが何を言っているのか分からなかったので無視して話を進めた。
「とりあえず、ここに居ても仕方無い。準備が整い次第、先に進もう」
後方のデカい門と前方の少し小さ目の門に挟まれたこの通路は、濃密で淀んだ空気と言うか、そう言った人間には悪影響が有りそうなものが大気中に漂っている気がしてかなり心地悪い。
十メートル程の通路に大隊が一つ同じ場に居る事もあって、かなり密集していて息苦しいと言うのもあり、皆俺の言葉に頷いた。
それから軽い補給と装備の点検を終え、俺達は通路の先にある門を目指した。
途中、仲間達、それにファイを交えてもう一度、動きについて確認をしていくが、先程もセオリーを無視した様な奇襲を受けたので、この後も気を抜かず臨機応変に対応する事を重点的に話した。
「ここか」
「うむ。多分、この先で待ち受けておる」
「そうみたいだな・・・」
通路を暫く歩いて行くと、アリシエーゼの言う通り石材で出来た門が在った。
その門は入って来た門よりは小さいが、それでもかなりの大きさで見上げる程の高さがある。
門の扉に施された意匠もかなり凝った物で、何の紋様かは分からないが、一体どれ程の熟練の職人が何日、いくら掛けてこれを作ったのか想像出来ない。
「さて、ここが終着点だ。お前ら、覚悟は良いか?」
俺は仲間達の顔をそれぞれ見て不敵に笑う。
「当たり前だ!アカリを助けて帰ろうぜ!」
「覚悟なんて傭兵やってるんだからとっくに出来てるよ!」
「アカリさんはきっと無事です。私達の家族を取り戻しましょう」
「早く行くのじゃッ!あの悪魔共を八つ裂きにしてくれるッ」
「当たり前の事今更聞かないで下さいよねッ、早く帰ってユーちゃんとイチャ―――やる事いっぱいあるんですから!」
「・・・ハル、キヲツケテ」
皆、一様にやる気に満ちた表情をして頷くが、ユーリーは少しトーンが違った。
「・・・ユーリー、心配してくれてありがとう。もし、俺が間違えて、暴走してたら助けてくるか?」
「・・・ウン」
俺の言葉に眠たそうな目をしながらユーリーは頷く。
その動作に俺は何だか心の奥底から暖かい物が溢れてくる感覚に襲われる。
ただ、それは別に悪い気のする物では無かったので俺は甘んじて受け入れ、ユーリーの頭を軽く撫でた。
そして、俺はドエインと篤の方を見て口を開いた。
「ドエイン、焦るなよ。篤の事もちゃんと頼むぞ」
「・・・分かってる。その代わり、聖女様の事はマジで頼むぞ」
そう言ったドエインの表情は緊張なのか怒りなのか、それともそれ以外の感情か全てが混ざった物なのか分からない複雑な表情をしていた。
「当たり前だ。絶対に助ける」
俺は力強くそう言って頷くと、ドエインも頷いた。
大丈夫、ドエインはちゃんと自分の役割をこなしてくれる。そう思い信じる。
「篤は―――ドエインの言う事聞いて大人しくしてるんだぞ?」
「・・・何故、私だけ子供扱いなんだ」
篤はジト目で俺を見るが、ただ心配なのだ。
本当なら篤は置いて行きたかった。
身体強化が使えると言っても、たぶんここではまったく役に立たない。
だが、篤は頑なに置いてけぼりを拒んだ。
