異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第247話:既視感

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「キミ達が入って戦闘開始して暫くしたら、俺達も突入するよー」

 仲間内で話が何とか纏まり、ボス部屋の入口に集合する俺達に向けてラルファはそう言った。

「おう、まぁヤバくなったらさっさと退散するけどな」

「それでいいよー、先ずはやってみないと始まらないしねー」

 全く持ってその通りだと俺は無言で頷き、仲間達を振り返る。
 既に事前に掛けられるバフは全て掛けている状態だが、他に忘れている事は無いかと逡巡する。

「マサムネ達もとりあえず最初は攻めなくていい。俺が合図を出したら頼む」

 ボス部屋に入ったら先ずは俺とアリシエーゼで階層主を相手取ると決めている。
 一旦様子見をしていけるならそのまま攻めるなり何なりするし、手に負えない様なら撤退の判断も下す。
 そう決めているので、俺とアリシエーゼ以外は戦闘開始から暫くは後衛―――特にユーリーを護りながらの立ち回りが中心となる。
 そうなると、ダグラスは直接的に身体を張った防御態勢となるので良いが、他が手持ち無沙汰に成り兼ねない。

「ハル様の合図で私達も階層主に攻撃を加えて良いと言う事ですね」

「あッ、じゃあじゃあ、その時何て言うか決めましょうよ!」

「いいね!ハル様、何かカッコイイのお願いしますね!」

 ムネチカとコテツはそんな事を言って勝手に盛り上がっているが・・・

 何だよ、カッコイイ合図って!?

「い、いや、そんなもの―――」

「こう、一発で俺達の気持ちがぶち上がって、何て言うかなぁ、皆が一つになる様なカッコイイのがいいです!」

「ぇ、あ、いや・・・そんなの急には―――」

「そうですねッ、ハル様の一声で私達三人が馳せ参じる。考えただけで震えが止まりませんよッ」

「・・・・・・」

 駄目だ、コイツら・・・

 俺の言う事など聞いてはいないムネチカとコテツに、どうにかしろよとマサムネを見るが、マサムネも二人の言葉にうんうんと頷いていた。

 コイツも駄目だ・・・

「アンタ達ッ、遊びじゃ無いのよ!これから戦うのは傭兵達が束になっても敵わない様な奴なんだから、もうちょっと真剣にやりなさい!」

 デス隊の悪ノリにイリアが一喝する。
 そうだそうだ!と俺は心の中で賛同するが、そんなイリアの言葉に何言ってんだよとでも言いたげな顔でデス隊の面々は反応した。

「階層主がどんな奴でも、ハル様が居れば恐るるに足りません」

「そうだよ、ハル様一人でも十分だし傭兵達の強さなんてカスみたいな物差しで測った敵なんて脅威になり得ないよ」

「ハル様は、そこら辺の傭兵が百―――いや、千だろうか、万だろうが集まった所で足元にも及ばないんだからなッ」

 え・・・
 いや、普通に万も居る傭兵何て相手にしたくないし、俺なんて瞬時に肉片になりそうなんだが・・・

「お、おい、何でお前らはそんな俺を持ち上げるんだよ!?」

 デス隊のあまりにも過剰なヨイショに俺は居た堪れなくなり思わず叫ぶ。

「「「え?」」」

「え?」

 俺の言葉が心底不思議だったのか、デス隊は本気で惚けた表情をしていた。

「何時までくだらん漫才をしとるんじゃお主らは!!」

 別に漫才をしているつもりは毛頭無いのだが、見兼ねたアリシエーゼが俺達の間に割って入り何だかんだ有耶無耶となった。

「キミ達、本当に楽しそうだねー」

 騒がしい俺達を生暖かい眼差しで見詰めながらラルファはそんな事を口にするが、それが何だかとても恥ずかしくて俺は咳払いを一つして強引に話を元に戻す。

「じゃあ、俺達が先に入るから、後は頼むぜラルファ」

「――ッ、あぁ、任せてよ―――えと・・・あれ?」

 俺が信頼を示す様にラルファの名前を呼ぶと、本人は表情が明るくなるが、直ぐにその表情が曇っていく。

「なんだよ?」

「いや、その・・・今更なんだけどさー」

 アハハと笑ってそんな事を言うラルファに何だか分からず聞き返す。

「だから、何だよ?」

「俺って、キミ達の名前すら知らないなぁと・・・」

 マジで今更だろ・・・

 だが、確かに名乗っていなかったなと思ったが、本当に今更だし、もう既に俺達は心も身体も戦闘準備に入っている。
 なので、仕切り直しとばかりに自己紹介からなんて事はしたくないので俺は鼻を鳴らして誤魔化した。

