異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第150話:再会

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「―――うぇぁッ、グッ、ハァッ」

 倒れていたイーグが激しく咳込み、意識を取り戻す。
 それを一瞥して理知的な悪魔がイーグに言い放った。

「イーグ、直ぐに立つんだ」

 冷たく言い放つが、理知的な悪魔は相変わらず俺とイーグの間に立って、視線で俺を牽制しており、俺にイーグを追撃させない様に警戒しているのは明白であった。

「・・・グッ、ガァッ」

 何とか上体を起こすイーグであったが、それでもまだ咳込み、起き上がれるまでにはなっていない。
 それでも、穿たれた横っ腹はシュウシュウと音を立て、蒸気のような物が傷口から吹き出ていて、見る見る修復されていた。

 へぇ、此奴らも身体の損傷は修復出来るのか

 俺はイーグ達に注意を払いながらアリシエーゼを確認するが、未だにジミナの死体を貪っている。
 この一連の行動の最中、まったく確認出来なかったが、後ろにいる仲間達は先程から一言も発しておらず、今も直接確認はしていないが、きっとアリシエーゼの行動にドン引きしているに違いない。

 イーグから出る蒸気を見て思ったが、アリシエーゼもあの暴走覚醒モードを使用した後は、身体から蒸気が吹き出ていた。
 発動中、あの熱気を帯びた闘気の様なものを纏っている為なのか何なのかは知らないが、血液が沸騰するくらい熱く燃えたぎってるに違い無い。
 なので、今ああして血液を直接経口摂取しているのだと思われる。

 決して、死肉を貪っている訳では・・・
 いくら食いしん坊のアリシエーゼでも流石にそれは・・・無いよね?

 そんな事を思っていると、補給が完了したのかアリシエーゼがピョンッとその場で飛び上がって立ち上がる。

「ぷはぁ!!やはりアレの後はコレに限るのう!」

 左手は腰に当てて、右腕で口元の血液を拭いながら清々しい顔でアリシエーゼはそう言った。

 んー、銭湯にでも入った後かな?

 まるで風呂上がりにコーヒー牛乳を飲み干したかの様な様子のアリシエーゼに心配して損をしたと思ったが、まぁ、問題無さそうで何よりだと気を持ち直す事にし、さも何事も無かったかの様に俺はアリシエーゼに声を掛ける。

「悪魔の血はどうだったー?」

「うん?中々の美味であったぞー」

「そうかそうか、ここにはまだあるから遠慮するなよー」

「そうじゃなー」

 自分達を食料だとでも言う俺と、それを受けてワーハッハッハと豪快に笑うアリシエーゼに悪魔達は何を思ったのだろうか。
 少しでも畏怖してくれたのなら儲けものだ。

「・・・グッ、テ、メェら、ゴホッ、な、舐めてんのか」

「あぁ?そりゃ舐めるだろ。爵位持ちの悪魔?一瞬で一人死んだが、逆に聞きてぇよ。テメェら舐めてんのか?」

 息も絶え絶えなイーグがそんな状態にも関わらず去勢を張る事に哀れみさえ感じた。
 同時に憤りも感じる。こんな奴らに明莉が攫われたのかと。俺が苦汁を飲まされたのかと。

「・・・不意打ちでやっといていきがってんじゃねぇぞテメェ」

 フラフラと立ち上がり、理知的な悪魔の肩を借りるイーグだが、こいつ何言ってんだ?

「はぁ?不意打ちはテメェらがしたんだろうが。俺達はそれを返り討ちにしたの、分かる?分かんねぇかな、脳ミソまで筋肉だろうからさ」

「・・・テメェッ」

「辞めないか。受肉したこの身体では本来の力は出せない。本来の目的を忘れるな」

 ほぅ?
 この理知的な悪魔、こう見えて阿呆なんだな

「シューザって頭良く見せようと何時もしてるけど、やっぱり頭悪いよね~」

「なッ!?スロイ!私が頭が悪いと言いましたか!?」

「え~?だってさ~」

 軽いノリのこの悪魔が一番の食わせ物かも知れないと思いつつ俺は逡巡する。
 受肉と言う単語、それにより本来の力が出せないと言う事実。
 此方が着け込める所ではあるが、まだ形勢は圧倒的に不利である事には変わりは無い。

