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第4章:偽りの聖女編
第149話:先手必勝
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「・・・上等だよ。歓迎されてやる」
「ほう?」
イーグ達の主であろう男の悪魔は特に表情を変えないが、驚きを口にする。
「・・・只な、歓迎って割には気色悪い変態レザー野郎達が出迎えるってのはどう言う了見だ?見てて不快なんだよ。さっさと失せさせろ」
俺は心底反吐が出ると言った表情でイーグと他三人を一瞥して言い放った。
「あぁッ!?変態ってのは誰の事だ!コラッ!!」
「フンッ、たかが人間如きが舐めた口を聞く」
「アハハッ!変態だってさ!やっる~」
「殺した方が良い」
俺の言葉に一々反応する四人を見て、内心小馬鹿にしながら更に続けた。
「変態以外の何なんだよ。気持ち悪りぃんだよ、ホモかよカス」
卑しい笑みを敢えて作り、そう言って挑発するが、乗って来るのはイーグとアタマ空っぽそうなさっきから殺すとかしか言ってない野郎くらいか?と四人の顔色を一瞬で確認して思う。
同時にアリシエーゼと目を合わせる。その際特に頷き合ったりはしていないが、アリシエーゼならきっと大丈夫だろう。
「テメェ・・・マジで舐めてんのか、弱ぇ癖にいきがってんじゃねぇぞ」
「殺して殺そう」
「そんな安っぽい挑発に乗る方がどうかしてるぞ」
「この人間、口悪過ぎでしょ!やっる~」
チラリとイーグが言っていた主と言う悪魔と思しきもう一人を見るが、特に興味も無さそうに此方を見ている。
判断が付かないが、静観するならそれはそれで良い。
「弱い?そんな弱い俺にこんな事言われてるお前らって!ぷッ、マジでお前ら作った主ってのは無能なんだな!あ、もしかしてそこに居る奴がそれか?なぁ?」
ギャハハと下品に笑い、考え付く限り煽ってみると、レザー四兄弟からブワリと物理的な圧力を伴った怒りの感情が周囲に拡散する。
その煽りを受けても尚、俺は丹田に力を込めて踏ん張り、微動だにしない。
だが、仲間達は違う。ファイですら動揺し、後ずさる雰囲気を感じ取る。
ファイでこれなのだから、他はヤバいか?と思ったが、短く悲鳴を上げる者は居れど、その場から逃げ出す様な奴は居なかった。
少し意外だったが、皆、覚悟は決まっていると言う事だろうと、周囲の雰囲気を察して俺は口角をこれでもか言うくらい上げた。
「テメェ・・・主様を無能だと?虫けらの分際で舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!!アァッ!?今この場でぶち殺すぞ!テメェ!コラッ!!」
「主様に向かってその口の聞き方・・・寧ろ、主様の事を口に出す事自体分不相応、不敬なんですがね」
「主様、言われちゃってるよ?やっる~」
「・・・・・・」
四人から同時に泣きそうになる位の怒気が発せられた時は流石にヤバいと思ったが、案の定二人は此方の挑発に乗って来ない。
想定ではイーグともう一人を煽って誘き出し、一人を俺が抑えて、もう一人をアリシエーゼが速攻で片付ける。
四人一斉だと、流石に俺一人で抑えるのは厳しいと思ったし、主と呼ばれる悪魔までも参戦されると、周りに展開している魔物の群れともなし崩し的に戦闘となり、大混戦でもう収集は付かなくなる。
出来れば奇襲的な形で一体ずつ確実に迅速に屠って戦力を削いでおきたいと思ってのこれまでの煽りだ。
主と呼ばれる悪魔は感情を一切見せずに只このやり取りを見ているだけだし、配下であろう悪魔の内二人も挑発には乗って来ていない。
なら、あともう少し煽れば、一人乃至二人はキレて襲いかかって来る。たぶん。そうであればいいなぁ・・・
