異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第181話:鳥人間

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「・・・アブナカッタ」

 久しぶりにユーリーの間の抜ける様な声を聞き、俺はほっこりとしつつ周囲を確認する。
 魔物達の同士討ちで阿鼻叫喚の地獄絵図状態だが、仲間達は全員無事であった。
 フェイクスはと探すと、少し離れた場所に一人佇んでいた。

「ユーリー、ありがとうな」

「・・・ン」

 俺はユーリーの頭に手を置きそっと撫でるとユーリーはこんな状況でも眠た気な目を更に細めた。

「一体、どうなっておるんじゃ!?あの悪魔と対峙したお主が此方を振り向いたと思ったらいきなりぶっ倒れたんじゃが!?」

「俺もよく分からんが、どうやら俺はフェイクスにまんまと嵌められたみたいだ」

 フェイクスは幻幽体アストラルボディ物質体マテリアルボディを分離させていて、俺はそれを知らずに物質体の方にアクセスを試みていたと言っていた。
 どちらにも接続てしていたのが予想外とも言っていたか。
 分かり易く説明をするなら、俺はまんまと囮を掴まされ、俺の注意が物質体に向いている間に幻幽体の方が背後から俺を奇襲と言ったところか。
 そんな事を掻い摘んでアリシエーゼに伝えるが、上手く伝わらなかった。

「結局、どうなったんじゃ!?」

 時折、同士討ちしていた魔物の一部が此方に流れて来る事もあった為、俺達は円形で隊列を組んで対応している。
 余裕もそんなに無い為焦っているのは伝わるが、俺は何だか妙に落ち着いていた。

 俺、変わったか・・・?

 自分が少し前の自分では無い感覚がするのだが、別にそれがどうしたと言う心境と言うか、所謂、賢者タイムの常時発動?的な?

 今は一旦、フェイクスとの接続は切っている状態なのでフェイクスはやろうと思えば直ぐにこの魔物達の制御を奪い返し、俺達を襲う様に再命令出来る筈だが、今の所そんな兆候は見られない。
 何かを画策しているのか何なのか、何も反応が無い事は若干不気味ではあるのだが、俺は差程気にする訳でも無くフェイクスに向かって歩き始める。

「お、おいッ!迂闊じゃぞ!?」

「んー」

 アリシエーゼの注意を聞きつつも俺は影移動を使ってフェイクスの背後に回り込む。
 そのまま俯くフェイクスの顔面に右フックを叩き込んだ。
 俺の攻撃を真面に食らったフェイクスは真横に吹っ飛び魔物同士が殺し合うその只中に突っ込んで行った。

 障壁は展開されていたが・・・

 簡単に攻撃が当たったフェイクスはそのまま立ち上がる事無く、魔物達に踏み潰されて見るも無残な姿を晒した。

 まさか、肉体を捨てたのかッ!?

 幻幽体ではこの地上に永くは留まれないと自分で言っていたのに何故だと自分に問い掛けるが、答えは出ない。
 兎に角、本当に受肉した肉体を捨てて幻幽体として顕現したのなら、その本体は何処だと周囲を警戒して気付く。

 なんだ?

 周囲の魔物達が一瞬にして静かになり、動きを止める。
 殺し合う手を止め、一点を仰ぎ見ているその光景に俺は眉を顰めた。

 何だいきなり?

