異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第266話:急展開

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「美味しいよコレッ!ねぇ、美味しいねー」

 ラルファはドエインの作った即席昼飯を頬張り目を輝かせそんな事を言う。

「そうかい、そりゃ良かった」

 そんなラルファの言葉をドエインは満更でも無さそうにしながら返す。

「そうだね。ラルファくん、このスープも魔界で食べれる様な代物じゃないよ!?」

「えッ、本当!?」

 アギリーはラルファの言葉に一緒に目を輝かせスープを美味しそうに啜るが、リルカは終始無言で気まずそうに食事を進めている。

「・・・・・・」

「美味しいねー、リルカ」

「・・・はい」

「リルカも手伝って作ったんだよね?」

「・・・いえ、私は何も」

 イリアに傲慢な鼻っ面をバッキバキにへし折られたリルカはタダ飯を食らわせる気は無い、食べたいなら手伝いくらいしろと言われドエインの手伝いをする事になった。

 俺もだが・・・

 イリアの怒りに触れた俺も本日の昼飯作りの手伝いをする事をになったのだが、ハッキリ言って足でまといだった。俺が。
 居るだけ無駄だとまでドエインに言われる始末だっのだが―――

「えー、そんな事無いでしょ?なんか色々忙しそうにしてたじゃーん」

「・・・い、いえ、本当に私は何も―――」

 リルカの言葉を謙遜と思っているラルファがリルカを持ち上げる。
 美味い美味いと食事を頬張り、自分達も今後は魔界で普通の食事を作る様にしようとアギリーとリルカ、それに何故か俺の横に座るフィフリーに提案する。

「そうだねッ、そうすれば退屈な魔界も少しは楽しくなりそうだよ!」

「・・・・・・・・・」

 アギリーは花を咲かせた様な笑顔で同意し、フィフリーは保存食だったボア肉の塩漬けを特製ダレで焼いたステーキを頬張りながらなにやら返事をしていた。

 なになに・・・?
 誰が、作るんだよ?私は、作らない、ぞ・・・?

 ほんの微かな囁きよりも更には小さい言葉を何とか解読するが、誰も聞いて―――いや、聞こえてはいない。

 って言うか、何で隣にいるんだよ!?
 俺は絶対やらないからなッ

 俺の能力を知り、フィフリーは俺に対してあるお願いをした。
 そのお願いは今思い出すだけでもおぞましい、ユーリーの貞操に関わる事なので断固として拒否したのだが、思い込みが激しいのか何なのか俺がいくら断ろうとも諦めずにこうしてずっと粘着して来るのだ。
 それまで只管粘着されていたモニカを見ると、ユーリーと楽しげに食事をしている。

 クソッ、どうにかしてモニカにもう一回擦り付けなくては・・・

 だが今はそれよりもとリルカに顔を向ける。

「・・・・・・」

 ラルファとアギリーが今後について語り盛り上がる中、非常にバツが悪そうにしながら何も語らず食事を少しずつ進めていた。

 ラルファ達は今食べてる物とかを想像しながら話してるんだろうなぁ・・・

 そうだとして、ではラルファ達が今後魔界等で食事をする際にそれを誰が作るのかと言えば―――

「リルカはもうこのレシピは覚えた?」

「・・・ぇ、あ、その、それは―――」

 レシピ以前の話なんだよなぁ・・・

 リルカの料理の腕は、恐くアリシエーゼ級だ。
 俺はドエインに居るだけ無駄だと言われたが、リルカはお願いだから何もしないでくれ、その場から動かないでくれと懇願されていたのだ。
 レシピがどうのとか言う話以前なリルカは結局今回手伝いと言う手伝いはしていない。
 リルカと俺に説教を垂れたイリアはあの後は他の者と話をしていたし、結局食事を作るドエインへ誰も意識を向けていなかったので俺やリルカが何も手伝いをしていない事は気付かれていない。
 なのでラルファはこの今出されている食事はドエインと俺とリルカが共同で作った物だと勘違いしており、それにいたたまれなくなっているリルカはどう答えていいか困っていると言う状況だ。

 結局リルカはラルファの返答を濁してその場をやり過ごしていたが、今後どうなるかは想像に固くない。

 俺も少し料理の勉強でもしようかな・・・
 いや、ほら料理出来る男子ってモテるでしょ・・・?