一手、または二手で決着が付けられれば、仲間がやられようと動けないのでは無いだろうか。
確実に俺達人間を下に見ているし、まさか反撃を喰らい、あまつさえ殺される等とは夢にも思っていない奴らになら通用すると思った。
その為にはアリシエーゼのアレが必須なんだけどな
そう、以前イーグに強襲され俺が戦闘不能に陥った際に見たアリシエーゼの暴走覚醒モード。
アレが出せれば、悪魔達を圧倒出来ると思ったのでアリシエーゼに確認を取ると―――
「アレか。別にキレて発動しなくてもイケるぞ。キレても発動するんじゃが、意識的にあの状態にも出来る。寧ろ、意識的に行った方が、確りと制御出来て良いはずじゃ!」
―――等と頼もしい事を言っていたなと思い出す。
あの状態は一日に一回が基本的には限度と言っていたが、発動後に補給さえ出来れば時間経過で再度使えるとも言っていた。
アリシエーゼにもバックパックを背負わせているので、きっとあの中に水なり食料なりが格納されているに違いない。
戦闘中にその補給が出来るかが分からないが、そこは俺が気張れば・・・
そこまで考えてから思考を戻し、此処ぞとばかりに畳み掛ける。
「虫けらにここまで言われて何も言い返せないとか、お前の主とやらは何だ?ビビりですかぁ?此処まで来れた人間に恐れを成したか?ブハハッ!ダッセェ!そんな主に仕えてるお前もダッセェ!」
ゲラゲラと笑いながらイーグを指差す。
完全に輩だなと自分を冷めた目で見つつ、早く来いと更に畳み掛ける。
「お前って男爵の爵位をそこのビビりから貰ったとか言ってたか?ダサ過ぎッ、ぷッ、何?人間様の真似事か?あぁ?死ねよ、カス!」
今の俺の顔はどんなだろうか
生き生きとしているのか、それとも必死なのだろうか
俺の言葉に遂にイーグともう一人の頭空っぽ悪魔がキレる。
この世の者とは思えない、口に出すのも憚られる様な表情に一瞬で変わり、二人の身体からありとあらゆる邪気が吹き出した。
俺と身長差があるイーグは俺の前に一瞬で躍り出てから、流れる様な動作で右拳を俺の頭目掛けて振り下ろした。
その動き出しは注意していなければ掻き消えた様に見えただろうが、来ると分かっていれば今の俺なら対応出来る。
目線は動かさずにもう一人の悪魔も視界に入れていたが、此奴もイーグと同時に動き出していた。
動き出すと同時に言葉の端々に知性が感じられる悪魔が、「待ちなさい!」と止めようとしたが遅かった。
二人の悪魔に同時に襲いかかられた俺はイーグの振り下ろしたチョッピングライトにのみ注力する。
空っぽ野郎はアリシエーゼに任せる
そう考えながら、身体が自然と動き出すのを認識する。
振り下ろしの右に対して俺はイーグの右側面に移動するイメージでほんの少し軸をズラす。
移動と言っても本当に微々たる距離なので、イーグはそのまま拳を振り下ろしに掛かるが、俺は移動と同時に左手を少し前に出し、手甲の障壁出力を最大にする。
鬼の様な形相のイーグは頭に血が上り気付いていなかったが、俺の右側、イーグにとっては左側から同時に空っぽ悪魔も距離を詰めて来ていたので、敢えて俺はイーグを壁にする様に移動した。
アリシエーゼは身を低くして、相手が動き出すと同時に身を屈めて真っ先に空っぽへと向かったのを認識して俺は流石だなとほくそ笑む。
そしてイーグの右拳が俺に触れると思われた瞬間、左脚を軸に半身を外側に逸らせて同時に前に出した左手をイーグの拳の外側へ当てる。
石同士を激しくぶつけた様な音と共にイーグの体勢が左側へ流れる。
俺は縦からの攻撃に対して、最高のタイミングで横から力を加えて攻撃を往なした。
「ッ!?」
攻撃が当たったと思ったその刹那に身体が思わぬ方向へと逸らされた事実にイーグは目を見開いた。
