異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第281話:幸終幕

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「良い所に住んでるねぇ」

「・・・ふんッ、お前だって金なんていくらでも手に入れられるだろ」

「嫌だなぁ、僕は人を変える事なんて出来ないんだしそう簡単にはいかないよ」

人を変える、ね・・・

まぁ実際その通りなんだが、此奴に言われると何故だか癪に障る。
魔界から帰還して屋敷に戻るとホルスとオルフェで出会った謎の男が屋敷を訪れており、俺達の帰りを待っていたのだが、俺達が今日帰還する事はどうやらこの男の能力で知っていた様だ。
識りたい事を識れるその能力があれば金などいくらでも作り出せそうなものだと思いそう言った俺に、皮肉めいた言葉で返され俺は面白くなく鼻を鳴らして男を軽く睨む。

「そんな顔しないでよ。キミだって情報は欲しいでしょ?」

男は広い食堂を見渡し肩を竦めてそう嘯いた。

「こんな男とホルスで会ったかのう?」

アリシエーゼはつまらなそうに、イエニエスさんに出して貰った軽食を摘まむが、仲間達には一旦解散を告げて各自部屋へ向かわせた。
アリシエーゼとリリのみその場に残したのだが、何故リリを残したのかと言うと、この謎の男ご指名だからだ。

「お前は串焼きを頬張るのに夢中でこっちの事何か気にして無かったからな・・・思い出したら段々ムカついて来たぞ」

ホルスでアリシエーゼと二人買い食いをしていた時、大量の串焼きをアリシエーゼが注文し両手いっぱいにソレを持たされた俺は財布を取り出す事が出来ずにテンパっていた事があった。
アリシエーゼも両手いっぱいに串焼きを持っていたが、自分は早々にベンチに座ってそれを頬張っており、俺が大変な思いをしている事すらきっと認識していなかっただろう。
財布が取り出せないが、露店のおっちゃんからほ代金を支払えとせっ突かれ、慌てていた所をこの男が助けに入ったのだ。
あの時は助かったと思ったが、今考えると俺がそうなる事は知っていただろうし、きっとそうなるタイミングを何処かで見計らっていたに違いない。

それも考えたらムカついて来たぞ・・・

「アリシエーゼさんは相変わらず美味しそうに食べるね」

爽やかにアリシエーゼに微笑む男に、当の本人は眉を顰めて訝しむ。

「むッ、なんじゃ!?これはやらんぞ!」

「・・・い、要らないよ」

ふふ、アリシエーゼの食い意地に翻弄されるが良い

「んで、話ってのは何だ?」

「なんだよ、もう少し親睦を深める為にも世間話に付き合ってくれてもいいじゃないか」

態とらしくムクれる男にジト目を送り溜息をつく。

「嫌だよ、俺達は忙しいんだ。さっさと次の行動に移りたいんだから用があるなら早くしろよ」

「嘘吐きめ。さっきは明日からどうしようとか言ってただろ」

「あッ、リリ!そう言う事は口に出すな!」

「何故だ?」

「何故って・・・」

そりゃ、恥ずかしいだろうが・・・

「リリと言う名前を貰ったんだね。うん、似合ってるよ」

俺とリリのやり取りを眺めていた男がアリシエーゼに見せたのと同じ様な優しい微笑みを浮かべてリリに語り掛ける。

「お前に言われないでも似合ってる事くらい私自身が理解している。馴れ馴れしい奴め」

「――ぇ、あ、こめん・・・」

ぎゃはははははッ

リリの洗礼を受けて戸惑う男を見て俺は心の中で爆笑する。

ざまーみやがれッ
リリさんはな、こう見えて思った事をズバズバ言うんだ!
海外の可愛いコスプレイヤーだとか思って接したら痛い目見るんだよ!

「何をニヤニヤしてる。ゴブリンの吐瀉物より気持ち悪いぞ」

「・・・・・・・・・」

なんて思っていたらしっぺ返しを喰らいました、はい

「ま、まぁ、兎に角ボクの思っていた通り、ちゃんと手に入れたみたいで安心したよ」

「リリの事を言ってんのか?」

「前に言ったよね?旧世界と神々を繋ぐ鍵との縁は繋ぎ止めておけって」

確かに言っていた。オルフェで短い間だが話をした時、一方的に語られた内容を思い出す。

「・・・確かに言ってたが、何でもっとハッキリと言わなかった?それにお前はこのオルフェの魔界を攻略しろと言ったが、リリ曰く彼処は魔界じゃないって話だ」

「あの時はキミとリリさんが出会うのはまだ先だと思ってたんだよ。彼処の敵は強敵だっただろ?キミの場合、仲間達と攻略するのを優先すると思ってたから最下層へは暫く辿り着けないと思ってたからね」