 俺達へ少し遅めの昼食を食べ終わった後休憩を挟み、十二層のキャンプを後にした。
 その後は順調に地上へのルートを進み、素材を運んでいるのでペース自体はあまり早く無かったが、次の日夕刻にはオルフェの街へと帰還した。

「じゃあ、俺達の屋敷まで運んでくれ。そしたら解散で」

 事前に帝国兵の大隊長が遣いを出していたからか、出口で何か揉める事も無く、税金も取られずに出て来る事が出来た俺は、ポーターの傭兵達にそう告げる。
 出口の帝国兵に特に素材については触れられる事は無かったが、確実に周囲の注目は集めていた。
 帝国兵のみ成らず、一般人からも注目をされ早々にその場を立ち去ろうとしたのだが、何だか違和感を覚えて立ち止まる。
 キョロキョロと辺りを見渡し、どうにも周囲が浮き足立っていると言うか、騒がしい事が気になった。

「何か様子が変じゃないか?」

「ん、そうだな。帝国兵達もそこら中を駆け回ってるし妙だな」

 俺の隣に居たドエインが俺の言葉を拾ってそう返すが、ドエインの言う通り帝国兵の小隊が先程から街中を駆けて行くのが見て取れる。
 街の人々も妙に浮き足立っていると言うか、ザワついていて何かがあった事だけは分かった。

「ちょっと待て」

 俺は荷物を担ぎ直して歩き出そうとするポーター達を静止し、魔界の出入口を振り返る。
 先程までは地上に帰還した事にテンションが上がり気付かなかったが、今日は魔界へ入る傭兵が殆ど居ない事に今更ながら気付き眉を潜める。

 出入口を監視している兵士もさっき対応した二人だけ・・・?

 本来なら入口、出口の対応含めて帝国兵は常に十人以上駐在している筈なのに見ると出口側に二人だけしか居ない。
 何とも嫌な感じが拭えない為、俺は魔界の出口に居る帝国兵へと声を掛ける。

「なぁ、何かあったのか?」

「うん?あぁ、お前達はここ何日か魔界に篭っていたのか?」

「そうだ、なんか街の方が慌ただしいけど・・・」

「アンタらの事はトスカー大隊長の遣いから聞いているが、その遣いの者達とすれ違わなかったか?」

 聞けば、俺達の事を伝えに先に向かった帝国兵の伝令パーティは地上に戻って来て俺達の事を伝えると、地上の異変を聞かされとんぼがえりしてまた大隊の居る十二層に戻って行ったらしかった。

「え、いや、すれ違っては―――いないよな?」

 俺は逡巡しつつ、周りに集まり始めて仲間達に確認する。

「いえ、すれ違ってはいない筈よ。帝国兵の伝令が道を外れるとは考えにくいし、私達も一直線に地上を目指していたのだから何処かでかち合ってる筈よ」

 イリアはそう言って、怪訝な表情をする。

「途中で魔物に襲われて最悪の自体が起こったとかは考えれないか・・・?」

 ドエインは帝国兵の小隊だかパーティだかは分からないが、十二層で魔物に襲撃されて全滅したのではと言うが、確かにそれも有り得るには有り得るが―――

「この魔界では人間の死体は突然無くなったりはせん。帰りに遺体が転がっていなかった事を考えると、魔物の襲撃等で正規の道を逸れざるを得なかったじゃとか、別のルートに魔物が居りそれを討伐するために逸れて妾達と行き違いになったじゃとかそう言う方が可能性としては高いじゃろ」