もしかしたら、俺が上体を逸らし、攻撃を往なそうとしている事に気付いていたのかも知れない。
それでも、俺に障壁が無いと分かっていたのか、有っても弱々しい障壁だと思っていたのかは知らないが、自分の身体に触れる事すら出来ないと思っていたのかも知れない。
残念!俺はテメェらの障壁ぶち破れるぜ?と心の中で爆笑しながら、流れを止める事無く身体を連動させる。
その一瞬の隙に一度、アリシエーゼの方を確認すると、頭空っぽ悪魔は文字通り、空っぽのパーなのか、俺に向かって来てはいたが、急にイーグが進行方向を妨げる形で体勢を崩した事を視認して無意識に勢いを緩めた。
また、その際に一瞬次にどう動くかを逡巡したのだろう。
一瞬より短い刹那のそのラグはアリシエーゼにとっては絶好の好機に他ならない。
空っぽの上体が少し上がった所に身を低くし、地を這う様に移動していたアリシエーゼは此処ぞとばかりに懐に入りこんだ。
決まったな
俺はその一連の流れを確認しつつ、自身の身体を無意識に動かし、往なしたイーグの身体のガラ空きになった右脇腹辺りを目掛けて、これまたアリシエーゼの様に右拳を地面スレスレで少し擦りながら渾身の右ボディアッパーを放った。
「どッッせいッ!!!!」
敵ながら凄まじい程の硬さを誇る障壁だと思いつつ、全力で取り込んだ魔力を放出して障壁を展開したミスリル製の手甲は、その硬いイーグの障壁を一瞬でぶち破り、そして同時に肉体をも食い破った。
「ッッッグァァッ!?!?」
今まで体感した事の無い、自身の肉体を穿たれると言う衝撃に目を白黒させて、何の防御体勢も取れず、かと言って反撃も出来ずにイーグは血反吐を吐いて転がった。
「・・・・・・」
俺はまるで感情が存在しないロボットの様に無表情で追撃をするが、視線はアリシエーゼを捉えている。
俺は戦闘の際、一点を見詰めて集中する事は無い。
敵の全体像、身体全てを視界に入れて、全ての予兆を捉える様にしている。
一箇所に集中してしまうと、そこ以外での何らかの行動の予兆を捉えられない為たが、今はそれを応用して、アリシエーゼの戦況を確認しつつ、イーグと対峙していたが、アリシエーゼは空っぽの懐に飛び込んだ瞬間、あの力を解放していた。
瞳が金色に輝いていたかは此方からでは確認出来なかったが、その後ろ姿からは透明なのに紅い、炎の様な陽炎の様な、物理的な熱を帯びた、まるで闘気とも呼ぶべき何かが発露していた。
ヤッバ・・・
そう感じた時には既に、空っぽとアリシエーゼの姿はそこには無かった。
上方でまるで爆弾が爆発したかの様な音が聞こえて視線だけを向けて、俺は仰向けに転がったままのイーグへと馬乗りになり、そのまま全力で拳を振り下ろす。
鈍い音と共にくぐもったイーグの悲鳴じみた呻き声を聞きつつ、もう一度反対の拳を振り下ろす。
勿論その間もイーグを視界に捉えつつもアリシエーゼ達の確認も怠らない。
アリシエーゼは懐に入り込み、空っぽを蹴り上げて天井に突き刺した後、自身も飛び上がって後を追っていた。
天井に突き刺さった空っぽを殴り飛ばして再度地面に叩き付けて、同時に天井を蹴ってまるで弾丸の様に地面に突き刺さった空っぽを強襲する。
俺がイーグをマウント状態から二発目を殴る間にそれが終わっており、俺は三発目を喰わせ様と拳を振り上げた時に視界の端に動きを感じた為、その行動をキャンセルする。
「・・・っと」
理知的な悪魔がイーグを助けようと俺に飛び掛って来た為、急いでイーグから飛び退くと、その悪魔は俺とイーグの間に入り此方を牽制した。
「・・・少し調子に乗り―――」
「ギィィィアアアアアアアアアアアッッッ」
理知的悪魔が何か言おうとした時と同時位に、断末魔とも呼べる叫びが辺りに響く。
