異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第236話:消沈

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「・・・ジュージューシテル」

「・・・うん、そうだなぁ」

「・・・イイニオイ」

「・・・うん、アリシエーゼが露店から秘伝のタレをパクってきたみたいでそれ使ってるんだよ」

「・・・パンハカタイヤツ?」

「・・・いや、今日明日くらいは柔らかいパンを食べられるって言ってたぞ」

 などと、ドエインが涙目になりながら必死にステーキを焼く様を、ユーリーと二人ぼーッと眺めながら話しているのだが、アリシエーゼはあろう事かあの、伝説のッ、超絶タレの美味い串焼き屋の秘伝のタレを使う店のオルフェ支店でその秘伝のタレをどうやったかは想像に固くないが、強奪して来たのだ。
 その強奪したタレを小さ目の壺の様なものに納め、コテツに強制的に持たせていたのだが、今はボア肉のステーキを焼く際に使っている為、周囲にはなんとも香ばしい香りが立ち込めている。魔界の中なのに。

「パクって来たとか言うなッ!!」

「あッ、痛ッ!?」

 ユーリーと体育座りをしながら二人、ゆったりと流れる時間をステーキがジュージューと焼かれる音を音楽に楽しんでいる所で、後ろからアリシエーゼに頭を叩かれる。

「さっきから聞いておれば好き勝手抜かしおって!」

「だって無理矢理このタレは奪って来たんだろ?」

「んな訳あるかッ、ちゃんと頼み込んで貰って来たに決まっておろう!」

 顬に青筋を立てながら憤慨するアリシエーゼだが、絶対嘘だと思った。
 他人にはトコトン、コミュ障を発揮するアリシエーゼが他人に丁寧に頼み込む姿など想像出来ない。

「嘘付くなよ。だったら何て言ったのか今この場で再現してみろ」

「うッ、な、何故こんな場所でそんな事しなければならないんじゃ!」

 俺の言葉に狼狽えるアリシエーゼを見て俺は確信した。

 絶対に脅し取っただろ・・・

 それからアリシエーゼとバッチバッチにやり合ったが、結局アリシエーゼから具体的なやり取りを聞き出す事は出来なかった。
 地上に帰ったらその露店に行って真実を明らかにしようと思っていると、涙目でステーキを作るのに集中していたドエインが叫ぶ。

「よっしゃあ!全員分焼き終わったぞ!!」

 最後のステーキを皿に乗せ、それを自分の分として目の前に置くとドエインは俺を見た。
 このパーティにはルールが一つある。それは、成る可くは食事は全員揃ってからいただきますと共に始めると言うものだ。
 食事は皆で食べるとより美味しいをその内作るつもりの傭兵団のモットーにしようと俺が提案したのだが、基本的にはこの世界の傭兵や兵士、騎士達には理解されなかった。
 傭兵は食える時に食うが基本だし、戦場で他の者の食事の用意を待つ事などしない。
 だが、俺は何となくそうしたいと言う理由からルールとした。勝手に。強制で。
 なので、今この時もドエインが全員分の食事の用意が終わるまで皆、お預け状態で焚き火を囲みながら待っていた。
 因みに、持ち込んだ調理器具は小さなフライパン一つと小さい鍋二つだけだ。
 食材や調味料も別で持ち込みはしているが、器具と言う意味ではそれだけなのだ。
 食材を切る事に関しては大体誰もが小さな護身用のナイフは持っていたりはするのでそれで代用している。
 なので、一度に調理出来る量も限られる為、この十一人も居るパーティの食事はいっぺんに全員分完成する事は無い。

 なのだが―――

「ドエインよ、妾のステーキ冷めてもうたぞ。もう一度焼き直すかお主のと変えろ」

「そうですよ、ユーちゃんにこんな冷めた物を食べさせる訳にはいきません」

「ぇ・・・」

 かなり容赦の無いアリシエーゼとモニカの言動に完全にドエインの思考が停止するのが対面で観察していると分かった。

「え、では無い。ステーキは熱々の内に食べるのが良いのでは無いか。はよ、さっさとそっちのを寄越さんかッ、あと今からおかわり用のステーキも大量に焼いておくんじゃぞ、良いな!?」