 ドエインの帝国兵死亡説はアリシエーゼが否定する。
 アリシエーゼが語った説の方が信憑性は高い。が、俺の嗅覚にそれらしき人間の痕跡は引っ掛からなかった。
 自分で言いながらあまり納得していなさそうなアリシエーゼを見ると、俺と同じ思いなのかも知れない。

「とりあえず俺達は帝国兵とはすれ違って無いな」

「そうか・・・それは別で何かしら報告が必要かも知れんな」

 そう言って情報提供感謝すると頭を下げる帝国兵だが、顔を上げた帝国兵の表情はそれとは別に問題が生じている事を示唆する様だった。

「実はな、昨日ホルス国境線で、我が帝国とモライアス公国、エバンシオ王国二国との戦争が再開された」

「「「「「「えッ!?」」」」」」

 帝国兵の言葉に俺達は声を揃えるが、完全に寝耳に水状態の為その後は無言になる。

 どう言う事だ?
 ホルス付近では十五年程三国での不可侵条約が締結されて小康状態がずっと続いてた筈だ・・・

「ど、どう言う事!?」

 イリアは若干顔を青くしながら帝国兵に詰め寄る。

「わ、私達も詳しくは知らされていないッ、兎に角本国からのお達しで今は兵を集めている最中だと言う事だ。帝国所属の傭兵達にも招集が掛かっている筈だが―――お前達はフリーか?」

「そうだ」

 そう言った帝国兵は次いでにと、公国や王国所属の傭兵では無いよな?と若干警戒しながら聞いて来たのでそれも否定する。

 そもそも俺達は傭兵登録すらしていないので、フリーの傭兵団でも無い。

「では、強制で招集は掛からないだろうが戦時中の傭兵の国を跨いだ移動は制限される。魔界も暫くは入る事は出来ないだろう」

 一体どうなっているのか、何故このタイミングで三国の戦争が再開されたのか、色々と分からない事をだらけだったが、一先ず此処に居ても仕方が無いので一旦屋敷へと向かう事にした。
 屋敷へと向かう道中―――と行っても魔界から西門までは直ぐの距離にあるし、西門から屋敷も大した距離は無い。
 そんな距離をゾロゾロと歩いて行くが、やはり一般の住民も浮き足立っている様に感じた。
 まだ各店も通常通り営業しているが、もしかしたら今後は色々と制限が掛かり、店自体が開いていないだとか、物が無くなるまたは高騰すると行った自体も有り得るなと、今後について考えていると後ろを歩いていたサリーが声を掛けて来た。

「・・・魔界入口付近に何時もなら協会の暗部が何人か居て私にコンタクトを取って来るのだけれど―――」

 突然の告白に一瞬何の事だ?とサリーの顔を見ると、妙に真剣な顔付きだったので俺も表情を引き締める。

「―――それが今は誰も居ないのよ。何か有った事は確かだわ」

 サリーは協会の更に言えばガバリス大司教側の人間、暗部だ。
 ガバリス大司教としては俺達に監視は付けていない。
 サリーが俺達の中に入り込んでいる以上、敢えて別で人員を投入する必要も無いと言う事もあるが、俺がそれを嫌がっているのは承知しているので、信頼と言う意味でも特に俺達用の監視はサリー以外は用意していない。
 その他にガバリス大司教には帝国側の暗部が張り付いているが、それは帝国側に潜り込んで帝国の暗部として動いているサリーを頭にし、俺達の監視はサリー自体が行うとする事でこれも今は付いていない。
 だが、協会の暗部自体はガバリス大司教とは別系統のお偉いさんの意向か何かは分からないが、ガバリス大司教の意向が反映されないところから派遣されていたりするのだ。
 それらは俺達の監視では無く、ガバリス大司教やサリーの動向を探る事が真の目的の様にも思えるが、そう言った者達はガバリス大司教の思惑とは全く別の方向から動いている。
 二重スパイであるサリーは、ガバリス大司教の犬とも言えるが、元を正せば教会所属である。
 なので、協会本部から報告を求められれば従わざるを得ない訳で、ガバリス大司教もそれら全てを分かった上でサリーに全てを任せている。
 定期報告然り、全てサリーがガバリス大司教の意向を組んで立ち回っているのだ。