その凄まじいまでのおどろおどろしい怨念が詰まったかの様な慟哭に、悪魔やその周辺に居た魔物、俺達の仲間全てが其方を振り向いた。
但し、主と呼ばれる悪魔だけは其方に目もくれず、俺の一挙手一投足を具に観察している様だった。
慟哭の先には、地面に倒れ、胸部が激しく損傷した空っぽが横たわっており、そのすぐ横には片肺くらいの大きさの宝石の様なものを片手で持つアリシエーゼが佇んでいた。
「バ、バカなッ!?」
「ジミナ!?」
理知的な悪魔はその様子に心底驚き、軽いノリの悪魔はアリシエーゼに倒された悪魔の名前なのか何かを叫んでいたが―――
「やれ」
間髪入れずに俺はアリシエーゼに向けて一言、魔法の言葉を囁く。
その言葉に聞いて悪魔達は何か言おうとするが、そんなものを待っている訳も無くアリシエーゼは手に持つ宝石―――多分、魔核だろう―――を何の躊躇いも無く砕いた。
辺りは静寂に包まれた。悪魔達は何が起こったのか理解出来ない様子であったが、俺は首を傾げた。
悪魔なら核を砕かれたら身体が灰になるみたいなエフェクトがあっても良いんだけどなぁ
魔核を砕かれて、そのまま息絶えたジミナを見てそんな事をぼんやりと考えつつ、アリシエーゼが必殺の暴走覚醒モードを使ってしまったので、補給をさせないといけないなと同時に思い、その間のフォローをどうするか逡巡する。
とりあえず気を引くか
そう思って口を開こうと思った時に、アリシエーゼが急にしゃがみ込んだ。
えッ!?どうした!?
急に蹲ったアリシエーゼに、やはりあの力を使った代償は大きかったかと焦るが、直ぐに何とも言えない心境へと俺の心は移る。
バキリグシャリジュルリと何とも言えない、それを聞くだけで吐き気を催す様な、不快と言う言葉がとてもしっくりと来る音が静まり返った十五層に響き渡った。
「な、何を・・・」
何をしているのかと言おうとして続きが出て来ない理知的な悪魔と俺はまったく同じ気持ちであっが、もうアリシエーゼが何をしているのかは理解していた。
補給ってそう言う事なのね・・・
「ほう?」
イーグ達の主であろう男の悪魔は特に表情を変えないが、驚きを口にする。
「・・・只な、歓迎って割には気色悪い変態レザー野郎達が出迎えるってのはどう言う了見だ?見てて不快なんだよ。さっさと失せさせろ」
俺は心底反吐が出ると言った表情でイーグと他三人を一瞥して言い放った。
「あぁッ!?変態ってのは誰の事だ!コラッ!!」
「フンッ、たかが人間如きが舐めた口を聞く」
「アハハッ!変態だってさ!やっる~」
「殺した方が良い」
俺の言葉に一々反応する四人を見て、内心小馬鹿にしながら更に続けた。
「変態以外の何なんだよ。気持ち悪りぃんだよ、ホモかよカス」
卑しい笑みを敢えて作り、そう言って挑発するが、乗って来るのはイーグとアタマ空っぽそうなさっきから殺すとかしか言ってない野郎くらいか?と四人の顔色を一瞬で確認して思う。
同時にアリシエーゼと目を合わせる。その際特に頷き合ったりはしていないが、アリシエーゼならきっと大丈夫だろう。
「テメェ・・・マジで舐めてんのか、弱ぇ癖にいきがってんじゃねぇぞ」
「殺して殺そう」
「そんな安っぽい挑発に乗る方がどうかしてるぞ」
「この人間、口悪過ぎでしょ!やっる~」
チラリとイーグが言っていた主と言う悪魔と思しきもう一人を見るが、特に興味も無さそうに此方を見ている。
判断が付かないが、静観するならそれはそれで良い。
「弱い?そんな弱い俺にこんな事言われてるお前らって!ぷッ、マジでお前ら作った主ってのは無能なんだな!あ、もしかしてそこに居る奴がそれか?なぁ?」
ギャハハと下品に笑い、考え付く限り煽ってみると、レザー四兄弟からブワリと物理的な圧力を伴った怒りの感情が周囲に拡散する。
その煽りを受けても尚、俺は丹田に力を込めて踏ん張り、微動だにしない。