「こっちもユーちゃんと私の分を再度加熱する事を要求しますッ、早くしてください!」

「あ、いや、その・・・」

 ドエインは二人の攻勢に完全に挙動不審になっているが、それを見ているとドエインの姉、リラにドエインが絡まれている様を想像してしまい居た堪れなくなって来てしまった。

「お前ら、いい加減にしろって」

 なので、思わずドエインを庇ってしまったのだが、俺の言葉は聞こえないのか続け様にドエインを詰める二人に俺は無言で近付いた。
 二人は隣同士で座っていたので、俺はその二人の前に置いてあるステーキの乗った皿を素早く奪い取る。

「あッ!?」

「な、何するんですか!?」

「五月蝿ぇッ、お前らのせいでもっと飯が冷めるだろうが!これは俺が没収する!!」

 そう言って俺は二人から奪った皿を持って元々座っていた位置に戻るとユーリーに優しく語り掛ける。

「ユーリー、おかわりコレ食べていいからな」

「・・・ン、ワカッタ」

「なッ!?それは妾のじゃ!返せ!!」

「ユーちゃん、それはお姉ちゃんのだよ?ねぇ、返して欲しい、な?」

「料理を作ってくれた者への感謝!食材の生産者へも感謝!それを忘れた奴らに食わせる飯は無い!」

 どんな立ち位置で俺が言っているのか、俺自身よくら分からなくなってくるが、俺はアリシエーゼとモニカが何やら言っているのを無視して、大声で「いただきます」と宣言する。
 すると、他の者もこのやり取りをまるで見なかったとでも言う様に食事を開始した。

「こ、こらッ!勝手に食事を始めるで無い!!」

「あ、あぅ・・・ごめんなさい、許して下さい」

 モニカは早々に観念し、泣きながら俺に縋り付いて来たし、ユーリーが許してやれと言うのでステーキを返してあげた。
 勿論、今後はそんな我儘言うなと厳命もしたが。

「な、何故モニカだけ!?」

「作って貰った分際で偉そうな事言ってるからだ。そんなに言うなら今後はアリシエーゼは自分の分は自分で作るか?」

「うッ・・・」

「嫌だろ?だったら、ドエインに感謝して、ドエインを神と崇め、ドエインに足を向けて寝るな!」

「ちょッ、ちょっと旦那!?そこまでは別に・・・」

「・・・・・・」

 俺の言葉にドエインは心底焦る。アリシエーゼは俯きブツブツと何か言っているが俺はそれらを無視して食事を再開する。

 それにしてもこのタレ、やっぱりめちゃくちゃ美味いな・・・

 ステーキに使用したが、本来は串焼き用として、付けてから焼いたりする物なのだが、こう言う使い方も全然ありだ。
 寧ろ、このタレを使って炒飯だとかそう言う物も作って食べてみたいと想像を掻き立てられる。

 方法はどう言ったものにしろ、このタレを入手出来た事は褒めるべきかな・・・

 それだけは純粋にアリシエーゼを褒めたくなった。

「どうするんだ、アリシエーゼ」

「・・・・・・」

 俺が気にかけて様子を窺ってやると、やっと何か決心が付いたのかアリシエーゼは顔を上げてドエインを見る。
 ビクリと身体を小さく震わすドエインだが、どんだけビビってるんだと、リラによって何らかのトラウマを植え付けられたのかもと想像してしまい若干哀れに思えてくる。

「・・・ごめんなさい」

 かなり意外だが、アリシエーゼは素直にドエインに謝る。
 渋々感は強めだが、それでもこんな素直に謝罪を口にするとは思っておらず俺もドエインも、と言うより全員がアリシエーゼの言動に仰天する。

「あ、あぁ、別にいいよ。気にするな」

 ドエインは目を丸くしながらそんな事を言い、俺に目配せする。

「アリシエーゼ、ほらコレ」

 そう言って奪っていたステーキの乗った皿をアリシエーゼに渡すと、アリシエーゼは無言でそれを受け取りトボトボと元の位置に戻って行った。

「・・・・・・」

 完全に予想外のアリシエーゼの態度に若干、悪いなと思いつつその後は皆普段通りに食事を再開したのだが、ここで俺は気付く。

 めちゃくちゃ見られてるな・・・

 騒いでいたと言う事もあるだろうが、それよりも何よりも香ばしく食欲を最大限に引き立てるその魅惑のタレの香りが辺りに漂っていたからか、俺達は周囲からかなり注目された。
 傭兵達の中には立ち上がり此方に近寄って来て、遠巻きに俺達を見ている者までいる始末だ。