「なぁ、此奴ら―――」

 俺はアリシエーゼやファイにいきなりどうしたんだろうと問おうと思って顔を向けると、二人―――いや、俺以外の全員が魔物達と同じ方向を見て、顔を青ざめさせていた。

 恐る恐る俺もその視線の先を確認しようと顔を向けると、そこには―――

「げぇッ!?」

 俺は自分の目を疑った。
 フロアの中で唯一の人工物であった、何故こんな所こんな物がと思った、神殿の手前辺りに俺達はフェイクスに誘われたのだが、その神殿が今目の前でメキメキと音を立てて崩れていっているのだ。
 その原因は、巨大な頭が鳥の巨人が起き上がろうとして左手を神殿の屋根に乗せて体重を掛けているからだと推測出来るのだが、先ずはその巨大さに目が奪われていた。

 デカ過ぎだろ・・・

 十五層とこのフロアへと続く通路の間にあった巨大な門よりも大きい、その巨人が起き上がる様はさながら怪獣映画の様で、起き上がるだけで大地が揺れてひび割れる。

「ギィィィィイイイイイイッッ!!」

「ギャァァアアアアアアアッッ!!」

 突然周囲の魔物達が奇声を発し始めるが、一様に膝を付き、その巨人へと頭を垂れている様だった。
 その声は奇声と言うよりも、畏れを含んでいると感じた為、悲鳴や懇願に近いかも知れない。

「何なんだよこれ・・・」

 俺の声は、巨人が立ち上がる際の地鳴りと、魔物達の悲鳴に掻き消されて仲間達には聞こえない。
 だが、惚けている暇は無いと自分を鼓舞して状況を把握しようと周囲に目を向けるが、特段拾える様な情報は無い。
 立ち上がりつつある巨人に目を向けると、気になった事があった。

 あれって、烏か・・・?

 巨人は頭部が鳥の頭でその下からは人型だった。
 まだ、完全に立ち上がってはいないが、上半身は裸で、手には革製だろうかオープンフィンガーのグローブの様な物を身に付けており、下半身は何故か、これも革製だろうか黒いブリーフ一枚の姿だった。

 色々とこの格好だけで思う所はあるのだが、それよりもあの頭部だった。
 頭部の鳥が良く見ると烏に頭に見えるのだ。

 烏ってまさか・・・

 鳥人間が完全に立ち上がる。
 フロアの天井ギリギリな感じだが、何とか立ち上がれる様で、漸くその全貌が見れたが、やはりデカい。

 俺が見た俺と繋がったフェイクスは、普通の烏だった。大きさも普通で、特段何か特徴があった訳では無い。

 でもあれは直接見たと言うより、感じたと言った方がいいか?

 そう、別に物理的にフェイクスの姿を見た訳では無く、あれは言わばフェイクスのだ。
 この違いが何なのかは良く分からないが、もしかしたら見掛け倒しかも知れない。

「お前らッ、ビビるな!!あんなの図体だけデカ―――」

 俺はフェイクスの幻幽体であろう巨大な鳥人間から目を離さずに仲間達を正気に戻そうと大声を上げた直後、不可視の何かが俺達の横を通り過ぎて行った感覚に言葉を止めた。
 その直後に爆音と暴風が横から俺達を襲い、全員無事左側へと為す術なく吹き飛ばされた。

「ぐぁッ」

 突然の出来事だったが、俺は素早く受身を取り、仲間達の方を振り向く。

「明莉ッ!篤ッ!!」

「へ、平気だ・・・」

 土煙が舞って良く見えなかったが、篤の声が直ぐ近くで聞こえた。
 見ると、明莉はファイが、篤はイリアと共にダグラスが庇う形で平気そうだった。
 勿論、ユーリーはモニカが抱き抱えていて平気だ。

「突然何なんだッ!?」

「アレじゃろ・・・」

 アリシエーゼは転がった拍子に口に砂でも入ったのか唾を吐き捨てながら鳥人間を指差す。
 俺が其方を見ると、鳥人間が左手を下から掬い上げる形で頭の辺りで止めていた。

「アイツが手を掬い上げただけでこうなったってのか!?」

「いや、手に持っていた神殿の欠片を投げ放ったんじゃろう・・・」

 今度は俺達から見て右側の爆心地を指差す。
 そこには、人間程の大きさの白っぽい岩がゴロゴロと転がっており、それに潰され、ぶち当たった魔物は肉片となっており、難を逃れた魔物達が呻き声を上げていた。