だが、仲間達は違う。ファイですら動揺し、後ずさる雰囲気を感じ取る。
ファイでこれなのだから、他はヤバいか?と思ったが、短く悲鳴を上げる者は居れど、その場から逃げ出す様な奴は居なかった。
少し意外だったが、皆、覚悟は決まっていると言う事だろうと、周囲の雰囲気を察して俺は口角をこれでもか言うくらい上げた。
「テメェ・・・主様を無能だと?虫けらの分際で舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!!アァッ!?今この場でぶち殺すぞ!テメェ!コラッ!!」
「主様に向かってその口の聞き方・・・寧ろ、主様の事を口に出す事自体分不相応、不敬なんですがね」
「主様、言われちゃってるよ?やっる~」
「・・・・・・」
四人から同時に泣きそうになる位の怒気が発せられた時は流石にヤバいと思ったが、案の定二人は此方の挑発に乗って来ない。
想定ではイーグともう一人を煽って誘き出し、一人を俺が抑えて、もう一人をアリシエーゼが速攻で片付ける。
四人一斉だと、流石に俺一人で抑えるのは厳しいと思ったし、主と呼ばれる悪魔までも参戦されると、周りに展開している魔物の群れともなし崩し的に戦闘となり、大混戦でもう収集は付かなくなる。
出来れば奇襲的な形で一体ずつ確実に迅速に屠って戦力を削いでおきたいと思ってのこれまでの煽りだ。
主と呼ばれる悪魔は感情を一切見せずに只このやり取りを見ているだけだし、配下であろう悪魔の内二人も挑発には乗って来ていない。
なら、あともう少し煽れば、一人乃至二人はキレて襲いかかって来る。たぶん。そうであればいいなぁ・・・
一手、または二手で決着が付けられれば、仲間がやられようと動けないのでは無いだろうか。
確実に俺達人間を下に見ているし、まさか反撃を喰らい、あまつさえ殺される等とは夢にも思っていない奴らになら通用すると思った。
その為にはアリシエーゼのアレが必須なんだけどな
そう、以前イーグに強襲され俺が戦闘不能に陥った際に見たアリシエーゼの暴走覚醒モード。
アレが出せれば、悪魔達を圧倒出来ると思ったのでアリシエーゼに確認を取ると―――
「アレか。別にキレて発動しなくてもイケるぞ。キレても発動するんじゃが、意識的にあの状態にも出来る。寧ろ、意識的に行った方が、確りと制御出来て良いはずじゃ!」
―――等と頼もしい事を言っていたなと思い出す。
あの状態は一日に一回が基本的には限度と言っていたが、発動後に補給さえ出来れば時間経過で再度使えるとも言っていた。
アリシエーゼにもバックパックを背負わせているので、きっとあの中に水なり食料なりが格納されているに違いない。
戦闘中にその補給が出来るかが分からないが、そこは俺が気張れば・・・
そこまで考えてから思考を戻し、此処ぞとばかりに畳み掛ける。
「虫けらにここまで言われて何も言い返せないとか、お前の主とやらは何だ?ビビりですかぁ?此処まで来れた人間に恐れを成したか?ブハハッ!ダッセェ!そんな主に仕えてるお前もダッセェ!」
ゲラゲラと笑いながらイーグを指差す。
完全に輩だなと自分を冷めた目で見つつ、早く来いと更に畳み掛ける。
「お前って男爵の爵位をそこのビビりから貰ったとか言ってたか?ダサ過ぎッ、ぷッ、何?人間様の真似事か?あぁ?死ねよ、カス!」
今の俺の顔はどんなだろうか
生き生きとしているのか、それとも必死なのだろうか
俺の言葉に遂にイーグともう一人の頭空っぽ悪魔がキレる。
この世の者とは思えない、口に出すのも憚られる様な表情に一瞬で変わり、二人の身体からありとあらゆる邪気が吹き出した。
俺と身長差があるイーグは俺の前に一瞬で躍り出てから、流れる様な動作で右拳を俺の頭目掛けて振り下ろした。