「はんッ、今更だろ。この作戦が上手くいったら教えてやるよ」

「・・・・・・そうかー、まぁそれでもいいかー」

 ラルファも納得した為、お互い自己紹介等はせず、即席の協力体制のまま、本当に一時的な共闘である事をお互い納得して頷く。
 ラルファの後ろのアギリーとリルカは、「ラルファくんに対して偉そうだぞ!」とか「何様ですかッ、ガキが!」とか色々と五月蝿いが、全て無視した。

「さて、締まらない形になっちまったけど、気合い入れるぞ」

 仲間達に再度振替って準備はいいかと顔を見る。
 皆、何時もこんな感じだろと言わんばかりの呆れた表情をするが、そこにそれまで本当に黙って置物の様になっていたユーリーが一言ボソリと呟く。

「・・・キアイイレテケヨ、オマエラ」

「―――ッ!?」

 明らかに俺の物言いを真似したユーリーの言葉に俺は可笑しくなり吹き出す。

「ハハッ、そうだぜお前らッ、ホルスの魔界を攻略した俺達がこんな所で躓いてらんねーだろ!気合い入れろやッ」

 ホルスの魔界を攻略した発言を聞き、ラルファ達は「え?どゆこと??」とか「戯言をッ」とか言っているのが聞こえるが、仲間達の耳には届かない。
 発破を掛けた俺の言葉にお互い顔を見合わせて頷く。

「「「「「「「「「「おうッ!!!」」」」」」」」」」

「・・・オー」

 ユーリーを含めて全員が気合いを入れ直し開け放たれている十二層のボス部屋を潜る。
 外から見ていて分かってはいたが、やはりボス部屋はどこもかなり広い。
 しかし中は薄暗く、外からでは端の方までは見渡す事が出来なかったのだが、中に入って出入口の前に立ってもそれは変わらない。

「暗いな・・・」

 緊張した声色でドエインがそんな言葉を口にする。
 だが、俺とアリシエーゼは特に夜目が効く。なのでこんな暗闇は有って無い様な物だった。

「かなり奥の方にデカい何かが居る、か?」

「うむ、他に魔物は居らん様じゃ」

 かなり遠く方で暗闇と言う事もあり、ハッキリとは見通せないが奥の方からチリチリと焼ける様な気配を感じる。
 俺は大きく右側から回り込みながら奥のソレにゆっくりと近付いていった。
 恐らく、三分程だろうか、周囲を警戒しながらボス部屋の奥を右端の壁の方を沿う様な形で進むと、最奥に居る何かの全貌がハッキリと確認出来た。

「おいおい、何だよコレ・・・」

 思わず口に出てしまったが、俺の目に映るソレは、部屋の奥の方に固定されているバカデカい椅子に座って微動だにしない。

「デカ過ぎだろ・・・」

 そんな言葉を何とか絞り出すドエインだが、その表情は理解し難い何かに遭遇した時にの様に引き攣った笑みを浮かべていた。
 他の者も息を飲み、前方に静かに鎮座する巨大なソレに目が釘付けとなっている。

「椅子だけでどれだけあんだよ・・・」

 巨大なソレが鎮座する椅子は石材だけで出来た巨大な物で、横幅を然ることながらその背もたれの部分が異様に長いのが印象的だった。
 巨大な椅子から想像するソレは、明らかに全長が十メートルはありそうだった。
 まだ距離が少しあるので俺達は更に近付いてみる事にしたが、ここで俺とアリシエーゼが先行するカタチを取った。
 不意打ちを喰らった際、固まって行動していると不味いと思ったからだったが、俺とアリシエーゼが近付き座っているのに見上げる位の位置まで来ると突如、座っていた巨大なソレがゆっくりと動き出した。

「――ッ!?」

 ギギギギッと全身を覆い隠す甲冑同士が擦れ合い耳障りな男を奏でるが、椅子の手摺りに両手を付けながら立ち上がったソレは本当に大きかった。

「なんだよ、コイツ・・・」

「分からん・・・が、どうにも一筋縄ではいかなそうじゃの」

 俺の独り言の様なつぶやきを拾い、アリシエーゼがそんな言葉を言うのだが、それは正しいと思えた。
 完全に立ち上がった巨大な人型の何かは、一度首をゴキリッと鳴らして足元に居る俺達を甲冑越しに見遣る。
 超巨大な金属製と思われるフルプレートメイルに目元のみ空いたこれまた金属製の兜を装備しているのだが、デザイン的にほ洗練されている印象を受けた。
 不要な物を削ぎ落とした、実用的なその鎧兜は西洋的なデザインだが、全身隙間無く覆っており地肌は見えない。