「・・・・・・」

 俺は言葉を失った。鳥フェイクスにとっては何の事は無い、ただの小石を拾いそれを下投げで放り投げただけだろうが、それでこれだ。
 正に怪獣としか言いようが無い。

 そもそもそんな物理攻撃とか有りだろうか。と言うか俺は勘違いしていたのかも知れない。
 幻幽体とは所謂、精神体だと思っていたのだが、そうでは無い様だ。

 多分、そう言った側面もあるだろうが・・・
 きっと、神々も煉獄を通してしか地上の生物に干渉出来ないと言っていた気がするが、それも語弊がありそうだ。
 幻幽体では単純に地上での活動時間が取れないとかそう言う事で、幻幽体でも地上に干渉出来るんじゃないだろうか。

「・・・さて、どうするかのう」

 アリシエーゼはふぅ、と短い溜息を吐いてから鳥フェイクスに目を向ける。

「・・・一つ、彼奴が気になる事を言っていた」

 フェイクスは、俺へと罠を張るつもりでだったのかは分からないが、俺が彼奴に接続した時には既に物質体から幻幽体を分離させており、俺はそのに接続していて、フェイクスはその事実に驚いていた。
 つまり俺は、幻幽体へもアクセス可能なのでは無いだろうか。

「・・・成程、じゃがあんなものに本当に効くのか?」

「ありゃ、身体はデカいがキ●●マは小せぇカスだよ」

「な、なんじゃと!?」

「は、暖くん!?」

「ギャハハッ!小さいって言ってもあの身体の大きさだ、俺の頭くらいはあんだろ?」

「あの身体のサイズ考えたら、それって豆粒みたいなもんじゃねぇのか!?」

 アリシエーゼと明莉は俺の言葉に耳まで赤くなるが、イスカは腹を抱えて笑う。
 乗って来たイスカに俺は合わせて笑いながらイスカの背中をバシバシと叩く。

「ちょ、ちょっと二人とも、今はそんな場合じゃ・・・」

「そうよ!何考えてんのよッ」

 優等生のファイとイリアが俺達を止めに入るが、これでいい。
 身体がデカかろうがなんだろうが、殺らなきゃ自分達が死ぬと言うのは変わりない。

「まぁ、やる事は変わらない。俺が動きを止めてその間に殺す」

 皆、目を丸くした。俺から発せられた言葉が本当に俺から出たのかすら分からないと言った表情だったが、もうそれ以外何があると言うのだろう。

「まぁ、それしかあるまい」

 アリシエーゼは分かっている様だ。
 幻幽体の活動限界までどうにかすると言う手も無くは無いが、それをフェイクスが大人しく待っていたり、させてくれるとは思えないし、それに先程の攻撃は、ハッキリ言って規格外だと思った。
 俺はあの時、フェイクスから目を離さずにいたのだが、彼奴が手を掬い上げる動作がまるで見えなかったのだ。
 つまりは俺の動体視力でも動きが捕えられない程高速で動いていたと言う事になる。あの巨体でだ。
 完全に物理法則を無視しているであろうその動きが、本人は攻撃とすら思っていない単なる動作だったかも知れないと言う可能性。
 これは絶対に無視は出来ない要素なのだが、その要素を考慮に入れたらたぶん何も出来なくなる。

「同じ失敗は二度としない。だから頼むぜ、お前ら」

 俺は無理矢理ニヤリと歪な笑顔を作り仲間達に言う。きっと不細工な顔してんだろうなと思うと更に顔が引き攣った。

 思考も鳥並みならいいなと希望的観測を呟きながら、俺は巨大な鳥頭のフェイクスへと向き直る。
 もう、周囲の魔物達は気にする必要は無さそうなので、皆思い思いの位置に立ち、俺と同じ方に視線を向ける。

 見ている方向は同じ、目指す結果も同じだ
 後はそれを掴み取るだけだ!
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