その動き出しは注意していなければ掻き消えた様に見えただろうが、来ると分かっていれば今の俺なら対応出来る。
目線は動かさずにもう一人の悪魔も視界に入れていたが、此奴もイーグと同時に動き出していた。
動き出すと同時に言葉の端々に知性が感じられる悪魔が、「待ちなさい!」と止めようとしたが遅かった。
二人の悪魔に同時に襲いかかられた俺はイーグの振り下ろしたチョッピングライトにのみ注力する。
空っぽ野郎はアリシエーゼに任せる
そう考えながら、身体が自然と動き出すのを認識する。
振り下ろしの右に対して俺はイーグの右側面に移動するイメージでほんの少し軸をズラす。
移動と言っても本当に微々たる距離なので、イーグはそのまま拳を振り下ろしに掛かるが、俺は移動と同時に左手を少し前に出し、手甲の障壁出力を最大にする。
鬼の様な形相のイーグは頭に血が上り気付いていなかったが、俺の右側、イーグにとっては左側から同時に空っぽ悪魔も距離を詰めて来ていたので、敢えて俺はイーグを壁にする様に移動した。
アリシエーゼは身を低くして、相手が動き出すと同時に身を屈めて真っ先に空っぽへと向かったのを認識して俺は流石だなとほくそ笑む。
そしてイーグの右拳が俺に触れると思われた瞬間、左脚を軸に半身を外側に逸らせて同時に前に出した左手をイーグの拳の外側へ当てる。
石同士を激しくぶつけた様な音と共にイーグの体勢が左側へ流れる。
俺は縦からの攻撃に対して、最高のタイミングで横から力を加えて攻撃を往なした。
「ッ!?」
攻撃が当たったと思ったその刹那に身体が思わぬ方向へと逸らされた事実にイーグは目を見開いた。
もしかしたら、俺が上体を逸らし、攻撃を往なそうとしている事に気付いていたのかも知れない。
それでも、俺に障壁が無いと分かっていたのか、有っても弱々しい障壁だと思っていたのかは知らないが、自分の身体に触れる事すら出来ないと思っていたのかも知れない。
残念!俺はテメェらの障壁ぶち破れるぜ?と心の中で爆笑しながら、流れを止める事無く身体を連動させる。
その一瞬の隙に一度、アリシエーゼの方を確認すると、頭空っぽ悪魔は文字通り、空っぽのパーなのか、俺に向かって来てはいたが、急にイーグが進行方向を妨げる形で体勢を崩した事を視認して無意識に勢いを緩めた。
また、その際に一瞬次にどう動くかを逡巡したのだろう。
一瞬より短い刹那のそのラグはアリシエーゼにとっては絶好の好機に他ならない。
空っぽの上体が少し上がった所に身を低くし、地を這う様に移動していたアリシエーゼは此処ぞとばかりに懐に入りこんだ。
決まったな
俺はその一連の流れを確認しつつ、自身の身体を無意識に動かし、往なしたイーグの身体のガラ空きになった右脇腹辺りを目掛けて、これまたアリシエーゼの様に右拳を地面スレスレで少し擦りながら渾身の右ボディアッパーを放った。
「どッッせいッ!!!!」
敵ながら凄まじい程の硬さを誇る障壁だと思いつつ、全力で取り込んだ魔力を放出して障壁を展開したミスリル製の手甲は、その硬いイーグの障壁を一瞬でぶち破り、そして同時に肉体をも食い破った。
「ッッッグァァッ!?!?」
今まで体感した事の無い、自身の肉体を穿たれると言う衝撃に目を白黒させて、何の防御体勢も取れず、かと言って反撃も出来ずにイーグは血反吐を吐いて転がった。
「・・・・・・」
俺はまるで感情が存在しないロボットの様に無表情で追撃をするが、視線はアリシエーゼを捉えている。
俺は戦闘の際、一点を見詰めて集中する事は無い。
敵の全体像、身体全てを視界に入れて、全ての予兆を捉える様にしている。
一箇所に集中してしまうと、そこ以外での何らかの行動の予兆を捉えられない為たが、今はそれを応用して、アリシエーゼの戦況を確認しつつ、イーグと対峙していたが、アリシエーゼは空っぽの懐に飛び込んだ瞬間、あの力を解放していた。