「獲物は持って無さそう―――」

 武器の類いを装備していなかったのでそんな事を口走った矢先、巨大な人型は自身かも今まで座っていた総石造りの椅子の後ろ、背もたれの部分をまさぐる。

「・・・おい」

 椅子の裏から取り出した物は、超巨大な鉄板に持ち柄を付けた様な無骨な物で、それを盛り出すと自分の肩に置き、何も言わずに俺達の方へ一歩踏み出した。
 ズシンッと、巨大地震を思わせる揺れを感じなかまら俺は一度ゴクリと喉を鳴らす。

「・・・もう戦闘開始でいいんだよな」

「・・・ええんじゃないか?初手は譲るぞ」

 お互い乾いた笑いを出しながらそんな言葉を言い合うが、先程から首筋がヒリヒリと熱を発して毛が逆立つ感覚が俺を襲う。
 だが、ビビって立ち止まっていても状況が変わる訳でも無いと俺は一度丹田に力を込めて己を鼓舞する。

 こんな奴、デカいだけだッ
 大した事ねぇだろッ
 行けッ
 行けよッ
 ビビってんじゃねぇよッッ

「アァァァアッッ、行くぞぉあ!!!」

 自身のテンションをいきなり最高点まで持って行き、アクセルを全開で踏み込み咆哮する。
 粗全力で駆け出し巨大な全身甲冑に向けて迫る。
 それを見て、目の前の巨大な人型が右手に持っていた無骨な金属の塊とも思える剣を振り上げて、俺を叩き潰そうと有り得ない速度で振るわれた―――

「ッ!!」

 巨大な鉄塊が俺に当たるその瞬間、俺は影移動で巨大な人型の側頭部辺りに移動して、目の前の兜目掛けて手甲の障壁を全力で展開した一撃をお見舞いする。

「――ッ!?」

 巨大な人型は突然目の端の方に現れた俺に驚いた様だが、防御は間に合わず俺の殴り付けを完璧なタイミングで喰らった。

 ガギンッ

 と甲高くもあり、重厚な音が周囲に響いて巨大な人型の頭部が跳ね上がる。

 チッ、マジで硬ぇ!!

 障壁自体はぶち抜けたのだが、頭部を覆う兜が意外どころか想像以上に強固で兜に傷一つ付けられていない事を瞬時に悟る。
 頭部が跳ね上がった状態から巨大な人型は目だけを俺にギロリと向け、片足をズラして踏ん張る。
 身体がピクリと動いたのを確認して俺は影移動を使いすぐ様離れ、アリシエーゼの元まで戻った。

「あの甲冑、すげぇ硬ぇぞ!」

「・・・・・・」

 俺の焦りにアリシエーゼは反応しなかった。
 ただ、目の前で俺達に向き直り、一度頭を振る人型のソレを見詰めて険しい表情をしている。

「アリシエーゼ・・・?」

 その様子が気になり俺が声を掛けると、アリシエーゼが絞り出す様に一言発する。

「・・・なんじゃアレは」

 その瞬間―――

 ゾワゾワゾワゾワと、今まで感じたどの不快感よりも強い、吐き気を催す程の何かが俺の身体を駆け巡る。

「なッ!?」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 巨大な人型の咆哮が部屋全体―――いや、十二層全体を震わせる。
 まるで咆哮だけで、身体が揺さぶられる様な感覚に陥り、俺はその場で跪きそうになるのを必死に堪えて、同時にある確信をした。

 此奴ッ、ホルスのアレと同じだ!!

 目の前の巨大な人型と、ホルスの魔界に居たハ●ク似の巨人が重なる。
 ホルスの得体の知れぬ不気味さの有ったあの巨人と目の前の巨人が同一種別なのかは分からない。分からないが、同じだと感じたのだ。
 身体の大きさがまるで違うが、同一の種族としか思えない目の前のソレを見て、俺は内心どうしようかと思案する。

 撤退するべきか・・・

 そんな俺の考えをまるで否定するかの様に、目の端でラルファ達がボス部屋へと侵入して来たのを捉えた。

「アリシエーゼッ、時間を稼ぐだけだ!動け!!」

 この距離で目の前の巨人が俺達を逃がしてくれるかが分からなかったので、このまま作戦を続行する判断を下す。
 だが、同時に仲間達には荷が重いかも知れないと逃がす算段を始めながら俺は駆け出した。

 不味いぜ・・・
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