「何か、凄い見られてる気がするんだけど・・・?」

「気の所為じゃない。でも気にするな・・・」

 イリアは食べ辛いと終始言っていたが、俺も失敗したと思った。
 要らぬトラブルとかを招くフラグには十分だと思ったからだが、そんな悪い方の予想は良く当たるもので、食事を再開して時間が経つにつれて、何故か俺達の周りに集まる人数が増えていった。
 傭兵以外にも帝国兵の中からも此方の様子を窺う者が多数現れ、俺達は気付けば人集りの中心で飯を食うと言う状態になっていた。

「・・・ミンナミテル」

「そ、そうだな。俺達の飯が美味そうだからじゃないか?」

「ちょっと追い払って来なさいよ。見世物じゃ無いのよッ」

 ユーリーも眠たそうな眼だが、美味そうにステーキを頬張りながらも若干周りが気になるのか俺にそんな事を言うし、イリアは見られている事で食欲自体が失せたのか、イラつきながら俺に要求をする。

「何で俺がそんな事しなきゃなんねーんだよッ」

「アンタがビシッとここは言うべきでしょうが!?」

 こんなやり取りも筒抜けなくらい周囲を取り囲む暇人共は近付いて来ているのだが―――

 そんなにこのステーキが美味そうかッ
 って言うか近いんだよ!

「あの、ハル様。何なら私が全員殺して来ましょうか?」

「「ブフゥッッ!!」」

 突然のムネチカの発言に俺とイリアは思いっきり吹き出してしまう。
 その様子を見てなのか、ムネチカの発言を聞いてなのか周囲の人間はギョッとするが、止めておかないと本当に遣りかねないので俺は仕方無く、ムネチカに釘を刺す。

「お前、思って口にしても絶対やるなよ・・・?」

「そうですか・・・でもハル様がその気になったら言って下さい!俺はやりますよ!」

 本気でやりそうだ、此奴は・・・

 だが実際、何でこんなにも集まって来ているのか分からなかった。
「アレなんだ?」とか「すげぇ美味そうな匂いだ」とか「どこの傭兵団だ」とか色々聞こえては来るのだが、誰一人として声をを掛けては来ない。

 どんだけコミュ障なんだよッ

 ドエイン、モニカ、ダグラス、マサムネ、コテツに関しては一切を無視して気にせずに食事をしているが、ユーリーはキョロキョロと落ち着かない様子だし、アリシエーゼは「な、なな、なんじゃこやつらは!?」とか言って食事もままならない様子であった。

 ドエインに素直に謝るくらい楽しみにしていた食事だろうに・・・

 あのアリシエーゼが素直にしょぼくれて謝ったのだ。
 それだけこの食事が大事だったと言う事だし、楽しみにしていたに違いない。
 そう思うと、それを邪魔するこの烏合の衆共が何とも憎たらしく感じて来た。

 まぁ、ちょっとコレはウザいわな

 仕方無しに俺はちょっと物申そうと無言で立ち上がる。それを見てムネチカも一緒に立ち上がるが、何故だかやる気満々だ。

 いや、別に殺す訳じゃ無いからな・・・?

「おー、おー、コレは何の騒ぎだー?」

 人集りの外側から聞いた事のある声が聞こえて来て、直ぐに一箇所その声の主を通す様な形で道が出来る。

 あッ、出た!

 その人集りが別れて出来た道から顔を出す男を見てまるでレアキャラが出現したかの様な心境になるが、それも仕方無いだろう。

「出たな、勇者めッ」

 俺の言葉に勇者くんのすぐ後ろから着いて来ていた女三人の内の戦士ちゃんと僧侶ちゃんが眉を釣り上げていた。

 いや、だから何で俺の勇者発言にそんな反応する訳ッ!?
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