瞳が金色に輝いていたかは此方からでは確認出来なかったが、その後ろ姿からは透明なのに紅い、炎の様な陽炎の様な、物理的な熱を帯びた、まるで闘気とも呼ぶべき何かが発露していた。
ヤッバ・・・
そう感じた時には既に、空っぽとアリシエーゼの姿はそこには無かった。
上方でまるで爆弾が爆発したかの様な音が聞こえて視線だけを向けて、俺は仰向けに転がったままのイーグへと馬乗りになり、そのまま全力で拳を振り下ろす。
鈍い音と共にくぐもったイーグの悲鳴じみた呻き声を聞きつつ、もう一度反対の拳を振り下ろす。
勿論その間もイーグを視界に捉えつつもアリシエーゼ達の確認も怠らない。
アリシエーゼは懐に入り込み、空っぽを蹴り上げて天井に突き刺した後、自身も飛び上がって後を追っていた。
天井に突き刺さった空っぽを殴り飛ばして再度地面に叩き付けて、同時に天井を蹴ってまるで弾丸の様に地面に突き刺さった空っぽを強襲する。
俺がイーグをマウント状態から二発目を殴る間にそれが終わっており、俺は三発目を喰わせ様と拳を振り上げた時に視界の端に動きを感じた為、その行動をキャンセルする。
「・・・っと」
理知的な悪魔がイーグを助けようと俺に飛び掛って来た為、急いでイーグから飛び退くと、その悪魔は俺とイーグの間に入り此方を牽制した。
「・・・少し調子に乗り―――」
「ギィィィアアアアアアアアアアアッッッ」
理知的悪魔が何か言おうとした時と同時位に、断末魔とも呼べる叫びが辺りに響く。
その凄まじいまでのおどろおどろしい怨念が詰まったかの様な慟哭に、悪魔やその周辺に居た魔物、俺達の仲間全てが其方を振り向いた。
但し、主と呼ばれる悪魔だけは其方に目もくれず、俺の一挙手一投足を具に観察している様だった。
慟哭の先には、地面に倒れ、胸部が激しく損傷した空っぽが横たわっており、そのすぐ横には片肺くらいの大きさの宝石の様なものを片手で持つアリシエーゼが佇んでいた。
「バ、バカなッ!?」
「ジミナ!?」
理知的な悪魔はその様子に心底驚き、軽いノリの悪魔はアリシエーゼに倒された悪魔の名前なのか何かを叫んでいたが―――
「やれ」
間髪入れずに俺はアリシエーゼに向けて一言、魔法の言葉を囁く。
その言葉に聞いて悪魔達は何か言おうとするが、そんなものを待っている訳も無くアリシエーゼは手に持つ宝石―――多分、魔核だろう―――を何の躊躇いも無く砕いた。
辺りは静寂に包まれた。悪魔達は何が起こったのか理解出来ない様子であったが、俺は首を傾げた。
悪魔なら核を砕かれたら身体が灰になるみたいなエフェクトがあっても良いんだけどなぁ
魔核を砕かれて、そのまま息絶えたジミナを見てそんな事をぼんやりと考えつつ、アリシエーゼが必殺の暴走覚醒モードを使ってしまったので、補給をさせないといけないなと同時に思い、その間のフォローをどうするか逡巡する。
とりあえず気を引くか
そう思って口を開こうと思った時に、アリシエーゼが急にしゃがみ込んだ。
えッ!?どうした!?
急に蹲ったアリシエーゼに、やはりあの力を使った代償は大きかったかと焦るが、直ぐに何とも言えない心境へと俺の心は移る。
バキリグシャリジュルリと何とも言えない、それを聞くだけで吐き気を催す様な、不快と言う言葉がとてもしっくりと来る音が静まり返った十五層に響き渡った。
「な、何を・・・」
何をしているのかと言おうとして続きが出て来ない理知的な悪魔と俺はまったく同じ気持ちであっが、もうアリシエーゼが何をしているのかは理解していた。
補給ってそう言う事なのね・・・
応援ありがとうございます!
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