たぶん別に置いて行かれ、俺達が全滅して帰って来なかったらとか、その後一人になるだとかそう言う不安からでは無い気がしている。
手甲を完成させてから篤は何かが変わった様な気がする・・・
俺の装備を五日掛けて作り終えた後、何となく雰囲気が変わり、装備作りが楽しくなったのか何なのかは知らないが、街を一緒に歩いていても、装備品や素材が売っているとそちらに寄って行き、何かを思案すると言う事が増えた気がする。
装備品や素材だけに限らず、この世にある全ての物をまるで観察するかの様な行動は、まるで取り憑かれているかの様だった。
きっと、ここに来たのも、勿論明莉を助けたい、心配だと言う思いもあるのだろうが、篤の異能の力に突き動かされてと言う側面もある様に感じた。
だから何だって話だな
俺はそう思って薄らと笑う。
「まぁいいや。とりあえず、無茶はすんなよ」
「分かっているさ」
そんなやり取りをして再び意識を目の前の門へと向ける。
中から漏れ出る、妖気と形容しても良い、何か得体の知れぬ雰囲気に飲まれそうになるのを皆、必死で押さえ込み、その恐怖を克服しようと藻掻く様に口角を上げている。
勿論、そうでは無い、今にも発狂しそうな程恐怖に飲まれている傭兵達もいるが、パトリックの魔法の効果だろうか、同時に高揚感にも似た何かも込み上げて来ている。
やるぞ
俺は心の中でもう一度、意気込み、そして覚悟を決める。
右手をスッと上げるとそれに呼応したかの様に周りに居たファイの中隊、ナッズやソニ、その他筋力に自信のある者が前に出る。
門の扉左右にそれぞれ手を掛けて皆俺を見てくるので、無言で頷いた。
「ぉぉッ、ぅうッ!」
「ぐぎぎッ」
門の扉に手を掛けた者達が一斉に力を込めて扉を押す。
暫くすると、スゴゴゴッと重たい音を立てて門がゆっくりと開き始めた。
人が一人通れる位の隙間が空いた時、その隙間から一陣の風がビュウッと吹き、そして俺の顔に、身体にそれが当たる。
ゾクリ、と死を連想させる様な感覚が瞬間的に襲う。
周囲でもその風に吹かれた瞬間に一気に恐怖が伝播するが、俺はそれを良しとせずに唐突に、何の前触れも無く口から無意識に声の限り雄叫びを発する。
「・・・ぉ、ぉぉおおおおああああああああああッッ!!!!」
それは原始的な恐怖に抗う為の術であり、魔力が有ろうが無かろうが誰にでも発動出来る魔法だ。
俺はその魔法を使う。周囲もそんな俺を見て直ぐ様呼応する。
俺の家族が呼応し、ファイ達も呼応し、その後ろ、そのまた後ろと数秒と経たずに全体に伝播し、その雄叫びは一つの生き物かの様に蠢き、うねり、猛々しく荒れ狂う。
「「「「うぉぉぉおおッ!!!」」」」
門の扉を押している者達も一緒になり雄叫びを上げながら、一気に門を開け放つ。
ドンンッと言う音と共に門が完全に開くと同時に俺は最後に叫ぶ。
「行くぞぉぉおああッ!!ぶち殺せッ!!!」
「「「「「「「おうッ!!!!」」」」」」」
後ろから凄まじい熱量と気迫が返って来て、それを背中に受けながら俺は飛び出した。
先程までの恐怖や畏怖は存在しない。
ただ敵を屠る。それだけを考え、今この時はそれだけの為に命を燃やす。
止められるものなら止めてみろッ!!