それは俺の仲間が力不足で、弱いとでも言いたいのだろうか

そんな事を思うと同時に、あの巨人を思い出す。
アレは別格であったし、確かに仲間達では手に負えなかったかもなとも思った。

「それが、リリから俺に会いに来たから想定外だったってか?」

「そうだね」

「私のマスターへの愛は時空を超えると言う事だな」

愛が時空を超えるってどう言う事だよと心の中でツッコミながらそれを聞き流し、俺は男と対話を続ける。
横ではリリの言葉を聞いてアリシエーゼが「何が愛じゃ、女狐めッ」とか言ってガルルと唸っていたがそれも無視する。

「まぁ、愛は兎も角、キミにあの時、彼処は魔界じゃないと、リリさんが眠る格納庫の様な物だと言ったとして、それでも攻略を続けたかい?」

「・・・・・・」

この男が言う様に、あの時そう言われていたら―――

俺の中では魔界を攻略を攻略し、悪魔共を殲滅する事が今の所第一優先だ。
なので彼処に位の高い悪魔が居ないと分かったら確かに興味を失っていたかもなと思った。

「だから敢えてあの時は魔界と表現した」

「お前は俺とリリを合わせたかったって事か?」

「絶対必要になるからね」

そう言った男は妙に真剣な眼差しだったが、直ぐに「たぶん」と付け加えた。

「なんだよ、たぶんって・・・お前、未来が見えるんじゃねぇのか?」

「まぁ、間違っては無いけど未来なんてそれこそ数え切れない程枝分かれした先に存在するんだ。つまり幾千、幾億の未来が存在するのにそれを全て識るなんて事は出来ないよ」

何処かで聞いた事のある様な台詞を言った男は寂しげに笑う。
その顔は本当にその事を知っているからこそ出来たのかも知れないが、正直俺はどうでも良かった。

「んで、結局お前は何がしたいんだ?」

そこである。
この男は未来を識り、それを具体的では無いにしろ俺に伝えて何がしたいと言うのだろうか。
もっと言えば、この男に何のメリットがあるのだろうかと勘ぐってしまう。

「んー、何がしたいか、か・・・」

俺の問いに腕を組んでうんうんと唸る男だが、何故悩むのだろうか・・・

「いや、そこは悩む所じゃねぇだろ・・・」

「ボク自身の為に動いてる訳じゃ無いからさ。でもそうだな―――」

そう言って腕を組むのを止め男は俺の目を真っ直ぐと見つめる。

「―――キミにはハッピーエンドを迎えて欲しいから、かな」

「ッ!?」

意味の分からない男の言葉に俺はドキリとする。
別に俺にその気があるとかそう言う事では無い。
ハッピーエンドと言う言葉が何故か俺の心にチクリと刺さったのだ。
明莉やアルアレ、パトリックにナッズにソニ、大切な仲間や他にも顔見知りで中々に良い奴らだと思っていた者達を俺は助ける事が出来ず、最悪の形で亡くした。
今後、例えば世界中の魔界を攻略し悪魔共をこの地上――地球から消したとして、それは俺にとってハッピーエンドなのだろうか。

分からない・・・

その時になってみないと分からないと言うのが正直な所だが今は考えてみても、もしかしたらそれはハッピーエンドとは思えないかも知れないと考えてしまう。
では、俺にとってのハッピーエンドとはどうなったらそうなのだろうか。

「未来は不確定なんだ。だからあまり断言は出来ない。それでもボクはボクが最良と思った事をキミに伝えるよ」

「・・・・・・」

別にこの男を信じた訳では無い。だが、先程の言葉に嘘偽りが無い事は何となく察している。
そう思う事自体を俺自身があまり認めたく無いから敢えて男に心を開く素振りは見せない。

「今後、そこまで猶予も無くこの地で起こる事は世界の有り様を変えてしまうかも知れない。それが良いか悪いかで言ったらきっと悪い方だと思うんだ―――」

男は今日一番の深刻そうな表情をしながらそう言って姿勢を正す。
まだ何も具体的な事は聞いていないが俺は察した。

「―――からこの戦争に勝者を作らない様にしたい」

ん、あれ・・・?

てっきり戦争を止めるとかそう言う話になるのかと思っていた為、俺は肩透かしを喰らう。

「勝者を作らないってどう言う事だよ・・・」

「うん、それなんだけど―――」

「ちょっと待ったぁ!」

突然食堂に甲高い声が響き渡る。
食堂の入口を見ると、両手を腰に当てて鼻息を荒くするイリアがそこに立っていた。

「なんだよ、聞いてたのか?」

「そんな事はどうでも良いのよッ、この前は拒否した癖に今更この戦争に首を突っ込む気!?」

食堂の入口から床を踏み抜かんばかりの勢いで此方に向かって来て息巻くイリアを見て、苦笑いを浮かべてしまうが丁度良いと思った。

「まぁ、その辺も含めて皆で話そう」

そう言って俺は奥に控えていたイエニエスさんに全員食堂に集めてくれと伝える。

「畏まりました。あの、アツシ様は・・・?」

「あー、アレはいいです・・・」

どうせ来ても話半分でしか聞かないだろうと篤を抜かす事にする。
イエニエスさんは直ぐに二階に上がり全員に声を掛けてくれて程なくして食堂に全員集まる事となった。

さて、とりあえずこの男の話から聞きますかね
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