 周囲を確認して、俺達を取り囲む悪魔の軍勢を見遣る。
 この戦力差はやはり如何ともし難い。ざっと見た感じ、万は超えそうな程の数が俺達を包囲している事は事実であり、幹部悪魔を一体殺した所でこの戦力差は覆る事は無い。

 だが、そんな中でも俺は一筋の光とも形容出来るある一つの確信にも似た思いを心の中で繰り返し考える。

 まだだ
 まだだが、いけるかも知れない

 そう念じながら俺は次の行動に出る為に主と呼ばれた悪魔を見る。
 性別は男と思われるその外見は、頭部に山羊の角を有し、その角は巻き募では無く、ほんの少し外側に弧を描く様に伸びている。
 他の爵位持ちの悪魔達も同じ山羊の角を生やしているが、この悪魔の主の角は他と比べると大きい。
 その配下に当たる悪魔は皆、全身をレザーの衣服で身を包んでいるが、此奴はまるで中世の貴族とファンタジーの冒険者を合わせた様な服装だった。
 上半身はフリルが付いた様な真っ白なシャツに細かい刺繍が施された黒いベストを着込み、下半身は黒いパンツにこれまた黒のロングブーツ。
 更には革製であろうか黒い襟が大きく、丈も長い前が開いたマントの様なコートを着込んでいた。

「さて、話の途中だったな。お前の部下の不始末だが、当然、上司であるお前が責任取るんだよな?」

「き、貴様ッ!フェイクス様に向かってその口の聞き方は―――」

「シューザ~、ホントに分かってるのかな~」

 シューザとスロイのやり取りを無視してフェイクスと呼ばれた悪魔を真正面から睨む。

「俺達は招かれた客人だろう?」

「・・・・・・ふふッ、そうだな。いや、耳が痛い。大変失礼した」

 表情は相変わらず変わらないが、フェイクスは口調は楽しげに俺の言葉に同意し謝罪をする。
 今の状態が本調子では無いと言う悪魔の言葉が真実かハッタリかは分からないが、俺とアリシエーゼなら十分渡り合える事は分かった。
 次は明莉の無事の確認と、無傷での救出だ。

「先ずはさ、攫った俺の仲間を返せ」

「何故だい?」

「は?」

「折角、人質に取ったのに、何故返さないといけないんだと聞いているんだ」

「・・・テメェの目的は俺だろう。俺がこの場にやって来た事で目的は達成された筈だ。もう人質なんて必要無いだろ」

 俺は苛立って舌打ちをして返すが、そもそも俺に何の用があると言うのだ。
 イーグは俺に、本気を出せ、俺の本当の能力を使えと言っていた。
 俺の能力、地獄、悪魔、受肉・・・
 まだ繋がらない。知ったからどうと言う訳でも無いが、もしかしたら今後の活動方針に影響が出るかも知れない。

「そんな事は無い。私はお前と話がしたくてね。だから、まだだ」

「知らねぇよ、そんな事。いいからさっさと返せ」

「私はお前との対話を望む。その為なら―――ふふッ、お前の大事な人間の命は私が握っている事を忘れ無いでいてくれたまえよ」

 はぁ・・・
 こいつもシューザ同様、自分を頭が良い様に見せてるだけの痴れ者かもな

「明莉は無事なんだろうな」

「勿論だとも」

「確認させろ」

「・・・・・・まぁいいだろう」

 少し考えてからフェイクスと呼ばれる悪魔はパチンと右手の指を鳴らす。
 すると、フェイクスの後ろに控えていた、魔物の群れの隊列が、ザッと半分に割れた。
 まるでモーゼの十戒の様に割れたその隊列の奥、神殿の方から、漆黒の鎧を着込んだアーク・デーモンだろうか、普通のアーク・デーモンとは少し違う悪魔数匹に囲まれて明莉が此方に歩いて来るのが確認出来た。

「明莉ッ!!」

 その姿を確認して俺は明莉の名前を叫ぶ。
 その声が聞こえたのか明莉は此方をハッとして見てそして表情を明るくする。

「暖くん!!」

 明莉が此方に走り出そうとすると、横に居た鎧を着込んだアーク・デーモン?がサッと明莉の前に出て進路を塞ぐ。

「テメェ!どう言う事だ!」

「どうもこうも無いよ。無事は確認出来ただろう?後はお前次第と言う事だ」

 この野郎・・・
 だが明莉と再会出来た
 必ず助け出してやる
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