「居ちゃ悪いか?」
門の外に居た俺が突然門の内側に現れた事に皆が驚き、その情報が伝わると直ぐにイリアとファイが駆け付けた。
「良かった・・・」
ファイは心底ホッとした表情をしていた。他の仲間や傭兵達も一様に安堵の表情を浮かべて喜ぶ。
「俺も一瞬焦ったけど・・・まぁ何とかなったよ」
俺は苦笑いを浮かべながら、頭の後ろを右手でボリボリと掻いて照れ隠しを行う。
一頻り、俺の帰還を労う儀式の様な物が完了したのを見計らい、俺は辺りを確認する。
「それよりも―――結構長い通路みたいだな」
門の内側は暗く長い通路が続いており、先はどうなっているのかは見通せない。普通なら。
俺は自身の身体能力を駆使して、闇に染まった通路の奥を注視する。
「先がどうなっているか分からないが、一本道の様だな」
俺がそんな事を言うと、アリシエーゼが直ぐに返す。
「少し歩くと、先にもう一つ門があるぞ。この門よりも小さいものじゃがな」
「あ、もう偵察は済ませたんだな。流石だ」
「ふふんッ、そうじゃろう!」
無い胸を張りながらふんぞり返るアリシエーゼを見て、何故だか無性に愛おしくなり、俺はアリシエーゼの頭を無造作にワシャワシャと撫でた。
「あぁ、良くやった」
「・・・・・・」
「良かったですねぇ、アリシエーゼさん。ハルさんに褒められてぇ」
「んなッ!?そ、そんな事で誰が喜ぶかッ!!」
俺に頭を撫でられたアリシエーゼは最初キョトンとした表情をしていたが、ニヤニヤしながら言うモニカの言葉にアリシエーゼは顔を赤くして反論した。
「・・・何やってんのよ、アンタ達」
「??」
ジト目のイリアが何を言っているのか分からなかったので無視して話を進めた。
「とりあえず、ここに居ても仕方無い。準備が整い次第、先に進もう」
後方のデカい門と前方の少し小さ目の門に挟まれたこの通路は、濃密で淀んだ空気と言うか、そう言った人間には悪影響が有りそうなものが大気中に漂っている気がしてかなり心地悪い。
十メートル程の通路に大隊が一つ同じ場に居る事もあって、かなり密集していて息苦しいと言うのもあり、皆俺の言葉に頷いた。
それから軽い補給と装備の点検を終え、俺達は通路の先にある門を目指した。
途中、仲間達、それにファイを交えてもう一度、動きについて確認をしていくが、先程もセオリーを無視した様な奇襲を受けたので、この後も気を抜かず臨機応変に対応する事を重点的に話した。
「ここか」
「うむ。多分、この先で待ち受けておる」
「そうみたいだな・・・」
通路を暫く歩いて行くと、アリシエーゼの言う通り石材で出来た門が在った。
その門は入って来た門よりは小さいが、それでもかなりの大きさで見上げる程の高さがある。
門の扉に施された意匠もかなり凝った物で、何の紋様かは分からないが、一体どれ程の熟練の職人が何日、いくら掛けてこれを作ったのか想像出来ない。
「さて、ここが終着点だ。お前ら、覚悟は良いか?」
俺は仲間達の顔をそれぞれ見て不敵に笑う。
「当たり前だ!アカリを助けて帰ろうぜ!」
「覚悟なんて傭兵やってるんだからとっくに出来てるよ!」
「アカリさんはきっと無事です。私達の家族を取り戻しましょう」
「早く行くのじゃッ!あの悪魔共を八つ裂きにしてくれるッ」
「当たり前の事今更聞かないで下さいよねッ、早く帰ってユーちゃんとイチャ―――やる事いっぱいあるんですから!」
「・・・ハル、キヲツケテ」
皆、一様にやる気に満ちた表情をして頷くが、ユーリーは少しトーンが違った。
「・・・ユーリー、心配してくれてありがとう。もし、俺が間違えて、暴走してたら助けてくるか?」
「・・・ウン」
俺の言葉に眠たそうな目をしながらユーリーは頷く。
その動作に俺は何だか心の奥底から暖かい物が溢れてくる感覚に襲われる。
ただ、それは別に悪い気のする物では無かったので俺は甘んじて受け入れ、ユーリーの頭を軽く撫でた。
そして、俺はドエインと篤の方を見て口を開いた。
「ドエイン、焦るなよ。篤の事もちゃんと頼むぞ」