 そんな教会暗部の要員が今日に限って見当たらないと言うサリーの言葉に先程の帝国兵が語った戦争が再開されたと言う話がピッタリと噛み合う。

「俺達―――サリーの監視に手を回している状況では無くなったと?」

「・・・恐く」

 サリーの言葉に逡巡するが、俺達に取っては別にどうでも良いと言うか寧ろ好都合だと考える。
 ガバリス大司教と連絡は取れるかと尋ねると、分からないがやってみるとだけ言ってサリーは俺達の列から一人離れて行く。

 先ずは情報が必要だな・・・

 デス隊は勿論、俺も少し動くかと考えていると屋敷に到着する。

「とりあえず庭の奥に運んでくれ」

 素材として持ち帰った巨人のヨロイの一部を庭の奥へと運ぶ様に指示をしてからここまで無言で着いて来ていたラルファ達に声を掛ける。

「何か良く分からない自体になってるけど、お前達はこれからどうするんだ?」

「・・・どうだろ、俺達もフリーだから強制的に戦争に参加させられる事は無いけど」

 また教会が介入してくるかも知れない事を警戒してラルファとリルカの表情が曇る。

 もしかしたらそれは有り得るかもな・・・

「まぁ、俺達はこの屋敷を借りてオルファで生活してるから何かあったら尋ねて来ればいいよ」

 協力するかは約束出来ないがと付け加えて俺はラルファにそう言った。

「うん、アザエルがまたこの戦争に仲介しろとか言い出し兼ねないかと怖いけど・・・」

『・・・・・・・・・』

 今日は殆ど口を?開かないアザエルを不気味がりラルファは腰の長剣の柄を徐に触る。
 ラルファ達は南の宿屋を定宿としているらしく、一旦俺達は別れる事になった。
 ポーターが素材を起き終わったのを確認して、そのポーター達に解散の命令を下す。
 一応、ポーター傭兵達の記憶は読み定宿や傭兵団の事務所等は分かっているので何か有れば声を掛けるつもりだが、今は魔界に入る事は叶わないので拘束している意味は無い。

 何か有ったら声掛けてくだせぇとヘコヘコしながら去っていくポーター達を鼻を鳴らしながら見送り、再び仲間達を振り返る。
 皆、一様に不安そうな表情を浮かべているが、第一にやる事をは大体決まっている。

「とりあえず屋敷に戻ってどうするか決めよう」

 俺の言葉に神妙に頷き仲間達は屋敷の門を潜って行く。
 長い間、停戦していた戦争がこのタイミングで再開された事に何か得体の知れない流れや畝りの様な抗う事の出来ない大きな力の存在を感じざるを得ないが、何があってもそんな流れに押し流されない様にしないとなと心の奥底で決意する。
 そんな事を考えつつ仲間達の後に続き俺も屋敷へと戻ろうと一歩踏み出すと、背中に突っ張りを感じる。
 嫌な予感が走り、恐る恐る振り返るとそこには俺の外套の端を持って立つフィフリーが居た。

「え、お前何やってんの!?ラルファ達もう行っちゃっただろ!?」

「・・・・・・・・・」

 俺が焦ってフ外套を引っ張って振りほどくと、フィフリーは無言で俺を見上げた。

「な、なんだよ?今はお前に構ってる暇は無ぇんだ、さっさと帰れよ」

「・・・・・・・・・」

 元々俺やありしえーぜの人間を超越した視覚や聴覚を駆使しないとフィフリーの言葉は聞き取れたりはしないのだが、今は俺の言葉にフィフリーは聞き取れないとかでは無く本当に無言だった。

 此奴まさか・・・

 嫌な予感をヒシヒシと感じつつ俺は屋敷に入ろうとする仲間達に大声で助けを求めた。

 勘弁してくれよ・・・
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