「・・・分かってる。その代わり、聖女様の事はマジで頼むぞ」
そう言ったドエインの表情は緊張なのか怒りなのか、それともそれ以外の感情か全てが混ざった物なのか分からない複雑な表情をしていた。
「当たり前だ。絶対に助ける」
俺は力強くそう言って頷くと、ドエインも頷いた。
大丈夫、ドエインはちゃんと自分の役割をこなしてくれる。そう思い信じる。
「篤は―――ドエインの言う事聞いて大人しくしてるんだぞ?」
「・・・何故、私だけ子供扱いなんだ」
篤はジト目で俺を見るが、ただ心配なのだ。
本当なら篤は置いて行きたかった。
身体強化が使えると言っても、たぶんここではまったく役に立たない。
だが、篤は頑なに置いてけぼりを拒んだ。
たぶん別に置いて行かれ、俺達が全滅して帰って来なかったらとか、その後一人になるだとかそう言う不安からでは無い気がしている。
手甲を完成させてから篤は何かが変わった様な気がする・・・
俺の装備を五日掛けて作り終えた後、何となく雰囲気が変わり、装備作りが楽しくなったのか何なのかは知らないが、街を一緒に歩いていても、装備品や素材が売っているとそちらに寄って行き、何かを思案すると言う事が増えた気がする。
装備品や素材だけに限らず、この世にある全ての物をまるで観察するかの様な行動は、まるで取り憑かれているかの様だった。
きっと、ここに来たのも、勿論明莉を助けたい、心配だと言う思いもあるのだろうが、篤の異能の力に突き動かされてと言う側面もある様に感じた。
だから何だって話だな
俺はそう思って薄らと笑う。
「まぁいいや。とりあえず、無茶はすんなよ」
「分かっているさ」
そんなやり取りをして再び意識を目の前の門へと向ける。
中から漏れ出る、妖気と形容しても良い、何か得体の知れぬ雰囲気に飲まれそうになるのを皆、必死で押さえ込み、その恐怖を克服しようと藻掻く様に口角を上げている。
勿論、そうでは無い、今にも発狂しそうな程恐怖に飲まれている傭兵達もいるが、パトリックの魔法の効果だろうか、同時に高揚感にも似た何かも込み上げて来ている。
やるぞ
俺は心の中でもう一度、意気込み、そして覚悟を決める。
右手をスッと上げるとそれに呼応したかの様に周りに居たファイの中隊、ナッズやソニ、その他筋力に自信のある者が前に出る。
門の扉左右にそれぞれ手を掛けて皆俺を見てくるので、無言で頷いた。
「ぉぉッ、ぅうッ!」
「ぐぎぎッ」
門の扉に手を掛けた者達が一斉に力を込めて扉を押す。
暫くすると、スゴゴゴッと重たい音を立てて門がゆっくりと開き始めた。
人が一人通れる位の隙間が空いた時、その隙間から一陣の風がビュウッと吹き、そして俺の顔に、身体にそれが当たる。
ゾクリ、と死を連想させる様な感覚が瞬間的に襲う。
周囲でもその風に吹かれた瞬間に一気に恐怖が伝播するが、俺はそれを良しとせずに唐突に、何の前触れも無く口から無意識に声の限り雄叫びを発する。
「・・・ぉ、ぉぉおおおおああああああああああッッ!!!!」
それは原始的な恐怖に抗う為の術であり、魔力が有ろうが無かろうが誰にでも発動出来る魔法だ。
俺はその魔法を使う。周囲もそんな俺を見て直ぐ様呼応する。
俺の家族が呼応し、ファイ達も呼応し、その後ろ、そのまた後ろと数秒と経たずに全体に伝播し、その雄叫びは一つの生き物かの様に蠢き、うねり、猛々しく荒れ狂う。
「「「「うぉぉぉおおッ!!!」」」」
門の扉を押している者達も一緒になり雄叫びを上げながら、一気に門を開け放つ。
ドンンッと言う音と共に門が完全に開くと同時に俺は最後に叫ぶ。
「行くぞぉぉおああッ!!ぶち殺せッ!!!」
「「「「「「「おうッ!!!!」」」」」」」
後ろから凄まじい熱量と気迫が返って来て、それを背中に受けながら俺は飛び出した。
先程までの恐怖や畏怖は存在しない。
ただ敵を屠る。それだけを考え、今この時はそれだけの為に命を燃やす。
止められるものなら止めてみろッ!!
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